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17.【E-調査】ヘイス草原⑤

 エリア間の道を少し歩くと橋が見えてくる。マップで見ると3つ目のエリアを横切るように入っていた線が、一度中央の森に入って途中で大きく曲がり、今いる場所で道とぶつかっていた。何を表していたのかよくわからなかったが、現物を見てようやくそれが川なのだと知る。


「さっきの所の奥ので曲がってる……のかな」


「でもこれだけ急に曲がってると、ちょっと不自然な気がするね」


「何か手を加えたりしてるのかもしれない」


「たしかに」


 アッシュは頷きながらレイに返す。重要な自然があるのであれば、そのくらいのことはしていてもおかしくはない。


「下に降りれる所無いかな」


 アイリが橋から周囲を見回している。


「次のエリアは川が横切ってるみたいだし、そこで降りてみたら?」


「そうするー」


 アッシュ達は再び、次のエリアに向かって歩き出す。


 3つ目のエリアは1つ目と同じく、木の無い見晴らしの良い草原だった。ただし中央の低く窪んだところを川が流れていることもあってか、1つ目よりも更に明るい雰囲気である。


「じゃあアイリ、やってみよう」


「わ、わかった……」


 アイリはゴクリと生唾を飲み込むと、武器端末を操作してマップを開いた。


「目印になりそうな物を探すんだよ。今回なら川と橋だね」


「川がこう流れてて橋があそこにあるから……あっちだ!」


「正解だよ。出来ないわけじゃ無いみたいだし、後は慣れだね」


「やったー! じゃあ行っちゃうよ! 競争だからね!」


 アイリは嬉しそうに、握りしめた右手を上げて飛び跳ねると、そちらに向かって走り出した。アッシュとレイもその後を追い駆ける。


 次のチェックポイントは、川にかかる橋の手前にから少し下流方向に下った地点にある。そこはまたエーテル草の群生地だった。ただ1つ目のエリアのものと違い、葉の表面に薄っすらと青い筋が浮かんでいる。


「やっぱり川の近くだと、水属性のエーテルが多いんだね」


 アイリが摘み取ったエーテル草を眺めながら言う。


 エーテル草は基本的には無属性だが、周辺のエーテルの属性に偏りがあるところでは、特定の属性エーテルの多く含むエーテル草が生えることがある。水属性は生き物が生息しやすい環境に比較的多いこともあり、属性が偏ったエーテル草の中では最も入手しやすい。


「僕は川を見てくるよ」


 群生しているとは言え然程広くはないため、採取を一旦アイリとレイに任せてアッシュは土手を降りた。


 森の中を流れているだけあって川の水は綺麗だ。川には魚もいるので、次来る時には釣り竿も用意しようかと考えながら、アッシュは斜面を上がる。するとアイリが立ち上がって、川の上流の方を見ていた。


「どうしたの?」


「へリストがいる」


 アイリの指差した方を見ると、たしかに河原に何かがいるようではあった。しかしへリストかどうかはアッシュには判別できなかった。レイも採取を止めて来たが、やはり見えなかったようで諦めて採取を再開した。


「どうしようか」


「どうしようかも何も、狩るでしょ」


「ん。ならやる」


 狩るという言葉に反応したように、レイが立ち上がる。


 アッシュ達は土手を降りながら、橋の影に隠れた。へリストはこちらに近づいてきているようで、少しするとアッシュにもへリストだと判別できた。どうやら2匹いるようだ。


「とりあえず僕がクロスボウで片方を仕留めてみるから、もう片方をお願いするよ。その間に次弾装填する。もし仕留められなくても大ダメージにはなるはずだから、分断はできると思う」


「なら私にやらせて」


 アッシュの提案にレイがすかさず口を開く。やはりレイは戦闘となると、かなり前のめりである。


「おっけー、じゃあ任せるよ。もしアッシュが仕留められなかったら、そっちは私がやるよ」


 アッシュはクロスボウを接地すると、地這いになりスコープの覗く。


 2匹は水を飲むために縦並びになっていた。上手くいけば2匹同時に仕留められるかもしれないが、とりあえずの狙いは手前側の側頭部だ。火力を上げるため、精度が落ちないギリギリまでクロスボウへとエーテルを注ぎこみ、照準を合わせて引き金を引く。


 ビュンッという風を切る音と共に矢が放たれる。そして僅かに遅れて軽い発砲音を響かせ、エーテルによる推進力を得た矢が加速しながらヘリストへと襲いかかる。


「ピギィィィィィ!!!」


 狙い通りに頭を横から矢が突き抜けていき、手前にいたヘリストが倒れる。だが突き抜けた矢の先が鼻頭を掠めたようで、残った1匹が怒り狂ったように物凄い勢いで突進してくる。


「頼む!」


「任せて」


 レイが背負っていた太刀を抜く。次弾装填をしようとしていたアッシュは、目に入ってきた光景に唖然として弾を落としてしまった。


 太陽の光を浴びて、刀身がギラリと輝く。レイの太刀は完全な金属製だったのだ。


 —— 近接系の武器は樹脂製に金属の刃を付けるのが一般的である。軽量で安価な上に、整備も楽なためだ。


 ましてや一撃の重さの比重が大きい大剣ならまだしも、太刀のように速度も大事な武器こそ軽量な樹脂製が力を発揮するというのが、養成所で直接は教えられなくても誰もが考える筋というものだ。


 刀身まで含めた完全金属製の太刀というのは、アッシュの理解の範疇を超えた代物であった。


 だが、


「はっやい……」


 レイは金属製の太刀を構えたまま、アッシュの全速力以上の速度でへリストに迫る。そして太刀のレンジにへリストが入ったところで、アッシュはレイの動きを追えなくなってしまった。


 長い髪のおかげでレイが宙返りしながらヘリストの頭上を飛び越えたのはわかったが、肝心の太刀の軌道は全く見えなかったのだ。


 へリストは鳴き声を上げる間もなく、正面から十字に斬られていた。レイが着地すると同時に、その身体がバラけて地面に転がった。


 刀身に血が残らないほどの高速斬撃。目で追えなかった以上、アッシュが真似することはできない。もっとも目で追えたとしても身体が追いつかないため、動きを大幅に調整も必要となるのは間違いない。


 アッシュとアイリは、鞘に太刀を収めていたレイの元に駆け寄る。


「模擬戦でわかってはいたけど、改めて見るとレイってほんと速いね。それにその太刀、刀身まで金属だよね。かなり重い気がするんだけど……」


「ん。でも私は、これが慣れてるから。樹脂は軽すぎて使いづらい」


 慣れでそうなるものなのかと思う一方で、模擬戦でのレイはその”使いづらい太刀”を使っていたとなると、まだレイの実力の底は見れていないのだろうとアッシュは考えた。


「アイリのは今度」


「そうだね」


「じゃあへリストを回収しようか」


「あ、待って」


 アッシュが冷凍用と書かれた端末を取り出してへリストに近づこうとしたところで、アイリが待ったをかける。


「さっきの短剣貸して」


 理由はわからなかったが、アッシュは端末から短剣を取り出してアイリに渡す。


「バラしてからにしよ」


 まさかとは思ったが今から解体するつもりなのかとアッシュが考えている間に、アイリは慣れた手付きでへリストの皮を剥がしていく。


「あっちのも持ってきておいてもらえる?」


「了解」


 アッシュは頭を撃ち抜いたもう1匹が転がっている場所まで小走りで向かい、角を持ってアイリがいる場所へと引っ張ってくる。その間にアイリは4分割されたうちの1つの臓器と骨を剥がした肉を皮の上に置いていた。


「ありがと。そしたら……」


 先に仕留めたとは言え、脳天に空いた穴1つではさほど血は抜けていない。アイリはナイフを腹に刺すと顔の辺りまで一気に掻っ捌いた。


「豪快……」


「適度に血が抜けるのを待ってる間に、こっちを片付けちゃおう」


 そう言ってアイリは残りの3つも次々に処理していき、肉と臓器を剥がした皮で包む。


「アッシュ、冷凍用の開いて」


「はいよ」


 冷凍用のアイテム端末を開くと、その中に包んだ物と骨を入れていく。そして今度は腹を裂いたもう1匹の解体に取り掛かる。


 2匹目は1匹目のようにバラバラになってはいなかったため、ある程度形を残したままではあったが、アッシュとレイが興味深く見ている間に部位毎に分けた肉塊と骨へと変えられた。アイリは冷凍用端末にへリストを入れていく。


「ふう。終わった終わった」


 そう言ってアイリは、血でべっとりの手とナイフを川で洗い始めた。


「こういうのはやっぱ傭兵団だと必要なスキルなの?」


「スキルって言うのかはわからないけど、運ぶ物は小さく軽くってのをいつも言われてただけ。正しい解体方法なんて知らないし」


 意外な答えが返ってくる。かなり手際が良かったので、解体方法を学んでるのかと思っていたのだ。


「じゃ、行こうか」


「エーテル草はどうする?」


「さっきまでで十分採れたから、もういいや」


「了解。チェックポイントは後1箇所……じゃないか。1つ目のエリアに残してあるから、後2箇所だね」


 アッシュ達はアイリから洗い終わった短剣を受け取って端末にしまうと、土手を登って橋へと向かった。

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