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ディーバ超次元戦記 〜The World of Twenty-eight Dimensions  作者: 八雲、
2章 〜レンジャーの仕事〜
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32.【D-採取】エレハス山①

 目が覚めて寝巻きから外着へと着替えたアッシュは、部屋を出てダイニングへと向かう。ダイニングに掛けられた時計を見ると、既に10時手前であった。無論、遅刻したというわけではない。


 リレイクでの救援作戦を終えたアッシュ達。


 肉体の疲労はエーテル体を用いているため残らないが、精神はそうはいかない。内容が内容だっただけに依頼中は緊張が続いており、それを考慮して今日はギルドの食堂で昼飯を食べてから依頼に行こうと3人で決めたのだ。


 そしてその判断が正しかったことは、普段通りの時間に寝たにも関わらず睡眠時間が2時間以上も増えてしまったことからもわかる。


 流しにある食器を見ると、レイは朝食も食べて部屋に戻っているようであった。アイリはおそらくまだであろう。


 アッシュはコップにミネラルウォーターを注いでから、自分のレンジャーカードを端末から出して眺める。そこには青色の文字でC2と書かれている。


 昨日の依頼はA難易度かつシャドウとの連続戦闘ということもあって、レンジャーポイントが大幅に加算された。その結果アイリはE1から一気に2段階上昇してE3に、アッシュとレイはそれぞれC2とB2に上がったのだ。


 勿論多いのはレンジャーポイントだけではない。


 ニーナ曰くリレイクの事後処理などもあって決まっていないが、事が事だったこともあって最重要部分に当たったアッシュ達への報酬は100万ディルは超えるだろうとのことだった。


 まだ通算3回目の依頼だと言うのにそれだけ貰っていいのか、不安すら覚えてしまう程である。


 とは言え夢への大きな前進であることには違いなかった。Sランクになるためには強くなることは必須だが、レンジャーポイントを稼いでランク昇格試験に挑むことも当然必要である。


 時間が遅いために妙に空腹を感じるが、かと言って何か作るのも億劫な気がしてしまい、アッシュはコップを濯いでからダイニングを出た。


 2階へと続く階段を登る途中、下りてきたレイとすれ違う。レイは既に外に出るような格好をしている。


「あれ。どっか行くの?」


「ん。砥石が足りなくなった」


「自分で磨いてるんだ。いってらっしゃい」


 刃の研磨はギルドの施設などの全自動機械でも十分出来るが、一度の依頼が長期間になりやすい上位レンジャーは出先でも出来るように持ち歩ける砥石を使っていることが多く、需要はともかくとしてギルドのショップでは確実に扱っているのだ。


 ただし、特に長期の依頼を受ける予定があるわけでもないレイが砥石を使っているのは、先日聞いた通り持っている太刀への強い拘り故であろう。


 アッシュは自室で2時間程パンデムの地理などを調べながら過ごした後、依頼に向かう準備をして再びダイニングへと向かう。


 冷蔵庫からお気に入りの葡萄ジュースを取り出してコップに注ごうとしたところに、アイリが飛び込んでくる。


「寝過ごした!」


「大丈夫だよ。食堂で昼飯を食べた後に、依頼に行く予定だから」


 アッシュが言うとアイリはホッとしたような表情になる。


「あんま疲れてなかったから、ちょっと遅くまで起きちゃったんだよね。そしたらいつもより睡眠時間長くて……」


「エーテル体はそういうところがあるみたいだね」


 そう話しつつアッシュは、棚からアイリのコップを取り出してジュースを注ぐ。


「ありがと」


 アイリはそれを受け取ると一気に飲み干した。


「20分くらいあれば用意できる?」


「うん。大丈夫」


「じゃあ20分後にエントランスに集合ね。レイにも伝えておくよ」


「りょーかい」


 アイリの返事を聞いて、アッシュはダイニングを後にした。


***


 ギルドの食堂で昼食を終えて2階に降りて来たところで、ちょうど1階から上がってきたニーナと鉢合わせる。バッグを肩に下げている辺り、今来たところのようだ。


「こんにちは皆さん」


「こんにちはー。ニーナさんも遅いね」


「昨日は深夜まで残らなくてはいけなかったので、私も時間を遅らせました」


 アッシュは改めて昨日の一件が、ギルドの中でも相当に大きな事であったのだろうと感じる。受付担当であるニーナですら深夜まで駆り出されたという辺り、事後処理が余程大変だったことが伺い知れる。


 レンジャー用の受付には別の女性職員が座っており、ニーナがいるのが当たり前の光景になっていたアッシュは、一瞬違う場所に来てしまったかのような気分にさえなった。


 アッシュ達は受付前でニーナと分かれ、依頼リストの端末を起動した。


「昨日言った通り、今日はC難易度の掃討で探してみるよ」


 依頼リストを見ながら、アッシュがアイリとレイに言った時だった。


「アッシュ! 今のところもっかい見せて!」


「いいけど、どうしたの?」


「ちょっと気になるのがあった」


 アイリは画面を操作してリストを上にスクロールしていき、1つの依頼の詳細を開いた。


 依頼の説明には『エレハス山の山頂に植えている良質な土属性エーテル草の採取』、報酬には『ディルに加えて採取したエーテル草の一部』と書かれている。


「これがいいの?」


「うん。戦闘が無い採取だから、2人が良ければだけど」


 アイリは少し申し訳なさそうな表情でアッシュとレイを見る。


「僕はいいよ。レイは?」


「構わない」


「やった!」


 アイリが嬉しそうにガッツポーズをする。


 アッシュはそれを横目に依頼の詳細を見ていき、そこでふと違和感を覚える。


 D難易度であることを考えれば、雪山のような厳しい環境ということは無いだろう。加えてやることはエーテル草の採取なので、特に難しい要素は無いはずだ。だがその割には報酬が多いのだ。


「でもこれ報酬多いね。エーテル草もだけど、ディルも難易度に見合わない気がする」


「ほんとだ。土属性エーテル草だけでも、結構な値段になるはずなのに。聞いてみよっか」


 リストの端末を閉じて受付に向かうと、既にニーナが交代して席に着いていた。


「D難易度のエレハス山の採取を受注しようと思っているのですが、報酬が高い理由があれば知りたいです」


「エレハス山の採取依頼ですね、少々お待ち下さい」


 ニーナはカウンター上の端末を操作する。


「エレハス山はセードル大陸の北西部の街に接した、山頂までの往復でも3,4時間程度の低い山ですね。ただこの時期は付近に危険指定の出ているウルフベアが出没するため、一般の方の入山は制限されています。報酬が高いのも、そのためでしょう」


 ウルフベアはパンデム領域を中心とする一部の次元で生息が確認されている、非常に獰猛な大型の熊である。


 危険指定が出ている一方で、分厚く丈夫な革や鋭い爪などは服飾産業での需要があるため、ギルドが定期的に狩猟を出している。


「エレハス山周辺のウルフベアを対象とした狩猟依頼がC難易度にありますが、一緒に受注されますか?」


「うーん……」


 危険指定生物にもランクがあり、ウルフベアはその中でも最低のC難易度相当である。初めて挑む狩猟の対象としては適役だろう。


 だが山での狩猟依頼となると、当然捜索が必要になる。獣相手だと逃走する可能性も高いため、追跡する手段も必要だ。それらを考慮すると、今から色々と準備しなくてはならない。


 更に今日は時間を遅らせていることもあって、陽が沈むまでの時間もいつも以上に短い。街が近いならば野宿の準備までは必要は無いが、そこまでする理由も無いように感じられた。


「今日のところは採取だけにしておきます」


「ではこちらの採取依頼のみで受注を承りました。続いてクラス選択をお願いします」


 アイリとレイの分を入力しつつ、アッシュは自分のクラスを考える。


(アイリはグラディエーター、レイはナイトで……僕は今日はソルジャーにしようかな)


 今回のように目標では無い危険が想定される場合は、万が一遭遇した時を考えておく必要がある。今回は『戦わない』という選択をしたので、クラスの自由が利くアッシュがそれに適したクラスを選ぶ。


「終わりました」


「では変換機の方へお願いします」


 アッシュは奥の部屋へと入り、変換機へと向いながら手首をスナップさせて投擲の感触を確かめた。

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