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手記、7つ目の世界にて(セブンス・メモリーズ) 作者:記憶の苗博物館
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第9話


「なぁリファ、少し聞きたいことがあるんだが」
「何よ」

 主人の後ろに控えたサラ、食後の――――と言っても、グランは一口も料理を口にしてはいないが――――紅茶を啜るリファとグラン、パンを小さく千切って食べているアイリスと、昨日とほぼ同じ構図で催されていた朝食は特に会話もなく静かに進行していたが、グランはあっさりとその静寂を破ってリファに声を掛ける。

「昨日の依頼についてだ。婿がどうとか、の」

 グランの一言に、リファはブフッ、と紅茶を噴き出して咳き込む。サラは慌てることもなく懐から出したハンカチで主人の顔を拭きに行くが、その顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いていた。

「おやおや、そんなことまで言ってしまったのでスか、お嬢様?」
「うるさいわよ!……まぁ、説明不足どころの話じゃなかったわよね。少し時間もあるから、改めて依頼の内容を言うわ」

 リファの顔が真剣なものに変わる。こういう時の切り替えは出来るようで、それにもう照れなどは残っていない。そして、依頼内容を申し付けた。

「『指輪の試練』。これの護衛を、グランツ・ソーマ。あなたに依頼するわ」

 その後、リファの口頭からあった説明を纏めると、次のようになった。
 『指輪の試練』とは、アイルメスト家に代々伝わる儀式のようなものであり、これを達成すればアイルメスト家で一人前であることを認められる。逆に言えば、これを成さねば一人前とは認められないということでもある。そして、その試練の内容は、名前通り指輪を取って来ることなのだが、指輪のある場所に問題があった。

「指輪の所在地は、カシゴ鉱山。その奥地よ」
「カシゴ鉱山……なるほど。少し前までなら大丈夫だったろうが、今行くとなると危険だな」

 そう言って、所在地を聞いたグランは訳知り顔で頷いた。
 カシゴ鉱山。青龍の国東部に位置する、豊富な鉱産資源を産出している山である。グランの発言通り、以前までは採掘者たちだけでも安全なほど、程度の低い魔物しか生息していなかったのだが、現在は全く違う様相を呈していた。
 サラは一歩前に出て、補足説明を加える。
「二ヶ月ほど前のあの事件から、カシゴ鉱山には採掘に行くのに騎士団の護衛が必要な程強い魔物が現れるようになりました。それ以前であれば、お嬢様お一人でも試練を突破出来るはずだったのですが」
「なんと、昨日みたいなサラマンダークラスの魔物が跋扈するようになったわけよ」
「で、死にかけた、と。面白(おもしれ)えやつだな、お前は」

 うぐ、とリファは言葉を詰まらせ、くくく、と口元を歪めたグランを少し睨む。

「し、仕方ないじゃない!ちょっとした調査のつもりだったのが、あんなのに追い回されたんだから」
「対応が遅れたワタクシ共にも問題はございましたが、外に出る時は護衛を付けるように言っておいたでしょう、お嬢様?」

 リファはサラの追撃に再び口ごもる。そこに、ご馳走様でした、と手を合わせたアイリスが疑問を述べた。

「山に入れないなら、その試練自体を延期すれば良いではないですか。今聞く限りでは、刻限があるようには思えませんでしたが」
「……う、それはそうなんだけど……」
「お嬢様が言いづらいのでしたら、ワタクシから言わせていただきまスが」
「い、言う!言うからちょっと待って!」

 サラが説明をしようとしたのを止めて、リファは少し呼吸を整える。そして説明を始める。

「アイリスの言う通り、試練自体に期間の制限はないわ。でも重要なのはそこじゃなくて、これは誰でも受けられるもの、ってことなの。もちろん、事前に人となりの下調べはされるけどね」

 アイリスとグランの二人がなるほど、と頷きかけたところで、サラが口を挟む。

「お嬢様、まだ説明が足りないのではないでスか?」
「……そうだな。それがどうして婿云々に繋がるんだ?」
「あ、えと、それはその……」

 グランが疑問を口をすると、答えを知るリファは頬を掻きながら顔を逸らす。そんな主人を見かねたサラが説明を加える。

「お嬢様から説明があった通り、『指輪の試練』というのは、アイルメスト家で一人前に認められる儀式でス。ここまでは宜しいでスか?」
「ああ、続けてくれ」
「ありがとうございまス。……元々、これはお嬢様は達成する必要のないものなのでス。何故なら……」
「女だから、か?」

 サラの言葉を遮ってグランが答えを出す。それにサラは軽く頷き、話を続けた。

「その通りで御座いまス。先程お嬢様の言った、誰でも受けられるというのは少し語弊がございまして、アイルメスト家の跡継ぎ候補が受けられる試練なのでス」

 サラの言葉に今度はグランが紅茶をブフッと噴き出した。ひとしきり咳き込んだ後、カップを載せた皿をテーブルの上に置いて、自分の考えを口にする。

「ま、待て、と言うことはそれを達成すれば、俺はこの家に入らなきゃならんのか⁉︎」

 狼狽するグランの疑問に、その姿を見て赤面から復活したリファが答える。

「だからあたしは、『護衛』って言ったのよ。これは本当に説明不足だったけど」

 まだ動揺から抜け出せずにいるグランに少し厳しい目線を向けながら、食後の紅茶に口を付けていたアイリスが反応を返す。

「成る程、あくまで試練を突破するのはリファさん、と言うことですか」
「そういうこと。あたしが指輪を取ってくれば、お父様が候補に挙げてる連中を跡継ぎになんかしなくていいもの」

 わざとらしく肩を竦めたリファに、アイリスはさらに突っ込んだ質問をする。

「ということは他にも候補がいると? であれば、そちらに頼めば良いではないですか」
「嫌よ。だって誰も彼もあたしじゃなくて、この家にしか興味ないし。それに……」

 頭を抱えるリファに対し、それに? と、ある種鸚鵡返(おうむがえ)しに質問を重ねるアイリス。頬杖をつきながらリファはすっぱりと返答した。

「……弱いのよ。あたし、自分より弱い人は基本的に男として認めないから」

 はぁー、と大きいため息をつき、リファが紅茶の残りを飲み干したところで、漸く混乱から脱したグランが会話に参加する。

「まあ家の話だか何だかはよくわからんが、取り敢えず俺は、あんたの護衛をすればいいんだな?」
「ええ。報酬も弾ませて貰うつもりよ。もっとも……」

 と言いかけたところで、リファは席を立ってツカツカとグランに詰め寄る。そしてグランの胸に指を付けてこう言った。

「別に、あんたが指輪を取って、来ても、構わないんだ……けど……」

 後になるにつれ声を小さくしながらも、何とか言い切り、耳まで赤く染めたリファは、目をグルグルとさせながら、サラに一言申し付けて部屋を飛び出していった。

「じゃ、じゃあ、依頼の件はよろしく頼んだわよ!日取りはまた夕食の時にでも言うから!サラ!あ、あたしは先に広場に行っとくから、後よろしく!」

 サラがかしこまりました、と返答する前にバタンと勢い良く扉が閉められた。出て行く背中を見届けたグランが呟く。

「あんなに恥ずかしがるなら、言わなきゃい……(いだ)だだだだ」

 呟きを聞いていたアイリスはグランの耳を引っ張って部屋の外に出ようとする。

「サラさん、朝食ありがとうございました。とても美味しかったです」
「痛い痛い痛い!」
「まあ、それは良かったです。昼食はどうなさいますか?」
「耳!耳取れるから!」
「昼食は街で食べることにします。調べ物があるので、酒場にでも行こうかと」
「では、夕食をご用意してお待ちしておりますね」
「それは楽しみですね。では」

 恭しく一礼するサラを背中に、二人は食堂の外に出る。そこでようやく耳から手を離されたグランは耳を抑える。

「おおう……マジで取れるかと思った……」
「全く、あなたは昔からデリカシーというものが無さ過ぎます」
「だからってなぁ……って、お、お?」
「ほら、行きますよ」

 困惑するグランが反論しようとしたところで、自分の腕をグランのそれに絡めたアイリスは、目を合わせないようにして玄関まで引っ張っていこうとする。その頰は若干膨らんでおり、どう見ても不機嫌だった。ズルズルと引きずられながら、体勢を立て直し隣を歩き始めたグランは機嫌を取ろうとする。

「なあ、何に怒ってるんだ?」
「自分で考えなさい」
「……………」

 すげない態度に閉口したグランは、大人しく腕を組んだまま、街へ繰り出す事になった。









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