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14.【E-調査】ヘイス草原②

 青く晴れ渡った空から降り注ぐ陽射し。息を大きく吸うと、草木の香りが身体全体に届く。久し振りの大自然の香りに、アッシュは懐かしさを覚える。


 建物の横は森になっていた。どうやらこの建物は森と草原の境目に建てられているようだ。隠れているというわけでは無いが、高い木に囲われているため一見しただけではわからないようになっているのかもしれない。


 アッシュは武器端末を操作し、出し入れの確認をする。ハンターに割り当てられた武器 —— 弓、クロスボウ、デュアルボウ —— が画面操作だけで武器が切り替わって手に収まる。


 高価なものとは知っているが、養成所でも使えていたらと思う場面が思い出された。


 武器端末の確認を終えたアッシュは、続いてマップの画面を開く。


 調査はエリア内の指定されたチェックポイントを全て周ることで完了になる。


 地図上、ヘイス草原は大きく3つのエリアに分かれており、それぞれが道で繋げられている。各エリアには数箇所ずつチェックポイントが設置されているようだ。


 今いるエリアには3つあるが、エリア間の繋がりを見ると端にある1箇所は帰りに通るのが良さそうだとアッシュは考える。


「最初はこのまままっすぐ行って中央のチェックポイント、そこで曲がってエリア際の2つ目。3つ目はグルっと回ってきて、帰りに寄ることにしよう」


 そう言ってアッシュが後ろを振り返った横を、アイリが走り抜けていった。


「あ、待って」


 もう聞こえてないのか、アイリはそのまま走って行ってしまう。幸い中央のチェックポイントの方向ではある。


「仕方がない。追いかけよう」


 アッシュはレイに言って、アイリの後を追い駆ける。


 アイリはそのまま100メートルほど走り、そこで急に立ち止まってしゃがみ込んだ。見るとアイリの足元にはエーテル草が群生しており、その中から十分に育って使えそうな物を選別しているようだ。


「アイリ、待ってってば」


「あ、ごめん。エーテル草が見えたからつい」


 アイリは立ち上がると、摘み取ったエーテル草を小物端末に入れた。


「次からは先に言ってね」


「はーい」


「……今のは大きいものを選んで採取してたの?」


 アッシュはふと気になってアイリに訊ねる。


「そうだよ。膝くらいの高さになってるのは採った方がいいんだ。大きくなると、その分周りのエーテルを多く吸収しちゃうからね」


「なるほど……」


「そういうのは養成所では習わないの?」


 アイリの当然とも言える疑問に、アッシュは詰まってしまう。


「習わない。芽が出たばかりのは採るなくらいしか言われない」


 アッシュの代わりにレイが応える。


「そういうのって大事だと思うんだけどなー。まあ小さいのを採るなってことを知ってれば、大丈夫ではあるけど。じゃ、行こっか。どっち?」


「この方向のまま、エリアの中央まで」


「りょーかい」


 3人はチェックポイントに向けて歩きだす。


 歩きながら周囲を見回すと、他にも同じようなエーテル草が植えられた場所が点在しているのが見て取れた。


「さすがギルドの管轄区域……これだけのエーテル草、野生じゃまず見れないよ」


 アイリは驚き半分高揚感半分といった表情で、辺りを眺めている。


 少し進むと、その中でもより広い範囲でエーテル草が群生している所が視界に入る。地図的にも、その辺りが最初のチェックポイントと考えられた。


「ここが最初のチェックポイントになってるみたい」


「よーし! じゃあ採るよ! 2人も手伝って」


「はいはい」


 アイリを先頭に、アッシュとレイもエーテル草畑に入る。


「えーと、膝くらいだから……」


「あ、膝くらいは私基準ね。アッシュとレイは、もう少し低いのも採っちゃっていいよ」


「わかったよ。じゃあ僕は向こう側から採っていくよ」


「よろしくー」


 アッシュは一帯の奥へと向かい、そこから採取を始める。アイリとレイも手分けをすることにしたようで、レイがアッシュから見て右の方へと歩いていった。


***


 3方向から進めたため、作業は5分程で終わった。もっともレイの手際が良すぎて、半分以上はレイが片付けたのだが。


「レイ速いー」


「やったことあったの?」


「ん……無いけど、こういうのは得意」


 そう言ってレイは、少し俯きながら目線を逸らす。初めてレイが見せた感情に、アッシュは思わずドキリとしてしまい、慌てて頭を振って邪念を飛ばす。


「どしたの?」


「なんか虫が頭の後ろに着いたような気がして……」


 アッシュは誤魔化すように、後ろを向いて頭の後ろを見せる。


「何も着いてないよ」


「取れたかな。よかった。……エーテル草はアイリに任せちゃっていい?」


「いいよ。こういうのは専門家が持つべきだもんね」


 アイリは得意げな顔でそう言いながら、小物端末を開く。たしかに傭兵団でレンジャー生活を6年も送っていれば、間違いなくアッシュとレイよりは詳しいだろう。


 アッシュは笑いながら、採ってきたエーテル草をアイリの端末に入れていった。


「次はどっち?」


「次は斜め左に進んだ森との際の部分……あの辺りかな」


 アッシュはマップと見比べながら、森の方を指差す。アイリはそちらに目を向けると、何故か眉間にシワを寄せる。


「んんー? パンデムにもいるんだっけかなぁ」


「どうしたの?」


「ちょっとね。とりあえず行ってみよう」


 アイリに何が見えたのかはわからなかったが、行かなくてはいけないことに変わりはない。おそらく危険なものではないのだろう、と踏んでアッシュは歩き出した。


 数分進むと、アッシュにもアイリが気になったのであろう物が見えてくる。そこにはエーテル草はなく、代わりに巨大な物体が木にぶら下がっていた。


「うわ、蜂の巣かこれ」


 更に近付いて行くと、それが巨大な蜂の巣であることがわかる。全長だけでもアイリの身長程度はありそうだ。その大きさにアッシュはただ驚くことしか出来なかった。少なくともD0では、これ程のサイズの蜂の巣は見たことが無かった。


「やっぱハニービーの巣だ」


「ハニービー?」


 聞いたことの無い名前に、アッシュはアイリに聞き返す。


「うん。蜂の1種で、特に蜜の収穫量が多い種類なんだ。ほら、巣から蜜が溢れてるでしょ」


 見るとたしかに巣の最下部から筋状の線が地面に伸びてる。流れ出ているレベルは、さすがにアッシュの想像を超えていた。巣からは忙しなく蜂が出入りしているが、これでは彼らは一体何のために働いているというのかと思わず同情してしまいそうになる。


「これ何かに使える?」


「使えるって聞かれると特に何もだけど……美味しいよ」


「美味しい……まあ、大事だね」


 アッシュは頷きながら返答する。


「入れ物があれば持って帰りたかったなぁ」


 アイリは至極残念そうだ。


「仕方がないよ。次来る時には持ってこよう」


 そう言ってふと辺りを見回すと、レイがいないことに気付いた。アッシュが後ろを振り返ると、数メートル離れた場所にレイが立っていた。アッシュはもしやと思い、レイが立っている場所まで戻って訊ねる。


「……虫は苦手?」


「……」


 レイは何も言わずに、首を横に振る。そして、


「蜂は刺してくるから、嫌い」


 アッシュはレイの思わぬ弱点を垣間見てしまった気がした。

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