卑弥呼登場!って卑弥呼さんですよね?
町に入った一行は卑弥呼に会うため中心部へと向かう。なんとそこには・・・
姉妹に追いつき、辺りをキョロキョロしながら住居の間を通った京也はサクラ達が居た村との違いに驚いていた。
まず思ったより人が多い。遠くからでは解らなかったが、一件一件の住居のサイズが村の二倍は裕にあり、住居と住居の間もかなり広い。その広い通路を何十人もの人間が歩いている。露天というのはなさそうだが、住居の前では恰幅の良いおばさんなどが家の住人と話しているらしく、大きな笑い声を上げていた。村とは大きな違いだ。
先ほど通って来た田畑も大勢の人が働いており、水と緑で染まり、水が潤沢に近くの水路を流れていた。一山越えた村では水不足が深刻などとても考えられない。
そして予想外な事に、京也達に奇異な眼差しを向ける住人が一切居無い。外から人が来ることに慣れているのか、気にならないのかわからないが、京也の服装にもまったく視線を向けられることはなかった。それはまるで京也達が見えていないかのようだ。
そんな不思議な感覚を味わいながら一行は、キリハを先頭に真っ直ぐ無駄に大きな高床式住居へと進んでいく。
恐らくあそこに卑弥呼が居るのだろう。授業で見たスライドに確かあんな建物もあった気がする。
徐々に近づく建物はやはり他の住居とは一線を画すもので、通常の高床式住居が京也の背より高いくらいの位置に対して、三倍ほど高い位置まで柱が伸びており、幅は五件分は軽くある。入り口には他の高床式住居と違い木製の縦梯子ではなく、傾斜になった木組の階段が設定されていた。
階段の前には先ほどの門番と同じような格好の見張りが立っていたが、京也達が近づくと道を開けてくれる。
どうやら事前に話しは通っているようだ。
遠慮無く進むキリハの後に続いて、サクラ、京也(精霊二人は肩の上)、角少女の順で階段を上がって行く。
入り口にはすだれのような藁で編んだすだれが付いており、キリハが前に着くと自動で上がる。
どんな仕組みか疑問に思いながらキリハ達に続いて中に入ると、入り口の左右にキリハと同じような白無垢を着た女性が頭を下げた状態で立っていた。どうやらこの二人が操作していたらしい。
中は思った通りかなり広く、所々に柱が見えている以外はだだっ広い空間になっていた。
その中を数人の入り口に立っていたような白無垢女性が忙しそうに早足で歩き回っている。
外観より天井が低いと思ったら、左右に階段があるらしく、白無垢女性達はそちらを出入りしていた。
そして、入り口正面、だだっ広い空間の中央奥にはシソウクが居た場所のように一段上がった場所になっており、その周りは天井からつるされた布によって隠され、布の内側に光源があるらしく、内部に二人の人影が見える。
「(お久しぶりです卑弥呼様)」
辺りを見回す京也を置いてけぼりにして、キリハとサクラは布の方へ近づき膝を付いく。それに習って京也も二人の後ろで同じように膝を付いてみる。因みに何も言っていないが少女も何故か真似して膝を付いてくれた。
「|確かサァヤァと言ったか、十年以上ぶりじゃの《・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・》」
「(はい、以前母と御挨拶させて頂いて以来になります)」
話を聞く限り、どうやらキリハと卑弥呼は以前に会った事があるらしい。
しかし、今はそんなことより、
『なあ、風子? 俺はとうとう自動翻訳機能を取得したのか?』
恐らく卑弥呼と思われる人物の声がまったくわからない言葉に聞えるのに、頭では内容が理解できる。映画を二重言語で聞いているようでちょっと気持ち悪い。
声はどちらも同じで、町の入り口で頭に響いてきた幼い声だ。しかし、そのしゃべりは年齢を重ねているかのように古臭い。
「何を言っているんですか京也さん、あれは意識伝達です! 口では普通に話して、別に意識も飛ばしているんです!」
「|おや、えらく強い力を感じたと思ったら風の精霊ではないか、久しぶりじゃの《・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・》」
「本体とはちょっと前に話しました! あなたこそ、こんなところで何しているんです?」
説明を聞いて、なるほど器用なが出来るもんだと京也が関心していると、風子に当たり前のように話しかけた卑弥呼と思われる人物に風子自身も当たり前のように返事をする。
「(風子様、知り合いなの?)」
もっともな疑問をぶつけるサクラに風子は思いもよらない答えを返す。
「知り合いと言えば知り合いですね! 彼女も精霊ですから!」
「「(へっ?)」」
その答えに、京也だけではなくサクラまでも呆けた声をだした。反応できなかったのは風子の声が聞えないキリハと無表情の角少女だけだ。
「あれ? 何か変なことを言いましたか?」
「いや、おかしいだろ。卑弥呼は人間だろ?」
キリハ達を放置して本人の前だということを完全に忘れて京也は風子に問いかける。卑弥呼が精霊で意識伝達が出来るなら確実に呼び捨てにしている事に気がつくはずだが、今はそれどころではない。
考古学大学で多少は歴史を齧っている京也に今の発言は納得できない。
京也の知っている卑弥呼とは確かに歴史上の人物ではあるが、歴書物などにも登場するれっきとした人間である。書の信憑性などは置いておくとして、日本内にも墓と言われる遺跡などもあり、その存在は確かに居たと言う者が多い。これが精霊だということになると大問題だ。
過去の勉強した内容を引っ張りだして頭を回転させる京也だったが、ここが元の次元ではなく、別次元だということにはまったく頭が向いていない。
「そんなこと私に言われても解りません! その辺どうなんです?」
『そうじゃなー、童は人間でもあるし精霊でもあるのじゃ。どちらとは言いがたいのう』
何故か意識伝達のみにして京也にも聞こえるように回答した影越しの卑弥呼の話によると、彼女はこの島の精霊の分体という立ち位置らしい。
島の精霊が管理する為に作り出した分体の内の一人だが、この島の精霊というのが変わり者で、風子やソウのように見守るだけではなく、導くことに興味をもった精霊らしい。その為、分体を造形するのではなく、人間の亡骸に宿らせて管理を任せたとのことだった。
「分体ってのはそんな事も出来るのか・・・、じゃあお前は中身は精霊の分体で、体は人間の死体ってわけか?」
『じゃからそういっておるじゃろう、頭の回らん奴じゃのう』
相手が卑弥呼であることや、日本語に回答されているという事より、卑弥呼が精霊であるというショックのほうが上に来ている京也は完全に配慮の抜けた態度で接し、それに卑弥呼は悪態をつきながらため息をつく。
「んじゃあ、お前の弟とやらも精霊だってことか?」
京也の記憶が正しければ卑弥呼には弟がおり、没後は弟が政を取り仕切ったはずだ。
『童に弟がいるなどよく知っておるの? 弟という表現が正しいは知らんが、童の後にツクヨミとスサノウとうい分体が作られておる』
「・・・は?」
律儀に回答してくれる卑弥呼の言葉に京也の頭はまたもや呆けた声を出す。
今何と言った? 弟がツクヨミとスサノウ?
京也の記憶が正しいならその名前は・・・
「そういえば何で卑弥呼なんて名乗っているんですか? 前は確か・・・、アマテラスとか言ってませんでしたっけ?」
『今もその名で間違っていないのじゃ、卑弥呼というのはあのバカ弟に呆れて最近ここに閉じこもってからの名じゃ』
嫌な予想が当たってしまった。アマテラス、ツクヨミ、スサノウとは日本神話の神々の名前だ。そういえばかなり前、何かの講師が話しの余談で日本神話には銅鏡が多く出てきたりすることなどから、実は弥生時代頃の話しなのでは、とう説があるといっていた気がする。さらに、さまざまあるアマテラスの名前の中に『日の巫女』というものがある為、それ呼び違えられて卑弥呼になったなんて説があるらしいと笑いながら話していたが、まさか事実だったとは・・・。
そんな事を思い出していると、ふとある重要なことに気がつく。あまり覚えてはいないが、確かアマテラスを生んだのは・・・
「もしかして島の精霊って二人居たりするのか?」
『ほう、ほんによく知っておるの、童は見たことが無いが以前は二つの島で、二人の精霊だったらしいのじゃ。童が作られる前に島が一つになり、一方は姿を消したらしいがの』
ほぼ間違いないだろう、島の精霊とはイザナギらしい。
神話の神様精霊説にげんなりしている京也は、アマテラスである卑弥呼閉じこもっているということは、現在ここは天の岩戸なのだろうか? 外で宴でも催してみようか・・・。などとぶっ飛んだ考えをしながら話を無理やり解釈していると、卑弥呼とは別の声が頭に響く。
『先ほどから随分偉そうだが、お前は何者だ!? 気色の悪い色を纏いおって!』
声は布の中のもう一方からするようで(と言っても意識伝達の為方向は定かではない)、卑弥呼の若い声とは違い、野太く勇ましい感じの男性の声だった。
『これよすのじゃ、ツクヨミ。あれば恐らく童達より上位の精霊の力じゃ、分体の童たちなどあっさり消されかねないのじゃ』
「いや、そんな物騒なことしないって、てか、俺に精霊の力なんて無い」
どうして天の岩戸の中にツクヨミが居るんだ・・・、などと考えながら、失礼なことを言う二人に京也は今の自分の置かれている状況を簡単に説明した。
京也がこの次元に来た経緯、姉妹と知り合い、山で妖怪に襲われた事までを話をしながら、数日しか経っていないのにいろいろあったなーと、つい感傷的になって長々話してしまった。
『なるほどのう、時の精霊を探して北へ・・・、ではついでに童の頼みも聞いてほしいのじゃ』
そしてまたややこしいことになった。
「はぁー、またこのパターンか、どうしていきなりそうなる?」
『簡単な話じゃ、実は・・・』
呆れる京也に卑弥呼はこの近辺のとある異変について説明しだした。
異変と言うのは最近付近の精霊達がいきなり姿を消すというものだった。
初めに小さな異変が起こりだしたのは十年ほど前、島の精霊の分体として引きこもりながら辺りの管理をしていた卑弥呼の元に妙な報告が届き出したそうだ。それは少し離れた北の森から動物が居なくなったというものだった。しばらく様子を見ていたそうだが、その報告は次第に多くなり、今ではこの地方の動物まで消える始末。
因みにどうしてそんな長い間放置していたのか聞いてみたところ、
『童はここから出たくないのじゃ』
と、引きこもりとして当然の回答を返して来た。
職務放棄も甚だしいとは思うのだが、話しによればそれだけなら数百年の間に無いことも無かった事態らしく、そのまま成り行きを見守っていたらしいのだが、問題はここからだ。
ここ最近になって報告を上げていたはずの精霊達が消え出したのだ。
これは卑弥呼が作られてから初めてのケースらしい。
精霊が消えたと言っても完全に居なくなったわけではないらしく、
「強制的に世代交代させられた為に準備が出来ていない微精霊が管理についてしまっているのでしゅわね?」
『そうじゃ、土地の管理には一定の力が必要じゃ。それを無理やり断ち切られ、強制的に管理精霊となった微精霊では管理が不十分なのじゃ』
突然神妙な顔で話に加わったヒョウカによると、そういう事らしい。
イマイチ理解できずに首をひねる京也に、ヒョウカは「昨日通った山の精霊が良い例でしゅわ」と言った。
どういうことか聞いてみると、対応できない微精霊が管理すると一昨日のように水が汚染されたり、木々に力が無くなり、根を張った地面が崩れる可能も出てくるらしい。
つまり・・・、
「環境が崩壊しましゅわ」
『そうならんように部分管理する精霊達に呼びかけてはおるが、それにも限界があるのじゃ。何よりその部分管理していた精霊すら最近では徐々に消える始末じゃ』
部分管理する精霊とはヒョウカのように池の精霊などが該当するらしい。因みにソウはもちろん土地の管理に該当するそうだ。
『と、いうわけじゃから、童の依頼は北で何が起きているか調べ、あわよくばなんとかしてほしいといったものじゃ』
思ったよりスケールの大きな話になってきて眉間にシワを寄せて考え込む京也の服の裾がクイクイと引っ張られる。
角少女かと思いそちらを向くが、相変わらず何を考えているかわからない表情で京也を見上げていた。
不思議に思って逆を見ると、いつの間にか近くに来ていたサクラが目に涙を浮かべて京也を見上げていた。
「ネエ、キョウヤ? (まだお話終わらない?)」
「どうしたんだ!?」
話に集中して気にしていなかった為、何が起こったのかと慌てる京也にサクラは顔を真っ赤にして、
「(お手洗いに行きたい・・・)」
と小さな声で呟いた。
そんなサクラを見て、慌てていた京也は呆けた顔で固まってしまう。
「ちょっと休憩するかの」
反応できない京也に変わって、気を使った卑弥呼がため息つきなが提案したことにより、一同は一旦休憩を取ることになった。
本作はフィクションであり、本編の仮説は作者の妄想です。あまり深く追求しないで頂けると助かります。
さて、京也に新たなミッションの予感、第二章もようやく中盤