ニーナ・リストルテ
ニーナ・リストルテは生まれた時より”異質”であった。
金の髪にやや暗い黄色の瞳、そして金毛の尻尾を持つ妖狐種。そんなごく普通の両親の間に生まれたはずのニーナは、何故か髪も瞳も尻尾も血のように真っ赤な色だったのだ。
もっとも、魔族においてそのような”異質”は称賛されるものであった。
魔族の中には稀に『変異体』と呼ばれる、身体面に大きな”異質”を持ち合わせて生まれてくる者がいる。そして魔族が強さに固執するためか、変異体は身体面だけでなく能力面においても極めて強力な”異質”を持ち合わせていた。
ニーナの”異質”は変異体に区分されるほどでは無かったものの、その能力には大きな期待が寄せられた。
ニーナの能力における”異質”がわかったのは、150歳を少し過ぎた頃と幾分遅めであった。
妖狐種はエーテル適正が極めて高いため法術を用いて戦う者が多く、ニーナも始めは法術使いとして期待されて訓練を受けた。ニーナもそれに応えるように、どの法術分野においても月並み以上の力を見せた。
だが結局は”月並み以上”止まりであった。期待されていたような飛び抜けた才能は見当たらず、考えた両親が試しにと全く違う場を用意したところ判明したのだ。
ニーナが持ち合わせた”異質”は身体能力強化への適応力、及び近接戦闘における勘の良さという、おおよそ妖狐種としては考えられないものであった。
妖狐種の中では能力を伸ばすことができないと判断されたニーナは、妖狐種が住む土地を支配する魔神が有する軍へと預けられた。そこでニーナは、自身の”異質”を更に昇華させていくこととなる。
妖狐種としては月並み以上でしかなかった法術の才能も、近接戦闘を主体とする魔族の中ではトップクラスであった。
身体能力強化、短距離瞬間移動、気配遮断。近接戦闘に関わるあらゆる法術を身に着けたニーナは、仕える魔神の元で凄まじい勢いで実績を上げていき、200代後半にして魔神直属の特殊偵察部隊の長まで昇りつめていった。
これはニーナがその名を魔族に轟かせた、今から400年と少し前 —— まだアースと繋がる以前の、力こそが絶対であった頃のパンデムで起きたとある事件の話である。




