またもや難関? いつものあれ
結局少女二人を連れて北へ向かう事になった京也、さてやっと旅の始まりです。(色々長くなって申し訳ない)
どうせばれてしまっているのだからと言われ、朝食を取ってから出発することになり、京也達は再度出たお粥のようなご飯と、山菜の入った汁物という簡単な朝食を頂いたて、日が登ってから出発することとなった。
出発時にキリハから「くれぐれもサクラをよろしくお願いします」と両肩を軋むほど掴まれてお願いされた京也は、唯首を立てに振るしかなかった。あの『よろしく』は恐らくただ守ってほしいというだけではなく、手を出したらただじゃ置かないという意味だろう。
眉間にシワを寄せたキリハと何故か見送りに来て、「姉上の期待を裏切らないように勤めろ」っと釘を刺すツクヨミに見送られて町を出た京也達は風子の案内で北を目指して歩き出した。
卑弥呼の話では北北西に進み、大回りして山を回避したほうが安全ということなので、風子にはその道を案内してもらっている。
道とは言ったが、実際は草原の中であまり草の生えていない地面を蛇行しながら進むという物だ。
しかし、山道を進むのとは違い、体力の消耗も少ないので一行は順調に足を進めた。
因みに荷物は大袋をサクラと角少女、小さい袋を京也が持っている。二人に持たせるのが忍びなかった京也は交代で持つと言ったのだが、サクラからは「これくらい大丈夫だよ?」と涼しい顔で言われ、角少女は頑として荷物を離さなかった。
相変わらず昼ごはんという言葉は無いが、昼に近づいたこともあり、一行はちょうど良い草原の木陰で休憩することとなた。
「キョウヤ、アノ」
地面に腰を下ろし、ヒョウカの水筒から水を飲みながら京也が休憩していると、隣に荷物を下ろしていたサクラから声がかかる。
「どうしたんだ」
「アノ、アレ、ソノ」
手をワタワタさせながら何か伝えようとするサクラだったが、一向に続きの言葉は出てこない。どうやら京也の言葉で説明したいようだが、流石に数日ではスラスラとはいかないようだ。
「無理しないでいいぞ」
「うぅぅ・・・、(あのね、京也、あの子に何て言って休憩してもらったらいいかな?」
唸りながら風子に翻訳してもらったらったサクラはとある方を指さす。
そこには荷物を背負ったまま京也と同じ格好で座る角少女の姿があった。
どうやら角少女は基本京也のやっている事を真似しているらしく、移動中も京也が止まれば止まり、歩き出せばついてきた。まるで親鳥を真似する雛のようだ。
「ああ、なるほど」
状況を理解した京也が荷物を下ろす動作をすると、角少女も荷物を下ろす。
それを見た京也は自分でやった事ではあるが、苦笑いするしか無かった。
こんな状態で昨日の水浴びや、夜はどうしていたのかサクラに聞いて見たところ、水浴びはボーッと佇む角少女を全介助しつつ何とか済ませ、昨夜はずっとサクラが手を引いたり寝かせたりしていたらしい。
「それは・・・何か悪かったな」
「(あははっ、でも妹が出来たみたいで楽しいよ)」
苦笑いを返すサクラだったが、その表情はそんなに暗くない。どうやら角少女を手のかかる妹として面倒見ているようだ。案外姉という存在に憧れていたのかもしれない。
「それならいいんだが、ずっとこのままってわけにもいかないよなー」
「(そうだね・・・、このままって言えばこの子のお名前どうするの?)」
「名前?」
「(ずっとこの子って言うのも可哀想かなって)」
「言われてみれば・・・」
特に本人が名乗らない為、そのままにしていたが角少女に名前は無い。京也の頭の中では勝手に角少女と呼んでいたが、よく考えれば角少女にとって角は迫害の対象であり、ある意味悪口のような形になるのではないかと考える。そう考えると、何か名前があったほうが呼びやすい。
しかし、
「また名前を考えるのか・・・」
角少女は以前の意識が無く、食べ物以外の意識は現在でも薄い。そうなると、当然名前などもわからないだどろう。という事は京也がまた考えることになる。因みに、サクラにどんな名前が良いか聞いてみたところ、「キョウヤが決めてあげたほうが喜ぶと思うよ」っと笑顔で返されてしまった。
異次元に来て何度目になるかわからない命名に頭を捻る。精霊達はもとの環境や由来から。交信者姉妹は見た目などからつけた。更に、おそらく『こ』や『カ』では先ほどから肩の上でニヤニヤしている精霊から文句が出ることだろう。
再度角少女を見ながら京也の点けた名前は・・・
「ナツなんてどうだ?」
「(ナツ?)」
「ああ、ここではどうか解らないが、俺の居た次元では暑い時期を『夏』って言って、そしてその暑い時期には日焼けした子供をよく見かけるんだ」
「(確かに日焼けしてるみたいに見えるね!)」
案外好評な様子のサクラの反応だったが、京也が『ナツ』と名づけたのは元々別の理由がある。
角少女を見ていて思ったのは『表情が無い』と『角がある』だった。『無い』と『角』で『ナツ』と思いついたのだ。しかし、それではあまりにも安直と言われかねない為、こじつけとして夏の日焼けを引き合いにした。
「安直ですね! さすがキョウヤさん!」
「相変わらずのセンスせしゅわね」
意識を読まれた精霊達の言葉を聞かなかったことにして、京也はごまかす為にヒョウカの水筒から水を飲む。
名前を聞いたサクラは早速ナツに歩み寄り、話しかけているようだったが、いつも道理反応が無い。京也から目をはずしてそちらを見ていることから、サクラを無視しているのではないようだが、これは時間が掛かりそうだ。
その後もナツに名前を理解してもらおうと風子まで巻き込んでがんばったサクラであったが、休憩中に理解が得られることはなかった。
そんな事をしながら子一時間ほど休憩した京也達は再度足を進めることにした。
さらに草原を歩き続けて約三時間、日が傾いてきた為、草原の真ん中でキャンプすることになった。
手ごろな木が見つからなかったので、何も無いところでキャンプとなったのだが、ここであれば風の通りがよいので風子の監視も問題無く行える為好都合だ。
ナツの持っていた荷物の中から卑弥呼に用意してもらった大判の布を取り出し、寝床の準備をしようとしていると、ふと荷物を見たときの疑問を思い出す。
「なあ、サクラ、この長い棒は何に使うんだ?」
それはナツの荷物から不自然に突き出した親指ほどの太さ木の棒の束だ。荷物袋自体がかなり大きいこともあり、そこから突き出している棒は優に一メートルはありそうだ。
「(これ? んー、いろいろかな? このまま獣を追い払ったりもするし、ナイフで削げば火も付くし、長く折って使えば篝火にもなるし)」
どやら武器兼薪というものらしい。更に言えば、どう加工したのかわからないが、真っ直ぐな木は矢の材料にも出来るらしい。
確かに木の少ない草原では薪に出来そうな木々が少なく、京也達も道中使えそうな薪は集めながら歩いたが、潤沢とは言い辛い。そう言う意味では無加工の長い木は長旅では重宝するのかもしれない。
長い棒の有用性に関心しつつ寝床を準備していると、隣ではサクラが食事の準備を始めていた。早々に寝床の準備を済ませた京也は草の薄い地面に焚火の準備をして待つ。
この役割分担は道中にサクラを話し合った結果だ。京也は料理が出来ないわけでは無いが、この次元の食材の使い方がイマイチ解らない為、調理をサクラにまかせ、自分は準備に徹する事にしたのだ。
因みに今晩のメニューは穀物を粉にして煉った膨らんでいないパンと山菜の炒め物だ。炒め物とは言ったが、焚火に四方に石を置いて、その上に薄い金属板を置いて少量の塩を振って炒めただけなので、灰汁が抜けておらず正直、菜の花くらいの苦さがある。それでも暖かい食べ物というのはそれだけで落ち着く物で、京也にあまり不満は無かった。
サクラの話によれば、本来の旅中の食事はパンと干し肉を硬いまま齧ったり、そのまま食べられる果実を齧って終わりといった質素なもののようだが、京也のライターがあり焚火は容易な為、このようなメニューとなったらしい。簡単に火が付くというのはやはり便利なようだ。
食事を終えるころには日が暮れ、あたりが暗くなり始めたので、早々に片付けを済ませて就寝することにした。
寝床の準備はすでに済ましているので後は寝るだけなのだが、ここで京也は重大な事を言っておく。
「よし、じゃあ俺はこっち、サクラとナツはこっちで寝てくれ」
京也が指差した先には大きな寝床、荷物、小さな寝床の順で布を敷いた場所だ。もちろん小さい方が京也、大きいほうがサクラ達だ。
「エェット・・・(なんでこんなに離れてるの?)」
解っていて聞いているのであろ、サクラが苦笑いで聞いてくる。もちろんそれは、
「キリハに『くれぐれもよろしく』と言われているからな」
「アハハッ・・・」
やっぱりな、と言うようなサクラの乾いた笑いを聞きながら一行は就寝することとなった。
夜の見張りについてはいつも道理精霊達に任せることにした。妖怪の心配もあったが、「ここなら見逃すことはありません!」と言う風子の言葉を信じることとなった。念のため、ヒョウカにはサクラ達の方に就いてもらっている(っと言ってもサクラの近くに水筒を置いているだけだが)。
各寝床に入った後、京也はスマホの電源を入れて現在置を確認する。
寝床に腰掛けた風子と共に現在置を確認したところ、京也達が居るのは元の次元で言うところの大阪東側、ちょうど奈良との県境あたりだ。このまま山を回って北北西に進めば大きな川が見えてくる。そのまま川に沿って北北東に進めば目的地らしい。山越えしないですむのは助かるのだが、遠回りな為時間はかかる。今日進んだ距離から考えてもあと三日は裕にかかるだろう。
先の長い道のりにため息をつきながら、スマホの電源を切ろうとした京也は残りのバッテリー残量が三十パーセントほどになっているのに気がつく。地図の確認や初めのサクラとの一件などで徐々に電池を使っていたらしい。
「これが無くなる使えないんですか?」
京也の意識を読んだ風子が残量をあらわすアイコンを指し示しながら首を捻る。
「いや、まだ携帯充電器があるかもう少しは持つが・・・」
携帯充電器も使わなければ少しずつ放電していまう。最近(京也の次元的には)の充電器は質があがっている物もある為、放電しにくい物もあるそうだが、京也が持っているのは安価な一回分充電式だ。
つまりあと一回満タンにすれば使えなくなり、それすらなくなればスマホは使えなくなる。
「出来ればそれまでには帰りたいところだな・・・」
「やっぱりキョウヤさんは時の精霊さんを見つけたら元の次元に帰るんですよね?」
「それはそうだな、その為にこんな面倒な事してるわけだからな」
「そうですか・・・、それは残念です!」
「なんだ、俺が帰れない方が良いのか?」
軽く風子を睨んでみるが、そこには声とはうらはらに気落ちした顔が見えた。
「なんだ、本当に俺が帰れない方が良いのか?」
「どうなんでしょう、よくわかりません! ただ・・・」
風子は言葉を切りながら、京也や、荷物の向こうで眠るサクラ達に目を向け、
「人間達とこうやって過ごすのも結構楽しいので、単純に残念だなーと思いました!」
最後にはいつもの表情に戻った風子は、「それじゃあ見張りに行ってきますね!」と闇夜に飛んで行く。
そんな様子を眺める京也はふと自分も残念だと思う気持ちがるのに気づく。
もともと京也はある事情で早い歳からバイトばかり行っていた為、自由な時間と言うものを持つことがあまり無かった。それに比べ、ここでは時間の概念すらあやふやだ。確かにここには何も無いが、自由にできる時間が膨大にある。
「まあ、この次元で俺が一人で生きていくにはやっぱり問題が多すぎるな・・・」
言葉が通じないことはもちろん、狩猟技術も農耕技術も無い京也が生きていくにはこの時代は過酷過ぎる。
苦笑いしながら風子の飛び去った方を眺める京也の頭に、『私が消える前までに帰ることになったらこれだけは置いて帰るんでしゅわよ』というヒョウカの声が響く。
どうやら聞き耳を立てていたらしいヒョウカにはいはいと軽く答えると、京也は横になって目を閉じる。
盗み聞きなどしていないと騒ぐヒョウカの声を聞きながら、京也の意識はゆっくりと落ちていった。
角少女の名前はナツとなります。
これからよろしくお願いします。
さて次回からは新たな困難が・・・あるかもしれません