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ディーバ超次元戦記 〜The World of Twenty-eight Dimensions  作者: 八雲、
2章 〜レンジャーの仕事〜
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41.【C-狩猟】エレハス山②

 ポータルを出た先は、先日採取依頼で来た時と同じような雰囲気の商店街であった。


 しかし店に並べられているのは小綺麗なガラス細工だったり綺麗な石だったりと、どちらかというと観光向けな印象が強く出ていた。


 そして店に挟まれた道を真っ直ぐ進むと、大きな文字で『エレハス山東登山道入口』と書かれた看板も見える。西の登山道と違って非常にわかりやすい。


 近くには駐車スペースまで整備されており、こちらがエレハス山の”表側”であることがよくわかる。


 だが登山道への入口は今は重そうな鉄格子で塞がれており、その前には警備員服を身に着けたゴーレム種まで見える。一般の入山が制限されているというのがひと目でわかる。


 アッシュ達は周囲の店に目を向けながら鉄格子の前まで歩いていく。


「あの……ウルフベアの狩猟で来たレンジャーなんですが……」


 所々に苔が生えた土の身体が景観に合っているなと考えながら、アッシュは鉄格子の前に立っていたゴーレム種に話しかける。すると警備員の目が光り、ゆっくりとアッシュの方を向く。


「オハナシハウカガッテオリマス。レンジャーカードヲ、オミセクダサイ」


 3人はそれぞれ、レンジャーカードを取り出して警備員に見せる。


「カクニンシマシタ。トビラヲアケマス」


 警備員は鉄格子に付いた扉の鍵穴に鍵を差して回すと、その扉を開けて促すようにアッシュ達を見る。


 てっきりこの重そうな鉄格子を警備員が押して開けるのかと思っていたアッシュだが、どうやらそこまで非効率的では無かったようである。


「ありがとうございます」


「オキヲツケテ」


 ガシャンと音を立てて閉まった扉を背中に、3人は作戦会議を始める。


「ウルフベアがどこから来るかわからないし、少し離れて歩こうか」


「風は山頂の方から吹いてるから、レイが先頭で私が一番後ろでスプレー使うのがいいよね」


「ん。わかった」


 レイは太刀の鞘を左手に持って歩き出す。突然の襲撃を受けても対応出来るようにするためだ。


 アッシュは先頭の警戒をレイに任せ、アッシュはソルジャークラス用のスコープを装備してから後を歩き出した。


 西の登山道も登る分には十分と言える程度には整備されていたが、東はそれ以上であった。道は大型の車でも余裕ですれ違える程に広い。


 道の両脇からは木々が道を覆うように生えて自然のトンネルを形成しており、いい具合の木漏れ日の中でとても歩きやすいと感じる。


 左手側に設置された木製の柵の向こうは下りの斜面となっている。ここを下って森の中の捜索に出てしまうのも一つの手かとアッシュは一瞬考えたが、すぐにその案は捨てる。


 最速でウルフベアと遭遇出来る可能性もあるが、もし遭遇出来ないうちにウルフベアが東の登山道を超えてしてしまった場合、捜索範囲が一気に広がって面倒なことになる。


 まずは東の登山道に沿って山頂まで壁を作るようにスプレーを撒いた後、今度は下りて捜索しながら撒いて囲い込む。そちらの方が確実に時間は掛かるが、手堅くウルフベアを囲い込むことが出来るのだ。


 ふと、アッシュは眩しさを感じてスコープを外す。陽が差し込んできた右方に視線を向けると、周りを囲む木の隙間から展望台らしき場所が見えた。


 ケイの言った通り、崩れないように舗装された右手側の登り斜面はかなり急であり、ここを登るのは危険そうである。


(あの展望台まで歩いたら休憩かな)


 アッシュが選択した方法では一度頂上まで登る必要はあるが、これで疲れてしまっては元も子もない。急がずに確実に、詰めていくことが成功への最善手なのだ。


***


 展望台、東と南の登山道の合流点それぞれで休憩を挟みながら登っていき、アッシュ達はエレハス山頂上の展望デッキにいた。


 頂上には3日前に来たばかりではあるが、その時は見て回る時間は無かったため今日は休憩がてら少し散策することにした。


「この後はどうするの? あんまり範囲が広くしても追いかけるの大変じゃない?」


 両肘を柵に付いて背中からもたれ掛かっていたアイリがアッシュに訊ねる。


「そうだね。とりあえずここから西の方に下るけど、少し行ったところで森の中を通って南の登山道に出ようと思うんだ」


 アッシュは端末を開いてマップを見せながら説明する。


 南の登山道は東との合流点の少し手前で西へと大きく膨らむようにカーブしており、西の登山道を少し下ったところと近くなっている。


 アッシュはそこを通って西の登山道から南の登山道に出ようと考えていた。


「わざわざ西に降りてから山の中を通る必要ある?」


 アイリの疑問はもっともである。単に南の登山道に出たいのであれば、今来た道を引き返して先程休憩を取った東の登山道との合流点から下っていけばいいからだ。


「森の中はウルフベアに地の利があるから、出来れば平坦なところに追い込みたいんだ。この山で平坦なところって言うと......」


「うーん......あ、ここか」


「そう」


 山頂の広場は視界も良く戦闘を行うにはちょうどよい広さがあるため、アッシュはウルフベアを山頂へと追い込もうとしていた。


 そのためスプレーを撒きながら西の登山道から森の中を通って南の登山道へと出ることで、"ウルフベアが山頂へと向かうルート"を確保しながら囲い込もうと考えているのである。


 アイリは端末のマップをなぞりながら納得したように頷いていた。


「もう少し休憩したら出発しようか。もしかしたらここからウルフベアが見えたりしてね」


「あ、たしかに」


 アイリはそれを真に受けたようで、展望デッキから少し身を乗り出すように森の方へと視線を向ける。


 さすがに冗談だとアッシュは言おうとしたが、アイリの視力ならば或いはと考え直す。


 アッシュは柵に頬杖をついて眼下に広がる町並みを眺める。低い山ではあるが、麓から山頂まで登って見る眺望は少し特別なようにアッシュは感じた。


 今この時だけはレンジャーであることも忘れて、この風景を楽しむことにした。


***


 西の登山道を下って、森を抜けて南の登山道へと出たアッシュ達は、そのまま下り方向へと進んでいく。


 南の登山道は東とまた様子が大きく異なっていた。幅広の道は同じだが、両脇は斜面になっておらず、単純に木を切り倒して道を作ったのであろうと推測された。


 周囲の木も道に覆いかぶさるようには伸びておらず、快晴の空がはっきりと見て取れる。


 緩やかに左へと曲がるカーブを抜けて、直線上になった道を少し歩いた頃だった。3人の武器端末が振動する。見るとケイから、新しいメッセージが届いたところであった。


———————————————————————

森の中の定点カメラでウルフベアが観測された。

南ルートの休憩所のほぼ真北から山頂方向へと

移動した。地図を送るから確認して向かってくれ。

———————————————————————


 急いでマップを確認すると、そのまま真っ直ぐ行った先の休憩所から真っ直ぐ上がったところに赤い四角の点が付いている。それを見てアッシュは、思わずガッツポーズをしたい気分に駆られた。


「よし! 良い位置だ」


「ほんとだね。良い感じに囲えてる」


 このまま休憩所まで囲えば、ウルフベアを比較的狭い範囲で囲い下から追う形が取れる。山頂まで追い込むのも簡単だ。


「このまま休憩所まで進んで、そこからウルフベアを目指して森の中を登っていこう」


「ん。じゃあ、急ぐ」


 そう言ってレイは速足で登山道を進み始める。アッシュとアイリは慌ててレイの後を追いかける。


 レイは休憩所の前で立ち止まって2人を待っていた。


「そんなに急がなくても大丈夫だよ」


「逃したくは無いから。でもここからはアイリに任せる」


「りょーかい。風下だから先に見つけてあげるよ」


 アイリは森の中へと入っていき、アッシュとレイもその後に付いて行く。


 吹き下ろす風に向かいながら10分程慎重に歩を進めたところで、アイリが手を上げてストップを告げる。


「獣臭が濃くなってきた。もう見えると思う……いた。ほら、あそこ」


 アイリが指差した方へと視線を向けると、木の間に黒い塊が動いているのが見えた。


「……そしたら僕が上から回り込んで山頂方向に誘導するから、戦闘が始まったらレイが反対から挟んで」


「ん」


「アイリはスプレーで東の登山道までを囲ってから戻って来て。攻撃法術を使う時は火属性はダメだよ」


 さすがに法術で山火事になっては洒落にならない。水属性の法術で消化すればよいが、使わないに越したことは無い。


「わかってるって。土属性で動き止めるくらいかな」


「それがいいと思う。じゃあよろしくね」


 そう言って3人はそれぞれの位置へと向かう。初めての3人での大物狩りを前に、アッシュは投擲篭手の中で手を強く握りしめた。

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