61.【C-調査】ガラド火山①
ダンの加入から数日。
ランス使いであるダンが加わったことで、アッシュ以外のメンバーで攻撃・防御・後衛を置くという基本編成が組めるようになった。
この最大のメリットは、依頼に応じてこの基本編成にアッシュがクラスを合わせることで最適な編成を組むという、オールラウンダーの理想的な使い方が可能になったという点にある。
更にはアッシュがメイジで後衛、アイリがグラディエーターで攻撃といった編成も試しながら、戦略の幅を増やしていた。
その日も午前中のうちに少し長めの掃討依頼を終わらせ、変換機を出て受付へと戻って来たところであった。
だがいつもなら受付で何かの作業をしているはずのニーナが何故か席を外しており、もぬけの殻となっている。
辺り見回すとニーナはカウンターの奥で男性職員と話しており、アッシュ達に気付くと少し言葉を交わしてからすぐに戻ってくる。
「お待たせしました。こちらが報酬となります」
ニーナは普段と変わらず手続きをこなしていく。と、アッシュがギルド内通貨のカードを渡したところで、その手がピタリと止まる。
「……アッシュさん。1つよろしいでしょうか?」
「な、なんでしょうか?」
雰囲気からして悪い事では無さそうだが、良い報せというわけでも無さそうだ。
「断って頂いても構わないのですが……実は今ある依頼が受注者がいないために長いこと放置されていまして、もし可能であればアッシュさん達に受注をお願いできないかという相談になります」
そんなことかとアッシュは安堵する。
「どんな内容ですか?」
「C難易度の調査で、場所はランドルト帯の一角にあるガラド火山です。調査は簡単な代わりに報酬が少ないため、特にB難易度からC難易度は回転速度がどうしても遅くなりがちなんです」
はっきりと「報酬が少ない」と言われるとアッシュとしても悩ましく思ってしまうところではあるが、ニーナからの依頼を断るのはそれはそれで気が引ける。
「ですが調査は基本的にギルドからの依頼なので、今回は報酬ディルを10パーセント上乗せすると先ほど決まりました。加えて指名受注という形になるので更に10パーセントのボーナスが付きまして、C難易度の掃討と同等の額をお支払い致します」
報酬面は解決したようだ。戦闘が想定されていない調査依頼で、戦闘があることが前提の掃討依頼並の報酬が貰えるのであれば旨い話でしかない。
だがアッシュには、もう1つ気に掛かる部分があった。
「なるほど、額は良いですね。ただ……火山ですよね……」
火山ということは相当に暑いだろう。それ相応の準備と覚悟が必要になる。
加えてアッシュは暑さには多少は強いが、コー荒原の時の反応を見る限りではアイリとレイは苦手そうである。2人が頷くかはわからない。
そう考えながら2人の方を振り向こうとしたアッシュに、ニーナがニコリと笑い掛ける。
「火山です。つまり……チェックポイントでは良質な鉱石などが取れるでしょうね。そして調査なので、採取した分は全て持ち帰れます」
その言葉にアイリとレイがにわかに反応する。
「アッシュ。やろう。やるべきだよ」
「ん。やる」
懸念していた2人からの突然のプッシュにアッシュは戸惑うが、そう言ってくれるのであれば受けても良いかと考える。
「ダンもいい? 結構暑いと思うけど」
「僕はどこでもいいぞ」
ダンは相変わらず民族衣装のような格好をしている。柄は色々とあるようだが、どれも布地が厚いように見えるため少しばかり心配になるが、本人が大丈夫というならば信じるしか無い。
「……ということなので、受注します」
「ありがとうございます。……と、話の腰を折るようで申し訳ありませんが、そろそろお昼も近いので休憩を挟んでからの出発をオススメしますが、どうされますか?」
アッシュは端末を開いて時間を確認する。昼飯には若干早いが、かと言って今から依頼に行ってしまうと大幅に過ぎることが予想出来た。
加えてコー荒原のように支給品で冷却用の防具があるだろうが、火山ともなるとそれ以上の用意もあった方がいいと考えられる。手持ちには無いので、買いに行く必要がある。
であれば、先にショップに行って必要な物を買ってから昼飯に行けば、ちょうどいい時間になるだろう。
「そうですね。午後にまた受注に来ます」
「では仮受注とさせていただきます。……せっかくなので皆さんに1つ。冷却機器は用意されるかと思いますが、掘るための道具もあった方がいいですよ。支給品では少々心許ないので」
間違いなかった。アイリとレイがやる気を出した理由を、準備不足で失わせるわけにはいかない。
「わかりました、そうします。じゃあまずは買い物しようか。それからお昼だね」
「おっけー」
買う物を相談しつつ、4人は受付を後にした。




