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67.総本社

 収穫作業を終えたアッシュ達は、稲を持って総本社の鳥居をくぐった。シャリィは祭事の別のスタッフを任されていると言ってどこかへ行ってしまった。


「脚が痛いぞ……」


 ダンが呻いている。


 重い籠を背負ったまましゃがんで立ち上がってを繰り返した挙げ句、往復でそこそこの距離で全力ダッシュを混ぜていたのだから当然と言えば当然だ。


 かく言うアッシュもあちこちに疲労が来ている。明日は間違いなく筋肉痛だろう。


 鳥居を入ってすぐ目の前の建物には、とてつもない太さの注連縄が吊り下げられており、その前に「賽銭箱」と書かれた木箱が置いてあった。


 参拝客達はその箱に小銭を投げ入れて、手を叩いて目を瞑っている。


「あ! あそこ。『収穫祭参加申し込みはこの建物裏手』って書いてある」


 アイリが指差した方を見ると、建物の脇に立てられた掲示板に、大きな矢印と共に案内が書かれていた。


 案内に従って建物の裏手へと回ると、更に別の建物が見えてくる。その建物の正面 —— ちょうど1つ目の建物の真裏にあたる部分に巨大な白い壁がそびえ立っており、様子を伺うことはできない。


 周囲の雰囲気から明らかに後付けであるとわかるそれの前には、大きな仮設テントが設けられている。仮設テントの下では巫女服姿の女性が数名、慌ただしい様子で動いている。


 その全員が糸のようなストレートの金髪に狐色の尻尾と耳、琥珀色の瞳をしている。これが一般的な妖狐種なのだろうとアッシュは考えた。


「収穫作業スタッフの方ですねー! ご協力ありがとうございまーす!」


 アッシュ達に気付いた巫女が呼び掛けてくる。4人は仮設テントへと向い、籠を下ろしてユニフォームを渡した。


「えーと……15番から18番の方ですね。ではこちらにどうぞ」


 巫女がユニフォームを片付けて端末に入力しながらそう言うと、奥から更に2名が出てくる。


 その片方と手続きをしてくれた巫女は、稲穂が入った籠へと近付くと細腕1本でヒョイと持ち上げてしまった。アッシュが驚いてそれを見ている前で、反対の腕でもう1つ持ち上げる。


 残った1名は白い壁へと歩いて行って手を触れる。


 すると壁に扉が浮き上がり、機械的な音と共に開く。扉の奥には暗い通路が続いており、籠を持った巫女達はその通路へと足早に消えていった。


「こちらに」


 先程の巫女より少し冷ややかな雰囲気の巫女に再度促され、アッシュ達も扉へと入っていく。


 思っていたよりも長い通路を抜けると、砂利が綺麗に敷かれた場所に出る。平屋の建物をコの字に切り取ったような形で、前左右は縁側になっている。おそらくここは屋敷の庭園なのだろう。


 縁側には座布団が並べられており、そこにガープの姿が見える。そしてガープの隣には白い髪に色黒の肌、尖った耳の初老の男が座っている。


 先日のマカクエン狩猟の時に遭遇したエルフ種のうち、白エルフの対になる存在である黒エルフだろうとアッシュは考える。


 黒エルフとガープの周りには何本か酒瓶が並んでいることから、既に”祭り”を始めているようだ。かなり盛り上がっているようで、機嫌よく肩を組んだりしている。


 その反対側、左の軒は障子戸が1つ空いており、奥の畳の部屋でレラジェとモレクが喋っている姿が見えた。


「スタッフの方々は最上段の席になっています」


 巫女の案内に後ろを振り向くと、そちらはスタジアムのような階段席になっていた。白い壁の正体はこれのようだ。


 アッシュ達は階段を登って一番上まで上がり、中央の空いている場所に適当に腰掛ける。


 庭と思われる砂利の場所で祭事が行われるのだろう。距離は多少離れているが、高いので全体を見れるのは良さ気である。


「いい眺めだね。あ、建物の屋根ってあんな形になってるんだ」


「瓦っていう物。私の家にもあった」


 レイの実家はD1にあり、本家と分家という本の中の世界だと思っていた構成と以前聞いた。レイは分家ではあるが、いずれにせよ良い家の出であることは間違いなかった。


「レイの家もこういうのだったの?」


「ん。とても似てる。でもこんなには大きくはない。本家はこれよりも大きいけど」


 本家はD0にあると言っていたはずだ。D0でこれ以上の大きさの家となると、相当な大地主だ。


「そっちの建物も本家の近くにあった」


 レイが後ろを振り返りながら言う。背後の柵越しには、入ってすぐに見えた建物の屋根の頭が見えている。ここまで揃っているとなると、偶然では無いのだろう。


「ということは……ここはレイの実家の本家がある地域の文化を汲んるのかな?」


「たぶん」


 そう話しながら改めて正面の建物に目を向けようとしたところで、シャリィが階段を登ってきているのが見える。


 重そうな撮影機材を抱えている辺り、それが祭事のスタッフとしての仕事であることが伺えた。


「ここにいたか。見ての通り、私はニーナ……祭事の撮影で下にいる。またここに戻るから、終わっても待機しているように」


「ニーナさんも出るんだ」


「っ! ま、まあ、そういうことだ」


 漏れた本音をアイリに拾われてしまい慌てるシャリィ。逆にそこまで言っておいて誤魔化せると思っていたのだろうかとアッシュは感じる。


「もう少ししたら始まる。あちらの縁側が魔神と魔将用の席になっているから、今後のために覚えておくといい」


 そう言ってシャリィは階段を降りていった。


 ガープやモレクがいた辺りで察しはついていたが、やはりあの縁側が魔神や魔将のための特別席ということのようである。


 魔将やその直属の配下からの依頼の場合は、クエストの前に依頼主の元に赴くことがあると以前ニーナが言っていたことも考慮すると、シャリィが言うように顔を覚えておくのは良いことだろうとアッシュは考える。


 アッシュはこれから始まる祭事に加えて、集まってくる魔将達をもう1つの楽しみに胸を躍らせた。

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