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15.【E-調査】ヘイス草原③

 3人は2つ目のチェックポイントを離れて、次のエリアへと続く道を歩いていた。道は森を横切るように整備されており、ハイキングコースのようであった。


「ここ良い所だね。任務抜きで遊びに来たいくらいだよ。森の中にある草原......が3つだっけ。色々と採れそうでワクワクする」


「だね」


 だがアイリが背伸びをしながら何となく口にした言葉に、アッシュはヘイス草原の全体を頭に浮かべた後、ふと違和感を覚えて改めて地図を開く。


(エリアの区切りが全て森なのだとすると……広い森の中に3箇所だけ穴が空いたみたいに、草原になっているということになるのか)


 これが最初からこの形状と考えるのは不自然と言えた。勿論ヘイス草原自体が、ギルドが開発した場所という可能性も考えられる。ただそうなると、新たな疑問が生じる。


(もし開発したのだとすると、3つのエリアと道に囲われた部分、地図通りなら草原エリア1つ分くらいはありそうだけど、なんでここを残したのか気になるんだよな)


 アッシュはそう考えながら森を見る。木はかなり密集して生えている上に、道に近づくに連れて段々と木が低くなっているせいで、中を見ることはできない。いかにも何かを隠しているかのようである。


 とは言えそれは、怪しいと思って見れば何でも怪しく見えてしまう故だと、アッシュは思い直す。そもそも仮定が多すぎる以上、時間を掛けて探るのもナンセンスだ。


「アッシュ」


 急にレイに呼び止められ、アッシュは驚いて振り返る。


「ん、なに?」


「森の中に何かあった?」


「ああ、いや何でも無いよ」


「……そう」


 そんなにじっくりと見てたつもりは無かったのだけどなと思いつつ、アッシュは正面を向く。と、その時だった。


「んん??」


 アイリは怪訝そうな声を上げながら立ち止まると、鼻をひく付かせながら辺りの匂いを嗅ぎ始める。アッシュも真似して鼻から息を吸ってみるが、木々の香りがするばかりである。


「なーんか変だなぁ。これは……ゴム?」


「ゴムが焼ける匂い? 勘違いじゃない?」


「んーん。ゴムの匂い」


 アイリは少しずつ歩を進めながら、匂いの元を探っているようだ。そして2メートル程進んだところで突如右を向いて、


「そこだー!」


 木の中に手を突っ込んだ。その声にアッシュは思わずビクリとするが、すぐに気を取り直してアイリに近づく。


「何があったの?」


「何がって言うよりは……ほら、これ」


 アイリは枝を掴んで引っ張る。すると木があると思われた部分には何も無く、葉と枝は隣の木に保護色の紐で括り付けられたものであった。その葉と枝も、よく触ってみると本物では無いことに気付かされる。


 しかしながら造りは完璧であり、アイリに言われなければまず気付くことは無かったであろう。


「何かを隠してる……てことだよね」


「うん。それは間違いないと思う」


 アッシュはアイリが発見したことに驚いていたが、それ以上に自身の直感があながち間違いでも無かった可能性にも驚いていた。


「行ってみようか」


 アイリとレイが頷いたのを確認して、アッシュはそこから森の中へと入っていく。


 中は意外なことに、木の根は取り除かれて地面は均され、しっかりと整備された一本道になっていた。隠されてはいたが、知っている者にとっては正規ルートということなのだろう。


「……」


「……」


「……」


 何も見落とすまいと慎重に歩を進める3人に言葉は無い。真上にある太陽のおかげで幾分明るいが、それでも濃い緑の影響で視界は良いとは言えない。期待感と緊張感が入り混じった感覚が、辺りを支配する。


 だがアッシュ達の思いに反して、少し進むとロープが張られている場所に着く。そのロープには所々に”立入禁止”と書かれた看板も吊り下げられている。


「えーと……『重要自然保護区域につき、関係者以外の立ち入りを禁ずる。魔王軍』だってさ」


 アッシュは看板に近付いて書いてある文字を読み上げる。


「そんなぁ……期待して損したー」


 アイリが呟く。冒険というのは大体そんなものかもしれないが、アッシュも少しばかり期待してしまっていたので、残念な気分にはなった。


 或いはこれ自体がカモフラージュの可能性もあるかもしれないが、だからといって初めての任務から変な事をして怒られる原因を作るのもあまりにも愚かな話である。


 とは言えアッシュの疑問は解消したと言える。周囲にエーテル草を植えることで警戒を敷く名目もあり、なおかつレンジャーに警備をさせた上で余計な噂が立たないように道を隠しているということだ。


「ま、こんなもんだよ。戻ろうか。……一応隠してはいるみたいだし、ニーナさんには言わないでおこう」


「わかった」


「そうだねー。というかもう忘れることにする……」


 想像以上に萎えているアイリに苦笑しつつ、アッシュは元来た道を戻っていった。初めての任務は、まだ始まったばかりである。

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