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13.【E-調査】ヘイス草原①

 レンジャー登録とギルドの加入をした次の日。


 3人はニーナに指定された時間にギルド本部の窓口に来ていた。


 アイリは昨日と同じく、黒いインナーと短めのスカートにピンク色のパーカーを羽織るという格好。ソックスも短いものを履いているため、腿からくるぶしの上辺りまでを晒している。


 一方のレイは動きやすそうな黒い上着に白いチノパンという格好だ。


 —— エーテルがまだアースにおいて認知されていなかった時代、レンジャーも硬質樹脂製の全身スーツで身を固めていた。


 しかし装術がレンジャーの常識となった現在では、そのような防具はせいぜい脛当てなどで部分的に使う程度である。


 これには装術の拡大が魔族との接触がきっかけだったことが、大きく影響している。


 魔族との交流の中で装術が広まるのと同時に、銃器類のみであったレンジャーの戦闘スタイルが剣や槍といった近接武器を扱うスタイルへと変化していったことで、動きやすい軽装備も広まったのだ。


 更に近代のエーテル技術の発展は防具にも恩恵を与えており、装術の際に身体の周りに展開されるエーテルに反応して硬質化するインナーなども製造されるようになった。


 その結果レンジャーの格好は、最終的に各々が最も動きやすい普段着へと変化していったのである。


 もっとも、危険は余地出来るものばかりとは限らない。予期しない場所から危険が飛び出てくることも、レンジャー活動では当然あり得る。


 このため養成所では装術の常時使用とインナー防具の併用し、出来るだけ肌を露出するような格好は避けるよう教えられている。


 そして今日のアイリとレイの格好は、正にその辺りの差が出ている形になっていると言えた。


 受付ではニーナが笑顔で出迎えてくれた。


「おはよう御座います、皆さん。今日はついに初任務ですね」


「おはよう御座います。ちょっと緊張しますが頑張ります」


 昨日は本部3階のショップ巡りに時間を掛けた結果、夕飯までギルドの食堂で済ませることになったのだが、それから拠点へと戻り寝る前になって明日がいよいよ初任務になることを思い出して、なかなか寝付けなかったアッシュである。


 模擬任務で変換機などを体験している分、何から何まで目新しいというわけではないというのは地味ながら助かるところであった。


「そうしましたら通常は依頼リストを見ていただくのですが、最初ということなのでE難易度の調査『ヘイス草原』をお勧めいたします。どうされますか?」


 アッシュは確認を取るようにアイリとレイの方を見る。


「ま、最初だしね。いいんじゃないかな」


 レイも特に何も言わずにコクリと首を縦に振って返した。


「それでお願いします」


「ではクラスの選択をお願いします。皆さんの方で操作してみてください」


 ニーナはアッシュ達にクラス選択の画面を向ける。そこでアイリが再び食い入るように画面を見つめる。昨日に続いて二度目のアイリの様子に、何も無いと思う程アッシュも鈍感ではない。


「……どうしたの? 昨日もだったけど、隠さなくていいからさ」


「う……バレてた……。実は私、今まで剣とロッドの両方持ちが当たり前だったから、どっちかなんて考えたこと無かったんだよね……」


 アイリは少し気まずそうにアッシュの方を見た後、目線を逸らすように言う。


「そっか。傭兵団はクラスの制約なんて無いんだ」


 傭兵団は自由が効くというのは何も暮らしの話だけではなく、戦闘面でも言えることだったのかとアッシュは納得した。


「それならメイジのスティックなんか、ピッタリなんじゃないかな。法術も使える剣っていう変わり種」


「へーそんな武器もあるんだ」


「でも今日のところは簡単みたいだし、グラディエーターの方がいいかも」


「りょーかい」


 アッシュの提案にアイリは頷き、自分のクラスにグラディエーターを選択した。


 法術は遠距離への攻撃やエーテル体の回復など特徴的な面が多いが、小回りが効きづらいため調査のような簡易な任務では役割が薄いことが多いのだ。


「じゃあ僕は中距離のハンターで」


 アイリに続いてアッシュも入力を終えて、場所をレイに譲る。レイは当然のようにナイト —— 長剣、太刀、大剣の3種類を用いるクラス —— を選択した。


「ん。終わった」


「ではエーテル変換機へのご移動をお願いします。使用したい武器がありましたら、変換機横の武器転送機の方へお入れください。転送機に無い武器種は自動的にメーカー製のものをお送り致します」


 3人はカウンターの横を通って変換機の部屋へと入った。


「なんとなく流しちゃったんだけどさ。つまり選んだクラスの持って無い武器は貸してくれるってことなんだよね」


「そういうことだね」


「剣とロッド以外は持って無いし、今度スティック試してみよう……」


 そう言ってアイリは、小物端末から取り出した剣を変換機の横にある小型の箱に入れる。アッシュは手持ちの武器が無いため、そのまま変換機へと入った。


 扉が閉まって少し待っていると、昨日と同じく機械音が響きアッシュの視界は暗転した。


***


 ベースに到着する。


 ギルドの建物と同じような床、質素ながら小綺麗な壁。前方のガラス窓越しには草原が広がっている。


「異常無しっと。……ん?」


 部屋の中央に置いてある通信機が点滅し始める。このタイミングでの通信となれば、相手は予想ができる。


「無事到着されたようですね。通信機のテストも兼ねてヘイス草原について軽い説明を行いますので、少々お時間ください」


 案の定、通信機を起動すると宙にニーナが映し出された。


「ヘイス草原はエレーネクの南西にあるギルドの管理地でして、エーテル草などを栽培しています。ただ周辺の街から離れた場所にあるため、レンジャーに依頼という形で依頼して不定期巡視の代わりをしてもらっています。レンジャーの方々が採取する分には問題ないですよ」


 エーテル草は数ある植物の中でも特にエーテル保有量が多い種類で、一般的には他の植物の数百倍とも言われている。地面から直接何枚もの細長い葉が生えてくるような見た目をしており、特に芽が出た直後はよく見ないと雑草と間違えてしまいそうになる。


 法術研究の基礎的な材料の他、エーテル体で活動するギルド所属のレンジャーにとっては、傷を即座に癒やしてくれる”エーテル修復薬”の主原料として知られている。


 傷を癒やすという点では直接食べてもある程度の効果は得られるが、採取したものをショップで修復薬に交換してもらう方が効果的なため、そのまま運用することはほとんど無い。


 このエーテル草も今では市場の大半は畑で作られている物が占めているが、やはり自然の中で育成したものの方が質が良いため、ギルドでは所属するレンジャー用に草原などで栽培を行っているのだ。


 そしてこの調査任務は、そういった場所の警備代わりなのだろう。エーテル草は質が良い物でも値段は高くないので、レンジャーと遭遇するリスクを取ってでも盗みに入るような輩はまずいないというわけだ。


「更にもう一つ、というよりはこちらの方がメインですね。セードル大陸では野生のヘリストが全域に生息しています。ヘリストは雑草や木の皮を主な食べ物としていますが、エーテル草は特に好みのようで、周辺にあるものを全て食べてしまいます」


 へリストはディーバ全域で食肉用として牧畜が行われている動物の1種ではあるが、今でも野生で一定数存在している。ただし野生のものは気性が荒いため、一般的に野生で遭遇した場合は刺激しないように離れることが推奨されている。


 一方でレンジャーに取っては、どこでも生息していて美味しく食べられるため、長期遠征の際には狩って食べることが多い動物である。


「ヘリストは気が強く、機械による威嚇などで追い払うこともできないです。このため区域内に入ってしまった個体については、可能な限り駆除をお願いします」


 そこでアッシュはふと疑問を覚える。


「ヘリストの駆除がメイン……ということは掃討にはならないのですか?」


「ヘリストは区域内に生息が確認されているわけでは無く、またこちらから仕掛けなければ攻撃もしてこないので、調査の範囲内ですね」


「ま、まあ……たしかに……」


 上手いこと丸め込まれたような気もするが、納得できないわけでも無いのでアッシュは引き下がる。


「勿論、無償ではありませんよ。ヘリストの駆除を行った場合は報酬が上乗せされますし、素材を持ち帰る用の端末も用意しておりますので、ご協力頂けると幸いです。支給品棚は扉から見て右奥にあります」


 そう言われてアッシュが振り向くと、たしかに奥の壁際に壁や床と比べて違和感のある木製の棚が設置されていた。


「依頼については以上になります。何かご質問はありますか?」


「特にはないです」


「ではお気を付けて」


 通信が切れる。


 ニーナに言われた通り右奥の棚を開けると、武器には区分されない小型の短剣やロープが入っていた。それらを小物端末に放り込みつつその下の段を開けると、冷凍用と書かれた端末が3つ置いてあった。その表面には冷凍用と書かれている。


「冷凍用……?」


「これがヘリストを入れておく用ってことじゃない?」


 つまり素材を持ち帰るというのは、駆除したへリストの肉を持ち帰って食べてもいいという意味だったのかと理解する。


「だね。1つ持って行こう。さて……調査だから気張ることはないかもしれないけど、初めての依頼だし頑張ろう!」


「おー!」


 アイリの掛け声と共に、アッシュ達は拠点の建物の扉へと向かった。

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