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ディーバ超次元戦記 〜The World of Twenty-eight Dimensions  作者: 八雲、
2章 〜レンジャーの仕事〜
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26.【A-特殊】リレイク救援作戦②

 目を開けると、そこは先程までいた窓口と同じような床と天井を持つ室内であった。更には全く同じ型のカウンターや棚も設置されている。おそらくギルドの施設か何かなのだろう。


 だがそう考えてから改めて見ると、明らかに違う点が1つだけあった。


 ここで何か活動が行われている形跡が何も無いのだ。


 受付用のカウンターはあるが椅子も端末も無い。棚には書類やファイルといった、中に入っているべき物が無い。


 違和感を覚えつつもそれ自体は本題では無いので深く考えるのは止めて、アッシュは周囲を見渡す。他にも何グループかレンジャーがいる。


 アッシュはその中に見覚えのある顔を見つけて、近付いて声を掛ける。


「こんにちは。お久しぶりです」


 相手はパンデムに来て最初に会ったレンジャー達であった。


「あなた方も招集されたんですね。たしか……アッシュさんとアイリさんでしたか」


「はい。後こっちがレイです。えーと……」


 アッシュは相手の名前を聞いていなかったことに気付く。


「私はダビド。このグループのリーダーをやってます。後ろの3人はルカス、ミキス、ニコスの三兄弟です」


 ダビドの紹介に合わせて、後ろにいた3人が軽く頭を下げる。ダビドの後ろにいた3人も以前と同じ顔ぶれだ。三兄弟と言われて改めて見ると、たしかに顔立ちが似ている。


「アッシュさん達はどなたのチームにいらっしゃるんですか?」


「えーと、僕はCランクスタートなので自分でチームを作りました。それでチームに加わったのがアイリとレイの2人なんです。今はこの3人だけです」


 アッシュの言葉に三兄弟が顔を見合わせる。その様子は初めて渡航船で会った時のことを彷彿させるもので、アッシュは思わず微笑んでしまった。


「Cランクということは養成所の紹介状ですか……どおりで。エーテル体を使わずにシャドウを討伐したというので、実力はあるんだろうとは思っていました」


「私は養成所行ってないからEランクだけどね。ちなみにレイはBランクスタートだよ」


「Bランクですか。私達はもう10年以上やってますが未だにDランク止まりですよ」


 そういうダビドは、もう諦めているとも取れるような目をしていた。


 とは言えこれが現実である。毎年多くのレンジャーが入ってくるギルドだが、その多くはCランクにすら上がれずに終わるのだ。


「ダビド。俺たちはEランクだぞ」


「間違えるなよ」


「最底辺だ」


「すまない。そうだったな」


 三兄弟が順番に喋る。三兄弟に至っては、そのことをネタにしてる気さえある。


 アッシュは安易にCランクスタートであることを言ってしまったことに申し訳無さを感じつつ、どう声を掛けたらいいかがわからずにいた。


「あ、気にしないでください。私達はレンジャーを続けていられるだけ、まだ良い方なんですから。……と、来たようですね」


 ダビドが受付のカウンターの方に目を向ける。同時に蹄の音が響いてきたかと思うと、奥から勢いよくケンタウロス種の女性が走ってきて、カウンターを飛び超えてきた。


 女性の馬部分の背にはフルアーマーの騎士が跨っていた。騎士が兜を取ると、現れたのは青透明の顔であった。


「いよう! お前ら! 今回この作戦を取り仕切らせてもらう、Sランクレンジャーのバッカスだ! 見てわかると思うがスライム種だぜ! 訳あってこいつらとパンデムに戻ってたら、事故を回避しちまってラッキー! てわけだ」


 妙にテンションの高いスライム種の男が自己紹介を始める。だがどれだけふざけているように見えてもSランク、レンジャーの頂点に立つ存在なのだ。


 加えてアッシュにはもう1つ気になることがあった。


(今こいつ”ら”て言ったように聞こえたけど……)


 どう見てもバッカス以外にはケンタウロス種の女性しかいないように見える。


 透明な魔族でもいるのだろうかとアッシュが考えていると、突然バッカスの首から上が崩れて床へと飛び出す。


 アッシュが驚愕に目を見開いている前で、床に落ちたバッカスの首が形を形成していく。そしてその横で首を失ったアーマーがのっそりとケンタウロスの背中から降りた。


「はははっ! 驚いたか! 驚いたな! こいつらが俺のグループメンバー、ケンタウロス種のベレとデュラハン種のゼノだ」


 狙い通りの反応が得られたことに、バッカスは大満足という様子だ。


「とまあ挨拶はこのくらいにして、面倒な仕事の話だ。大まかにゃ聞いてると思うが、要は居住区と武器庫の間の経路確保と、居住区の防衛だ」


 ニーナから聞いていた通りだと、そういうことになる。


 アッシュ達が居住区の防衛を代わりに行いつつ職員達を保護し、その間に上位レンジャー達が武器を取りに行く。


 おそらくそこまでやれば、後は残ってる上位レンジャー達だけでどうにかなるだろう。


「作戦は陽動班と防衛班に分かれて行う。防衛班はアッシュのチームとダビドのチーム! ……に俺が入る。残りは全員陽動班で、ベレとゼノに付いていけ! 以上だ! 質問は後にしろ!」


 そう言うとバッカスは左側の扉へと、ベレとゼノは右側の扉へと向かっていった。アッシュを含めた他のレンジャー達は、とりあえずといった様子で指定された方へと付いて行く。


「同じ班でしたね」


「そうですが……なぜ私達なんですかね……」


 それはアッシュ達にも気になるところではあったが、それこそ適当の可能性はある。気にしても仕方がないだろう。


 バッカスに続いて扉を出ると、そこにあったのは小型の渡航船であった。


 アッシュは小型のものがあることは知らなかったが、見た目は完全に同じでただ縮小しただけであったために渡航船であるとわかったのだ。


「ルーズに突入する時に使うもんだ。ここくらいでしか使われてない特別製だぜ。本来なら討伐作戦に参加してないお前らが乗れる代物じゃあねえ。運が良かったと思いな!」


 バッカスがレンジャーカードを取り出して扉を開け、小型船の中に入っていく。アッシュ達もそれに続いて入る。


 船の中は見た目以上に狭く、合計8名が乗ってギリギリという大きさだ。


「でけえ方はベレがいる方に渡しちまったから勘弁な。向こうが出発したら、それに続いて出てくれ」


 バッカスが操舵席の方へと声を上げると「了解」という返答が返ってくる。


「じゃあ防衛班のやることな。陽動班が先行しているから、俺たちはその後に降りて居住区の扉に合図をする。そんでもって中にいるレンジャーが武器を取ってくるまで防衛だ。アッシュ、お前ら3人と俺がメインだ。えーとで、ダビドのところは……まあ飾りみたいなもんだ」


 なかなかに酷い言い様である。ダビドが明らかに落ち込んだような表情になる。それを見てバッカスも、やらかしたとでもいうかのような表情になる。


「わりぃ、冗談だ。そんなに落ち込むな。お前らはたしかに戦闘には不向きだが、10年間一度も強制帰還者を出してない。俺はその判断力を高く買ってるんだ。防衛戦にはそういうのが必要不可欠になる。お前らの役目は周囲の警戒と俺達への指示だ」


 ダビドが驚いたようにバッカスを見つめる。


「わ、私が指示出しですか!? 格上の方々に!?」


「ランクは関係ねえ。適材適所だ。言った通り、防衛戦には必要不可欠な要素をお前らが持ってるんだ。俺やこいつらの役目はお前らも含めての防衛だ」


 ダビドが声にならないというような表情で、三兄弟と顔を見合わせている。


「わかりました! 精一杯やらせていただきます」


 そう言いつつダビドが立ち上がる。だがそれに被せるように操舵席から「出発します」という声が聞こえる。同時に船がガタンッと揺れ、バランスを崩したダビドが尻もちを付いた。


 船はこれから大規模な作戦に向かうとは思えない笑いに包まれながら、離陸していった。

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