59.ダンの加入
マキナウス地方での狩猟から4日後、ダンが無事にレンジャー試験を通ったという連絡がアッシュ達の元に来る。
レンジャー試験を受けてきたアイリの話では2日間で終わるはずだったのだが、一向に連絡が来ないので何かあったのではと心配していたアッシュは、それを聞いて胸を撫で下ろした。
3人はギルド本部へとダンを迎えに行く。窓口のある部屋に入ると、受付の前で待っていたダンが出会った時と同じ笑顔をアッシュ達に向けてくる。
「ダンさんのレンジャー登録関連は既に完了しています。アッシュさんのチームへも加入済みなので、1階のポータルも使えますよ」
「ありがとうございます。行こうか」
「おう! 拠点ってやつだな。楽しみだ」
アッシュはニーナに頭を下げて、受付を後にした。
1階へと下りるエレベーターに乗りつつ、アッシュはダンに訊ねる。
「レンジャー試験合格おめでとう。時間が掛かったみたいだけど、何かあったの?」
「筆記試験? とかいうのを何度も受けさせられたぞ。でもみんなに色々と教えて貰ったから、僕も少しは頭が良くなったと思う」
それを聞いたアイリが吹き出す。
「ダン、それ特別扱いだよ。普通は筆記で落ちた時点で終わりだから」
「そうなのか。嬉しいな」
何もわかっていなさそうであるが、どうやら特別扱いしてもらったことを嬉しがっているようだ。
ダンはレンジャーとしての能力は高い。
ランスだけに武器を絞っていというのもあるが、モンク族のパワーとランスの相性が良いこともあって、Cランク程度は確実にあるだろうとアッシュは踏んでいた。
飛び入りで来た者がそれだけの実力を持っていることはほとんど無く、おそらくギルドもその辺りを把握したために、なんとか形の上で試験に合格させようとしてくれたのだろう。
とは言え端末すら知らなかったダンに試験合格となるまで一生懸命座学を教えるギルド職員たちというのも、想像すると微笑ましいものであった。
そんなダンでもさすがにポータルは知っているようで、1階から左に曲がった先にある拠点行きのポータルの前で立ち止まる。
「なあ、これ動いてないのか?」
「これはレンジャー専用のポータルで、さっき渡されたと思うレンジャーカードを持って入れば動き始めるよ」
「そういうこと。じゃあお先にー」
そう言ってアイリが入ると、一瞬だけ電源が入ってその姿が消える。レイも後に続く。
「僕も行く!」
更にその後にダンが飛び込む。最後にアッシュが入った。
拠点に着いたダンは驚いたように辺りを見回していた。アースにも劣らない都市の中枢部から、このような見渡す限りの草原に来たので、少し面食らっているようである。
だがすぐにアッシュ達が依頼を出したサブメンバー用の宿泊施設の建築作業が目に入ったようで、そちらに向かって歩き出す。
そして作業行っていたゴブリン種を見て、ダンは興味津々といった様子で立ち止まった。
「ゴブリンを見たのは初めて?」
「初めてだ。あんなに小さいのに力持ちだ」
たしかにゴブリン達は、レンジャーの基準で言えばそうでも無いが一般的なヒト族などと比べると大きさに見合わないパワーを持っている。
その辺りは最弱種族などと言われていても、魔族であることが伺える。
そこでアッシュは、先日レイに頼んでいたことを思い出す。
「そうだ。ダン、この後って時間ある? 戦闘で教えてもらいたいことがあるんだけど」
「僕は大丈夫だぞ」
「2人もいい?」
アッシュが振り返ると、アイリとレイも頷く。
「いいよ。あれね」
「ん」
「じゃあダンの部屋を決めたら、玄関に集合で」
3人はダンを連れて家へと入った。
部屋は現在、1階右列の7号室にアイリ、2階は左列の13号室にレイ、右列の16号室にアッシュがいる。アッシュはダンに玄関にある見取り図を見せる。
「空いている部屋から好きなところを選んでいいよ」
「1番がいい!」
即答である。
1号室。つまりは1階左列の1番奥の部屋へと案内しながら、アッシュはダン —— というよりモンク族について浮かんだ疑問を投げかける。
「そういえば、ダンは料理って出来る? 一応今は僕達3人で夕食当番を回してるんだけど」
「肉を火に掛けて焼くやつだろ。僕くらいの歳までにはみんな教えられるからな。」
思っていた通りであった。狩猟生活を続けるモンク族の中では、料理と言えば焼いた肉のことなのだろう。そしておそらく、調理器具のようなものもあまり出回っていないことも伺える。
「……だよね。うん、でも少しの間は3人のうち誰かと一緒にやってもらうよ」
「? わかったぞ」
おそらくこのまま担当させると、夕飯の4分の1が肉の丸焼きになる。肉は勿論好きだが、せっかくなら美味しく食べたいところであるアッシュとしては、避けたいところであった。
当面の間は誰かとペアにして、調理方法を教えてあげようアッシュは心に決めた。




