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101.【C-掃討】旧・狼王の森⑥

「後退! ……10メートルくらい!」


 アッシュの合図と共に、後ろ向きに走って下がる。グレートウォーウルフは今度はドスドスと音を立てて近寄ってくるが、少し離れた所でその歩を緩める。


「強いのは間違い無いけど、それ以上に厄介なところが多い……」


「こいつ頭が良いな。こんなやつ初めてだ」


「ウォーウルフを引き連れてるのも、面倒この上ないわね」


 単純な膂力はレイでも即座に離脱が出来ない —— 力を逸らすことすら困難な程。


 だが両前脚の鋭い爪と飛んできた鉄球にすら噛み付く牙以外に脅威的な部分は無く、掠っただけで切れる棘の生えた尻尾を持っているわけでも無い。


 また攻撃を加えたわけでは無いため断言は出来ないが、硬い鱗に覆われているわけでも無いので阻まれることも無いはずである。


 おそらく攻撃手段と守りの硬さだけで考えれば、ガラルドの方が余程困難と言える。


 しかしそれらを知能を持って使われるとなると、話は大きく変わる。


 武器の特性を理解したかのようにアッシュの動きを止めたり、レイの動きに合わせるように爪を振るってきたりしたのは、決して偶然では無いだろう。


 そしてこちらが動けなくなった所で、周りのウォーウルフが攻撃を仕掛けてくるのである。


 そもそもグレートウォーウルフのように、”群れを率いる危険指定生物”も他に殆ど存在しない。


 おこぼれに与ろうとする小型の獣竜が付近にいることはあるが、協力関係にあるわけではないため巻き込まれることを恐れて、わざわざ戦闘中に近付いてくることは無いのである。


 その点グレートウォーウルフの場合は、ニーナの話を聞く限りでは同じ種の群れを率いるリーダー格という位置づけのため、戦闘中だろうが構わず連携を取って襲いかかってくるのだ。


 それらをトータルで考えれば、A難易度の狩猟対象というのも頷けるだけの厄介さである。


「アッシュ。私と場所代わりましょ。この感じだとウォーウルフの対処は、ナックルよりもフレイルの方が向いているでしょ」


「……そうだね」


 アッシュはグレートウォーウルフを注視しながらゆっくりと下がって、ダンの後ろに付く。


「あー! 私が代わりたかった!」


「次代わるからそんな大きな声出しちゃ……ほら、来た!」


 アイリの声に刺激されたグレートウォーウルフが再び突っ込んできて、右前脚の鋭い爪を叩き付ける。


「ふんっ!」


 ダンがシールドで防ぐと同時に、前に出たキアラが左前脚へと拳を突き出す。だがグレートウォーウルフはダンをシールドごと踏みつけ、逆に左前脚をキアラへと振る。


 キアラは拳の勢いを殺さずに、それをグレートウォーウルフに寄る方向に回転しながら避けて回し蹴りを放った。


「!」


 しかし流れるような動作で裏をかいたように見えたキアラの攻撃も、グレートウォーウルフは瞬時に脚を引いて避けてしまった。


 そして蹴りを空振ったキアラに、再び左前脚が振られる。


「きゃぅっ!」


 咄嗟に腕をクロスして頭を守ったキアラだったが、強い衝撃に大きく後方に飛ばされて地面を2回ほど跳ねる。


「キアラ!?」


「ぐ……こ、のっ……」


 キアラは即座に起き上がって口の中の血を吐き捨て、再び攻撃の姿勢に移る。だが胸の前に構えた両腕は酷い内出血を起こしてあらぬ方向に曲がっている。


 アッシュとしては、その状態でまだ戦おうとするキアラを少し怖く思ってしまう程であったが、それよりもまずはやらねばならないことを実行する。


「アイリ! 悪いけど匂玉使うよ。後、火の玉お願い! 連射で!」


「おーけー! 四の五の言ってられないみたいだしっね!」


「!!」


 アイリはロッドを振るって次々と火の玉を飛ばす。


 木に当たらないよう道沿いに真っ直ぐ、かつ途中で消えやすいよう弱めの調整ではあったが、ウォーウルフ達には効果覿面だったようで大きく後方に下がる。


 アッシュはその隙に匂玉を投げる。匂玉はガスを噴射しながらグレートウォーウルフの方へと道を転がっていく。


「グルルルル…………クゥーン……」


 低い唸り声を上げていたグレートウォーウルフだったが、ガスが広がっていくと大きな身体を震わせて急に弱々しい鳴き声を上げたかと思うと、凄まじい勢いで走り去って行った。


「よし行った! レイはキアラの腕の向きを直してあげて! ダンはキアラのナックルを外してあげて!」


「ん」


「わかったぞ」


 レイはキアラの左肘にそっと手を当てて持ち上げ、ダンはナックルを手に取って引っ張る。


「はっ……! ふぅっ……ふっ……!」


 戦闘の緊張が解けたためか、キアラは涙を滲ませ歯を食いしばり、肩を上下させて荒く呼吸をして痛みに耐えていた。


「キアラ。痛いけど少し我慢」


「ぃ!! っ!!」


 レイはキアラの腕を少し捻りつつ向きを正す。そして腕を下ろさせると、すぐに右側に回る。


「もう1回」


「ぅっ!! ぁ!」


 キアラは呻きながらもなんとか耐える。


「アイリ、法術お願い!」


「ほい!」


 アイリはロッドをキアラに当てつつ回復の法術を使う。アッシュも端末から修復薬を取り出して蓋を開けた。


「飲んで」


 アッシュはキアラの口元に修復薬の容器を運んで傾ける。バランスが難しく少し口の端から修復薬が垂れるが、キアラは構わず修復薬を飲んでいく。


 普段なら激しく怒るであろう事に文句の1つも言わずに従う辺り、キアラの心情が伺い知れた。


 アイリの法術とアッシュが飲ませた修復薬の効果で、内出血も段々と小さくなっていく。


「ぅっ……ぐす……」


 キアラはダンからナックルを受け取って端末にしまいながらも、まだ目に涙を浮かべていた。


「もう痛みは無い?」


「……」


 キアラは黙ったままコクリと頷く。


「……今回はもう戦闘は避けた方がいいね」


「なら早く戻ろ。匂玉使ったけど、どれだけ効果があるかは私も予想できないからさ」


「了解。行こう」


 落ち込んだような雰囲気のキアラを気に掛けつつ、アッシュはベースのある西の廃墟へと足早に歩き出した。

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