赤い瞳
ここはどこだろう。
目を開けると新月の夜より深い闇だった
どうしてここに?
考えるほど思考は迷宮へ迷い込んだ
誰かいるの?
耳を澄ますと深海のように静寂に包まれていた。
歩かなきゃ
足を地につけた瞬間気がついた
地は夥しいヒトの亡骸でできていた
私は一度目を見開いたものの驚きはしなかった
歩けど歩けどこの闇の出口は見つからない。
意識がはっきりしていくうちに
闇は燃える街の姿
深海は人の阿鼻叫喚へと変貌していた。
雨粒が私の頬を叩き
涙と混じりあっていた。
この死体の数は私の罪の数
頭から全身へ響く鈍痛と闘いながら
辿り着いたのは私がかつて妹と暮らしていた家
両親は私たちが小さい頃に死んだ。
殺された。戦争に。
それからは私も妹も生きるのに必死だった。
明日のパンのために非道な事だってした。
私は戦争を憎んだ。両親を殺し、生き延びた私と妹を苦しませてきた。
だから殺した。殺し合いを始めた者、私を殺そうとする者、命乞いをする者、家族を守ろうとする者、妊婦に老人女も子供も。みんな殺してやった。
だって仕方ないじゃないか。もう私にはそれしか残っていないのだから。
この家もいずれは燃えてなくなる。
優しくていつも内向的な私のそばにいてくれた妹
彼女を手にかけた時に使った自動拳銃が棚に
あったっけ。
闇の出口を棚から探し出した私は願う
どうか彼らの死が報われますように
そう願いながら彼女は撃鉄を起こした。
外では赤い目の鴉が鳴いていた