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19.エレーネク市街①

 エレベーターを下りた所で右へと曲がり、建物の奥に向かうと拠点へと向かうポータルがある。それを左に曲がり反対方向へと進むと建物の外へと出られる。


「混んでるね」


「そうだねー逸れないようにしないと」


 真昼ではあるが周辺はかなり混雑している。もっともギルド本部に用がある者はほんの僅かしかおらず、ほとんどは建物内外のポータルエリアの利用者である。


 アッシュはふと辺りを見回してみる。


 昼間のエレーネクは特にアースからの仕事などで来ているヒト族を中心に、パンデムの中では飛び抜けて魔族以外の者が多い土地である。


 更にセードル大陸は魔族の中でも獣人系と呼ばれる種族 —— 正確には獣人系の他に獣亜人系と獣系という区分けがあるが、一般的にそれらをまとめて獣人系と呼んでいる —— が中心となっている。


 この獣人系は、獣の耳と尻尾を持つヒト族のような者から二足歩行の獣といった見た目の者までと差が大きく、後者はまだしも前者は一瞬見ただけではヒト族と区別出来ないため、こう見回してすぐに魔族だと判別できる者は数えられる程しかいない。


 その時、遠くを見ていたアッシュは、正面から歩いてきた者とすれ違いざまに肩がぶつかってしまう。


「あ、すいません」


 振り返った相手は顔や腕なども青みがかった毛で覆われ、前に突き出た鼻の頭が黒くなっている、魔族であることがわかりやすいタイプのコボルト種であった。


「こちらこそ」


 相手は軽く頭を下げて去っていく。


 声からして今のは男であることがわかったが、この魔族とわかりやすいタイプの獣人系は、ヒト族であるアッシュからすると見た目での性別の判断が付きづらい。誰もが細身で背が高く、整った顔立ちをしているように見えるのだ。


 それが原因でいつか粗相をしてしまわないか、アッシュは少しだけ気を揉んでいた。


 そんなことを考えつつ正面に向き直ると、今度は前方を歩いていたはずのアイリとレイを見失ったことに気付く。アッシュは立ち止まって辺りを見回す。


「アッシュー。こっちー」


 声がした左の方を見ると、ビルの壁沿いにレイと並んだアイリが手を振りながら跳ねていた。アッシュは流れを避けながら2人がいるところへと向かう。


「アッシュが逸れそうだったから、こっちに避けたんだ」


「ありがとう。でもこのまま行ってまた逸れたら困るから、別の道で迂回した方がいいかな」


 アッシュの提案に、アイリは得意気な表情で端末のマップを見せてくる。


「それがいいかなと思って、今調べてたんだ。そこの間の路地を抜けるといいみたい」


「あれ、マップわかったの?」


「この辺りは目立つ建物が多いし道も直線ばっかりだから、私でもわかるんだ」


 アイリはここぞとばかりに胸を張る。


 D2はアースが初めて遭遇した文明次元であり、またアース以外で初めて新次元発見を成し遂げた所でもある。


 そのD2中枢部にしてアースとパンデムの技術や文化の交流の基点としての役割を持つここエレーネクは、パンデムでは特に近代化が進んでいる都市である。ギルド本部の建物もそうだが、その周囲にも高層ビルが所々に建っているのだ。


「えーと、まずは……こっち!」


 そう言ってアイリはビルとビルの間の狭い隙間へと入っていく。


 アッシュは若干の不安を覚えるが、レイが端末のマップを開きながらアッシュに頷いたのを見て、一先ずはアイリに案内を任せてみることにした。


 隙間を抜け出た先で、アイリが角から出てきたヒト族の見た目に近い獣人系魔族にぶつかりかける。


 ギリギリで踏み留まって回避はしたようだが、変な所から出てきたアイリに相手はぎょっとしたような表情で隙間の方を覗いてくる。結果アッシュはその相手と目線がばっちりと合ってしまい、恥ずかしげに頭を軽く下げてその前を通り過ぎた。


「次は……あっち!」


 アイリは道路を渡り、再び狭い隙間へと入っていく。


 途中に2メートル程の高さの金網が設置されており、その隙間が通り道では無いことを示していた。とは言えレンジャーである3人に取っては、その程度は何の障害にもならない。


 金網があるということは”通るな”と言われているようなものなので、アッシュとしては回り道をした方がいいと思うところではあったが、それを言う前にアイリとレイは躊躇うことなく金網を飛び越えて行ってしまった。アッシュも仕方なしと諦めて、金網を飛び越えて後を追う。


 隙間を抜けて再び出てきた大通りは、人影が少なく閑散としてる気さえあった。同じエレーネク市街の中でもこれだけの差があることに、アッシュは驚かされる。


「えーと、ここを右に行って……ほら、あれだ」


 アイリが指差した先には、アッシュも馴染み深いスーパーのマークを掲げたビルがある。


「大通りを回ってくるよりも近かったね」


「ふふーん! そうでしょ!」


 アイリはスキップをするように、クルリと回りながら身体を後ろに向け、更に得意気に表情を浮かべて笑う。


 と、その脚が道端の小石を踏んづける。アイリはバランスを崩して、その場に尻餅をついた。


「ったあー……」


「前見て歩かないとだよ……」


 意外と抜け目が無く何でも器用にこなすなと思いつつあった矢先のこれである。やはり天然なのかもしれないと思いつつアッシュはアイリに手を差し出した。

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