1.襲撃
「なんか変な感じ。動きに一体感が無いというか……そんなのどこで教えられたの?」
「……色々とね」
ほんの一瞬だけどう説明したものかとアッシュ・ノーマンは考えたが、すぐに面倒臭くなって最小限の返事に留める。
実際のところ習得した方法を説明するのは、かなり手間が掛かる。少なくとも今それを語っているだけの余裕は無い。
加えておそらくだが、”直接見せた方が早い"とアッシュは考えた。
「あー! 適当に流したでしょ! 私そういうの嫌なんだけど!?」
「すぐにわかるって。それより今は、こいつをどうにかしないと」
アイリ・コーデッドと名乗った少女を宥めつつ、アッシュは眼の前で不気味に蠢く黒い不定形物体”シャドウ” —— 現在ディーバ全体で討伐活動が行われている、あらゆる生物の敵 —— をチラリと見る。
ヘドロの山のような見た目に対して臭いこそしないが、やはり見ているだけで不快感を催す。それであって上に向かって段々と細くなっていった頂点付近、高さ数メートルの表面に浮かんだ核が、まるでそこが頭であると主張しているかのようである点も度し難い。
シャドウは身体の一部を硬化・伸縮させて鞭のようなものを作り出し、それを振るって攻撃を仕掛けて来る。
アッシュは剣と盾でそれらを往なすように防いだが、更に頭を狙うかのように真横から鞭が振られたため、仕方がなく屈んで回避した。
取り残された髪が鞭に触れてしまったような感覚がして、アッシュは頭頂部の髪を撫でて整え直す。
「ぜーったい! 後で教えてもらうからね!」
「教えなくてもわかると思 ——」
アイリは明らかに不満そうな表情のまま、シャドウの攻撃を避けて距離を詰めるように走り出した。
もう話を聞く気はないようだったので、アッシュはアイリをカバーするように後ろにを付きつつ動きを観察することにした。