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おや、ヒョウカの様子が?

ナツの奮闘により餓鬼を撃退して眠りについた京也達、四日目の朝はスムーズに進むのか?

 町を出発してから四日目の朝、京也は辺りに漂う美味しそうな匂いで目を覚ました。


 雲の合間から照らす朝日に目を細めながら当たりを見回すと、左右にサクラとナツの姿は無く、昨日作成した釜戸の前で鍋をかき混ぜているサクラの後ろ姿が目に入った。どうやら近くにナツは居ないらしい。


「・・・・、・・・? アッ、キョウヤ、オキタ?」


 物音が聞こえたのか振り返ったサクラは大きめの木製スプーンを持ったまま、この次元の言葉で答えるが、何か思い出したように京也の言葉で言い直す。


「ああ、おはよう。悪いな、朝食の準備させて」


「エーット、オハヨウ、・・・・・・・、ワルイ、・・・・、チョウショ、ク、・・・、ジュンビ?、・・・・・?」


 どうやら翻訳係がまたもや不在らしい。何とか解る言葉で解釈しているようだが、わからない単語でつまずいてしまっているようなので、わかりやすい言葉を選んで再度言い直すことにする。


「おはよう、朝食、ありがとう、だな」


「アァ! ダイジョウブ!」


 どうやら伝わったようで、スプーンを握ったままサクラは満面の笑みで答える。


「それにしてもあいつら何やってるんだ?」


 伝わったのはいいが、いつもの翻訳係が二人に加え、ナツまで居ないというのも珍しい。事情を知っていそうなサクラに単語を羅列して聞いてみたところ、おそらくナツは巻き拾い、風子は空の彼方に飛んで行って戻ていないらしい。ヒョウカに関してはどうやら朝から姿を見ていないようだ。


 サクラの片言の言葉を何とか聞き取った後、どこかに行っているナツと風子はともかくヒョウカは水筒から遠くに行くことが出来ないのでまた水筒に引きこもっているのだろうと、荷物の端に置いていた水筒を手に呼びかけてみる。


「おーい、ヒョウカー、引きこもってないで通訳してくれないかー」


「何でしゅの、あんまり体調がよくないんでしゅから静かにしてほしいのでしゅわ」


「悪い、わ・・・る・・・、って本当に大丈夫か?」


 明らかに不機嫌そうな声と共に頭を押さえながら水筒の横に姿を見せたヒョウカに、精霊にも体調不良があるのかと感心しながら謝ろうとしたのだが、その姿を見て体調を本気で心配する。


「だから体調が悪いと・・・、って、何て間抜けな顔をしてましゅの?」


 京也を見上げて怪訝そうに問いかけるヒョウカだったが、京也が間抜けな顔になるのも無理は無い。


 なぜなら、


「どうしたんだその姿?」


 いつものヒョウカの姿はソウ地方の瓢箪池の精霊をねんどろいどにしたような二頭身なのだが、なぜか今は瓢箪池の精霊をそのまま小さくした普通の人間のような容姿になっているのだ。変わっている点は他にもあり、薄い水色だった髪には銀色のメッシュが数本入っており、真っ白だったシンプルドレスは上部が白、スカート部分は黒と銀色のフリル付きの縞模様になっている。

 

「姿? 何を言ってましゅの?」


 怪訝そうな顔をさらに眉間のシワを深くしてスカートを持ち上げたり、髪をいじったりするが、どうやらまったく自分の変化に気が付いていないようだ。


 そういえば分体であるヒョウカはどうか解らないが、精霊などの容姿は京也の思考から出来ているはずだ。そうなると、京也の中でヒョウカの認識が変わったっと言うことになるのだが、本人がまったく気が付かないということがあるだろうか? 初めて風子に会ったときにも可愛い姿で想像してくれてありがとうなどと戯言を言っていたはずだから認識できないということは無いはずだが。


「サクラー、ちょっと来てくれるかー」


 不信に思った京也は調理を続けていたサクラを呼んで確認してみることにした。


 振り向いたサクラに言葉がわからなくても意図が通じるようにおいでっと手招きすると、首をかしげた後に調理器具を置いてパタパタと京也のそばまで駆けて来る。


「ドウカシ・・・タ・・・、・!?・・・・・!?(え ヒョウカ様)


「何を当たり前な事を、まったく二人して何を言ってましゅの?」


 何を言っているか京也には解らないが、おそらく驚いているであろうサクラの様子を見る限りヒョウカの姿はやはり変わっているようだ。


 いつも二頭身で向けられていた呆れた表情を今の顔で言われると池の精霊に言われているようで若干イラッとする。と言ってもこの《・・》ヒョウカも池の精霊なのだが。しかもその容姿にも係わらずしゃべり方がデフォルメされていた時と変わらない為、違和感が半端じゃない。


「サクラにも驚かれるってことは、俺の思考がおかしくなったわけじゃ無さそうだな」


「エ、・・・、ナンデ・・・・、・・・ノ?」


「サクラ、落ち着け、混ざってるぞ」


 あまりの驚きに片言と元の言葉が混ざってるサクラはその後もなんと言っているかわからない言葉を繰り返す。どうやら落ち着くのにはもう少し時間がかかりそうだ。


 その様子に不満な表情をするヒョウカだったが、ヒョウカの変化はそれだけでは終わらなかった。


「ホントに何でしゅの今日のご主人様達は・・・、って、は? 私、今何て言ったんでしゅの?」


「いやいや、それはこっちのセリフだ。何だ、ご主人様達って?」


 今まで頑なに京也の事を貴方としか呼ばなかったヒョウカがいきなり『ご主人様』などと呼び出したのだ。言った本人であるヒョウカまで理解できていないようで唖然とした表情のまま、


「いえ、でしゅから、ご主人様が、って違いましゅわ、どういうことでしゅの? あれはご主人様じゃありましぇんの、あれはご主人様なのでしゅから・・・そうじゃありましぇんの!?」


 と、もはや自分でも何を言っているのか解らない状態になり、永遠に「ご主人様がご主人様で」っと繰り返しながら目を渦巻き状にしている。


「どうなっているだ? やっぱり俺の思考が・・・」


「アレ・・・・、・・・ル? ・・・」


「ご主人様はご主人様でしゅわ。いいえ!?違いましゅわ!? ご主人様はご主人様でしゅから・・・」


「ただ今帰りました!! ってなんですか!? このカオスな状況は?!」


 そんな状況の中、空気の読めないことに定評のある風子が何処からか舞い戻り、辺りを見回して驚きの声を上げる。


「あ、ああ、風子か、実はな・・・」


 風子の声を聞き、真っ先に我に帰った京也が事情を説明すると、風子は少し考えるようなポーズを取った後、ご主人様ご主人様と連呼するヒョウカに近づき「えぃ!」という掛け声と共に精霊の力の色が乗った拳を頭に振り下ろす。


 突然何をするのかと京也が驚いていると、強打されたヒョウカの頭から今まで見たことの無い白い幕のような物が浮き上がる。


「なるほど!」


「このアホ精霊!! なんてことしましゅの!?」


「アホ精霊呼ばわりはあとで制裁しますので置いて起きますが、ヒョウカは今自分が何の精霊か解ってますか?」


「何を言ってましゅの、そんなの池の・・・なっ!? どういう事でしゅの!?!?」


 衝撃を受けたことにより正気を取り戻したヒョウカはその暴挙に反撃しようと飛びかかろうとするが、風子の言葉に一瞬眉間にシワを寄せて考え込んだ後、衝撃を受けたような表情を浮かべる。


「やっと気が付きましたか!」


「おい、お前らだけで勝手に解決するな。いったいどういうことだ?」


 近くに浮いていた風子をつまみ上げて問いかける京也に、風子はヒョウカの方をニヤニヤしながら横目で見て「それはですね~」ともったいぶった風に前置きする。それに気が付いたヒョウカは「や、待つんでしゅ・・・!!」と言いかけるが、それを言い終わる前に風子は真実を口にする。


「なんと! ヒョウカは真空断熱式ステンレス水筒の精霊になっっているんです!!」


 高らかに宣言した風子の言葉に、独り言を繰り返していたサクラを含めて一同は言葉を失って呆然とする。


「え? あれ? ここ笑うところですよ? 反応薄くないですか?」


 風子はその対応が不服だったようで、京也につままれたまま首をかしげているが、言われたヒョウカは「嫌でしゅわーーー!!」と顔を赤くして地面に膝をついて嘆いている。


 しかし、それに京也とサクラはついていけず、反応する事が出来ない。


「いや、反応が薄いって言われてもな・・・、ヒョウカは池の精霊の分体だろ? 何で水筒の精霊になるんだ?」


「何でこうなったかは私にも解りません! ただ・・・」


 風子の話によると、現在ヒョウカは池の精霊の分体兼水筒の精霊となっているらしい。通常一人の精霊が二つの概念や物の精霊となる事はありえないらしいのだが、ヒョウカの場合元々が分体の為、こういった状況になっているにでは? との事だった。因みに分体から別の精霊になる事があるのか聞いてみたところ、こちらは無いことは無いとの事だった。


「つまり、外見はヒョウカが精霊になったので、元の池の精霊のヒョウカさんが作った見た目から京也さんの認識に変わって、水筒の持主である京也さんはご主人様ってわけです!」


 一通りの説明を終えた風子は腰に手を当てて、どうだ! とでも言いたそうな雰囲気だが、京也に摘まれたままになっている為、全く格好はついていない。


「まあ、なんとなく状況は解った。どうしてそうなったか考えるのは保留にして、これからどうしたらいいんだ?」


「別にどうもしなくていいんじゃないですか?」


「よくありましぇんわ!? 歴史ある池の精霊である私が一個人の物の精霊になるなんて納得できましぇんわ!?」


 事をさらっと流そうとした二人に当の本人であるヒョウカが意義を唱える。池の精霊といえば、その土地を管理する精霊を補佐する重要な役目を負った精霊であるが、ヒョウカに言わせるところの物に宿る精霊とは、たた何もせずに長期間経って意識が宿っただけの存在らしく、そんな存在になることはどうしても納得できないらしい。


「そんなこと言っても、もう戻れないんじゃないですか?」


「しょ、しょんなことは・・・」


目を逸らしながら否定するヒョウカだったが、結論から言うと結局元にも戻ることは出来なかった。元々居たはずの意識の弱い水筒の精霊がヒョウカに力を譲渡して消えてしまっている為、今の状態を改善するには一度ソウ地方の池に戻って水筒を空にして分体としてリセットしなければならなかったのだ。


 そしてその方法自体にもヒョウカは難を示した。今の状況をリセットした場合池の精霊と切り離されて生まれた自我が消えてしまうことを危惧したようだ。


 以前話た時に言っていたが、分体のヒョウカの意識は本体とは少しずつズレが生じてきているらしく、それにより池の精霊の分体として存在出来なくなる可能性があった。


 実は朝、風子が居なかったのもヒョウカの意識すり合わせの為にソウ地方に分体ヒョウカの旅の記録である精霊石を届けていたかららしいのだが、先ほど本体から託された精霊石をヒョウカが取り込もうとしたとこが出来なかった。見ることは出来るようだが、自分の記憶としては認識出来ないらしい。おそらく水筒の精霊になった影響だろう。


 本人は不本意なようだが、こうして図らずもヒョウカは水筒の精霊になることによって消滅の危機を回避した。


 因みに風子に頼んでもう一度本体に精霊石を本体に持って行ってもらったところ、向こうも同じ状態になったようで、本体のヒョウカが「何故ですのー!?」と絶叫していたそうだ。


「というわけで、諦めるんですね!」


「どうしてこんな事になったんでしゅの・・・」


 風子に見下ろされてながらうなだれるヒョウカ自身は気がついていないが、こんな状況になったのは京也とヒョウカの二人共が原因だ。卑弥呼の街に泊まった夜からヒョウカは京也が問いかけた『分体になって良かったか?』という問いに関して考え続けていた。その答えが出ないまま、昨日の餓鬼との一件で妖怪の一部が精霊の分体であると知り、分体そのものに疑問を持ったことが原因だった。


 結果、ヒョウカが分体という存在に疑問を持ったことにより、その意識を読み取った水筒の精霊が気を使って力を譲渡した為、ヒョウカは水筒の精霊となったのだ。力の弱い水筒の精霊としてはヒョウカに管理を譲った形なのだが、あまりに意識が弱いためヒョウカすらそれを気が付くことが出来なかったのでこんな状況になっている。


 そんな事とは露ほども知らないヒョウカは、薪を抱えたナツが帰ってきた後もショックからかうなだれ続け、途中から話についていけなくなって一足先に準備に戻っていたサクラが作った朝食を京也達が食べ終わるまで回復することは無かった。

はい、ヒョウカリニューアルです。水筒の精霊ということでちょっとカラフルになりました。

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