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ディーバ超次元戦記 〜The World of Twenty-eight Dimensions  作者: 八雲、
2章 〜レンジャーの仕事〜
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23.【D-掃討】シェーンの森③

 その後も3人は、ウォーウルフやヘリストなどの野生動物と散発的に戦闘を繰り返しながら歩を進め、10個目のチェックポイントを通過する。


「まさかシーフラクーンが竜鱗石を持っているなんてね」


 アッシュは初めて手にした本物の竜鱗石を手の上で転がす。


 シーフラクーンは、落とし物や置いてある物などを持っていってしまうことから名前が付けられた、ディーバ全域に生息する狸の一種である。


 特に光り物を好むため、シーフラクーンが生息する場所ではそういった物を放置しないように注意喚起がされていたりする。


「でも普通は襲ってくることは無いはずなんだけどねー」


「闇属性エーテルの影響で凶暴化してるって話だし、そのせいかもね」


 一般的にはシーフラクーンは臆病なことで知られている。


 夜でも灯りを点けておけば寄って来ないと言われる程であり、レンジャーにとっては決して恐れるような相手ではなく、むしろその愛らしい見た目も相まって「見れたら運が良い」とまで言われているのだ。


 そんなシーフラクーンだがアッシュ達に対しては遭遇するとすぐに襲い掛かってきたため、アッシュがロングボウで森の奥に吹き飛ばしたところ、レイが欲しがっていた竜鱗石を落として逃げていったのである。


 アッシュとしては幸運の象徴を吹き飛ばしたことに縁起の悪さを感じなくも無かったが、仕方がないことだったと自分に言い聞かせるのであった。


 と、アッシュの目に動く影が目に入る。道を真っ直ぐ進んだ遠方に何かがいるようだ。


 レイとアイリも気付いたようで、隠れるように合図をするとアッシュに続いて木の陰に移動して様子を伺う。


「うーん……なんだろう。人……っぽいけど、なんか違うような……」


「ゴブリン種じゃないかな?」


「ん。たぶんそう」


 ゴブリン種はパンデムの住民である魔族であり、全種族の中で最も数が多い種族である。


 見た目はヒト族と大きくは違わないが、平均的な身長が成人した男性ヒト族の腹より少し高い程度という特徴がある。


「この辺りに住んでるのかもね。なら警戒しなくても良さそうだ」


「そうだね」


 アッシュ達は警戒を解いて、ゴブリン達の方へと歩いていく。


 数メートルほどまで近づいたところで、ゴブリン達がアッシュ達に気付く。だがその反応は、アッシュ達が思っていたものとは真逆だった。


「ピカピカモッテル!!」


「ブキモッテル!」


「レンジャーダ!」


「コロセ!」


 ゴブリン達の視線が、アッシュが手に持っていた竜鱗石に注がれたかと思うと、突然その手に武器を構えられたのだ。


「え! え!? どういうこと!?」


「わらかない! でも敵意があるみたい!」


 事情はわからないが応戦せざるを得ない。アッシュはロングボウの端を持ち、飛び掛かってきたゴブリン達を吹き飛ばして木に叩きつける。


「念のために斬らないでおいて!」


「わかった!」


 アイリは盾で、レイは太刀を鞘に収めたまま打撃を与える。あくまでも防戦、襲い掛かってきた者を適宜対処していく。何度かそれを続けているうちに、段々と気絶する者達が出てくる。


「コイツラツヨイ!」


「ニゲル!」


「ニゲロ!」


 気絶しなかったゴブリン達は声を上げると同時に、一斉に森の外側方向へと逃げ出していく。動かない10体ほどは気絶しているだけのはずだが、置いていかれてしまったようだ。


「なんだったんだろう……」


「まさか襲いかかってくるとは思わなかったね……」


 突然だったこともあって、運動量は大したことは無かったがアッシュは少しばかり息が上がっていた。


「追わなくていい?」


 レイが問い掛ける。


「うーん……追いかける理由は無いんじゃないかな。もし何か理由があったとしても、僕達が解決できることでも無いだろうし。後少しだし、ニーナさんに報告だけしよう」


「ん」


「そうしよ。なんか無駄に疲れちゃった」


 そう言ってアイリが再び歩き出し、その後にレイが続く。アッシュは一瞬、気絶させたゴブリン達を放置してよいのだろうかと躊躇って振り返る。


「どうしたの?」


「……いや、なんでもない」


 しかしすぐに、自分たちが離れれば仲間が戻って来る可能性もあると考え、できるだけ早めに去ることに決めた。


***


 結局そこからベースの建物までは野生動物との戦闘も無く、初の掃討依頼は疑問を残したまま終わった。


「お疲れ様です。ではこちらが報酬の30000ディルとギルド内通貨になります」


 昨日アッシュが貰ったギルド内通貨のカードに、新たに310QPと印字されている。


 アッシュ達は使うことは無かったが、エーテル修復薬などを消費する可能性があるため、戦闘がメインの依頼ではQPが多く貰える仕様になっているのである。


 ディルも基礎報酬で昨日の草原探索の10倍である。


 もっとも、掃討依頼では調査のように追加報酬が殆ど無いためであろうことはアッシュも理解していた。


 掃討であれば危険指定生物が出るなど、依頼として想定されていないことが起きない限りは無い。


「そういえばニーナさん、1つ報告しておきたいことがあります」


「なんでしょうか?」


 ニーナが笑顔で返してくる。


「先程の依頼の終わり際にゴブリン種と遭遇したのですが、突然襲われてしまって……」


 応戦して昏倒させたままにしてあると続けようとしたアッシュだが、ニーナの表情から笑みが消えると同時に空気が張り詰めたのを感じて言葉が止まってしまう。


「……ゴブリン種で間違いないですか?」


「は、はい。写真でしか見たことはなかったですが、ゴブリン種で間違いないはずです」


「……わかりました。報告ありがとうございます」


 そう言うとニーナは、目の前のパネルを少し操作してから「はぁ」とため息を付いた。


「油断してました。まさかこんなに早く遭遇してしまうとは」


「どういうこと?」


 アイリの問いにニーナは気まずそうな表情で目線を落とし、少し間を置いてからアッシュ達の方に改めて目を向ける。


「……アースには無い感覚なので理解し辛いかと思いますが、いずれわかることなのでお話しましょう。まず魔族が多数の種から構成されているのはご存知ですか?」


「えーと、それこそゴブリン種みたいな区分ですよね」


「はい。魔族には100を超える種が存在しています。そして種による能力の差は、恐らく皆さんが考えている以上に大きいです。それは身体能力だけでなく、知的能力といった面も含めてです」


 パンデムに暮らす魔族は、その身体的特徴によって様々な種族に分類されている。その差はヒト族など比べ物にならない程で、比喩ではなく海に暮らす者や森に暮らす者もいるのだ。


「以前は種によって住む場所も異なっていたので、種による差というのは然程問題にはなりませんでした。ですが近年アースなどと関わっていくに連れて、魔族は種の垣根を超えて都市を形成して暮らすようになりました。その結果、当然ながら種による差というのは大きな問題となりました」


 そこまで聞いて、アッシュはなんとなく察する。


「大半は話し合いと譲り合いで折り合いを付けていきました。ですが中にはそれが出来ない者達もいます。具体的にはゴブリン種やオーク種ですね。彼らは同じ言語こそ話しますが、根本的に他の種と同じ場所に住むには適しません」


 この手の話はアースでもよく聞いた話ではあった。異なる思考を持つ者による共同生活というのは、多かれ少なかれ対立を生むものである。


「ゴミを一箇所に捨てる、深夜は静かに過ごす。そういったルールを持ち、それを守ろうとするだけの知能が無いためです。そのため彼らは現在は都市での共同生活からは外され、未開発地域において食料と引き換えに労働力として使われています」


「……」


(たしかにアースとは全く違う。アースはそこまで分けたりはしないな)


 と考えてから、それ故にニーナが「考えている以上に大きい」と言ったのだとアッシュは理解した。


 アースでのヒト族同士の対立は、文化や風習の違いに寄るものだ。だがパンデムでの原因は種の能力の差に起因する。どう足掻いても埋められるものでは無いということを意味しているのだ。


「ですが稀に、その枠組みからも外れて盗賊紛いの行為に手を出す者がおりまして、今回アッシュさん達が遭遇したのも、その類かと思われます。ただ、そのようなゴブリン種は決して多いわけではないので、もう少しパンデムに慣れていただいてから説明をと考えていたのですが……」


「まあ遭っちゃったんだし、しょうがないでしょ」


「特に被害に合ったわけでもないですし」


 レイもまたコクリと頷く。理解を示した3人にニーナは元の笑顔へと戻る。


「ご理解いただきありがとうございます。続けて依頼の受注はされますか?」


「今日もこれで終わります」


「はい、ではお気をつけてお帰りください」


 ニーナに見送られて、3人はカウンターを後にした。


 窓口を出た3人の周りの空気は、心なしか重いものであった。理解はしたとは言え、思うところが無いわけではなかったのだ。


「なんか……ちょっと複雑だねー」


 エレベーターで1階に降りる途中でアイリが呟く。振り向くとアイリは建物の外へと続く扉の方をぼんやりと見ており、ふと感情が漏れたという雰囲気である。


「仕方がないよ。パンデムにはパンデムのルールがあって、それがずっと続いてきてるんだし」


「……そうだね」


 そう返しつつも、いつものアイリと比べると元気が無いのは明白であった。


「さて! 今日は分はこれで終わりだけど、2人はどうする?」


 あまり囚われていても仕方がないことではあるので、アッシュはリーダーとして、いつもよりも声を出して聞いてみる。


「買い物しに上に行く」


「私はちょっと行ってみたいところがある」


 2人は別々に行く場所があるようだ。であれば、敢えてどちらかに付いていく必要も無い、とアッシュは考えた。


「了解。僕は家に戻るよ。夕飯は6時頃だから、それまでには戻ってきてね」


「ほーい」


「それじゃあ、また後で」


 ポータルエリアで2人を見送ったアッシュは、1人拠点へと戻る。


(……昨日のは美味かったな)


 アイリの料理は、アッシュにとってはなかなかに衝撃的なものだった。


 面倒な処理を省くために全部まとめて煮込んで出来る方法を取っていたようだが、その結果作れる物があれなのは驚くしかなかったのである。


 更に言えば本来の食事当番と代わって作ってもらったので、ある意味では挑戦状を叩きつけられたようなものであるとアッシュは感じていた。


 あれに負けないものを作らねばなるまい。幸い時間も食材も十分にある。久々にメニューを本気で考えてみようと決心しつつ、アッシュはキッチンへと向かった。

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