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ディーバ超次元戦記 〜The World of Twenty-eight Dimensions  作者: 八雲、
2章 〜レンジャーの仕事〜
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33.【D-採取】エレハス山②

 着いたのはこれまでと同じような部屋であった。中央には黒い通信機も置いてある。


 しかしこれまでと違い、狭い上に支給品が置いてありそうな棚も無い。


 代わりにあるのは古そうな棚に使用用途のよくわからない埃を被った機械類。通信機だけが妙に綺麗で逆に違和感があるが、これが置いてある以上はベースなのは間違い無いはずだ。


「狭い……埃っぽい……」


「物置……みたいだね。出よう」


 アッシュは外に出ようと正面の扉を開ける。だが扉の先にあったのは、先程までいたギルド窓口に似た場所だった。


「来ましたか」


 突如横から声を掛けられて、アッシュは思わずビクリと身体を震わせる。声がした方を見ると、眼鏡の男性がこちらを見てにこやかに微笑んでいた。


 頭の上に犬の耳が付いていることから、魔族 —— コボルド種であることがわかる。


「ん? 初めて見る顔だね。新人さんかな? 僕はケイ。ここの受付担当をやっているんだ」


「はい。最近加入したアッシュです。後ろの2人はアイリとレイです。あの……ここは?」


「ここはエレハス山の麓の街にある、ギルドのセードル大陸北西支部。君達はエレハス山頂のエーテル草採取に来たんだよね。ここからはポータルで登山道の近くまで行けるから、そこから山頂まで登ってもらえばいい。採ってきたエーテル草もここで受け取るよ」


 それを聞いてアッシュは合点がいく。


 今回は支部からの依頼で採取に行って納品まで済ませるために、ニーナが言っていた”ベースがギルド支部の中”というパターンなのだろう。


「ポータルで山頂まで行ければいいのにー」


 アイリが口を尖らせて言うと、男性は笑って返す。


「そう滅多に使う人がいない場所にはポータルは置けないからね。ポータルは一番奥のを設定済みだから、いつでもどうぞ。ギルドで必要な分以上は君たちの報酬になるから、採取可能だと判断した物は全て採ってきてしまって構わないよ」


「ありがとうございます。じゃあ行こうか」


 アッシュはケイに礼を言うと、アイリとレイと共にポータルへと向かった。


 ポータルを抜けると、商店街のようなところに出る。設定が違ったのかと思いアッシュが辺りを見回すと、背後の建物の屋根の上から山の頂点が幾つか覗いていることに気付く。


「あれがエレハス山?」


「じゃないかな。他の山もあっち側にしか無いし」


 そう言ってからアッシュは、マップを見れば済む話であることを思い出す。


「うん……合ってるね。あの一番手前のがエレハス山みたいだ。行ってみよう」


 隣の建物との間に路地を見つけ、そこからエレハス山に向かって少し歩いて行くと、コンクリートの道路に面した木々の間にぽっかりと空いた穴が見えてくる。


「あれ……でいいんだよね?」


「西側登山道入口って書いてあるよ」


 アッシュには見えていなかったが、アイリには見えたようである。アッシュはそこで立ち止まって、再びマップを開いた。


 エレハス山には3本の登山道がある。南の登山道には途中に休憩所、東の登山道には展望台があり、その2本が合わさった辺りに更に休憩所、山頂の手前にキャンプ用の広場があった。


 一方で西の登山道は途中で他の道と交わることが無い上に、休憩所のような施設は一切無い。


 だがその代わりにグネグネと入り組んでいる南と東の登山道と違い、カーブも少なく出来るだけ短い距離で山頂に辿り着けるようになっている。


 わざわざ山頂で土属性のエーテル草を栽培している辺り、おそらくレンジャーが短時間で山頂まで登る使うためのルートということなのだろうとアッシュは考える。


 ここから一本道を登るだけというのがわかったので、アッシュはマップをしまって再び登山道へと歩き出した。


 意外なことに登山道はかなり整備が行き届いていた。坂道はしっかり踏み固められている上に、高低差が大きいところは木製の階段が作られている。


 シェーンの森よりも歩きやすいと言っていいだろう。


「あれ、アッシュ今日はハンターじゃないんだ」


 アイリがアッシュの手元を見て声を掛ける。


「今回は戦闘がメインじゃないから、ウルフベアと遭遇した時を考えてソルジャーにしておいたんだ。万が一遭遇した時はブラインドボムとかを使うから気をつけてね」


 ソルジャーはナイフ、ボム、ブーメランの3つを使うクラスで、12種類あるクラスの中では選択される頻度が最も高いことで知られている。


 だが他のクラスに比べて強いということはなく、グループで行動する際に1人ソルジャーがいると依頼をスムーズに進められるためだ。


 例えばナイフに区分されている中には、ガムナイフという形こそナイフだが刀身がガムのようになっているものがある。


 当てると刀身が潰れてくっつく仕組みになっており、柄に仕込んだ発信機と武器端末を使って、剥がれるまで対象の位置を追えるのだ。


 クラスに依存せずに使えるボール型よりも遥かに飛距離と粘着力があり、上手くやれば相手に気付かれずに発信機を付け、数日に渡って位置を監視することさえ出来る代物だ。


 またボムであれば、強い光で相手の目を眩ませるブラインドボム、強風を起こしてガスを吹き飛ばすエアボムなど、便利さで言えばナイフ以上に様々な種類が揃っている。


 ただし火力という点ではむしろ他のクラスより劣ると言わざる得ないのだが、それを補って余りあるだけの利便性の高さ故に一番人気のクラスとなっているのだ。


「なる。じゃあウルフベアと遭遇しても、戦闘は回避ってことね」


「そうだね。今回は色々と準備もないから、戦い損になる可能性が高いし」


「会ったら戦ってみてもいいかなーって思ってたんだよね」


「依頼の達成が優先。戦闘は失敗の原因になるかもしれない」


 戦闘に対しては前のめりなレイだが、依頼の目標に対しては忠実なようである。


「今回はここらの地形を把握しておいて、次はしっかり準備をしてから狩猟の依頼を受けて来よう」


「おっけー」


 そんな会話をしながら登っていき、山の中腹に差し掛かった頃だった。アイリが突然呻くような声を上げて立ち止まる。


「どうしたの!?」


「臭い……なにこれぇ……」


 言われて周囲の臭いを嗅ぐと、確かに僅かではあるが臭う。


「動物の糞かな」


「ここまでのはそう滅多にいないよ。少なくとも私は知らない」


 アイリが知らないとなると、余程の物なのだろう。


「じゃあなんだろう。でも原因を探るためにも進まないとだね」


「うん……」


 アイリは顔を顰めながらも再び歩き始める。だが段々と、アッシュでも嫌になるほどに臭いがきつくなってくる。レイも服の袖で鼻を覆っている。


「あった。やっぱり何かの糞っぽい」


 アイリが指差した方を見ると、シェーンの森で木属性エーテル草が植えられていた場所のように、道から外れたところに木がない場所が見えた。そしてその中央に黒い物体が見える。


「あそこにあるやつかな。うっ……こりゃキツいね」


「これ以上は無理……アッシュ、あれお願い……」


 アイリが鼻声で、何かを投げつける動作をしながら頼んでくる。


「ん? クラスターでも投げつけるの?」


「アッシュが盾になってくれるなら……じゃなくて、風起こせるボムあったでしょ」


「エアボムね。風で臭いを飛ばして、その間に走って抜ければいいのか。でもクラスターほどじゃないにしても、あれを相手にするとなると危ないかもしれないよ」


「そこはアッシュの腕に任せる」


「……やってみよう」


 アッシュは武器端末を操作してエアボムを取り出して眺める。


 本来ならば火山ガスや砂埃に対して使う物であって、まさか初めての実戦使用が臭いを吹き飛ばすために使うことになるとは思ってもいなかった。


 とは言え、この臭いである。有毒ガスと言っても過言では無いだろう。アッシュは糞を撒き散らさずに風を起こして臭いを飛ばす算段を立てる。


(順当に考えれば、真上から風を当てればモノがこちらには飛んで来ないか……)


 方法が決まれば後は腕の問題である。アッシュは枝に当たって落ちない位置を見定める。力の加減を自分で出来る分、昨日のランチャーよりも簡単である。


 そしてその方向を狙ってエアボムを投げつけた。


(3……2……1……)


 狙い通りの位置でパンっと軽い音を立ててボムが弾けると、音に似つかわしくない強風が周囲を吹き抜ける。


 強風に思わず顔を背けて後ろを見ると、アイリとレイがアッシュを盾にするかのように隠れていた。


「……上手くいったよ。じゃあダッシュ!」


「やった! これならいける」


「臭くない」


 若干火薬の臭いがする空気に置き換わった小路を、3人は全速力で駆け抜けていった。

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