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105.【B-討伐】マレント市街③

「こちらは伝達が済んだ。タイミングはどうする?」


 ティアナがアッシュの方へと駆け寄って来る。作戦の内容を伝えるに辺り、ティアナのチームメンバーにはティアナから伝えてもらったのだ。


「倒れる方向だったりを調整したいので、僕が合図でやらせてもらっていいですか?」


「わかった。タイミングは貴殿にお任せする。ところで一つ疑問に思ったのだが……1人ずつで脚を切断できるだけの力があるならば、そのまま何度も斬ってしまえばいいのでは?」


 ティアナが当然とも言える質問を、アッシュに投げ掛ける。


 実際アッシュも、最初はその作戦も考えていた。同じ位置であれば、鋼線でも連続で斬る事は難しいことでは無い。


 だが先程のダンがランスで突いた時の反応を見て、考えが変わったのである。


「それも考えたのですが、おそらくこのシャドウは”形状を元に戻す”力には長けている可能性が高いです。なので連続で斬っても、斬った部分をどこかに離さないとすぐに元に戻ってしまうと考えたんです」


 更に何度も斬ってシャドウの身体が散らばることを考えると、サイズ感からして先に脚の踏み場が無くなってしまうことも想定された。


 相手の特性が完全に掴みきれていない状況では、その作戦をとりあえずでやってみるのもリスクが高いというのがアッシュの判断であった。


「つまり逆にその特徴を活かして、この形状のまま核に攻撃できる方法を考えたというわけだな。素晴らしい作戦だ」


「まだ上手くいくと決まったわけでは無いので……とりあえず配置に付きましょう」


「承知した」


 アッシュはティアナと一旦分かれて、レイと数メートル離れた位置へと走る。


(この方向に倒れたら……頭があの辺りか。ちょっと短いな。そうすると……)


 頭の中で何度もシミュレーションしながら、アッシュはタイミングを見計らう。


 そして、


「キアラ! ダン! そこの花壇に向かって!」


「おう!」


 アッシュの合図と共に、キアラとダンが走り出す。アッシュもまた花壇の方へと走る。


 近い位置に3人が集まったことで、シャドウは攻撃対象にアッシュ達を定めて一歩を踏み出してくる。


「ティアナさん! 今です!」


 シャドウの動きを見計らって、アッシュはティアナに向かって声を張り上げる。それと同時にアッシュとダンとキアラはそれぞれ別の位置へと離れた。


 更にティアナ達のチームにアイリを加えた6名が、シャドウから見て花壇と反対側へと集まった。シャドウはティアナ達の方へと移動しようと、身体を捻りながら急激に反転させる。


「レイ! 頼んだ!」


 そこを狙ってレイとアッシュはシャドウの脚元へと後ろから駆け寄ると、アッシュは予め広げておいた鋼線で左脚を、レイは抜刀でシャドウの右脚を切断した。


 重心が前方に傾いていたシャドウの身体が、ゆっくりと前方に崩れていく。


 想定通りシャドウは地面に両腕を伸ばして着地しようとする。


 だが右腕には既に鞘に太刀を収めたレイが迫っており、地面に着いた腕の付け根付近をレイが再び切断する。


 これによってシャドウが身体を支えられるのは、左腕だけとなった。その左腕の着地点には、ダンがシールドを構えて待ち構えている。


 そしてダンは最初から受け流すようにシールドを持っており、シャドウの左腕は前方へとシールドの表面を滑っていく。


 そこでアッシュは再び声を張り上げる。


「やっちゃって! キアラ(・・・)!」


「任せな……さいっ!」


 アッシュの掛け声に合わせて、ダンのシールドに隠れるように待機していたキアラがシールドを内側から蹴り飛ばす。


 ダンのパワーにキアラの蹴りが加わったシールドは、今度こそシャドウの左腕を大きく弾き飛ばした。


 人型シャドウはついに支えを全て失って、その身体を地面に落下させていく。


「一斉掃射ぁ!!!」


 ティアナの掛け声と共に、残ったメンバーが核に向かってライフルを最大火力で撃ち込む。アイリも法術で火の玉を作り出して、核に叩き付けた。


 一斉攻撃を受けたシャドウの核にヒビが入り始める。だがやはりアッシュの予想通りシャドウは形状を素早く元に戻しており、既に起き上がろうとしていた。


 ティアナ自身もこの時点で、後少し足りないことを直感的に理解していた。


 一緒に並ぶアイリという少女の法術は、かなりの威力がある。アイリがいなければ、足りる足りない以前のレベルだ。つまり足りないのは、自分を含めたチームの力なのである。


「くそおおお!!」


「はいストップぅ!」


 ティアナが叫んだ瞬間、アイリが手を広げてティアナ達の視界を塞いだ。ティアナ達はそれに驚いてライフルの引き金を離す。


「なっ……!」


 アイリの行動にティアナは思わず声を上げようとする。だがその直後、キンッと高い音が聞こえてシャドウの目の前に誰かが降り立った。


「レイ、ナイス!」


「ん」


 その会話にティアナが見上げるとシャドウの核は頭ごと真っ二つにされており、シャドウは少しの間ピクピクと震えていたが、やがて核以外は何も無かったかのように消え去る。


「っ……!」


 ティアナは自分の不甲斐なさに思わず顔を歪める。


 シャドウの核に攻撃をすることも出来ず公園に誘い込むところ止まりの挙げ句、アッシュ達によって攻撃できるようになった核への攻撃すら火力不足で手を借りる羽目になったのだ。


 弓からライフルへと武器を変えたことで戦闘能力は昔と比べると格段に上がった。そしてどこかで「自分は十分やっている」と思っていたのも事実だった。


 それが本来はエルフ種よりも弱いはずのヒト族にこうも力の差を見せつけられてしまったことで、全く足りてないことを思い知らされたのである。


 他のメンバー達も思いは同じようで、それぞれが悔しげな表情を浮かべていた。


 そこへアッシュが駆け寄ってくる。


「みんなお疲れ様。ティアナさん達もありがとうございました」


「お疲れー! 最初見た時は驚いたけど、案外あっさりいったね」


 アイリは楽しげに言う。


 たしかにアイリの言った通り、結果から見ればあっさりと終わっている。


 だがそれでもティアナは、どうしてももどかしい気持ちが消えなかった。そしてその気持ちを無視して喜べる程、ティアナは器用では無かった。


「その……すまない!」


 ティアナは突然頭を下げて謝る。アッシュは何のことを謝られているのかさっぱりわからず混乱する。


「どうしたんですかティアナさん!?」


「私達の力不足故に、そちらにばかり負担を掛けてしまって……」


 アッシュはそんなことかと少し安堵する。


「そんなことは無いですよ。ティアナさん達の働きは十分わかってますから」


「だが……」


「先程も言った通り、公園まで誘導してくれたのは本当に助かりました。それが無ければ僕は鋼線を使うことは出来なかったですし、この作戦も成り立たなかったんですから」


「……」


 それでもティアナは浮かない顔のままであり、アッシュはどうフォローしたらいいか考える。


 ティアナが自信を失ってしまったまま別れてしまうのは、色々と悪い事が起きそうな予感がしたためだ。


「そ、そうだ! もし良ければ僕達のチームに来ませんか? サブメンバー用の建物も出来たばかりなので、一緒に強くなゴホッ!」


 考えた挙げ句に苦し紛れにチームへと誘ったアッシュの横腹に、アイリが肘打ちをかます。


(アッシュ! それってティアナさん達にチームの解散をしたらって言ってるようなものじゃん!)


(あっそっか! マズい……)


 だが小声で話した2人に対して、予想外にティアナは顔を明るくする。


「い、いいのか!? そちらが許可をしてくれるのであれば、喜んで行かせてもらおうと思うのだが」


 食い気味に言うティアナに驚きつつ、アッシュがティアナのチームの他のメンバー達を見ると、そちらも頷きながら同意を示していた。


「あ……ところでだが、所属はどこになるんだ? 第二魔界は都合が悪くてな……」


「えーとD2だから……第一魔界の本部所属です。D8だと何かあるんですか?」


「本部!? 本当に願ったり叶ったりだ……。で、D8についてだが……まあその、約定というか。街エルフと呼ばれる我々は、黒エルフ達とは遥か昔から対立関係にあって……」


 ティアナは口籠りながら、歯切れの悪い様子で言う。


 アッシュはD8でレンジャーを統括しているのがビフロンスという黒エルフの魔将であることや、キアラの捜索依頼の際に案内をしてくれたリーアのことを思い出す。


 つまりは対立こそしているが積極的に争う気は無いため、お互いに次元を跨いで棲み分けをしているということなのだろうとアッシュは考える。


 その辺りはパンデムの事情であり、アッシュがとやかく言うことでは無い。


「ではシャドウ討伐は一先ずこんなところで終わりにしましょう。ティアナさん達は所属変更の手続きもあると思うので、先に戻っててください」


「そちらはまだ何かやることが?」


「ええ。一応、討伐依頼を正式受注したことになってるので、完遂までは色々と事務的なことが必要みたいなんです」


 討伐完了報告を送ったニーナから届いていたメッセージの内容を見ると、どうやら討伐依頼には周囲の安全確認なども含まれているとのことなのだ。


「わかった。一足先に戻らせてもらおう。ではまた、今度は同じチームメンバーとして」


「はい。よろしくおねがいします」


 公園の出口へと向かって行ったティアナ達と別れの挨拶を交わしつつ、アッシュはメッセージの内容通り周囲の安全確認を始めた。

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