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121.原野の民

 『原野の民』の本部の建物は一階に相当する部分が頑丈そうな石造りの土台となっており、その上に他の建物と同じ形状の建屋がある少し変わった形をしている。


 大きさも周囲の数倍はあり、知識が無くともそこが重要な建物なのだとわかる。


 アッシュ達は外付けの階段を登り、金属の刃を木の棒を付けたシンプルな造りの槍が飾られている入口から中に入る。


 外から見えた石の土台は中央が天井まで伸びており、建物の柱として使われているようだ。


 ギルド職員が使うカウンターは魔王軍のような広く大きなものでは無く、奥の方に小さなバーのようなものと椅子が幾つかある程度。


 その近くには文字が書かれた紙が沢山貼られた木の板が壁にぶら下がっており、まるで娯楽小説に登場するような古の時代の"ギルド"の風景が広がっていた。


 アッシュは昨日ニーナに見せてもらった"原野の民"のギルド長であるユンの姿を探すが、席を外しているのか見当たらない。


 待っていても仕方がないので、アッシュは石柱の前で談笑しているダンと似たような格好の2人組のレンジャーに聞いてみることにする。


 しかし数歩近付いたところで片方がアッシュ達に気付いて振り返ると、建物の奥へと向かっていってしまった。


 アッシュは少しばかり緊張しながら残ったレンジャーに尋ねようとしたが、逆に相手の方から話かけてくる。


「あんたら魔王軍からの派遣レンジャーだろ? 今ボスが来るから待ってくれ」


「は、はい。ボス……?」


「ああ、すまん。ギルド長のことだ」


 レンジャー達はギルド長のことをボスと呼んでいるようだ。


 変わった呼び方だなと感じたが、かく言う自分達はニーナを名前呼びであり人のことは言えないなと思い直す。もっともその点は、ギルド長という身分を最初に明かさなかったニーナに原因があるのだが。


 そんなことを考えていると、奥の扉が開いてユンが現れる。


 ニーナに見せてもらったのは顔だけだったので分からなかったが、ユンは鍛え抜かれていることが服越しでもわかる上に、身長は二メートル近くある如何にもな出で立ちである。


 前まで来たユンは鋭い眼光でアッシュ達を一瞥したが、すぐにニコリと笑顔になる。


「魔王軍からの助っ人ですね! 遠い所よく来てくれました!! 私はユン、ここ原野の民のギルド長をやっています!!!」


 ユンは見た目とは裏腹に丁寧な口調で自己紹介をしながらアッシュの手を取る。ただ如何せん声が大きく、その勢いにアッシュは気圧される。


「よ、よろしくお願いします……僕がチームリーダーのアッシュです。後ろはメンバーのアイリ、レイ、キアラ、ダンで……」


「おや! そちらのダン君はもしかしてモンク族かい?」


 ユンは驚いたという表情でダンに尋ねる。


「おう。僕はモンク族だぞ。修行のためにパンデムに行って、そこでアッシュ達にレンジャーに誘われたんだ」


「ほお! モンク族は放浪する者が多いが、パンデムまで行くとは珍しい!」


 ユンは納得したように頷く。


「ボス、話が逸れてる。後、声がデカい」


「おっと、そうだったな。……さてアッシュさん達、依頼については明日から受けていただきたいものを私からお渡しします。地理などはわからないでしょうから、当分はホセに付き添いを頼んでいます」


 そう言いながらユンはアッシュ達に話しかけてきたレンジャーの肩を叩く。


「というわけだ。俺はホセ。あんたらのサポートを任されてる。滞在中に困ったことがあったら何でも言ってくれ。一応Cランクのレンジャーだから、守ってもらうようなヘマはしないつもりだ」


「よろしくお願いします、ホセさん」


 アッシュはホセに頭を下げつつ握手を交わす。


「そうしたら今日のところはアッシュさん達を宿泊先にお連れしてくれ」


「了解、ボス。こっちだ」


「では明日から、よろしくお願いします」


 ユンに見送られ、アッシュ達はホセに続いて外に出て階段を降りる。そして行きに通ってきた道を渡り、ギルド本部から真っ直ぐ伸びる道へと向かう。


 こちらの通りは左右に食材や日用品を扱っている小さな商店が並び、やや人通りが多い繁華街といった雰囲気だ。


「アッシュ達はレンジャーになってどのくらいなんだ?」


 前を歩いていたホセが尋ねる。


「僕とレイは今年養成所を卒業したので半年で、ダンとキアラは3ヶ月です。アイリはえっと……」


「私は6年と半年!」


「6年? お前ら同い年じゃないのか?」


 ホセは驚いたような表情で振り返る。アイリはアッシュ達より年下と言っても通じるような見た目だ。それで6年のレンジャー経験があるとなれば、驚くのも無理は無い。


「同い年だよ。ただ私はギルドに入る前から両親がやってる傭兵団に混ざってたってだけ」


「ほお、傭兵団か。なら納得だ。だがそれだとしても、その歳で6年もレンジャーをしてるのは凄いことだ」


「ちなみに私は魔族だから150を超えてるわよ」


 とそこでキアラが口を挟む。腰に手を当て、どうだと言わんばかりの顔だ。


「魔族はモンク族やヒト族と時間感覚が違うとは聞いたことがある。外見はあまり変わらないように見えるが……その先端は蛇か?」


「そうよ」


 ホセはキアラの足下近くまで伸びる髪の先に目を向けながら尋ねると、キアラもそれに応えるように髪の蛇の1匹を手の上に載せる。


「実は魔族を見たのは初めてなんだ。まあ俺が特殊というよりは、ターレントにいるモンク族は殆どがそうだろう。街を歩くと珍しがられると思うが、悪くは思わんでくれ」


「覚えておくわ。ま、そういうのは慣れてるけど」


 それを聞いてアッシュは先日の試験のことを思い出す。ヴェルドの言葉を解釈すると、魔族社会においてもキアラを含めたメデューサ種は珍しい存在として見られやすいのだろう。


 とそこでホセが立ち止まる。


「着いたぞ」


「あれ、これって」


 ホセが指差した先には周囲とは大きく異なる ーー というよりはアッシュ達にとっては見慣れた、アースやパンデムによくある建物があった。


「はは、驚いてるな。うちはよく次元開発機構や魔王軍からレンジャーの派遣を受けるから、そちらの文化に合わせた宿泊施設を幾つか持っているんだ。希望があればターレント式も用意出来るから、遠慮なく言ってくれ」


 確かにいきなり見知らぬ土地で慣れない生活を長期間させられるのは、レンジャーであっても大きな負担になる。帰って来る場所だけでも同じ空間なのは、良い配慮と言えるだろう。


「ギルドはここからも見えるから問題無いな? 入るぞ」


 ポケットから取り出した鍵でホセ扉を開け、全員で建物に入る。中の造りも概ねアッシュ達の家と同じような雰囲気である。


「建物の鍵はアッシュに渡しておこう。個室は上の階に5つある。鍵は入ってすぐの棚の上に置いてあるから各自で管理してくれ」


 ホセは廊下を歩きながらアッシュに鍵を渡すと、右側の扉を開く。中はリビングになっており、奥にはキッチンがある。ソファも5つあり、1グループ分として用意されていることがわかる。


「ここに来るまでの通りで食材を売っているし、もう少しいけば飲食店もある。使った金は経費として精算出来るから領収書は貰うようにな。伝えることはこれで全部だが、何か聞きたいことはあるか?」


 ホセの案内は回数を重ねているためか簡潔で要点を押さえており、ここでしばらく生活する不安はほぼ無くなっていた。


「僕は大丈夫です」


「私も無いかな」


 レイも頷く。ダンとキアラはソファの座り心地を確かめにいっており、聞くことは無さそうだ。


「それじゃあ俺はこれで。明日は9時に本部に来てくれ」


「わかりました」


 ホセが出ていき扉が閉まる音がした後、アッシュはアイリとレイの方を振り返る。


「付いてからあっという間だったけど……僕はもう十分やっていけそうな気がしてきたよ」


「私も。ホセさんもユンさんも良い人そうだったし。で、この後はどうするの?」


「周りの店を見て回ってから、どこかに食べに行こうか。あ、でもその前に部屋を確認しないとね。ダン、キアラ、上の部屋を見に行こう」


 ソファに座っているキアラと横になっていたダンに声を掛けると、立ち上がってアッシュ達の方に来る。


「はいはい。あら、ホセはもう帰ったの?」


「うん。今のところ聞いておきたかったことは一通り話してくれたよ。部屋に荷物を置いたら外に出てみようと思ってるんだけど、せっかくだからダンに教えてもらおうと思って」


「わかった。食べ物だったら大体わかるから、なんでも聞いてくれ!」


 そう言ってダンは階段の方へと走っていった。いつもよりも少しばかり落ち着かない感じがするのは、気の所為では無いだろう。


 そんなことを考えつつ、アッシュはこれから始まる生活への期待を胸にダンの後を付いて行った。

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