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奴らへの対処、それは・・・

夜にカマイタチの襲撃を受けた一行。森を走る京也。一体どうなる!?

 真っ暗な森の中、京也は微かなスマホの明かりだけを頼りに、体に擦り傷を作りながら必死に走る。


 後ろからは深緑の波を伴って三匹のカマイタチが迫る。


 正直逃げているのか、泳がされているのか分からないが、恐らく後者だろう。先ほどから同じ距離を保って居るのがその証拠だ。


『何で襲って来ないんでしゅの!?』


『多分風子と合流するのを待ってるんだ!』


 いくら投げ飛ばしても戻ってくる事に定評のある風子の事だから、今頃こっちに向かっているだろう。


 京也が森に走り出したのは、とりあえず姉妹から離れることを優先したからだ。あの状況だといつ巻き込まれてもおかしくない。いくら命に支障がないとはいえ女の子の体に傷が残るのはとある事情で京也には容認出来ない。


 ひたすら可能な限りますぐ走っていると、前方から薄緑色の波を纏った風子が泣きながら飛んでくる。


『酷いじゃないですか!? あんまりです!?』


『馬鹿なこと言ってる場合か!? ほら、来るぞ!!』


 泣きわめく風子が肩に捕まるのを見計らったかのように、後方から深緑の波が伸びてくる。


「確かこの対処は!!」


 叫んだ京也は手に持ったスマホをしまって、近くの木の幹に飛びつく。


 すると波は木に当たった所で消えてしまう。


「よし!! あいつの馬鹿話が初めて役に立った!!」


「どういうことでしゅの!?」


「あのタイプのカマイタチは三つで一つの現象だから、初めのひとつを潰せば残りも発生しないらしい!」


「流石京也さん! 凄いです! で、これからどうするんですか!?」


 そう、それが問題だ。転ぶ事がない以上、傷つくことも無いが、ずっとこのままでいるわけにも行かない。聞いた話が正しければ、あまり一人に故出するタイプの妖怪では無かったはずだが、木下で待機する三匹は京也の方を見上げたまま動こうとはしない。


「誰か適当な精霊を囮にしてはどうでしゅの?」


「いくらなんでも酷いだろ。お前は何処の悪役なんだ・・・」


「失礼でっしゅわ!?」


「じゃあヒョウカ、囮になって下さい!」


「絶対お断りでしゅわ!!」


「お前らが喧嘩してどうする・・・。何か方法はないか」


 妖怪馬鹿に聞いた情報や、さっきまでのカマイタチの行動から打開策を考える京也は、ふとあることを思いつく。


「なあ風子、お前の分体ってすぐに作れるのか?」


「ふぁい? ぶんたいでふか? つくれまふよ!」


「とりあえず頬から手を放せ、なんて言っているか分からん」


 京也が考えていると間に肩の上でキャットファイトを始めていた二人を宥めてから提案したのは風子の分体を囮にする方法だ。


 風子だけではなく、分体であるヒョウカにも反応したということは、風子の分体にも反応するのでは? と思い立ったのだ。


「出来なくはありませんが、この森の中じゃたいした分体が作れませんよ?」


 やはり風子の分体は風を使うようで、風の遮られる森の中ではたいした分体が作れないらしい。試しに作ってもらい、半透明の鳥を京也達から放してみたが、カマイタチは見向きもしなかった。風子に上空で上がってもらい、分体を作ってから降りてきてもらうからというのも考えたが、それまで京也の腕が持つ自信が無い。


 それを踏まえて京也が出した結論は・・・


「よし、風子。囮になってくれ!」


 風子本人を囮にするという方法だ。


「えぇぇぇぇぇぇー!!!! いーやーでーすー!!!!」


「まあ聞けって、まず・・・」


 京也の提案を聞いた瞬間、襟首を掴んで泣きわめく風子に京也が出した作戦はこうだ。


 まず力の弱い分体を大量に作り、それを伴って時折地面に降りながら森の外を目指す。途中放たれる波は、当たれば一連の動作が強制的に発動する事を逆手に取って分体を当てる。森の外に出たら力の大きな分体を作って全力で逃げる。いくら素早いとはいえ風子の速さには追いつけなだろうから、撒いたら戻ってくる。


「どうだ? これならいけるだろ」


「分体とはいえ私なんですよ!? 切り捨てるなんてやーです!!」


説明してみたが、風子は首を縦に振らない。しかしこれ以上の案は浮かびそうに無い為、京也は趣向を変えて説得を試みることにする。


「それにもう一つお願いがあるんだ」


「囮りにした上、まだこき使う気ですか!?」


「まあ最後まで聞け。森を抜けた先のソウにこの事を伝えて欲しいんだ」


「ソウにですか?」


突然の提案に風子は囮にされる事を脇において聞き返してくる。これで話題のすり替えには成功した。


「そうだ。あいつらは精霊を狙っている。もしこの森を抜ければその先はソウ地方だ。この意味が解るか?」


「ソウが狙われるって事ですか?」


「その通りだ。だから風子にはソウ地方に着いたらソウにや同じ地域の精霊に危険を知らせてほしいんだ。これは飛んで移動できる風子にしかお願いできないことなんだ」


「私にしか・・・」


「変われるものなら私が変わってあげたいのでしゅが、残念ながらそれも叶いましぇんの」


 囮になりたくなヒョウカももちろんこの策に乗っかって来る。


「で、でもですね! やっぱり私自身を囮にするのは・・・」


 それでもまだ迷いがある風子に、手の力がそろそろ限界に来そうな京也は最後の追い討ちをかける。


「もし成功すれば、何でも二つお供えしてやろう」


「何でも!? しかも二つ!!」


「俺に用意出来る物って条件は付くがな」


「何でも・・・」


 どうやら何でもと言った後の言葉は風子には聞こえていないらしく、有らぬ方向を虚ろな目で見ながら口から涎を垂らしている。


 そして、風子が出した結論は・・・、


「しょ、しょうがないです! 京也さんの頼みなら聞くしかありませんね!」


 うまく口車に乗せられたのだった。


「よし! じゃあ早速取り掛かってくれ!」


「了解です!」


 プルプルする手で木を掴む京也の横で、風子は分体である薄緑色で半透明の鳥を大量に生成していく。瞬く間に作られた分体の数は優に五十を超える。


「風子、向こうに着いたら、ついでにこれを私の本体に放り込むのでしゅわ」


 分体を作る風子を素直に関心しながら見守っていると、ヒョウカが手に持った小さな水色の石のような物を分体の一匹に投げ入れる。


「なんだそれは?」


「精霊石でしゅわ、中には出発してからの情報なんかが入っていましゅの」


 分体を作ることには成功したヒョウカだったが、風子の風のように本体とずっと接していない為、定期的に情報を本体と情報交換をする必要があるらしい。その情報交換の方法が精霊石の交換との事だ。


 これには池の水と判断される為のすり合わせも含まれているらしく、今後も定期的に行わなければならないらしい。


「へー、そんな便利なもんが作れるのか」


「ようは分体と同じです! 自分の一部を情報として形にしてるんです! もちろん私も出来ます! っと言うかどうしてヒョウカのパシリまでしないといけないんですか!?」


 ヒョウカの説明に張り合うように補足した風子が、自分を足に使われていることに気がついて憤慨する。しかし、


「この土地と水の情報も入っていましゅの」


 ヒョウカのこの言葉を聴いたとたん、文句を言うのを止めて「わかりました」と小さく答えた。


 いつになく真剣なやり取りをする二人の精霊に、腕が限界に来ているのも忘れて怪訝そうな顔をした京也だったが、その後すぐに準備が出来たと風子が言う為、話を聞くことは出来なかった。


「それじゃあ頼んだぞ!」


「わかりました! 京也さんも私が居ない間に浮気しないで下さいね!」


 風子の戯言に京也が文句を言う前に風子が飛び立ち、近くの地面に着地する。


 すると、上を見上げていたカマイタチ達が一斉にそちらを向いて深緑の波を放つ。


 放たれた波は空を羽ばたいていた風子の分体の鳥が間に割り込み、滑り、切られた所で消えてしまう。


「ほら! こっちです!」


 その間に距離を取っていた風子は再度地面に降り立ち、同じことを繰り返す。すると、カマイタチ達は風子の向かった方向へ走って行った。


 風子の移動と共に無数にいた鳥達もそれに続き、徐々に見えなくなる。


「もう大丈夫か?」


 先ほどまでとは違い静かになった森の中で京也はゆっくり木から手を離して地面に着地する。


 深緑の波が迫ってくる事はなかった。どうやら作戦は成功したようだ。


「成功でしゅわ」


「風子には悪いことをしたがな」


 いくら本人の危険が少ないとはいえ、囮にしてしまったことに京也は少し胸を痛める。された対応はそのまま返すのが京也の生き方の為、今度は風子に囮にされても文句は言えない。


「貴方のお願いに対価をもらって了承したのでしゅから、気にする必要はあしましぇんわ」


「なんだ、心配してくれるのか?」


「バカなこと言うんじゃありましぇんわ! それより、とっととあの姉妹と合流しましゅわよ! 私を放り投げた説教をしてやりましゅの!」


 肩の上で顔を真っ赤にして京也を叩くヒョウカに「はいはい」と返事をして来た道を引き換えす。


 数歩踏み出した京也だったが、最後に一度振り向き「無事戻ってこいよ」と小さく呟いてから姉妹が居るであろう方向へ向かって歩き出した。


※※※ ※※※


 姉妹を探して走って来た道を戻っていると、予想より早く姉妹と合流出来た。どうやら逃げろとったのに京也達の後を追って来たらしい。


 どうして逃げなかったのか聞いてみたところ、「(精霊様を置いて逃げるわけにはいきません)」とキリハに真顔で返されてしまった。


 因みにサクラに説教すると言っていたヒョウカはしっかり小言を言ったが、途中から涙ぐんで謝るサクラを見て「ま、まあ反省しているなら良いでしゅわ」と慌ててそっぽ向いて応え、早々に説教を終えた。


「キョウヤ?(そういえば風子様は?)」


「あーっとだな・・・」


 目を赤らめたサクラが辺りを見回しながら京也に訪ねるが、京也は何と答えていいものか言葉を選ぶ。


 精霊を置いていけないと言っているような二人に対して、囮にしたなどと言えばどんな反応が返ってくるか解らない。少なくても今でも低いキリハの信用度は更に地に落ちることは間違いない。


『風子にはソウに伝言を頼んでいましゅわ』


「(伝言ですか?)」


 言い訳を考えていた京也に思わぬ方向から助け舟が出される。ほぼ共犯と言ってもいいヒョウカだ。


『ええ、あの生き物は精霊を狙っているようなので、ソウに注意を促しに行ってもらったんでしゅの』


「(あれは精霊様を狙っていたのですか!?)」


 ヒョウカの巧みな誘導により、風子の所在より精霊を狙っているという事に注意が向く。しかもここまで嘘は言っていない。


「(精霊様を狙ったあの生き物はいったい・・・)」


「(手が金属だったよ?)」


「あれは・・・」


 何と説明していいか迷いながら、京也は妖怪とう存在について説明した。


 もちろん京也の居た次元の話は避けながら話したのだが、説明している途中で妙な事に気が付く。


 妖怪とは人間の理解を超えた力を持った超常的な存在だ。それは存在や現象が具現化したものと考えられており、人間などの生き物、自然現象、物といったものと密接に関係した存在と考えられている。そしてその存在は見える者には見えて、見えない者には見えない。


 すべてでは無いが、これは精霊と似通っているものが多い。


 精霊は物、現象、概念に存在すると次元の精霊である埴輪は言っていた。そしてそのとき京也は物に宿る精霊を付喪神のようなものものだと考えるようにした。今にして思えば精霊と妖怪を同じとして考えていたのである。そして精霊も交信者には見えて、普通の人間には見えない。


 そう考えると、今回のカマイタチについても精霊だと解釈することもできる。


 あいつの妖怪薀蓄によればカマイタチとは妖怪ではあるが、一部地方ではつむじ風そのものを指すと言っていた。


 つまりカマイタチとはつむじ風という現象の精霊なのではないだろうか。


 しかし、この考えには腑に落ちない点もある。それは風子達がまったく知らなかったということだ。


 精霊同士であれば多少なりわかるとは思うのだが、二人はまったく解らないと言っていた。


 だが、確かにカマイタチは精霊のような力の色と波を持っていた。


「(どうしたのですか?)」


 思考のループに入りかけたところで、キリハから声をかけられて京也は意識を戻す。どうやら説明の途中で黙り込んだ京也を不信に思ったらしい。


 何でもないとだけ伝え、京也は妖怪を良くわからないが存在する厄介なものとして説明した。


 精霊信仰している彼女らに妖怪が精霊かもしれないと伝えた場合、どういった反応になるか予想がつかなかったからだ。


 京也の説明にキリハはあまり納得はしていないようだったが、自身が存在を認識できていなかったこともあり、京也にもよくわかっていないものだということで納得したようだった。


 あらかた説明を終えた京也達はこれからどうするかを考えることにした。


 まずは今動くべきかどうかということだ。


 ぼんやりとはいえ、森を全域見渡せる風子が居ない以上、真っ暗な森の中を進むのは危険が伴う。だが、ここに留まった場合また別のカマイタチがやってくる可能性も否定できない。


 四人で話し合った結果、今晩中はここに留まることに決まる。


 決め手は、あれだけ力を出したままの存在が居ればヒョウカでも距離はわからなくても接近を感知できるということからだ。


 念のため京也とキリハで交代して睡眠することにして、いつでも移動できる準備をして朝、もしくは風子が戻るのを待つことになった。因みにサクラは話合いの途中でダウンしてしまい、すでに眠っている。


 時計を持つ京也が先に見張りをすることになった為、キリハに先に寝てもらってから付け直してた焚火の前に座り、先ほどの考えの続きをする。


「なあ、意識を読んでただろうから解ると思うけどヒョウカはどう思う?」


「そうでしゅわね・・・、その妖怪という存在についてはよくわかりましぇんが、あのカマイタチとやらが精霊と近いというのは同意でしゅわ」


 言葉では肯定していたヒョウカだったが、嫌そうなのが顔に出てしまっている。


「まあ見た目はあんなだが、そんなに似てるのが嫌か?」


「見た目の問題ではありましぇんわ、あのカマイタチとやらは・・・」


 苦笑いしながら聞いた京也に、ヒョウカは思ったより真剣な顔で精霊とは認めない理由を話した。


 そもそも精霊とはもっと単純な存在らしい。風の精霊であれば風を操ることができる。池の精霊であれば池の水などを操り、池そのものに干渉できる。そういうものらしい。


 しかし先ほどのカマイタチは、仮につむじ風の精霊だと過程しても使う力が幅広い。転ばす、切るまでは百歩譲ってつむじ風でも可能かもしれないが、傷を癒すのは現象に合ってない。


 因みにねんどろいどヒョウカの本体である水筒にべったり白い液体が残っていた為、京也が道中の擦り傷に使ってみたところ、傷がふさがるようなことは無かったが、瞬く間に血が止まり、痛みが引いた。癒すというよりは止血鎮痛薬といった感じだ。もったいないので今まで食べたチョコレートの包み紙のゴミで包んで保管している。


 そういったことから、不可解な能力がプラスされたカマイタチをヒョウカはどうしても精霊と認めたくないようだ。


「なるほど、池を出るってだけであれだけ苦労ヒョウカには納得できないってことか」


「そのとうりでしゅわ」


 池の精霊といいう概念をごまかす為にあれだけ苦労したヒョウカにしてみれば、まったく関係ない能力を普通に使っているカマイタチは容認できるものではないのだろう。


 その後も、半分ヒョウカの愚痴のようなものを聞きながら風子の帰りを待ったが、交代時間まで戻って来ることは無く、ヒョウカに頼んでキリハを起こして交代すると、疲れきった京也は二人とは離れた場所に作った寝床ですぐに眠りに付いた。

こんな対処法でした。京也のバイト時代の話やこの後風子がどうしたのかは別の所で差し込みたいと思います。

壮絶な戦いは繰り広げられません。

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