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48.【C-採取】コー荒原③

「おう、戻ったか! 見せてみい!」


 戻ってきた3人を、相変わらず暑苦しいサラマンダーの男が出迎える。


 メンナの建物は全て粘土質の土を固めて作られているようで、外見はどれも地味である。


 アッシュ達が転送されてきた建物に至っては中も剥き出しだったが、通された隣の建物は中がシェーン森のベース程度には小綺麗に装飾されていた。


 アイリがカウンターにミズサボテンと採取した水の入った瓶を並べると、サラマンダーの男は感心したように目を細める。


「ほーう、今年も良い出来だ。肉厚も長さも十分。あんがとな!」


 そう言ってミズサボテンのトゲがある部分をむんずと掴んだのを見て、アイリが思わず「うわっ」と声を上げる。だがサラマンダーの男は不思議そうな顔でアイリを一瞥しただけであった。


 硬い鱗に覆われているためか、その程度では痛みのようなものは無いらしい。


「ちょいと待っとれ」


 男はカウンターと建物の奥を往復しながら、ミズサボテンと瓶を片付けていく。アイテム端末を使えばいいのにと思いつつ、アッシュは黙ってその様子を見ていた。


 そして最後のミズサボテンを運んだ男は、奥から皿を3つ運んで来る。皿は透明な物で満たされており、その上に緑色の果肉が乗っている。アイリの瞳が輝く。


「せっかくだから食ってけ。中の水で作ったゼリーと、出荷前に処理した時の切れ端だ」


「わーい! ありがとー!」


「俺にはなんでそんな冷たいもんが食えるのかわからんが、お前らは好きなんだろう。おーさむさむ」


 サラマンダーの男は手を擦り合わせて震えている。皿までキンキンに冷えており、冷蔵庫まで取りに行ってくれたことが伺えた。


「ありがとうございます。いただきます」


「俺は奥でミズサボテンの処理をしてくる。皿はそこに置いといてくれや」


 そう言ってサラマンダーの男は建物の奥へと消えていった。


 3人はスプーンでゼリーを掬い、口に運ぶ。甘すぎないがしっかりと味のする冷たいゼリーに、アッシュは今日の疲れが全て吹き飛んだような感覚すら覚えた。


「うん、これは美味しいね」


 そう言ってアッシュはレイの方をチラリと見る。先程浮かべていたレイの不満の色は掻き消えており、逆に幸せそうな雰囲気が出ている。


 いつも変わらないレイの表情からでも、少しずつ気持ちを読み取ることができるようになった気がするとアッシュは感じた。


「そういえばさ、2人はアースのどこ出身なの?」


 と、アイリが唐突に質問を投げてくる。


「どうしたの、急に」


 アッシュは少し驚いて聞き返した。


「私は傭兵団であちこち回ってたから、出身はD5だけど故郷って感覚はあまり無いんだけどさ。3歳くらいの時にサボテンを使った料理を食べたのを、ふと思い出したんだ」


 ちょっとしたノスタルジーだろうかとアッシュは考える。


「僕はずっとD0だね。開発は比較的進んだ地域だったんだけど、どちらかというと農業の方が盛んで、自分達で育てた葡萄をよく食べてたよ。養成所は海を超えた次元渡航船の乗り場がある地域だったから、寮生活だったけどね」


「葡萄かーいいなぁ」


「じゃあ今度持ってくるよ。レイは?」


 アッシュは幼い頃に両親を失い、養護施設で育った身である。


 とは言えアッシュ自身ですら顔も知らないので両親がいないことは特に気にしておらず、寧ろ変に気を使われる方が困る。ボロを出さないうちにと、アッシュはレイへと話を振った。


「私はD1の次元開発機構本部の近く。本家があるD0にもよく行ってた」


 本家がD0にあるということは、レイは分家なのだろう。だがそれにしても本家分家というのがある時点で、かなり良い家の出であることが推測できた。


「何か有名なものとかあった?」


「……D1はなかった。D0は田んぼが沢山あったから、米」


「へー米かー。みんな出身次元は別だね」


 そう言いつつアッシュは、最後に残したミズサボテンの果肉を頬張る。


 口の中にジンワリと濃厚な甘みが広がっていく。美味しいのは間違いないのだが些か濃厚過ぎるため、ゼリーと一緒に食べればよかったと少し後悔する。


「美味しかったね」


「うん」


「ん」


 レイが最後の一掬いを口に入れつつ、スプーンを皿に置いた。


「それじゃあ帰ろうか」


 アッシュ達は席を立って出口へと向かう。


「美味しかったです。ありがとうございました」


「そいつぁよかった。また依頼出たら受けに来いよ」


 建物の奥へと礼を言うと、サラマンダーの男の返事だけが返ってくる。暑さは厳しかったが、こういうオマケがあるならまた来てもいい。そう考えながらアッシュ達は隣の建物へと向かった。

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