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63.【C-調査】ガラド火山③

 次のチェックポイントは標高的に高い所に設定されているようで、道中は基本的に上り道、更には梯子で登らなくてはいけない崖もあった。


「ふう、だいぶ登ったね」


「ここまで来るとそんなに暑く……て、暑い! なにこれ!」


 たしかに今歩いてきた通路は、コー荒原より涼しい程度であった。マグマの大半は地表とほぼ同じくらいの高さで外へと流れていくため、上に登って離れれば気温も下がるのは当然である。


 だが通路から開けた場所に出た途端、再び熱波が襲ってきたのである。


 見れば岩の切れ目からマグマが溢れ、滝のように下へと落ちている場所がある。またマグマに近接しているために、焼けるような暑さが周辺に広がっているのだ。


「あ、これがニーナさんが言ってた『竜の涙』だよ」


 元々は山頂付近までマグマが登っていたことを伺わせる数少ない名残である。岩の切れ目を竜の目に、そこから溢れるマグマを涙に見立てたのだろう。


 暑すぎるのと危険地帯なのとが重なって観光地になれないのが勿体無いと思えるくらいには、良いロケーションである。


「てことは……もうすぐチェックポイントじゃん。早く行こ」


 記念撮影でもしようかとアッシュは思ったが、アイリが先へと行ってしまったので諦めて進むことにした。


 2つ目のチェックポイントは洞穴にはなっていなかったが、岩陰になっているおかげで滝からの熱波も届いておらず、1つ目と同じ程度には快適であった。そしてそこにあったのは、


「火属性のエーテル草だー!」


 こんな火山でもエーテル草である。もっともエーテルの性質をよく知る者からすれば、こんな火山だからこその火属性のエーテル草なのだが。


 生物に取って悪い影響を及ぼす”火”という性質を持つ火属性エーテルが溢れている環境というのは、地表にはほとんど無いのである。


 エーテル草の近くにはタンクが設置されており、そこから定期的に水が蒔かれているようだ。


 水は壁に空いた穴を通る管で外から供給しており、タンクは周囲のエーテルを利用して中の水を冷やすシステムが組み込まれている。


 ギルドの管理地とは言え金の掛かり方が凄いと感じさせられる。


 ふとタンクの蛇口を見ると、”飲水です”と書かれた看板が掛かっていた。レンジャーへの水分補給も含めてのタンクという意味ならば納得もできた。


 アッシュはタンクに付いた蛇口を捻って、空になっていた水筒に水を補給する。


 それに気付いたレイもアッシュの後ろに並ぶ。アッシュは水筒を満タンにして水を止め、レイに場所を譲った。


 アイリはダンにエーテル草の採り方を教えていた。


「こんな感じで小さいのとか線の色が薄いのは、採らないでそのままにしておいて。次来る時に育ってるから」


「また来るのか?」


 この中で最も二度目を渋りそうなのがアイリである。ダンの疑問も当然と言えた。


「う……んー……わからない。けど他のレンジャーが来るかもしれないから、その分は取っておかないとね」


「わかった。やってみるぞ!」


 ダンは元気良く返事をしてエーテル草を採取し始めた。その横にアイリが付いて、迷ったものは聞きながら作業をしていく。


「僕達も手伝おっか」


「ん」


 アッシュとレイも反対側から大きいものを採っていく。


 スペース自体がそこまで広くなかったこともあり、5分程で採取は一通り終わる。


 麓よりは涼しいとは言えアースの暑い時期並の気温はあり、服が濡れる程度には汗が出る。だが麓の時は汗がすぐに蒸発していたことを考えると、服が濡れるだけまだマシとも言えた。


「ありがとー。残りは次の人達に残しておこう」


 そう言ってアイリはアッシュ達からエーテル草を受け取り、また端末へとしまっていく。


 それを見ながらアッシュは今まで採ってきた物を思い出す。ヘイス草原で水属性、シェーンの森で木属性、エレハス山で土属性と来ているので、残りは光属性と闇属性ということになる。


 パンデムは全体的に闇属性エーテルが濃いことは知られているが、エーテル草の属性が傾く程となると、なかなか見つけづらいと考えられた。


 いつか天然で育っている物も見てみたいと思いつつ、アッシュはアイリとダンに声を掛ける。


「そこのタンクの水、飲めるらしいよ」


「やった! そろそろ無くなりそうだったから助かったー」


 それを効いたアイリは、タンクへと駆け寄って水を水筒に少し注いでからその中身を一気に飲み干した。


「んー! 冷たくて旨い!」


「僕も飲む!」


 ダンも駆け寄って水筒を補給していく。その様子を見ながらアッシュは武器端末のマップを開いた。


 チェックポイントは後1箇所。ちょうど山の中心付近なので、山頂であることが推測出来る。


 道なりで迷うことが無いのは幸いだが、やはり登りは億劫である。


 しかもこれはまだ行きなので、帰りは下りではあるが今来た道を戻る、つまりはまた麓の熱波の中を通らなければならない。


 まずは山頂付近が暑くないことを祈りつつ、アッシュはマップを閉じた。


***


「暑い!!! 熱い!!! 何これ!!!」


 アイリが叫ぶ。だが目の前に広がる光景を見れば、それも仕方がないと言えた。


 直径100メートル程の円形の岩場の台と、地面から突き出るように伸びた幾つかの岩柱。その中央が最後のチェックポイントである。


 問題はその岩場の周囲を流れるマグマである。岩場と山壁の間凡そ30メートル程をグルリとマグマが囲っているのだ。


 登ってきた通路との間はしっかりと固まっているため、飛び越えたりする必要は無い。


 だがそれでも今までになく距離が近く、足元の岩場も触れたくは無い程に熱せられているため、大気も含めた全てが灼熱の空間と化しているのだ。


 唯一救いなのは、壁を伝って見上げると天井がぽっかりと空いているために、ある程度は熱が逃げていくことだろう。


 これでもし天井まで塞がっていたとしたら、入ることすらままならない空間になっていたに違いないとアッシュは考えた。


 まるで落ちたら死ぬデスマッチのリングのようだと、熱に浮かされた頭で訳のわからないことを考えながらも、アッシュは腹をくくる。


 調査のチェックポイントは1人でもそこに着けばよいので、こういう場合にはリーダーであるアッシュが行くべきなのだろう。


「……僕が走って行ってくるから、みんなここで待ってて」


「あっ! 待って!」


 そう言って走り出そうとしたアッシュをアイリが止める。


「あそこ……あの岩の中央当たり。周りより赤っぽくなってるのわかる?」


「んー……僕には判別できないなぁ」


 アッシュは目を細めてアイリが指差した方の岩柱を見るが、どれのことを言っているのかもわからない。そもそも風景全体が赤っぽいため、アイリの視力で無ければ見えないだろう。


「たぶんあれ、電気石の原石なんだ。あれは絶対に採りたいから、私も行く」


「本気で言ってるの? この中で採掘なんて、さすがに大変過ぎない?」


「それだけの価値はあるもん」


 アイリの目が本気だ。こうなってしまえば、アイリは1人でもやるだろう。


「仕方がない。ツルハシ貸して。アイリは一緒に来て場所教えて。僕がやる」


「えっ……でも」


「いいから。僕も採掘やってみたいと思ってたところだったし」


 アッシュがそう言うと、アイリはツルハシを手渡す。


「最後は私がやるよ」


「了解。採掘は道具が無いから2人でやるから、レイとダンはここにいていいよ」


 だがそれに対してレイは首を横に振る。


「私も行く。マグマからの熱さの盾くらいは出来る。水持ちもするから」


「僕も!」


 それを聞いてダンも笑顔を見せながら応える。結局全員で行くことになるようだ。アッシュとアイリはそれぞれレイとダンに水筒を渡す。


「……行くよ!」


 アッシュの掛け声と共に4人は一斉に走り出す。凄まじい熱に、身体中の水分が一気に蒸発してしまったかのような感覚を覚える。


「そこ! それのお腹の高さくらいのところ!」


 アイリが指差した岩柱へと近づくと、たしかに地面から1メートル程の部分が周囲と明らかに異なる赤色をしていた。アッシュはその真上を狙ってツルハシを振り下ろす。


「もうちょい上! 後周りも!」


 アイリの指示通りに更にもう1回振るう。


「水お願い! ダン、まだ楽な今のうちに中央辺りまで行っておいてくれない?」


「チェックポイントだな。わかった」


 ダンはアイリの水筒をレイに渡して走っていく。チェックポイントというのを既に理解しているダンの理解の速さにアッシュは驚きながらも、まずは目の前の鉱石のためにツルハシを振る。


 10回を超えた辺りで石の形が見えてくる。


 段々と腕を上げるのもキツいとさえ感じてくる。


 暑さのせいもあるだろうが、単純にツルハシに重さがあるのが要因だろう。採掘がここまで大変な作業だったのかと感じつつ、無心で更に数回振ったところで周りの岩が大きく砕け散る。


「よし! 後はやる!」


 アイリが杭とハンマーでその周囲を叩いていく。


「戻ったぞ」


「もうちょっと!」


 アッシュはマップを開く。最後のチェックポイントが赤から緑に変わっており、これで後は戻るだけである。


「ありがとう、ダン」


「これで終わり!」


 岩が割れる音がして、アイリの杭が岩に深く刺さる。それと同時にお目当ての鉱石が地面に転がり落ちた。


「よし! 回収!」


 そう言ってアッシュが手を伸ばした時だった。バチッという音と共に、鉱石からアッシュの手に電気が飛んでくる。


「おわっ! なんだ!?」


「電気石って言ったじゃん」


 アイリは再び端末から厚手の布を取り出して石を包み込むと、端末にしまわずにオブシダンを3人に見せた時のように掌の上に載せて立ち上がる。


「説明は後! 戻ろう!」


「だね。さすがに限界だ……」


 アイリは石を掌に載せたまま走り出す。アッシュ達もその後に続く。


 少し息を吸うだけで肺が熱くなるため、細かく吸って吐いてを繰り返しながら逃げるように灼熱の岩場から出る。


 登って来た道を少し走り、比較的涼しい場所まで戻ってくる。4人とも既に息を切らしており、立ち止まって岩壁にもたれ掛かりながら座り込む。


「はぁ……暑かったー。もう勘弁だね……」


 アイリが持っていた鉱石を地面に置きながら呟くと、レイが預かっていた水筒を手渡す。アイリじゃその中身を一気に飲み干していく。


「す……凄いな……。自然であんなに暑い場所があるなんて、知らなかったぞ」


 ダンも疲れた様子ではあるが相変わらずの笑顔であり、初めて体験するこの暑さを楽しんでいるようである。


「さて、じゃあこの石の話ね。電気石は名前の通り、熱を掛けると電気を発生させるの」


「だから痺れたんだ……」


「熱くなってたからね。これを武器に組み込んで、簡単な発熱の法術を電気変換したりするのに使うんだ。ダンのは違うみたいだけど、アッカムダントの武器には組み込まれてるのが多いよ」


 発熱はあらゆる法術の中でも最も簡単な部類である。


 レンジャーのように特別に訓練しなくても、一般向けの講座などで少し練習すれば最低限は使えるようになるのだ。それを電気に変換できるというのは、たしかに優れ物だ。


「そろそろ冷えてきたかな?」


 アイリが電気石に手をかざす。だが予想に反して再びバチッと音を立てて電気が走る。


「うーん、まだかー」


「石だからなかなか冷えないんじゃないかな。2つ目のチェックポイントのところの水使えば?」


 晒しておくだけでも冷えはするだろうが、どうせなら冷水を使った方がいいだろう。アイリもアッシュも先程の作業で水を切らしたので、その補給という意味もある。


「それがいいかも。もうチェックポイントは周ったんだよね」


「うん。もう後は帰るだけ」


「よーし! ここらへんが涼しく感じるくらいには感覚おかしくなってきてるし、早く帰って冷たいジュースでも飲も」


 そう言ってアイリは、電気石に布を被せて持ちながら立ち上がった。


 暑さにも慣れが出てきたので、アッシュとしてはもう少し探索してもいいかと思い始めたところであったが、冷蔵庫で冷やしている葡萄ジュースを思い出すと帰りたい気持ちの方が強くなる。


 再び歩き出したアイリの後に続いて、アッシュ達は帰路についた。

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