110.【D-狩猟】ガルヘイト①
ヤエン山で初のA難易度の依頼を終え、幅を広げていくためにも次は同難易度の掃討依頼をとアッシュは考えていた。
だが上位難易度ともなると依頼の数自体がそもそも少ない上に、来ても狩猟や討伐ばかりで掃討の依頼は見つからなかった。
その日も目当ての依頼は見つからず、B難易度の掃討依頼を完了させてギルド本部へと帰還した。
「アッシュさん! ちょうど良かった。これからお時間ありますか?」
いつも通り窓口へと戻ったところで、ニーナに出迎えられる。
「はい、大丈夫ですよ。何かあったんですか?」
「先程D8の魔将であるヴァプラ様より急ぎでコランの外殻が欲しいとの連絡があったのですが、昨日別の方の依頼でギルドの在庫が掃けてしまっていて。なので今から急ぎの依頼を出すところだったんです」
「コランの外殻......?」
どこかで聞いたことがあるような名前にアッシュは記憶を探る。
「あ、それって前にニーナさんが不良品が多くて数が足りないからギルドの在庫から届けてって言ってたやつだ」
「ヴァプラ様は頻繁にコランの外殻の依頼を出されますので、不良が多かった時に居合わせたようですね」
アイリに言われてアッシュもようやく記憶が蘇ってくる。その時もヴァプラからと言っていたはずである。
「コラガンの幼体であるコランの外殻は内部に含まれる半固形状成分が鍛冶における重要な材料になるのですが、空気に触れてしばらくすると固形化して使い物にならなくなってしまうんです。ですがコランの外殻は少しばかり脆く......」
「割れてしまうことがあると」
「そういうことです」
割れる、或いは罅が入る程度でも空気が入り込んでしまうのだろう。ヴァプラが頻繁に依頼を出しているのも、その対策であろうと推測出来た。
「固まりきる前に表面を高熱で処理すればある程度は保存が出来るため、ギルドでも加工場で処理を行って在庫を確保するようにしているんです。今回はヴァプラ様の所に大口の発注が入ったため、出来るだけ早く届けて欲しいとの依頼が来た次第です」
「わかりました。そういうことであれば受けます」
「コランはD8のカラレンとキレブルの北部に広がる乾燥地帯"ガルヘイト"に広く生息しています。ヴァプラ様は同じくD8のヘクトリストの山峡にあるジャフス村におられますので、直接届けていただけると幸いです」
とそこで、後ろで聞いていたレイが身を乗り出してくる。
「ジャフス村」
「レイさんはご存知でしたか。ジャフスはドワーフ種の中でも最高峰の技術を持つ者だけが所属することを許される武器を専門に扱っている鍛冶の村で、村長であるヴァプラ様は"匠王"の二つ名で呼ばれています」
ニーナの説明を聞いて、アッシュはレイが反応した訳を理解する。
「アッシュ。行こう」
「だ、大丈夫。元々届けるくらいはやるつもりだから」
心なしか目が輝いているように見えるレイにたじろぎつつアッシュは応える。
「いた方がいいクラスはありますか?」
「コランの狩猟については、特別に有利なクラスはありません。コランの外殻の取り方は拠点に説明書がありますので、そちらを参照してください」
「では全員先程と同じクラスでお願いします」
ニーナに手続きをしてもらいながら、アッシュはふとこれも狩猟に該当するのかと考える。
たしかに駆除を目的としているわけではないので掃討では無いし、対象は大型の危険生物では無いが生き物ではあるので採取にもならない。
(初めて行くところだし、何か面白い物あるかなぁ)
(ジャフス村……)
(コランの肉ってどんな味なんだろうな)
(ヴァプラ様の所ね......)
アッシュの後ろで全員バラバラのことを考えながら、次の依頼が始まろうとしていた。




