118.ランクアップ試験【2】④
「んじゃあ次は……ダン!」
「おう!」
呼ばれたダンが大きな声で返事をしながら受験者達の中から出てくる。
戻ってきたキアラが拳を握って伸ばし、気付いたダンが拳を突き合わせる。
「っとその前にエーテル体を作り直さねえとだな。呼んどいて悪いが準備運動でもしながら待っててくれ」
「わかった」
ウェルドは小走りでベースの部屋へと戻っていく。入れ替わりで戦闘エリアに出てきたダンは、ランスとシールドを取り出してガードの練習を始める。
数分してウェルドが戻ってくる。
「待たせたな。ほう、ランスか。最近はメインで使っているやつをあまり見ないが……この場合は俺から仕掛けて構わないんですよね?」
「はい。ランスの場合はそうですね」
ウェルドの問いにニーナが答える。
確かにランスは相手の攻撃を防いでからのカウンターが中心だ。自分から攻めることが少ない都合、養成所の頃からランスをメイン武器に据える者は確かに少ない。
その点から言うとモンク族の中で狩猟をしながらランスを使ってきたダンは、間違いなくイレギュラーな存在と言えるだろう。
「じゃあ始めるぞ」
ウェルドがメイスを構えてダンに歩み寄ると、ダンもシールドを持ち上げてウェルドとの距離を詰め始める。
「お?」
予想してなかったダンの前進にウェルドは少し戸惑った様子だったが、すぐに切り替えて正面からメイスを振る。
ダンはシールドを持ち上げたまま、タイミングを合わせてウェルドの攻撃を弾く。
「っっ!!」
装術が使えるレンジャーでも、重いランスのシールドは接地して使うのが一般的だ。また仮に持ち上げて使うとしても、タイミングを合わせるのは困難だ。
おそらくその前提で仕掛けたウェルドだったが、自身が持つ盾のようにシールド使われたために後ろに仰け反ることになる。
対するダンとしてはいつも通り弾いただけであるので、ランスで追撃を加える。
ウェルドはなんとか盾で防ぎつつ大きく後ろに跳んで転倒を免れるが、その表情は驚き一色であった。
「どうした?」
ダンはウェルドが何をそんなに驚いてるのか分から無い様子で、シールドの影から覗きつつ首を傾げる。
「いや、なんでもねえよ。まあそういうこともあるわな」
ウェルドは再びメイスを構えると、今度はダンの右に回り込むように移動する。
だがダンはウェルドの移動に遅れること無く回りながら、ランスの突きを繰り出していく。そして盾でガードしたウェルドに向かって更に前進する。
大きなシールドに詰め寄られたウェルドは堪らず一歩下がりながら再び回り込もうとするが、結果は同じであった。
それを繰り返してるうちに、ウェルドはとうとう戦闘エリアのライン際まで追い詰められてしまった。
「……あーこりゃ無理だな。ダン、合格だ」
「もういいのか?」
結局最初の一撃以外にウェルドからの攻撃が無かったこともあってか、ダンは拍子抜けしたような表情でシールドを下ろす。
「ああ。全く攻撃に移れん。その上こう詰められちゃ俺に勝ち目はねえ。キアラと言い、アッシュのところは優秀なのが揃ってるな」
「へへ……」
ストレートに褒められたことに、ダンは照れ臭そうに笑みを溢す。
「さてと。じゃあ次いくぞ。連続で合格が出たからと言って舐めて掛かるなよ。……ラクト!」
ウェルドが次の受験者を呼ぶと、ダンは再び他の受験者達に混ざっていった。
こうしてアッシュ達のグループは全員がBランク以上となったのであった。