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久しぶりのトラブル発生

川原にたどり着いた京也達は水を作りながらゆっくりと夜を迎える。

そのまま平和に過ぎ去っていくと思いきや・・・

 粗方の煮沸作業を終えた時にはすでに日が低い位置に来ており、京也達一行はそのままキャンプの準備に入った。


 幸い川原には砂地でキャンプしやすそうな場所が多くあった為場所には困らず、昼間に釜戸を作っていたり、時間があったこともあって豪華な食事を作ることが出来た。


 豪華と言ってもメニューは川魚の塩焼きと小さな川ガニの入った山菜スープだ。因みに魚はサクラが、カニはナツが取ってきた物だ。京也が矢の練習から放れた後、再度ウトウトしながら煮沸をしていた時に、矢の飛距離が格段に伸びて満足したサクラがナツにカニの取り方を教え、自分は風子と協力して魚を取っていたらしい。


 方法としてはカニはナツの馬鹿力を利用して大きな石をどかして、影に隠れていたモノをすばやく掴むという粗漁法。魚は風子がサクラに魚の比較的手前に居る魚の位置を教え、逃げないように遠くから射た矢を風子が命中するように風で微調整するといった漁法である。以前京也のやったガバガバの漁法と違い、三人で食べるには十分な量を確保して来たサクラを見て京也が肩を落としたのはご愛嬌だ。


 久しぶりの焼き魚は水がきれいなせいか臭みが無く、元の次元で食べたものよりおいしく感じた。カニについても売られている大型のカニなどとは違い、そこまで殻が硬くなくそのまま食べることが出来、独特の味でおいしかった。ただ味付けがすべて塩な為、変わり映えしないのが残念なところだが、贅沢は言えないだろう。


 日が沈みかけた頃、食事を終えた京也達はいつものように寝床を準備して就寝することにした。


 だがその前に念押ししなければならない事がある。


「ナツ、お前はサクラと一緒に寝るんだ。解ったな」


 それはナツに自分の寝床をしっかり理解してもらう事だ。


 説明しては見たものの、本人の表情は全く変わっていない為、何を考えているか相変わらず解らない。それ以前に『ナツ』という名前が自分の名前だと理解しているかも怪しい。ただ、話を聞いていないわけではないようで、目線はきちんと京也に合わされている。


「風子、ナツが何を考えているか呼んでくれ」


「了解です!」


 元気に答えた風子に読んでもらった意識では、『大きい人より小さい人、同じ』『石を投げない小さい人、なでる』『おいしい』『一緒』『落ちたら拾う』『暖かい』『暗い、目を閉じる』『明るい、目を開ける』だった。まだ若干先日までの状況を引きずっている感はあるが、以前より格段に意識が増えている。また感情が二つの意味を合わせたもので構成されだしたことも大きい。このままいろいろな事を覚えて行き、最終的には感情を出せるようになってくれればいいのだが。というかサクラのなでるというのはなんだろう?


「思考がずれてましゅわよ」


 呆れた声のヒョウカに指摘されて、京也は寝る場所について教えていた事を思い出す。つい意識表現が豊かになった事によろこんでしまった。


 その後、寝床の上でサクラと二人で横になったふりをしてみたりといろいろな方法を試し、なんとか『石を投げない人、横になる』という意識を理解してもらう事が出来た。


 額の汗を拭い、今日一番の達成感を味わいながら太陽を確認してみると、今まさに日が沈みきろうとしていた。


「よし、寝る・・・」


「京也さん!? 何か居ます!!」


 就寝を言いかけた京也の言葉は風子の慌てた声でかき消される。


「なっ!?」


 日が沈みきって辺りが闇に包まれた瞬間、突然辺りが赤い色を放つ三十センチほどの黒い物体で埋め尽くされる。


 それは光を嫌っているのか、京也達が立つ釜戸の光が当たる場所には入ってこようとはしない。ゆらゆらゆれる炎に合わせるように位置を変える様子は見ているだけで気持ち悪い。


「こいつらどこから湧いた!?」


「わかりません!! さっきまで確かに何も居なかったはずです!!」


「私も何も感じましぇんでしたわ!?」


「きゃっ!!」


「サクラ!!」


 炎の揺らめきによって一瞬サクラの服が影に入ると、黒い物体は素早く手を伸ばして服を掴んで引き寄せようとする。幸い京也がすぐさま抱き寄せたことと、揺らめきが別の方向に向いた為、引き込まれるような事はなかったが、危ないところだった。


 一瞬だけ照らされたその姿は、人型で全身が骨しかないようにやせ細そっているが、腹だけは大きく出て弛んでいる。京也の知識の中でそれに当てはまる妖怪は一つ。


「餓鬼か?」


 餓鬼とは元々は仏教の話の中で出てくる餓鬼道に存在する。妖怪というか生前に贅沢三昧をした者が死後に落ちる先に居る転生前に人間だ。妖怪としての考えとしては山道でこれに襲われると、空腹に見舞われ、一歩も動けなくなるという嫌な力を持っている。対処方法としては食べ残しを撒くと消えるなどとも言われている。


 サクラだけではなく、隣でボーッと立っていたナツも抱き寄せた京也はそんな知識を思い出しながら対処法を探る。因みに、幸いヒョウカの水筒は寝床近くに置いてもらう為にサクラに持たせて居たので無事。風子もいつも通り京也の肩の上に居る。っと言っても今は京也の肩に隠れて顔だけ出して様子を見ている。


 全員の無事を確認し、安心した京也は再び目の前の餓鬼の群れの対処法を考える。


 素直に食べ残しを撒けば良いのかも知れないが、不幸なことに今日は釜戸を作っていた為、光が一方にしか伸びておらず行動できる範囲が狭い。食べ残しとしては魚の骨などもあったのだが、残念ながら範囲外の闇の中だ。


 対処法以外にも問題点がある。


「京也さん!! なんだか明かりが弱くなってませんか!?」


 肩に捕まった風子が言う通り徐々に釜戸の火が小さくなってきているのである。


 もともと就寝前だった事と、昨夜が布に包ればさほど寒くなかった為、焚火を継続するつもりが無かったのであまり多くの薪を入れていなかったのだ。


「くそ!! どうする!!」


 半万能に妖怪退治する方法も無くは無いが、なにせ数が多い。どうやら左右だけでは無く、釜戸の奥にも群がっているようで、思いついた方法ではとても一つ一つ対処出来る時間が無い。


 焦る頭で案を練っているとふと疑問が浮かぶ。


「そもそもなんで後ろから襲って来ない?」


 京也達が居るのは薪を追加する為に唯一釜戸の炎が見える角度だ。つい釜戸ばかりに目が行っていたが、そこからの明りは京也達を照らしてはいるが、当たり前のようにその後ろはどうしても陰になる。つまり後ろから襲えば光にあたることなく用意に襲う事ができるはずなのだ。


 疑問に思い恐る恐る振り返ると、そこには寝床と寝床の間に置いた荷物があった。荷物は固まって立つ三人の影に丁度重なるように置いてあり、何故か餓鬼達は荷物より先には入ってこない。


 何故荷物を越えてこないかは解らないが、もう少し考える時間があることにホッとする。 


 現在の情報を整理すると、場所は川原。明かりが消えると共に突然出現した餓鬼は明かりの中には入ってこない。さらに何故か荷物を越えて来ようとはしない。荷物の中身には食料もあるはずだが、餓鬼にも係わらず手は出していない。 


 川、いや水場。荷物、いや食糧の入った荷物。何か思いだしそうになるが、そこから先がどうしても出てこない。


「お腹すいてるなら荷物の中身全部上げたらどうですか!?」


 京也の方に隠れたまま辺りを見回して服を引っ張る風子は、おそらく京也の意識を読んで餓鬼がどういうものか理解したらしく、泣きながらそんな提案をしてくる。相手が妖怪ということから、狙われる可能性が高いのが精霊の自分だと思っているらしい。サクラも引っ張られたことから、狙いは精霊だけでは無い気もするのだが。


 風子の発言に呆れていると、まさかのこれが良いヒントになった。


「水場、食糧、投げる・・・施餓鬼法か?」


 施餓鬼法とは簡単に言えば供養会みたいなもので、餓鬼道で苦しむ先祖などを供養する為に行う行事だ。方法は地方によりさまざまだが、一般的には捧げ物を用意し、それを水中や野山に入れて餓鬼に捧げる事で供養をすると言うものだ。この捧げ物は会の途中では現世にあり、餓鬼道に居る餓鬼には直接ふれることが出来ない為、必ず誰かが捧げる必要がある。


 偶然ではあるが、今の状況は施餓鬼法に近いものがある。本来であれば、供養の行事が行われるのだが、それを除けば水場を餓鬼道、明かりを現世の境、荷物を捧げ物と見ることも出来る。こじつけかも知れないが、もともと妖怪の対処法は多くのものが由来か頓智によるものだ。


 因みに京也がすぐにこの方法を思いつかなかったのは、施餓鬼法が妖怪オタクからの薀蓄ではなく、法事に来ていたお坊さんから聞いたものだったからだ。京也の父方の実家に来る坊さんはえらく話好きで、経を読む時間より、説法する法が長いほどだ。


 話はそれたが、つまり・・・、


「荷物の中の食糧を川に投げ込めばなんとかなるか?」


 効果があるかは解らないが、試してみる価値はある。しかし、問題もある。


「どうやって中身を取り出すか・・・」


 確かに荷物から先に餓鬼は入って来ないようだが、ギリギリには来ている。荷物に手を伸ばせば確実に向こうも手を伸ばして来るだろう。捧げ物に手は出せないが、京也に触れることは出来る可能性が高い。


「あれを少しでも退かせば良いんでしゅの?」


「出来るのか?」


「やってみないと何とも言えましぇんが、怯ませる事くらいはできると思いましゅわ」


 思わぬ方向からの提案は京也の意識を読んだヒョウカからのものだ。


 その方法を聞いてみるが・・・、


「ホントにそんな事で大丈夫なのか?」


「やってみないと解らないと言っていましゅわ! ただ認めるのは癪でしゅが、あれが精霊に近いなにかであると言うなら効果があると思いましゅわ、それにあんまり時間もありましぇんわよ!」


 確かに考えている内に釜戸の炎は徐々に小さくなり始めている。


「そこまで言うなら・・・」


 苦虫をかみつぶしたような表情で闇を奥を見つめるヒョウカが提案した方法それは・・・、


 バシャ!!


 ヒョウカの水筒の水を撒くというものだ。


「おおっー!」


 その効果は思った以上に絶大で、試しの為コップ半分くらいの水を荷物の奥へ撒いてみたが、見事に撒いたところだけ餓鬼が散って行く。


「どうなってるんだ?」


「説明は後でしゅわ! あんまり水の余裕もないのでしゅから、さっきの分も無駄にするんじゃありましぇんわ!」


「はいはい、了解!」


 ヒョウカに急かされて再度コップに水を注いだ京也はもう一度荷物に向かって水を撒く。恐る恐るといった様子で元の場所へ戻ろうとしていは餓鬼達が再度散っていく。


 それと同時に持っていた水筒をサクラに預け、二人を明りの真中に残した京也は荷物に駆け寄る。幸運にも食事や寝床の準備をしていたこともあり、調理道具や大判の布などは出ていた為、荷物には衣類と食糧しか残っていない。その中から迷いなく米の入った袋を掴むと急いで準備する。


「キョウヤ!!」


 サクラの叫びに顔を上げると、目の前に赤い蒸気を放つ気味の悪い餓鬼の手が迫っていた。一刻の猶予も無くなってしまった為、準備を半ばで諦めて掴んだ米袋を川に向かって投げる。


「どうだ!?」


 叩きつけるような水音とともに米袋が着水すると、回りに集まっていた餓鬼がわらわら移動を始め、水の中に沈んで行く。その様子はまるで三途の河を渡る死者のように見え、京也はこれで成仏してくれればいいが、と静かに手を合わせる。


 最後の一匹が川に沈み、 後に残ったのはパチパチと音を鳴らして燃える小さな炎と、思いだしたように再開される虫の声、そして茫然と川の方を見つめる京也達一行だけ。


「終わったのか?」


 餓鬼が沈んだ方向を見つめるが戻って来る様子は無い。


「大丈夫みたいですね!」


「一時はどうなるかと思ったのでしゅわ」


「はぁーーーー!」


 どうにか事なきを終えた京也は緊張していが体を解し、その場に座り込んだのだった。

2匹目の妖怪餓鬼の登場です。オリジナルも交えつつになりますが、今後も登場するかも?

さて、何とか餓鬼を撃退した京也達ですが、まだやる事が残っています。それは・・・

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