世界事情と少女対応関する話
時代背景等が出来てますが、この小説は歴史小説ではありません。ファンタジーです。
そういった視点で読んで頂けると幸いです。
どこまで続くか解らない草原を子供の居る場所を目指して歩きながら、京也は暇つぶしに風の精霊にこの世界について、いろいろと質問をした。
この次元の文明レベルは、埴輪の言う通り京也の世界の弥生時代後期ぐらいらしい。
元の次元と違う所を聞いてみたが、それはよく解らないとのことだった。
風の精霊によれば、京也の意識を読み取ることは出来るが、逆に京也の意識にないことについては、解りかねるとのことだった。
自分の考えを読まれていることに不快感を露わにした京也に、風の精霊は慌ててぼんやりとした意識が読み解けるだけだと説明した。
ともかく、京也の意識の中に正確な弥生時代のイメージが無いから比較が出来ないということだ。
生き物に関しては、猛獣などはいるが京也の持ったイメージとそんなに変わらないものらしい。
それを聞いた京也は、安心するのと同時に動物園などの猛獣がそこらに居る可能性を考えて軽く身震いする。
動物園の猛獣は、檻の中で管理されていから安心して見ることができるのであって、野生で遭遇して京也が太刀打ちできる存在とはとても思えない。
早めに身を守る手段を考えなければならないと思う京也だったが、今の手持ちとこの時代の物で何とか出来るものだろうかと不安を拭う事が出来なかった。
※※※ ※※※
2時間ほど歩き続けた京也は、休憩にちょうどよい岩を見つけると、一息つくことにした。
バイトを掛け持ちをしていた京也は、体力が無い方ではなかったが、歩きにくい草原を休みなしで進み続けることが出来るほど鍛えられていない。
バイトの経験上、一度に無理して強行するより適度に休憩を取りながら進む方が結果的に効率が良いと思っている。
「そういえば京也さん!」
ショルダーバックから水筒を取り出し、水分を補給していると、相変わらず肩に乗っていた風の精霊が足をぶらぶらさせながら京也に問いかけてる。
「どうしたんだ?」
「私っていつまで風の精霊って呼ばれ続けるんですか?」
風の精霊は、京也の事をいつの間にか勝手に『京也さん』と呼んでいたが、京也は風の精霊とそのまま呼んでいた。
「呼ばれ続けるもなにも、お前は風の精霊だろ?」
「そうですけど、次元の精霊様は埴輪で、ソウ地方の土地精霊はソウって呼んでいるじゃないですか! 私にもなにかあだ名がほしいです!」
「そうだなー・・・」
確かに、他の精霊はあだ名みたいなものを付けて呼んでいるし、風の精霊と毎回言うのも面倒な気もする。
そこで京也は、何かいいあだ名はないか考える。
ここまで歩いている間、色々話をしていたこともあって、京也のぞんざいな態度も少しは角が取れていた。
出会った直後であったら、あだ名をつけるなど面倒だからと『おしゃべり精霊』とでも呼んでいただろうが、今ではちょっと考えてもいいかなー、と思うくらいにはなっている。
呼びやすさと本人らしさを兼ね備えたあだ名を考た結果、
「じゃあ、風子だな」
「安直!?」
風子とすることにした。三文字で呼びやすく、風の精霊らしい名前だと京也は思ったのだが、これに風子は食ってかかる。
「いくらなんでも安直すぎませんか!? 風子って!? しかもこのファンシーな見た目全力無視ですか!?」
「いいじゃないか、風子。呼びやすいし」
「そんなところに効率性なんて求めないで下さいよ!? 風に由来するって言っても、もっとあるじゃないですか!? ウィンドからとってウィンとか! 英語以外に訳すとか!?」
「じゃあウィンでいいよ」
「じゃあってなんですか!? 適当じゃないですか!? もっとちゃんと考えてくださいよ~!!」
肩の上で襟首を掴んで手足をバタつかせる風の精霊に、先ほどまで多少改まっていた態度を考え直そうかと京也が鬱陶しそうに睨む。
それを敏感に感じ取った風の精霊はバタつくのを止め、涙を流しなから「もう風子でいいです~・・・」と諦めるのだった。
この時、京也の付けた風子と言うあだ名は、後の世で風の精霊=フーコと浸透することになるのだが、それはまだ先の話である。
※※※ ※※※
あだ名を付けたりしながら30分ほど休憩した二人は、再び目的地に向かって歩き出すことにした。
相変わらず風子とは、この次元の話や、京也がこの次元に来た経緯、目的である時の精霊の所在などの話をした。
風子が言うには、数十年ほど前に京也の時と同じような歪みが発生したのは知っており、今回と同じよいうに暇つぶしに現場に向かったそうだが、特に変わった様子はなかったらしい。
埴輪が時の精霊をこの次元に送った時の歪みかも知れないが、その場に時の精霊が居なかったということなので、それ以外の可能性もある。
また、現在の時の精霊の位置はまったく解らないとのことで、風が吹くような場所には居ないのではないかとのことだった。
「時の精霊がこの次元に来た目的がもっとはっきりわかれば手がかりになるんだろうがな」
「そうですね! 時間の流れがおかしいって表現が曖昧ですからね! あ、あそこが目的地です!」
草原の中を歩くこと3時間、時の精霊の行方を考察していると、やっと目的地の森が見えてきた。
歩き始めた時より日は傾いており、暗くなる前に目的地に到着できた事に京也は安堵した。
目的地はソウの言うと通り、山と草原の境になる森の入口だった。
まだ視認することはできないが、あの付近に問題の子供がいるはずだ。
「風子、その子供の様子はどんな感じだ?」
風子は風が吹く所の景色を見ることができる。
ただし森の中のような極端に風が弱まる所では、薄ぼんやりとしか見ることができないらしい。
まるで監視衛星のようだ。
「ホントに風子で決まりなんですね・・・」
「なんか言ったか?」
「いえいえ! なんでもないです!! こ、子供の様子ですね!」
風子は額の上に手を当て、遠くを見ているような顔で目を細める。
「えーっとー、うーんとー・・・」
「どうした? わからないのか?」
「いえ、わからないわけではないんですが、あの状態をなんと表現して良いものか・・・」
「どんな状態なんだ?」
「木の根元に横になってます!」
「まだ泣いているのか?」
「いいえ、意識がはっきりしないみたいです!」
「意識がはっきりしなくて横になっている・・・、はぁ!? それは倒れていると言うんだ馬鹿!!」
風子の言う状態が、意識を失って倒れていると判断した京也はその場から慌てて駆け出す。
肩に座っていた風子が転がり落ちたが、今は気にしている場合ではない。
全力で風子の見ていた方向に走ると、そこにはボロボロの貫頭衣を着た10歳位の少女が倒れていた。
ボブカットの黒髪は土で汚れており、バンダナのように頭に巻かれた布も、擦れてボロボロだ。
「おい大丈夫か!?」
駆け寄った京也が地面から起こして揺さぶるが、少女は少し反応を示すだけで返事が無い。
幸い呼吸はしているようで、息があることに安心した京也は、少し冷静さを取り戻した。
「息はあるようだが、衰弱しているみたいだな」
少女を観察すると、浅い呼吸をしながら苦しそうな表情をしており、全身に力も入っていない。
「置いていくなんて酷いじゃないですか!?」
そこに先ほど京也の肩から振り落とされた風子が不満げな顔で飛んできた。
「悪いがそれどころじゃなかったんだ、風子お前この子がどういう状態かわからないか?」
「この人間ですか? 静かになったみたいですから良かったんじゃないですか!」
「っ!? 良いわけあるか!?」
風子のあまりな言い用に怒りを顕にする京也だったが、等の本人は何を言われたのかいまいち理解できていないようで困った顔で首を傾げている。
それを見た京也は風子が精霊であり、元々人間の話は好きだが人間そのものにそんなに興味が無いのだということを思い知る。
京也のように、風子と会話できる人間は別のようだが、それ以外の人間についてはそこまでの興味が無いのだ。
ソウは泣いていて困っているから何とかしてほしいとしか言っておらず、助けてほしいとは口にしなかった。
その為、風子は『泣いていないから良かった』と思ったのだろう。
今さら精霊との認識の違いを理解して、頭をかかえる京也だったが、今がそんなことを議論している場合ではない事を思い出す。
「とりあえずこの子の意識を読むことはできないか?」
京也は説明することを一端諦めて風子に少女の意識を見てもらうことにした。
「そうですねー、ぼんやりして解りづらいですが・・・かなしい、かわいた、ってとこですかね!」
「『かなしい』はともかく『かわいた』ってことは脱水症状なのか?」
少女の回りを見るが、何かを持っていた様子はない。
ソウの言う事が正しければ、最低でもここで一日泣き続けて、水分も補給していないのだとしたら、その可能性は十分にある。
そう判断した京也は水筒を取り出し、フタに少量の水を出すと少女をさっきより少し強めに揺さぶる。
意識のはっきりしない状態で水を流し込んでもまともに飲むことは出来ない為、すこしでも意識を戻す為だ。
「んっ・・・」
「おい、聞こえるか! 水だ、飲めるか?」
「んんっ・・・」
外からの刺激に、薄らと目を開けた少女に問いかけるが、聞こえていないのか、解らないのか、少女は京也の差し出した水を飲もうとはしない。
「まいったな・・・」
ここが元の次元であれば、救急車なり呼べば専門士が来て、点滴などを行ってくれるだろうが、生憎この次元にそんな物は期待できない。
「しかたないか」
自分で飲むことが難しいと判断しいた京也は、ティッシュを取り出し丸めて水を含ませる。それを少女の口に開かせて入れ、ゆっくり絞っていく。これでも気管に入る危険があるが、他に方法が思い付かない。
同じ作業を何度か繰り返し、少しずつ水を飲んだ少女は、薄っすら意識を取り戻す。それを確認してから、今度はフタを口元に持って行き、直接水を飲ませた。
フタ二杯分どの水を飲んだ少女だったが、疲れたのか再び目を閉じて眠りについてしまった。
「これで少しはましになるといいんだが・・・」
少女を再び横にして、京也は来ていたジャケットを脱いで少女にかけた。
「さて、これからどうするか」
日はさらに傾いており、直に夜になるだろう。
少女のこともそうだが、自分自身も何処か休めるところを探さなければならない。
「もういいんですか?」
少女に水を与えている間、不思議そうに見守っていた風子は、ひと段落ついたのを感じ取り京也に声をかけてきた。
どうやら気をつかって話しかけなかったようだ。初めに会った時に比べたら大した進歩だ。
「とりあえずはな」
そう風子に答えながら、先ほどの認識の違いについて問い詰めようかと思った京也だったが、人間と精霊の認識の違いについてなんと説明していいかわからず、結局何も言わなかった。
「どうしたんですか?」
京也の意識を感じ取り、何かあったと思ったらしく首を傾げる風子に「なんでもない」とだけ答えて、京也は今後のことに意識を戻すことにする。
「さて、宿があるわけないから野宿しないといけないんだろうが、何処にするか・・・」
元の次元で野宿した経験などあるはずもない京也は、とりあえず雨風が凌げそうな所はないかと辺りを見回すが、前は草原、後ろは森、とてもそんな場所は見つかりそうにない。
「どっか無人の洞穴とかあれば雨風が凌げていいんだが・・・」
「近くに洞穴なんて無いですよ?」
「だよなー」
「でも雨風は凌がなくて良いんじゃないですか?」
「どういう事だ?」
また精霊との認識の違いかと思った京也だったが、そうではなかた。
風子は風の精霊だが、今までの経験や風の様子などで、これからどんな天気になるかがなんとなくわかるそうだ。
確実ではないが、この地方で今晩雨が降る可能性は低く、強風吹き荒れるようなこともなと思われることから、雨風を凌ぐ必要は無いのではないか、と答えたのだ。
「そういうことなら、薪拾いしながらすこし辺りを見て回って、よさげなところで焚火でもするか」
あたりを見回し、そんなとことあればいいなーと思いながら、放置するわけにもいかないので風子に少女を見ているように言ってから、京也は森に踏み込むのだった。
この世界で始めての人間との出会いですね、これから京也と少女の二人旅です(意味深)
※私も居ますから!! by風子