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55.【C-狩猟】サミル池周辺⑥

 アッシュ達はとりあえずダンの言葉通りに、サミル池へと向かうこととした。


 マカクエンと遭遇した広場は南北方向へと細長い形状をしており、その北端がサミル池を囲う空き地とほぼ隣接していた。距離も然程離れてはいない。


「ダンはランスだよね。そしたら最前面でランスで牽制と受けをお願いしてもいい? レイが攻撃の要だから、集中してもらうためにもマカクエンの攻撃を全部受けてもらうことになるけど」


 やるべきことを明確に言った方がダンには伝わると考えて、アッシュは遠回しな言い方をしないように心掛ける。


「任せろ。仲間との狩りはターレントでもよくやってたからな。僕はランスが得意だから、いつもそんな感じだったぞ」


 そう言ってダンは得意げにランスを高く掲げる。それは見たところ、アッカムダント社製の少し古いモデルのようだった。


 アッカムダント社はランスのようなサイズの大きい武器に多彩なギミックを詰め込んだ物を中心に販売しており、他のメーカーよりも集団戦における補助を考慮した造りになっている。


 それを持ち歩いていることからも、ランスを用いた集団戦が多かったのであろうとわかる。


 役割も理解しているのは心強いと考えながら、アッシュは正面に目を向ける。


 広場から伸びる小道の先には、青空を反射するサミル池が見える。そこから見えるだけでも池と言うには広すぎるとさえ感じる程であった。


 その時だった。サミル池を囲う木の陰からマカクエンが姿を見せた。


「!! みんな構えて!」


 同時にマカクエンもこちらに気付いたようで、牙を剥いて威嚇を始める。ダンはシールドとランスを素早く構えて一歩前に出るその右後ろにレイ、左後ろにアッシュ、後方にアイリと並ぶ。


「突撃する!」


 ダンが掛け声と共に、ランスをマカクエンに向けて走り出す。その動きにアッシュは、最初にあっさりと弾き飛ばされたことを思い出す。


「気を付けて! 頭はかなり硬いよ」


「大丈夫だ! 問題、無い!」


 案の定マカクエンは、ランスの先端に向かって突き上げるような動きを見せる。だが力を込めて放たれたダンの突きは、弾かれることなくマカクエンと衝突する。


「おお! さすが」


 マカクエンに対して全く力負けしていないダンに、アッシュはモンク族のパワーを思い知らされる。


 ダンが競り合っている間に、アッシュは発信機付きのガムボールをマカクエンに投げつけた。ボールタイプは飛距離も指向性もナイフに比べると劣るが、当ててしまえば効果は同じである。


 と、競り合った状態のままダンがランスの根本を捻った。


 その瞬間、ランスの先端が小規模ながら音を立てて爆発する。突然の爆発にマカクエンは相当に驚いたようで、ダンにシールドで拳を弾かれた時のように大きく仰け反った。


「よし!」


 アッシュはダンの左側から飛び出すと、棒を大きく振りかぶる。そして地面に着きかけていたマカクエンの手首を横から弾き飛ばした。


 右腕を綺麗に払われた形となったマカクエンは、右肩から地面に落ちてそのまま横転した。


 追撃を仕掛けようと駆け寄るレイに対し、マカクエンは背中を地面に付けたまま腕を大きく振って抵抗する。だがダンがその腕を弾くように、高速の連突きを入れて動きを抑える。


 そしてランスを飛び越えるように跳躍したレイが、マカクエンの首筋に太刀を振り下ろした。


「ギャウワ!!」


 しかし後少しで首筋を捉えられたはずのところで、マカクエンが大きく吠えて力だけで横に跳躍してしまい、レイの太刀は首の側面を少し斬るだけとなった。


 とは言え狙いが首だったこともあって、マカクエンの白い毛に染み出す赤い血は、確かな成果を感じさせられるものである。


「首の辺りはちょっと薄いのかな」


「顔とかよりは柔らいと思う。でも硬い方」


 斬った本人であるレイの感想に、アッシュは再び思案する。


 ある程度斬ることが出来るのであれば、パルチザンで首を正確に狙えれば刎ねることも可能だろう。だがそれには、マカクエンが動けない程の状況を作り出さねばならない。


 寝床に行くまで追い込めば仕込んだトラップで麻痺させることも出来るが、そこまで追い込むためにどうするかを考えなければならない。


「もっと斬撃が入りやすそうな場所……」


 そう言ってアッシュはマカクエンを観察する。


 胸部は先程アッシュがランスで突いた限りでは、顔面とほぼ同じ程度の硬さがあった。他に攻撃を入れていないのは、腹から下と背中側である。


 マカクエンの姿勢からして脚は狙いづらい。ウルフベアの例から考えても腹が狙い所だろう。


 と、アッシュ達から少し距離を取っていたマカクエンが、背中を見せて逃走を始める。


「あ! 逃げた!」


 ダンが追いかける。その後を追おうとしたアッシュは、ふとマカクエンの尻の上に赤い傷があるのに気付いて立ち止まる。そのような場所にアッシュ達は攻撃を当てた記憶は無い。


「……!! そうか! あの子か!」


 アッシュはここに来てようやく、マカクエンと会う直前にグリズリーの少女が「マカクエンを引っ掻いて投げ飛ばされた」と話していたことを思い出す。


 少女の爪には血も付いており、爪の大きさから考えてもヒト族であるアッシュ達の思う”引っ掻き”のレベルは超えているのは間違いないが、レイの太刀より強力ということはないだろう。


「ダン! ちょっと待って」


「お? なんだ?」


 ダンはその場で脚を止めて、アッシュの方へと戻ってくる。


「さっきグリズリーの子がいたでしょ。ダンと会う少し前に、あの子からマカクエンを引っ掻いたって聞いててさ。で、今それっぽい傷が尻の上辺りに見えたんだ」


 アイリも思い出したように「あっ」と声を上げる。


「そっか。あの子の爪でも血が出るような所ってことね。その辺りが弱いのかな」


「マカクエンの姿勢を考えると、一番狙いづらいところだしね。そこなら僕達でも斬れる可能性は高いと思う」


 アイリは納得したように頷いた後、考えるように視線を上に向けた。


「……でもじゃあどう狙うかって話なんだよね」


「僕はあいつの正面からの攻撃を防ぐ。その間にさっきみたいに転ばせたり、またできないのか?」


「あのくらい余裕があれば、背中側も攻撃できる」


 ダンに続いてレイも口を開くが、先程の転倒は偶然と言っても過言では無い程に綺麗に決まったものであるとアッシュは感じていた。


 同じ手が決まるとは考えづらく、またそれに近いことを再現する方法もすぐに思いつくものでは無い。


「うーん……さっきのは爆発で隙を作れたから出来たけど、また通用するかはわからないからなぁ。棒がどれだけ利くかもわからないから、戦闘を重ねながら上手くできるタイミングを見計らうしか無いね」


「おっけー。じゃあマカクエンを追い掛けようか」


 アイリが端末から地図を出してアッシュに見せる。どうやらマカクエンは先程とは別の広場に向かって移動しているようだ。


 現状、レイがマカクエンの首を少し切った程度しか良いダメージは入れられていない上に、割とあっさりと逃げられている。


 思っていた以上に焦らされており、まだ昼を過ぎた頃合いではあるが日を跨ぐ可能性すらも頭を過る。


 次こそは有効打を与えるべく策を考えつつ、アッシュはマカクエンが向かった方へと歩を進めた。

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