表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/130

77.【B-特殊】キレブル大黒森の捜索⑧

 食事を終えて店を出たアッシュ達は、再び馬車に乗ってフォルネウスの居城へと向かう。


 途中でキアラが連絡を入れたため、エントランスからは待機していたアンドレアルファスの案内でフォルネウスのいる部屋へと向かった。


 部屋の造りはアイネスと同じであったが、飾られている芸術品の雰囲気が異なっていることにアッシュは気付いた。


 アイネスの方はアッシュでも知っている物が幾つかあったのに対して、こちらは全く見たことが無いものばかりが並んでおり、またアイネスと比べると若干地味な物が多いように感じたのだ。


 フォルネウスは最初に謁見した時と同じく、玉座の手すりに頬杖をついて、つまらなそうな表情でアッシュ達を見ていた


「帰ったか、キアラよ。随分と早かったな」


「っっ!! ……お母様、お話があるわ」


 フォルネウスの皮肉に思わず言い返しそうになったキアラが言葉を飲み込んだのが、表情から見て取れた。


 また言い返したりをしていると大事なことが伝えられないから一旦我慢しよう、というアッシュのアドバイスを実践しているようだ。


「後にせい。先に此奴等の話を聞いてからにする」


「フォルネウス様。先にキアラさんに話してもらってからでもよろしいですか?」


 話を振られたアッシュが答える。フォルネウスは考えるようにアッシュの方を少し見てから頷く。


「何か考えがあるようだな。それなら構わん。では先にそなたの話から聞こう」


 キアラはジッとフォルネウスを見据え、覚悟を決めたように口を開く。


「私は……いつか必ず、お母様を超えてみせる。そのために私は、レンジャーになる」


「ほお……」


 フォルネウスが口元を歪めて笑みを見せる。やはり今まで目的まで伝えていなかったのは大きかったのだろう。


「だが何故レンジャーなのだ? 別にここでも問題はなかろう」


「ここでお母様の下にいたら、いつまでも超えられない。だから私は私のやり方で強くなる」


「……そういうことは、吾の元で十分に強くなってから言うものだ」


「私は! お母様とお父様の娘よ! メデューサ種としての力は何の心配もしてない!」


 キアラの大声に、フォルネウス少しばかり驚いたように目を開く。


 キアラは言ってから、しまったとでも言うかのように口に手を当てた。だがフォルネウスはキアラの思考に反して、声を上げて笑い始めた。


「ハッハハハハ! そうだな、キアラよ。そなたは吾とベルフェゴールの娘。種としての力は強くて当然だ。よう言った」


 キアラは呆けたようにフォルネウスを見ている。どうやらこのような反応をされたのは初めてだったようだ。


 フォルネウスはひとしきり笑ったところで、キアラに問いかける。


「吾を超えるためにそなたなりに考えていることもわかった。基礎は既に教えてある。後はそれをどう伸ばすかはそなた自身に任せよう。……だが、いつ"あれ"を知った? 教えた覚えはないが」


 フォルネウスの言う"あれ"。話の流れからして、おそらくキアラの格闘技のことであろうとアッシュは考える。


「何十年か前、お母様が怒ってお父様を蹴り飛ばしたのを見た。その時のフォームがあまりにも綺麗だったから、何かあると思って調べたら出てきたわ。お母様のお祖母様が編み出した、私達だからできる近接戦闘『メデューサ流格闘術』の指南書。私はそれを読んで身に付けた」


「ちっ……あの時か……」


 フォルネウスも記憶にあるようで、苦虫を噛み潰したような表情で舌打ちをする。よもや娘に見られた上に、格闘術をやっていたことまで見抜かれていたとは思ってもいなかったようである。


「ふん……たしかに吾も"あれ"を一通りは身に付けてはいる。だが肉弾戦は美しくない。"あれ"を使うまでもなく敵を封殺することが、美しい戦いというものだ。故に吾は教える気は無かった」


「でも私は美しいと思った。だから身に付けた。お母様、いつも言ってるわよね。『美の基準は1つでは無い。自分が美しいと思わないものを排斥していたら、本当に美しいものと出会う機会まで失う』って」


 キアラの言葉にフォルネウスは言い淀む。


「くっ……今日は本当によく口が回る……。だが吾も教える気は無かったが、知ってしまって身に付けたというのであれば、それを否定はせん。むしろ指南書だけで実戦レベルまで辿り着いたことは評価している」


「そ、そう。ありがとう……」


 ストレートに褒められ、キアラは照れるように目線を反らす。フォルネウスはそこで一息置いて、アッシュ達の方を見る。


「さて、次はそなたらだ。どうだ? そなたらから見て、キアラは本気であると思えたか?」


「はい。自分なりの意志を持ってますし、そのために色々と努力もしているようですし。強くなりたいという理由でレンジャーになる者は多いので、環境も十分かと思います」


「ちゃんと料理とか野宿の練習もしてたみたいだし」


「……そうか」


 フォルネウスはそこで二度ほど頷いてから、再びキアラに目を向ける。


「キアラよ。そなたの意志は理解した。努力をしていたことも知った。故に吾はそなたがレンジャーとなることを、特別に認めよう」


「え……本当……」


 キアラは心底驚いたというかのように、目を丸くしてフォルネウスを見つめる。


「ただし、言うたからには何かしら成せ。吾よりも強くなって帰って来いとは言わん。だがもし何も成さずに帰ってこようものなら、次は閉じ込めてでも吾に従わせる。その覚悟を持って行け」


「あ、当たり前じゃない! やるからにはやるわよ!」


 キアラの言葉にフォルネウスはフッと笑みを見せた後、アッシュの方を見る。


「そなたらにもう1つ依頼だ。キアラがレンジャーになることは認める。だが吾の娘をどこの馬の骨ともわからぬ奴に預ける気はない。つまり……」


 フォルネウスはそこで言葉を切る。その先はアッシュに言えということなのだろう。


「僕達のチームに入れる、ということでいいですか?」


「そうだ。先程のやり取りでキアラの成長を感じさせられたが、大方そなたの入れ知恵であろう? 適切なアドバイスが出来る、長として良き素質を持っていると見た。実力も今のキアラと同等だろう。故に吾はそなたらであれば預けてもよいと考えている」


「あ、ありがとうございます!」


 娘を預けてもいいと思える程に信頼してもらえたこと、更に”リーダーとしての素質がある”とまで言われたことに、アッシュは大きな喜びを感じる。


「そなたもそれで問題なかろう?」


「ま、まあ結構世話になったし、また別のところってのも面倒だし……」


 キアラはアッシュの方をチラリと見たが、すぐに目を逸らして横髪を弄りだす。


 目を逸らす時は素直になれていない時というのは、ここ数時間の会話でも察しが付いている。横髪を弄るのはフォルネウスと全く同じ癖のようだ。


「して、レンジャーになるにも何かと手続きが必要であろう。大凡どのくらいかかる?」


「試験等も含めて2日間です。落ちることはまず無いので、その間にチームの拠点への引っ越し作業をするとよいかと思います」


「そうか。ではキアラよ。準備をしてくるがよい。少しは物を運んでおいた方がよかろう」


「わかったわ!」


 そう言ってキアラは走って部屋から出ていく。


「そなたらにはキアラを厳しく指導するよう頼むぞ。……そうだな、キアラは寒い場所が苦手だ。あやつが加わったら、手始めに寒冷地にでも連れて行ってやるがよい」


 フォルネウスはにやりと笑いながらアッシュに言う。


「レンジャーの厳しさを教えるということですね。わかりました。では、僕達もこれで失礼致します」


「うむ。頼んだぞ」


 アッシュ達はアンドレアルファスに連れられて部屋から出て行った。


 廊下を歩いているうちにアッシュは大事なことを思い出す。ダンをレンジャーにしようとした時と同じ問題だ。


「アンドレアルファスさん、キアラの部屋に連れて行ってもらえませんか?」


「アルファスでいいですよ。これからお嬢様の面倒を見ていただく以上、我々は無関係ではありませんので。何か御用がお有りですか?」


「はい。システム上、僕達は転送されてD8に来ているので、キアラと一緒にD2へ行くことが出来ないんです。なので先に帰って待っていると伝えたくて」


「……」


 アンドレアルファスはアッシュ達の前を歩きながら、少し考えるような素振りを見せる。


「エーテル体、でしたか。わかりました。お連れいたします」


 そう言ってアンドレアルファスはクルリと反転する。どうやら逆方向らしい。


 フォルネウスの居城は、案の定かなり大きい。入り口からフォルネウスの部屋まで向かうまでもそうだったが、キアラの部屋に向かうまでも同じ建物の中とは思えない程に歩くことになる。


 しばらく歩いたところでアンドレアルファスが足を止める。


「こちらです。お嬢様、皆様をお連れいたしました」


「えっ! ちょ、ちょっと待って! 今はダメ!」


 ガタゴトと音がしている。アッシュは中の様子を察して、要件だけを伝えることにした。


「聞いてもらうだけでいいよ。僕達はレンジャーのシステム上、渡航船には乗らずに帰らなくちゃいけないんだ。だから先に戻って受付に来ることを伝えて、来たら迎えに行くんでもいいかな?」


 音がピタリと止まる。待っていると部屋のドアが少しだけ開き、キアラが顔を覗かせる。


「……一緒には行けないってこと?」


「うん。申し訳ないけど、エーテル体を解除しないといけないからね。一緒じゃなくても大丈夫?」


「っだから! 子ども扱い! しないで! そのくらい平気よ!」


「ご、ごめん……」


 キアラが目を見開いて怒る。髪の先端の蛇も、威嚇するように首をもたげて口を開いている。子ども扱いは地雷のようなので、これからは気をつけないといけなそうだ。


「……まあ、ゆっくり準備できるとわかったから助かったわ」


 キアラはやはり目を逸らしている。


「僕のID教えるから、D2に着いたら連絡して」


「はいはい」


 キアラが取り出した端末に、アッシュは自身の端末のIDを送る。


「じゃあ、また」


「うん。また後で」


 そう言ってキアラは部屋のドアを閉じた。


「では僕達は本部に戻ります」


「はい。では玄関まで送らせていただきます」


 アッシュはこの後のことを考える。


 依頼はこれで終了だが、その後キアラが加入することを説明や手続きも必要になる。先程の感じだと荷物もそれなりに多そうだ。諸々考えると、明日は休みにした方がいいだろう。


 ダンとの特訓でもいいかもしれないと考えつつ、アッシュはアンドレアルファスの後に続いて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ