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72.【B-特殊】キレブル大黒森の捜索③

「アルファス。キアラの写真を此奴等に渡せ」


「畏まりました」


 アンドレアルファスは一礼をすると、アッシュ達に写真を渡してくる。


 写真には地面に着くほどの長い黒髪をツインテールでまとめた少女が写っていた。顔立ちや金色の瞳はフォルネウスとそっくりだが、髪の色はベルフェゴールと同じだ。


「……キアラは最近、些細なことで吾に歯向かってくる。だが今朝は一段と酷くてな。そうしたらあやつめ、ついに家出しおった。『レンジャーを呼ばなければ帰らない』と書き置きを残してな。それでそなたらを呼び寄せたわけだ」


「レンジャーを……?」


 条件を出しての家出というのも随分と変わっているが、その書き置きの内容もかなり変わっているとアッシュは感じる。


「キアラは以前からレンジャーになりたいと言っておってな。無論、吾はそれを認めなかった。だがそれからというものの、キアラはまともに話すことすら出来ない程に反抗するようになった」


 そこでフォルネウスは言葉を切って溜息を付く。


「吾はメデューサ種の王だ。そしてキアラは、魔神であるベルフェゴールとの娘。紛れもない高貴な身分である。高貴な身分の者には、相応の立ち振舞いが求められるのだ」


 レンジャーであるアッシュ達を前に随分な言い様ではあるが、フォルネウスの意図するところは理解出来た。要は王族としての自覚を持って行動するべきということである。


 アッシュとしてはレンジャーになりたいと思うならそうさせるべきだとは思うが、砕いた言い方をしてしまえばこれは”家庭の事情”である。外からどうこう言うべきことではない。


「それに吾には、キアラにレンジャーが務まるとは到底思えん。キアラには立ち振舞は教え込んだが、俗世の常識を知らぬ。吾の娘である以上戦闘は問題なかろうが、レンジャーというのはそれだけでは立ち行かぬものであろう。料理の1つもしたことがないキアラには、無理に決まっている」


 本音はこれだろう。結局は娘が心配なのだ。


 フォルネウスの気持ちを汲み取った上で言うと、たしかにレンジャーの生活を体験せずにレンジャーになりたいと言っているのであれば、厳しいものがある。


 少なくともここにいる4人は、バックグラウンドこそ差はあれど相応の訓練を積んだ上でレンジャーになっているのだ。


「だが……だがな。もしそれでもキアラが本気でなりたいというのであれば、吾も少しは考えもする。そこでだ。レンジャーになったばかりのそなたらに、キアラがどれだけ本気であるのかを探ってもらいたいのだ」


 フォルネウスが若手を探していた理由がようやくわかる。レンジャーになったばかりの初々しい気持ちを持ったままの者に、キアラの本気度合いを判断してもらいたいということなのだろう。


「わかりました。では捜索後に少しお時間をいただくことになるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」


「構わぬ。十分に聞き出した後、キアラを連れて吾に報告せよ。それと……アルファス、あれを用意せよ」


「既にご用意しております」


 アンドレアルファスは小型の球状の機械とゴーグルを取り出す。


 機械の方はおそらく飛行型のカメラであろう。プロペラで飛んで遠隔操作で移動させることができるものだ。であれば、ゴーグルの意味もわかる。


「吾は行かぬが、これで様子を見させてもらう。気になることもあるのでな。それとキアラの行き先はわかっている。キレブルの大黒森だ。詳しい話はアルファスから後ほど聞くように。では行け」


「はい」


 アッシュはフォルネウスに一礼をして扉の方へと向く。


「では皆様、こちらに」


 いつの間にかアッシュ達の前に移動していたアンドレアルファスに連れられて、アッシュ達はフォルネウスの謁見部屋を出た。


 そのまま外まで案内されるのかと思っていたアッシュだったが、何故か隣の部屋へと連れて行かれる。そこはソファとテーブルだけが置かれた簡易な造りとなっており、おそらく待合室のようなものであろうと考えられた。


「こちらで少々お待ち下さい」


 アンドレアルファスはそれだけ言って部屋から出ていってしまった。


 ドアが閉まると同時にダンがソファに座り込む。


「うう……魔将ってあんなのばかりなのか……?」


「まあフォルネウスさ……まはそうだったけど、アンドレアルファスさんはそうでも無かったでしょ?」


 ダンの言う通り、フォルネウスへの謁見は"上位存在に観察されている"ようであり、魔将としての凄みを感じさせられるものだった。


「そんなことない。僕はメイドさんの方が怖かった。僕達といる間、全く油断も隙も無かった」


「私も感じた。袖に仕込みナイフも持っていた。少しでも変な動きをしたら、一瞬で殺られてたと思う」


「いや、まず2人共。呼ばれた先でメイドさん相手に隙を伺うってのが、そもそも間違ってると思うんだけど」


 アイリの冷静なツッコミに、ダンとレイが首を傾げる。アッシュもアイリ側の考えだが、それがおかしいのだろうかと思ってしまう。


 とそこで待合室のドアがノックされて開き、アンドレアルファスが入ってくる。


 そしてアンドレアルファスに続いて、快活そうな女性が入ってくる。肩の辺りまで伸ばした白い髪に色黒の肌、尖った耳。D8のレンジャーを統括しているというビフロンスと同じ黒エルフだ。


「リーア様。こちらがガイドをお願いするアッシュ様、アイリ様、レイ様、ダン様です」


「おまかせください。それじゃあ行こうか」


 突然のことにアッシュは困惑する。行こうかと言われても、リーアという女性が何者なのかもアッシュは知らないのだ。


「えっと……ガイドですか?」


「あれ? もしかして知らない?」


 アッシュの反応にリーアは少し驚いたような反応を見せる。


「はい。パンデムのことはまだよく知らなくて。D8に来たのも今回で2回目なんです」


「なるほどね、D8のレンジャー支部所属じゃなかったんだ。えーと、キレブルの大黒森は闇属性エーテルが濃い場所で、半分以上は問題にならない程度なんだけど、残り半分は立ち入り禁止になる程濃いの。だから大黒森を安全に進むには、闇属性エーテルの影響を受けない私達黒エルフの案内が必要なの」


 エーテル体は闇属性エーテルの影響を直接的には受けないことは以前の任務でニーナに教えられたが、野生動物が凶暴化していることも身をもって知っている。そういうことならば、ガイドは付けた方がいいだろうとアッシュは考える。


「現地に着きましたら、私にご一報をお願い致します。その後飛行カメラを起動してください」


「わかりました」


 アンドレアルファスは飛行カメラを手渡しながら、自身の端末を取り出す。アッシュも端末を取り出してアンドレアルファスの端末IDを受け取る。


「それじゃあリーアさん。ガイドお願いします」


 アッシュはリーアへと向き直って改めてガイドを依頼をする。


「うん。任せて」


 今度はリーアに連れられて、アッシュ達はキアラの捜索のためキレブルへと向かった。

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