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まさかの新事実発覚

なんとか少量の食べ物を手に入れた京也、残る課題は···

 風子達の所へ引き返す途中に、荷物に入っていた果実と団子を少量齧ってみたが、どちらも問題なく食べることができた。



 果実は甘酸っぱい青リンゴのような味と食感、団子は穀物をすって丸めたような味で、パサパサしており正直あまり美味しくなかった。



 風子達の近くまでもどってきた京也は、女の意識がまだ無いことを確認した後、荷物から紐を取り出し手と足を縛る。



 悪いとは思うが、また襲い掛かられてはたまらない。



 女を縛り終えた京也が風子達の方へ向かうと、



「なんだ?その目は」



 近づいて来た京也を、風子はキラキラした目で、ソウはジト目で出迎える。



「京也さんはそういう趣味だったんですね!」



 そんなことを言ってきた風子を、京也は無言で掴んで全力で森の方へ投げ飛ばす。



 「へ?あぁぁぁぁぁ!!!!」と言う断末魔を残して風子は森の彼方へと消えていった。



「まさかお前も同じような事考えてるんじゃないだろうな」



 風子の飛んで行った方を見上げていたソウを睨みながら、京也が問いかける。



「いいえ、縛った事に対して思うところがあったのは確かですが、あそこまで馬鹿丸出しの精霊と一緒にされるのは心外です」



「だろうな。で、思うところってのは何なんだ?」



「んー、まだ確証はありませんのでなんともいえませんが、襲ってきた女とこの子供は知り合いなのではないかと」



「この二人が知り合い?」



 考え込むように眉間にシワを寄せたソウが言うには、京也に襲い掛かっている時に意識を読んだ時、女は『あの子を助ける』という強い意識を持っていたそうだ。



 おそらく女も村の住人で、知り合いという可能性は高いだろう。



 しかし、ソウによればただの知り合いに向ける感情にしては、やけに強い意識を感じた為、確証が持てないとのことだった。



「なるほどな」



 ソウの話を聞き、京也は腕を組んで考察するが、もちろん答えは推察の域を出ない。



「本人に確認するのが一番手っ取り早いか・・・」



「でしょうね」



 意見を一致させた二人は、とりあえず少女を起こすことにした。



 女に聞くと言う手もあるのだが、襲ってきたことを鑑みるに、まともに会話が成立するかわからない為、無難な選択肢として少女に話を聞くことにしたのだ。



「おーい、起きろー」



 疲労の回復はしたとはいえ、まだ万全ではないと思われる少女の肩を、京也は声をかけながら軽く揺する。



 すると、少女は薄ら目を開け、軽く辺りを見回した後、京也と目を合わせた。



「これを食べた後でいいんだが、少し話が聞きたいんだが」



「・・・」



 荷物から果実を取り出だして、少女に差し出しながら京也が言うと、京也の顔と果実を何度か交互に見た後、ゆっくりと起き上がろうとする。



 やはり、まだ本調子ではないようだったが、途中で力が抜けそうになるのを京也に支えられて起き上がり、京也の差し出した果実を受け取ると口に運ぶ。



 リスが齧る様に少しずつだったが、自分で食べている姿にほっとした京也は、少女に自身のことなどについて質問することにした。



「名前は何て言うんだ? ちなみに俺の名前は橘京也だ」



「・・・」



「森で倒れてたんだが覚えているか?」



「・・・」



「えーっと・・・、どこから来たかわかるか?」



「・・・」



「・・・」



「・・・」



「何を見つめ合っているんですか」



 果実を食べる手を止め、京也を見る少女はまるで京也の質問に答えない。



 質問しても答えない少女と、回答してもらえず黙ってしまう京也が見つめ合う姿を呆れた顔で見ながらソウはため息をつく。



「まいったな、声が出ないのか?」



 困り果てた京也は、頭を掻きながらどう質問していいか首をひねって考える。



 そんな京也の様子をじっと見つめていた少女も、首を少しかしげる。



「声が出ないのではなく、何を言っているかわからないのです」



「は?」



 一向に進展しない状況を見かねてソウが助け舟を出すが、それを聞いた京也は間の抜けた声を出して呆然とする。



「何を言ってるか解らない?」



「そうです」



「耳が聞こえないってことか?」



「はぁー、解ってて言ってますね・・・。違います、言葉の意味が解っていないんです」



「・・・」



 考えないわけではなかった。



 自分が居るは異次元の弥生時代。元の次元の日本語が通じないのではないか、と。



 しかし、今まで話しをした風子やソウは普通に日本語でコミュニケーションが取れていたため、日本語が通じる、もしくは埴輪の力で都合よく翻訳されていると思い込んでいた。



 しかし現実は違った。



 風子やソウは精霊であり、意識を読んで京也にあわせて回答していただけで、普通の人間である少女に京也の日本語は通じていなかったのだ。



 心辺りはある。



 水を差し出したときや、チョコレートを食べさせた時、口に触れさせなければ開けなかったが、それは拒否や開けられなかったからではなく、単に京也が何をしようとしているか理解できなかったからなのだ。



「マジかー・・・」



「マジです」



 うなだれる京也を、首をかしげて見つめていた少女に首を横にふり、果実を持った手を口に持っていくように動かす。



 京也から目線をはずして果実を見た少女は、一口果実を食べるとまた京也を見る。



 そんな少女に首を立てに振って答えると、少女はまた少しずつ果実をかじり始めた。



 果実を食べる少女をささえながら、京也は途方にくれる。



 これから先、精霊としか対話できずに生きて行けるだろうか。



 少なくても精霊とは対話できる為、なんとかなることもあるだろうが、なんともならないことの方が多い気がする。



 町に立ち寄っても会話できないので、食べ物が手に入らない。寝床も確保できない。それに・・・



「なんでいきなり投げ飛ばすんですか!?」



 先行きの不安材料の多さに、頭を抱えて悩んでいた京也の目の前に、先ほど星にしたはずの風子が飛んで来て怒りの声を上げる。



「お前が馬鹿なこと言うからだろ」



 あまり機嫌が良いとは言いがたい京也は風子を睨みながら低い声で答える。



「うっ・・・それは・・・ちょっとした冗談じゃないですか!」



「わかったからちょっと黙ってろ。今お前と遊んでる気分じゃないんだ」



 頬を膨らませる風子を軽くあしらって、再度これからのことを考え眉をひそめる京也。



 そんな意識を読み取ったのか、風子が「どうしたんですか?」と、先ほどまでの怒りを霧散させて問いかけてくる。



 ため息をつきながら風子が飛んでいった(飛ばされた)後にあったことを簡単に説明した。



 それを聞いた風子は何を言っているんだ、というような呆れた表情を見せ、



「ソウが仲介すればいいだけじゃないですか?」



 と、当たり前のように言う。



「あぁ?」



 何を言っているかわからないと、怪訝そうな顔をする京也の顔を、少女は首をかしげながら見つめるのだった。



※※※ ※※※



 時間は少し戻って少女が目を覚ました時、



 揺さぶられる感覚に気がつき、目を覚ました少女の目の前には、また男のあの顔があった。



 少し前、突然襲ってきた激しい頭痛に、弱っていた少女はすぐさま意識を失った。



 しかし目が覚めた今は、頭痛どころか体のだるさすら消えており、万全とまで行かないが空腹を感じるくらいには回復していた。



 男がススモモの実を取り出し、差し出すのを自然と受け取ろうと体を起こそうとするが、途中で力が抜けてしまい倒れそうになる。



 しかし倒れる前に男に支えてもらい、なんとか起き上がってススモモの実を手に取った。



 空腹の為、自然とススモモの実にかじりつくと、なつかしい味が口の中に広がり、つい夢中になって口を動かす。



「ナマエハナンテイウンダ?チナミニ、オレノナマエ、ハタチバナキョウヤ、ダ。」



 男が何か言っていることに気がつき、男の方を見るが、男がなんと言っているかわからない。



 それからも何か言っているが、聞き取ることは出来るが、何を意味しているのかはまるで解らない。



 答えないことに、困った表情をしている姿を見ていると、不意に男が目線をそらして足元の白い靄のに向けて何か言い出した。



 間の抜けた表情をしたり、落ち込んだ入りと、百面相しながら靄の方を向いて何か言い続ける男を不思議そうに見ていると、思い出したように目を合わせて首を横にふる。



 その後、手を取られて少し驚いたが、ススモモの実を口元まで持ってくるので、食べろということかと思い、そのまま一口食べる。



 これでいいのか確認を求めようと男を見ると、疲れた表情で首を立てに振るので、そのまま果実を食べ続けることにした。



 しばらく無言のままスモモをかじっていると、男がまた何か言葉を発する。



 また何か言っているのかと男の顔を見るが、男は少女の方を見ておらず、今度は空の方にある靄に向かって一人でぶつ言っていた。



 何をしているのかと疑問に思っていると、突然頭の中に声が響き渡る。



『私の声が聞こえますか?』



「あ、あの・・・、はい。聞こえます」



『よろしい、ではあなたにいくつか問いかけますので素直に答えなさい』



「え、あ、あの・・・あなたは?」



『ワタクシはこの地方の精霊、故あって貴方の心に語りかけています』



 その言葉が聞こえると共に、足元の白い靄が輝いた。



 驚いて目を閉じた少女が恐る恐る目を開くと、そこには純白の貫頭衣を着た、黄色い長い髪をした美しい大人の女性が現れた。

はい、もう一つの不安事項、言葉が通じない事実が発覚しました。異世界モノで定番の自動翻訳は精霊にしか通じません。

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