様々な突飛な出来事が起こる回
角少女にチョコレートを食べさせた京也、後は町に入るだけ・・・のはず
角少女は京也の渡したチョコレートを無表情のまま噛み続ける。
すでに口の中で融けてしまい噛む必要は無いと思うのだが・・・。
「言葉が解らないと思って真似させてみたが大丈夫か?」
自分の行動に自信がなくなってきた京也は無表情で口を動かし続ける角少女を心配そうな顔で見つめる。
「大丈夫じゃないですか? 美味しいって思ってるみたいですし!」
どうやら痛い以外にも美味しいと思う感情はあったようだ。
それがたった今芽生えた感情であることを京也は知らない。
「(申し訳ありませんでした)」
風子の言葉を聞いて京也がホッとしていると、堀の方に行っていたキリハが申し訳なさそうな顔で戻って来る。何故か水筒を持った状態のサクラを抱っこして。
「どうしたんだ?」
「(よくわからないけどお姉ちゃんが離してくれないの)」
「あー、ま、まあ、何だ、気が済むまでそうさせてやってくれ」
「(うん、わかった?)」
首をかしげるサクラを抱いたまま、キリハはまじめな表情で器用にサクラの頭を撫でる。
年が近そうなサクラを心配しているようにも見えるが、ただサクラを撫でて和んでいる様にも見える。どちらにしてもそれで気分が良くなるならと思い、サクラにはもう少し堪えてもらうことにした。
姉妹から目を戻して角少女を見ると、いつの間にか口が止まっていた。どうやらやっと飲み込んだらしい。
そんな様子を観察していると、角少女がゆっくりと動き出して京也へ一歩近づく。
「へ? ひぎゃ!?」
何か用があるのかと腰を屈めた京也には目もくれず、角少女はいつものように肩に座っていた風子を、突然掴んで握り締める。
短い悲鳴を上げた風子は苦しそうに頭や足をばたつかせるが、拘束が解かれることは無く、その手からは精霊特有の赤い湯気のようなものまで立ち上る。
「(・・・!?)」(風子様!?)
「おい、なにやってる!?」
風子が見えるサクラがキリハの拘束を抜け出し角少女に近づいて体を掴み、京也は風子を握った手を外しに掛かるが、恐ろしい握力でビクともしない。
「痛いです!? 死んじゃいます!!」
「さすがにやばそうだから手を離してくれ!」
京也が必死になって手を外そうとしていると、角少女の目が京也を見る。
何を考えているかわからない瞳を見ながら京也は必死にダメだ! と言いながら首を横に振り、手を離すという意味を込めて自分の手を広げて見せる。
すると角少女は何事も無かったかのように手を開いて風子を開放した。
開放された風子は京也の肩の後ろにすばやく逃げ込み、ガタガタ震えならが角少女を覗き込む。
「今完全に殺す気でしたよ!? やっぱり可愛い私を狙ってる妖怪とやらじゃないんですか!?」
「可愛いは余計でしゅわ、それに目的が貴方なら初めにホイホイ近づいたときにすでに殺ってると思いましゅわ」
物騒なことを言いながら登場したヒョウカは不機嫌そうに風子を睨む。どうやら水筒に引きこもっていたところ、驚いたサクラに水筒ごと投げ飛ばされて出てきたようだ。
「(あっ!? ヒョウカ様ごめんなさい!!)」
角少女を抑えていたサクラがあわてて水筒を拾い上げてヒョウカに頭を下げる。ヒョウカの方はムスッとした顔でサクラに小言を言っている。
「ヒョウカには解りませんよ!! 本当に死ぬかと思ったんですから!?」
「精霊に死ぬとかあるのか?」
「ありますよ!!」
自身満々に言う風子にため息をつきながら京也は角少女を改めて見てみるが、先ほどのような赤い湯気はもう出ていなかった。
「どうしていきなり風子を掴んだりしたんだ?」
「意識を読んでやります!! 絶対殺る気でしたよ!! って、なっ!? 変なのがあったから掴んだ!? こんな可愛い精霊を捕まえて変なのとは何ですか!? 大体掴んだなんてもんじゃなかったですよ!! 完全に握りつぶしてましたよ!! 私はハンドグリップじゃないんですから握っても握力なんて上がりませんよ!! てかそれ以上握力なんて要らないでしょ!? 大体女の子に握力なんて必要ないんですよ!? 非力アピールが大切なんです!! 私をみならってみてはどうですか!!」
京也の疑問を聞いて、勝手に角少女の意識を読んだ風子が一人で何か言っているが、最後の方は怒る方向性がずれてしまっている。あれは恐らく自分でも何と言っているか理解していないだろう。
風子の独り言を聞き流しならが、まとめると、どうやら角少女はなんかあったから掴んだだけらしい。ということは角少女にも風子が見えているということだろう。
目の前で京也を見つめる角少女に更に不思議な点が増えた。いったい何者なのだろう。
京也は頭をひねるが一向に応えは出ない。
「考えても仕方無い。とりあえず子のをどうするかだが・・・」
「(・・・・・・・・・・・・・)」
考え込む京也にキリハから声がかけられるが、風子が角少女に文句を言い続けている為、何と言っているか解らない。因みに京也の言葉は嫌そうな顔をしたヒョウカがきっちりと翻訳している。
「風子いつまで遊んでるつもりだ、キリハが何て言ってるか解らんだろうが」
「遊んでません! ていうか私は完全に翻訳器ですか!?」
「嫌ならヒョウカに頼むが?」
「嫌です!! 集落に返すのは論外だと言ってます!!」
「ちゃんと聞いてるんじゃないか・・・」
文句も言いながらも器用に話を聞いていたらしい風子の翻訳で話を進める。
「それはもちろんだが、連れて行くのか?」
「(それは・・・)」
言いよどむキリハは難しい顔で荷物を見ながら考え込む。
恐らく飲食等の事を心配しているのだろう。もともと京也とサクラの二人分で考えられていた荷物はキリハも同行することになた為、すでに余裕は無い。そこにもう一人追加するというのは無理があると考えているのだろう。
目の前には町もあるが、お金のやり取りが存在した場合は買い物が出来ないし、もし物々交換の場合は交換するものが無い。
京也の持ち物はこの世界では珍しいが、それがどれほどの価値なのか検討もつかない。
「考えてもしょうがない。放置するわけにもいかないからとりあえず町まで連れて行くか」
「(この子を入れてくれるでしょうか?)」
「あー、確かに・・・」
額から生える白い角は短いとはいえ濃い色の肌にとても目立つ。また、髪を後ろで束ねている為、前より目立つ気がする。
「(これで隠すのはダメなの?)」
角を見ながら頭をひねる二人に声をかけたサクラは自分の額に巻かれたヘアバンドのような布を指さす。
「ああ、その手があったか」
手のひらをポンと叩いた京也は早速荷物からサクラの予備のヘアバンドが出してもらい、角少女に巻いてもらう。
「(どう?)」
「んー、ちょっと膨れている気もするが、無いよりはましだろう」
中心が多少目立つものの、そのままよりは格段に目立たなくなっている。
されるがままになっていた角少女は自分の頭に巻かれた布が気になるのか、何度か触った後、気が済んだのか、飽きたのか、すぐに布から手を離す。
「よし、大分時間を食ったが、そろそろ行くか」
京也の声を合図に再度荷物を持った一行は今度こそ町に入る為に入り口に向かう。
因みに角少女は何を考えているかわからないので、とりあえず京也が手を引いている。
サクラにお願いしようかとも思ったが、何かの拍子にあの握力で握られた場合危険な為、京也が手を引くこととなった。
まるで幼稚園の引率だなー、などと考えながら京也は角少女の手を引いて入り口を目指した。
※※※ ※※※
堀の外周をグルリと三十分ほど歩いて辿り着いた入り口は思ったよりこじんまりとしており、人が二人並んでなんとか通れるくらいのサイズだった。
入り口の前には門番と思われる見張りが二人立っており、貫頭衣の上に皮製の胸から腰までを覆う短甲と呼ばれる鎧を纏い、手には槍か弓、腰にはどちらも剣と思われるものを差している。
完全武装の門番に若干逃げ腰になる京也を尻目に丸腰のキリハが堂々と先頭を切って入り口へ近づく。
因みに現在サクラが持っていた荷物は京也が手をつないでいる角少女が持っている。
キリハによれば、交信者や一部の精霊を認知出来る者はすぐに判別されるらしく、それ以外の人間が通る場合は家族(交信者の結婚相手など)や世話人などに限定されるらしい。
京也は問題ないとの事だったが、いくら角を隠しても交信者ではなく、精霊を正確に認知しているか怪しい角少女は入れない可能性があるため、可哀想だが荷物を持って世話人ということにしている。
もちろん説明したところで角少女が理解するとは思えないので、京也が必死のジェスチャーで荷物を持つように説明した。
「(何用か)」
「(京羽の都より旅の途中で立ち寄りました。卑弥呼様に御挨拶したい)」
「(京羽の都は滅んだと聞いている、そこの交信者がなぜ生きている?)」
「(それは・・・)」
京也は翻訳されなながら聞き覚えがある気がする町の名前を何処で聞いたのか頭をひねって考えていると話の雲行きが怪しくなる。
どうやら止められるとは思っていなかったようで、キリハの額に若干シワが出来ている。
何かフォローするべきかと考えていると、突如頭の中に声が響く。
『かまわん、通してやるのじゃ』
響いた声はえらく幼いように聞こえ、サクラと同じか下手すれば角少女と同じぐらいの少女がしゃべっているような声に聞えた。
「(ひ、卑弥呼様!? し、しかし!!)」
『童がよいと言っているのじゃぞ?』
「(は、はい!! 申し訳ありません!!)」
少女の声は門番達にも聞えているらしく、誰も居ない空中を見ながら膝を付いた後、慌てたように入り口を開いて端に避ける。
「(卑弥呼様のお許しが出た。早く通れ!)」
キリハも含めて脳内に響く声にボケっとしている一行に門番が急かすように怒鳴る。
その声に我に返った一行(角少女は相変わらず無表情)は慌てて礼を言って門を潜る。
門の中は思ったより建物が少なく、入り口から左右外壁周辺は田畑に囲まれており、中心には竪穴式住居や、高床式住居などが広い間隔で建てられている。そして、ひときわ目を引くのは中心に建てられたそんなに広く作る必要があるのかと疑問に思うほど横長い高床式住居だ。広いだけではなく、他の高床式住居よりかなり高い位置にあるようで遠くから見ると、竪穴式住居の上に高床式住居、更にその上に巨大な高床式住居が乗っているようにも見える。
『わしにあいさつに来たんじゃろ? 早く来るがよい』
町の風景を見ていた京也の頭に再度声が響く。慌てて辺りを見ると、姉妹はすでに中心に歩き出しており、角少女が京也を見上げて「行かないのか」とでも言うような目で見ていた。
慌てて姉妹を追いかけだす京也の耳に、風子の「卑弥呼なんていうから誰かと思ったら・・・」と言う呟きが聞こえる事はなかった。
やっと入場です、次回はいよいよ歴史的有名人物登場。