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16.【E-調査】ヘイス草原④

 造り物の木の柵から出る前に、念の為に辺りを警戒する。このタイミングで万が一にも誰かに遭遇しよう者なら、せっかくギルドが隠そうとしているのが台無しになってしまうからだ。


 気配が無いことを確認したアッシュは元の道に戻る。アッシュに続いてアイリとレイも出てくる。


「大丈夫そうだね。よし、行こうか」


 そこからまた数百メートル程進むと、次のエリアが見えてきた。


「少し雰囲気が違うね」


「なんかさっきより森っぽい感じ」


 見晴らしの良い草原だった1つ目のエリアに対して、2つ目はエリア全体に木が疎らに生えている。それの影響かはわからないが、湿度も少し高いように感じられた。


「チェックポイントはどっち?」


「うーんと、結構近い。……そこの木が密集してるところ」


 アッシュが指差したのは、入り口から数十メートル程離れたところにある木が数十本生えた場所。アイリはそちらを見ると、すぐに歩き出す。


「……アイリもマップ見れるでしょ」


 その背中にアッシュが言うと、アイリの歩みがピタリと止まった。


「まあ……ほら、アッシュが頭に入れてるのに、私も見るのは二度手間っていうか……」


 振り向かずに返答するアイリの言い方に、アッシュはピンと来る。


「アイリ、もしかしてマップ見るの……」


「そ、そんなことない! そんなことはないよ!」


 アイリは振り返って、慌てたように否定する。


「ふーん……じゃあ次のチェックポイントの案内は頼むよ」


「任せてよ!」


 そう言ってアイリは再び、チェックポイントに向かって歩き出した。


 そこは森から周囲の木が切り取られたようであった。大きな木が数十本、円形に密集して生えており、その周囲は背の低い雑草で覆われているのだ。よく見ると日陰になったところには、倒木まで横たわっている。


 アッシュは辺りを見回すが、特に採れそうなものは無い。


「何も無さそうだね」


「でも倒木があるってことは……」


 アイリは地面から浮き出た根を飛び越えながら、木の間へと入っていく。


「ほらあった! キノコが……ってうわ、毒キノコだらけ……」


 アッシュとレイもアイリに続いて木の間へと入る。すると倒木の周りに色とりどりのキノコが生えている。知識は無くても、身体に入れていい代物では無いことは容易に想像が出来た。


「んーでも……麻痺効果、幻覚効果、減退効果……」


 アイリはキノコを眺めながら、何やらボソボソと呟いている。


「どうしたの? 食べられそうなのは1つも無いけど」


「食べるどころか、触るだけでも良くない毒キノコばかりだよ。でもトラップとか毒矢に使えるのは一通り揃ってた。たぶんこれも、レンジャー用にギルドで育ててるんだと思う」


 アッシュは今回のようにハンタークラスを選択することもあり、またトラップ類の扱いも一通りは学んでいる。その点では一番、この毒キノコに関わりがあると言えた。


 だがアッシュが知っている毒は”ショップで購入する物”であり、”キノコから精製する物”ではない。


「アイリはトラップは使うの? 僕は毒の精製は知らないんだけど」


「使えないことも無い、くらいかな。でも毒の精製はできるよ。傭兵団では法術担当の仕事だったからね」


「そうなんだ」


 養成所で法術専攻していたグループがやっていたことを思い出すと、確かにイメージは出来る。そしてそれが傭兵団でも同じような感じなのかと、アッシュは妙に納得してしまった。


「じゃあ今回は採れないし仕方がないけど、次来る時には準備を忘れないようにだね。……さてと。じゃあアイリ、次のチェックポイントの案内をよろしく頼むよ」


「うぐぅ……そうだった……」


 アイリは渋々といったように武器端末のマップを開く。


「……これがここで、こうだから……えーと……」


 アイリがマップを見ながら唸っているのを見ていると、横にいたレイがアッシュを突付いてマップを開いて、次のチェックポイントの方向に顔を向ける。どうやら自分は問題なく出来るということを示したいらしい。アッシュはアイリに気付かれないように頷きで返す。


 一方のアイリは、腕と首を傾けながらマップを回して見ようとしている。だがアッシュは知っている。ちょうど今アイリが向いている方向がマップの真上方向なので、傾けない方が正解なのだ。


 そもそも回してる時点でレンジャーとしては不安なのだが、アイリがマップが苦手であることはなんとなくわかっていたので、まずは簡単なのをやってもらって次は回してでも正解に辿り着けばと段階を踏もうとアッシュは考えていた。


 しかしアイリは、それすらも上回る苦手さを発揮してきたのだ。


「アイリ、もういいよ」


「いや! 待って! もう少しでわかりそうだから!」


「今はマップを傾けないのが正解なんだ……」


 アッシュに呆けた表情を見せたアイリの顔が段々と顔を赤くなっていく。


「だ、騙した!」


「騙してないよ! 苦手そうだったから、最初は簡単なのと思ってたんだ」


「うぐ……」


 アイリは涙目で歯ぎしりをしていたが、やがて気が抜けたように肩を落としてため息をついた。


「……私の傭兵団は基本的にいつも何人かの部隊で動いてて、マップを持つのは一番若手って決まってたんだ。でも私はちっちゃい頃から傭兵団にいたから、部隊に所属しない自由枠ってやつでさ。その時次第で色々な部隊に参加してたの」


「だからマップを見て案内するなんて、タイミングが無かったてこと?」


「そうなんだよねー。ヤバいとは思ってたんだけどなんとなく放置しちゃってさ。まさかマップ見たこと無いなんてことも言い出せなかったし」


 アイリはそう言いつつ苦笑する。だがアッシュはそれを聞いて、少しだけ安堵した。


「でもよかった。苦手で出来ないんじゃなくて、やったことなくて出来ないなら、これから頑張ってみればいいんだよ」


「……うん。そうする」


 アイリも安心したような表情で応える。


「じゃあまずね。マップの向きを合わせるよりも、目印になるものを探す方がいいよ。今回ならこのチェックポイントと今来た道、それぞれがここにあって、行きたい場所がここだから……」


「えーと……あっち?」


 アイリは次のチェックポイントの方向を指した。


「正解」


「よっし! じゃあ行こう」


 アイリは嬉しそうにガッツポーズをすると、そちらに向かって歩き出した。アッシュとレイもその後に続く。


 次のチェックポイントは、2つ目のエリアから3つ目のエリアへと続く道の手前辺りにあり、ちょうど今いる場所からはエリアを横断するような形になる。ここから見るとその入り口が、上手い具合に木の陰になって見えなくなっている。


 更に木が密集して生えているポイントは大体同じ程度の間隔ではあるが、特に規則的に並んだりしているわけではないため、見ているうちに段々と自分が進んでいる方向が曲がっているような間隔に陥ることにも気付かされた。


 その辺りもアイリが迷った要因だったのだろうかとアッシュが歩きながら考えていると、今向かっている方向の正面にある木群が、周囲のものよりも一際大きいことに気付く。マップを開いて改めて確認してみると、それがこのエリアの2つ目のチェックポイントになっているようだ。


「あの大きいやつみたいだね」


「あ、わかりやす……ん、あれって……アッシュ! ちょっと先言ってるね!」


 何かに気付いたようで、アイリはそれだけ言うとまた駆け出してしまった。置いて行かれたアッシュとレイが見ていると、アイリはそのチェックポイントの木群の少し前でしゃがんで、地面を弄り始めた。何か収穫できるものがあったようである。


 少しするとアイリは両手に何かを持って、歩いてきたアッシュとレイの元に戻ってきた。


「これ!」


 アイリが採ってきたものアッシュに見せる。


「これは……フシノメだっけ?」


 フシノメは山菜の一種だ。年中芽を出すが食べられる芽の期間はかなり短く、すぐに節くれ立った見た目の硬い塊になってしまうので、狙わずにタイミング良く採れたのは運が良いと言える。


「そうそう。これ美味しいんだから。後もう1つあったから、早く来て!」


 アイリは端末にフシノメをしまうと、再び木群の方へと駆けて行く。仕方がないのでアッシュも小走りでアイリの後を追う。


「ほらこれ! イビダケがこんなに!」


「おお……たしかにこの量は凄いな……」


 フシノメが生えている場所を通り過ぎて木群まで来ると、そこにはイビダケが群生していた。


 イビダケは味と香りが良く、食料として人気がある。昔はアースの特定地域にしか生えていなかったが、元々あった強い生育能力を活かして次元を跨いで運び込まれ、今ではディーバ全域の少し湿った場所全般に生えているのだ。


「じゃあみんなで採ろう。レイはフシノメをよろしく。アッシュはイビダケね」


「ん。わかった」


「了解」


 アッシュは木郡の周りを移動しながら、イビダケを採取していく。その途中、ふとぽっかりと空いた木の隙間が目に入り、気になって中を見に行く。するとそこには、更に凄まじい量のイビダケが生えていた。


「アイリ、この中もイビダケがいっぱい生えてるよ」


「んー。あ、ちょっと待って」


 アイリは振り向くと、すぐに近付いてその中を覗き込む。


「あーやっぱりね。アッシュ、これは採っちゃダメだよ」


「そうなの?」


「イビダケは土で性質がだいぶ変わるの。こっちのは表面にちょっと白い点々が見えるでしょ」


「ほんとだ」


 アイリの言う通り、中のイビダケは表に生えていた物と比べると少しだけ表面に白い模様が見える。


「ジメジメし過ぎてるとこうなるんだよ。こうなると繁殖力は凄く上がるんだけど、代わりに味が悪くなっちゃうんだよね。だから大抵はこんな感じで、中央に繁殖力が上がる場所を作って胞子を撒いてもらって、その周りに生えてきた美味しいのを採取するの」


「へー。ほんと詳しいね」


 アイリが自分で専門家と言っていたのも、あながち間違いでも無いだろうとアッシュは思う。


「さ、続きだよ。アッシュはそのままグルっと回って、イビダケを持てる分だけ採っちゃって」


「わかったよ」


 アイリはそう言ってレイの元へと向かった。


 アッシュがそこから木の周りを1周してイビダケを両手いっぱいに持って行くと、アイリがイビダケとフシノメを、レイがフシノメを手一杯に持って近付いてくる。エーテル草以上の大収穫にアイリは満面の笑みだ。


「結構採ったね」


「うん。あ、端末開いておけばよかった……」


 そう言ってアイリはイビダケとフシノメを地面に置いて端末を開くと、中に放り込んでいく。


「よし、と。アッシュとレイのも入れて」


「ん」


 レイがアイリの端末にフシノメを入れていく。それに続いてアッシュもイビダケを入れると、武器端末のマップを開いた。


「チェックもできてるね。じゃあ次のエリアに行こうか。……アイリ、道はわかる?」


「さすがにわかるよ!? 見えてるし!」


「よかったよかった」


 アッシュは笑いながら、3つ目のエリアへと続く道へと向かった。

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