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120.ターレント

 2日後、準備を整えたアッシュ達は次元渡航船を乗り継いでD13 ーー ターレントの主要次元へと移動した。


 持ち物の殆どを普段遣いの端末に収納しているアイリは換えの服を数着程、ダンも似たようなものでレイはそれに加えて太刀の整備に使う道具が幾つか。


 アッシュもそれ程多くは無かったこともあり、荷物の半分以上はキアラが「滞在するなら必要」と言い張った物品であった。


 ターレントは自然を残すために開発を積極的に行っていないというのはアッシュも知っていたが、聞くのと実際に目で見るのは大きな差がある。


 まず渡航船の発着場所は森に囲まれた開けた原っぱで、降り立つ時に窓から土埃が舞っているのが見える程度には整備されていなかった。


 発着場の周囲にあるのは、加工していない木を組んで大きな葉で天井を作った簡易の待合室だけ。そこからギルド本部がある市街地までの移動手段も、徒歩以外には無いようであった。


 しばらく歩いて、アッシュ達はターレントの中心地 ーー デアガル村に到着する。


「着いたね。ここみたいだ」


「……本気で言ってるの? ターレントで一番発展してる場所よね? ジャフス村より少し大きいくらいのここが?」


 とてもではないが信じられないといったような表情のキアラだが、そう言いたくなる気持ちはアッシュもわからなくは無い。


 建物はどれも木材が剥き出しな上に、殆どが平屋建てである。


 案内表示は電光掲示板どころか木の板が棒に吊り下げられており、インクでは無さそうな何かを使った手書きの文字は所々が掠れている。


「やっぱターレントは変わらないなー。昔来た時もデアガル村もこんな感じだったよ」


「ターレントは元々部族ごとに村を作って暮らしていて、アースと繋がった時に周辺で一番大きかったここがギルド"原野の民"の本部、それ以外の村が支部の役割を持つようになったんだって。ということでギルド本部は……」


 ニーナからは、ターレントに着いたらまずギルド"原野の民"の本部へ向かうようにと言われている。詳しい説明などはそこで全て受けられるとのことである。


「あっちだぞ」


 ダンが指差した方には周辺より高い建物が見える。


「じゃあ案内頼むよ」


「任せろ!」


 アッシュ達は意気揚々なダンを先頭に歩き出す。


「そういえばダンは僕達に会った時はレンジャーのことを知らなかったわけだけど、ギルドには行ったことあるの?」


「おう。小さい頃に連れてこられたんだ。あの後レンジャーのこととかを色々と聞いてるうちに、あれがギルドだったんだって気付いた!」


 そういうことならば、レンジャーを知らなかったのも納得である。


「なるほど。あ、じゃあ今回せっかくだしダンは家にも寄っていく?」


「んーそのつもりは無いぞ。今どこにあるかわからないしな」


 予想外の返答にアッシュは困惑する。それを察してか、ダンが続ける。


「モンク族は僕の所みたいに、決まった家を持たずに暮らしてる部族も多いんだ。出入りにも特に決まりは無くて、その時そこにいる大人が子ども達を育てるんだ」


「えーと、じゃあ家族は?」


「僕に食べ物をくれたり狩りを教えてくれたりしたのは皆んな親だし、同じくらいの歳の皆んなが兄弟だ」


 そう言ってダンはニカッと笑顔を見せる。


「なんか傭兵団みたいな感じだね。あちこち移動しながらの生活だったし、一緒に過ごした団の皆んなが家族みたいな感じはあるし」


「アイリのところもそんな感じなのか」


「戦い方とか野宿のやり方とか、両親以外からも教えてもらったしね」


 自分から始めた会話であったが、どう返したものかと迷っていたアッシュはアイリが入ってきてくれて安堵する。アイリが小走りでダンの横に行ったため、アッシュは少し下がってレイとキアラにも聞いてみる。


「こういう家族って聞いたことある?」


「私は無い。アースにはない考え方」


「私も無いわね。まあ他の種の生活を完全に知ってるわけじゃないけど、魔族の世界じゃ無理だと思うわ」


 血の繋がりではなく種族としての繋がりが"家族"を形作る ーー ダンにとっての家族の形はアッシュの中にあった常識とは大きく異なるものだったが、やはりこの形が通っているのはモンク族くらいであろう。


 とそこで、ダンが「あっ!」と声を上げて振り向く。


「あれだ! あのでっかいやつ!」


 ダンが指差した方には確かに周囲より明らかに大きい建物があるのが見える。


 これからしばらくの間通うことになる『原野の民』のギルド本部を前に、アッシュは改めて気を引き締めるのであった。

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