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旅立ちの朝、その前に

不思議な夢とヒョウカとの交友を深めた京也は久しぶりに屋根のある寝床で朝を迎える。日も出ないうちに起床したその訳は

『キョウヤさーん、時間ですよー!』


 熟睡する京也の脳内に風子の声が響く。


 昨日食事を終えて移動する途中、風子には日の出の少し前に起こしてくれとお願いしていた。


 まだ眠たい頭を何とか回転させて、京也は目を覚ます。


「もう時間か・・・」


 夢のせいで夜中に中途半端に起きてしまった為、スッキリしない頭で何とか起き上がった京也は眠い目を擦りながら辺りを見回し、辺りがまだ暗いことを確認してから近くにあった陶器から出る紐にライターで火を点ける。


「卑弥呼さんにはさっき声をかけましたから、もう起きていると思います」


「わかった」


 手持ちの荷物を確認しながら答えた京也は、昨日の部屋へ移動するまでに卑弥呼と話した内容を思い出す。


 姉妹と別れた後、京也は卑弥呼にあるお願いをした。それは翌日の出発を姉妹に告げずに出発するというものだ。


「本当によかったんですか?」


 いつものように肩に乗った風子が首をかしげて京也の顔を覗きこむ。


「卑弥呼が同意が無いと条件を飲まないと言うんだからしょうがないだろ」


 昨日の京也の出した条件の三つ目である、三人をここに置いてもらうという頼みは、本人達が同意しないと受けないと卑弥呼に言われてしまった。その為、京也は三人に告げずに出発することにしたのだ。京也が居なければ自然と三人はここに残ることになるだろうと考えての事だ。


 提案した時は渋っていた卑弥呼だったが、旅の危険性などを説明して何とか同意を取り付けた。


 その為、卑弥呼には京也と同じ時間に起きてもらうようにお願いしてる。


 準備を終えた京也は、少ない自分の荷物を持ち、肩に乗った精霊二人とスマホの明かりを頼りに薄暗い階段を降りる。


 一階は昨日と同じように入口と天蓋の周りに灯りが焚かれ、辺りを薄暗く照らしていた。


『来たようじゃの』


 昨日と同じく天蓋の中から(と思われる)夢と同じ声が頭に響く。


「昨日の夜の事はやっぱり覚えて無いのか?」


『昨日の夜? 言われた通りちゃんと起きているおるではないか』


 どうやら本当に目の前の卑弥呼と夢の卑弥呼は別の人物らしい。


 それを確認した京也は、卑弥呼に何でもないとだけ伝えて天蓋の方へ歩み寄る。


 そこには小さな袋が二つ用意されていた。恐らく中身は頼んでいた食料などの荷物だと思われるのだが・・・


「少なくないか?」


 妙に量が少ない。


 頼んでいたのは食事や水、簡単な調理器具や生活用品だったのだが、目の前袋はどう見ても少量の食料と水しか入らないサイズに見える。


『心配するでない。残りはほれ、こっちじゃ』


 天蓋の中の卑弥呼の声と共に布が左右に開かれ、そこには、


「なんで三人がここに居るんだ!?」


 余裕の表情で佇む卑弥呼と交信者姉妹、角少女の姿があった。


 サクラは村を出発する時と同じく大きめの荷物を持っており、腰にはナイフ、肩には小弓と矢筒もかけられている。まさにあの時と同じ格好。その隣で無表情に佇む角少女に至ってはサクラより大きな荷物を背負っており、中からは何に使うか解らない長い棒まで突き出ている。それに対してキリハは手ぶらのようで、何も持っていない。


『先に言っておくが、童がしゃべったのではないからの』


 三人の姿を確認してすぐ、京也は驚きの表情で卑弥呼を見たが、当の本人は首を横にふる。


 という事は・・・


「こっちを睨まないで下さい! 私でもないですよ!」


「因みに私でもありましぇんわ」


 京也に目線を向けられた風子は慌てたように顔をブンブン横に振り、聞いてもいないヒョウカからも呆れた表情と共に否定の声がかかる。


「だったら誰が・・・」


 まさかツクヨミが話すということもないだろうし、近くに居た白無垢女性達は京也の言葉はわからないだろうから、他に知っている人間は居ないはずだ。


「(私がお姉ちゃん達に伝えたの)」


 首を捻って考え込む京也に、思ってもいないところから声がかかる。


「サクラが?」


 それは町に残して行こうと思っていたサクラ本人だった。


「でもあのとき俺は、」


 京也は三つ目の条件を説明する際、サクラ達に翻訳しないようにヒョウカに頼んだはずだ。確かにサクラには多少京也の言葉を教えてはいたが、話の内容が理解できるほどではなかったはずだ。


「(あの時、私達を見るキョウヤの様子が変だったから、後で風子様に言葉の意味を教えてもらったの)」


 あの時というのは恐らく、卑弥呼に三つ目の条件を出した時のことだろう。確かにあの時複雑な心境でそれぞれを見回したが、それが失敗だったようだ。しかし、今はそれを反省している場合ではない。


「・・・風子、ああ言ってるが?」


 先ほど自分ではないと明言していたはずの風子を、京也は眉間にシワを寄せて引きつった笑みで睨みつける。


「わ、私はサクラが『残して』ってどんな意味ですか? とか、聞かれたから、こ、答えただけです!」


「お前は本当にアホの精霊か!? 単語の意味を教えたら解るに決まってるだろうが!?」


「私は風の精霊です! それに、そんな事一言も言わなかったじゃないですか!?」


「それくらい空気を読め!!」


 危険を察知したのか、肩から飛び立った風子をすばやく掴み、京也はこめかみに圧をかける。


「キョウヤ! (風子様を怒らないで!)」


 痛みで体をよじって抜け出そうとする風子にサクラから助け舟が出される。声に驚き一旦風子のこめかみから手を離した京也に、サクラはどうして付いていきたいたを粒さに語り出した。


 そもそも京也に助けられた時、サクラは村の為と自分を押し殺して山に向かった後だった。当時精霊の姿を見るほどの力が無かったサクラは精霊というものがどういったものかわからず、ただシソウクに言われるままに山に向かい、精霊の元へも赴けない自分に絶望していたそうだ。しかし、京也に助けられ、精霊が見えるようになり、姉ともきちんと話し合いすることで、生きる気力を取り戻した。さらに、風子やヒョウカと話すようになり、精霊というものがどういった存在なのかも少しずつだが知ることも出来たそうだ。


「(だからキョウヤに何かお礼がしたいの! それに、風子様達が危ないめに合うもしれないのに待ってることなんて出来ない!)」


 普段あまり激しい感情を出さないサクラが、瞳に涙を浮かべならが話すのを京也は風子を掴んだまま呆然と聞くしかなかった。


「(申し訳ありませんが、サクラのわがままを聞いていただけないでしょうか?)」


 それまで黙って妹の様子を見守っていたキリハがサクラの肩に手を置いて頭を下げる。


 キリハは初め、サクラの話を聞き、自分だけが京也の手伝いに同行すると言ったそうだ。しかし、サクラはどうしても自分も行くと聞かなかった。普段あまりキリハにわがまま言わないサクラの言葉に驚いたが、必死で説得しようとするサクラにとうとう折れてしまったらしい。


「そこは説得されないでほしいんだが・・・、というか二人はともかく、なんでその子まで?」


「(恐らくこの子を説得する方が難しいと思います)」


 一旦二人をどうするか考えるのを止めて、角少女に目線を移した京也だったが、苦い表情をしたキリハにため息をつかれ、首を傾げる。


 キリハがサクラの説得に折れた後、角少女に事情を説明する為に再度体の精霊に声をかけたらしい。その結果・・・


「(どうやらこの子は、交信者様と要れば美味しいものが食べれると思っているようで、離れる気がまったく無いようなのです)」


 角少女の体の精霊の意識はほとんどが京也のあげたチョコレートで埋め尽くされているらしく、その次に昨日の食事、となっているらしい。キリハも精霊を通じて説得を試みたそうだが、言葉が通じない相手になんと言ったら良いか解らなかったらしく、『大きい人より少し小さい人、美味しい』という意識をどうしても上書きすることが出来なかったそうだ。


「食べ物に釣られすぎだろ・・・」


 キリハの説明を聞いて唖然とする京也だったが、だったら自分ならどう説得するかと考えて、考えが浮かばずそれ以上何も言えなかった。


『まあ良いではないか、様子を見に行くだけなら危険も少ないじゃろうし、それに・・・』


 事態を見守っていた卑弥呼は角少女が背負っている荷物をポンポンと叩き、


『お主は一人でこれ全部持って行けるかの?』


 っと口元に笑みを浮かべて京也に問いかける。


 パッと見だが二人が抱えている荷物は優に十キロはありそうに見える。


 ここから目的地までは早く見積もっても四日、付いて来るつもりで四人分準備していたとして、食料や衣類が四分の一になったとしても、布や調理に使う器具の多さはさほど変わらないだろう。我慢すれば食べ物や水などの必需品以外は削れるかも知れないが・・・


『何か勘違いしておるようじゃが、これは三人分の荷物じゃぞ?』


 最低限の荷物にした場合の量を計算していた京也に卑弥呼は意識を読んだのか、そんな事を言い出す。


「どういう事だ? まさかそれ以外にも荷物が・・・」


『そうではない、お主に同行するのはこの二人だけじゃ』


 サクラと角少女の荷物に手を置いた卑弥呼の言葉の意味が解らずキリハの方を見ると、「(申し訳ありません)」と頭を下げた。


 またもや事情を聞いたところ、初めは三人とも付いて行くという話で進んでいたらしいのだが、卑弥呼に同行することを伝えに行ったところ、


「サァヤァよ、今はキリハと言ったかの。お主が付いていってもやくにたたんのではないか?」


 っと言われてしまったらしい。驚いたキリハが理由を聞いたところ、妖怪が見えず、風子も見えないからという事だ。

 確かにキリハの身体能力は高いが、今回問題になるのは思われるのは精霊の色を持った未知の物体や妖怪だ。幸か不幸か、危険度にかかわらず中型までの動物は道筋からは消えており、今回通る道は隠れる所の少ない草原だ。野盗の類が居る可能性はあるが、風の通る場所である草原では風子の目から逃れることは出来ないので、事前に回避することが容易だろう。


『そうなるとコヤツは不要になるわけじゃから、ここに残るように言ったのじゃ』


 もちろんこれに簡単に納得しなかったキリハは卑弥呼に対して珍しく反論したそうだが、一人増えることによる荷物の増加や、「お姉ちゃんはいっぱい食べるからここに残ってて! 私は風子様やキョウヤが達が居るから大丈夫!」と言うサクラの言葉に心を再度折られて残ることになったそうだ。


『お主からの条件は程度が軽くなってしまうが、代わりに童直々にコヤツに交信者の修行をしてやろう』


 ニヤリと笑う卑弥呼にキリハは頭を下げたまま何も言わない。良く見ると頭を下げているのではなくうなだれているようにも見える。どうやらサクラから言われたことが相当ショックだったようだ。


「それぞれの事情はわかったが、だからと言って二人を危険な目に合わせるわけには・・・」


「(置いて行かれても私は付いていくから!)」


 尚も渋る京也にサクラは目じりに溜まった涙を拭いて京也を見つめ、角少女は相変わらず何を考えているのかわからない表情で佇む。


『諦めるんじゃの、心配ならお主がお守りをしてやればよかろう。得意じゃろ?』


 ニヤニヤする卑弥呼の言葉を聞いてどうやら自分の意識のかなり深いところまで読まれていることを京也は悟る。どうやら京也が苦手とする物がばれているらしい。


「はぁ、わかったわかった。連れて行けばいいんだろ。だがこれで事態が解決できなくても文句言うなよ?」


『かまわん、そもそもそこまで期待しておらん』


「そうですか・・・」


 ため息と共に了承した京也だったが、卑弥呼の一言で更に肩を落としてため息をつく。


 こうして京也は渋々サクラと角少女を連れて北へと出発することとなった。

次回より新たな旅の始まりです。

町に残ることになったキリハの話はまた別のところで書いてみたいと思います。(また別の話がどんどん増えていく・・・)

さて、次回から旅なわけですが、この小説も読んで頂いている方が徐々に減ってきています。話の内容がつまらないのか、一章が無駄に長いせいなのか・・・

後はやっぱり文章力なんですかね^^;

まあ初投稿でしかも趣味で書いている小説ですから、数少ないブックマークをして頂いている方々の為にもめげずにがんばって投稿したいと思います。

投稿ペースについてこれで限界です・・・

もしよければ今後もよろしくお願い致しますm(_ _)m

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