精霊の新能力が以外に応用出来そうな件について
ヒョウカ持ち出し作戦を遂行中の京也、さあ結果は?
ヒョウカと話しながら待つこと十分ほどで、池にソウとサクが到着した。
「無事たどりつけてなにより」
二人に向かって手を振った京也の姿を見つけたのか、歩いていたサクが勢いよく走り出して京也の元へ・・・
向かったように見えたが、スルーしてサヤの方に走り去っていく。
「何を期待していますの?」
手を上げたまま固まった京也に、ヒョウカが白い目を向ける。
「まあ、姉の方が心配で当然ですね」
ゆっくり歩み寄ったソウがさらに追い討ちをかける。ここに風子が居たら更にからかわれたに違いない。
「私がどうかしましたか?」
「うおっ!いつの間に!?」
「? あれが来ましたのでもう大丈夫かと思って戻ったんですけど?」
サヤを抱きしめながら涙を流すサクを指差しながら風子が首をかしげて答える。
「い、いや、何でもない。ありがとうな、風子。それにソウも、案内してくれて」
「お安い御用です!」
「別にかまいません、お供えを忘れなければ」
「ははっ、わかってるって」
引きつった笑いのまま、近くに放っておいた鞄を手に取り、ガムを取り出して風子とソウにお供えする。
ガムの残りは 個。だいぶ心細くなった。
「それで、準備は出来ているんですか?」
お供えされたばかりのガムを味わいながらソウが京也に問いかける。
「ああ、一応言われて通りにしてある。でもこれで本当にうまくいくのか?」
「おそらくは大丈夫です」
改めてどういう仕組みなのかソウに聞いてみたところ、用は水筒の中に池を再現したとのことだった。
池の本質は水が溜まること。それであれば水袋でも水筒そのままでも問題は無いと思われるが、それではただの汲まれた水。用は水槽のようなものらしい。
水の張られた水槽でも生物の育成は可能だが、自然っぽくはない。しかし、底砂を敷き、植物を植えれば、見た目はより自然の環境のようになる。ソウは水筒内でそれを再現したのだ。
「もういい頃合ですから、ゆっくり水に浸けたまま蓋をして池から出してみて下さい」
ソウに言われた通りに蓋をして水筒を持ち上げる。そのまま少しずつ池から離れてみる。
「ヒョウカさん、どうですか?」
「や、やってみますわ・・・」
京也の作業を緊張した面持ちで見つめていたヒョウカが、ソウに声をかけられてゆっくりと目を閉じる。
「・・・」
「どうしたんですか?」
先ほどまでの経緯を知らない風子に簡単に今までの状況を説明してやりながら、京也もやや緊張して様子を見守る。
「意識が切れませんわ・・・」
ゆっくりと瞳を開けたヒョウカが目をキラキラさせながらゆっくりと呟く。
「成功・・・か?」
「の、ようですわ・・・、ちょっと窮屈感がありますが、問題なく意識をつないでいられますわ」
「やったじゃないか!」
「とうとう外の世界を見ることができますわ!!」
「さすが京也さんです!」
「喜んでいるところ申し訳ありませんが・・・」
池の水面で満面の笑みのままピョンヒョン跳ねて、全身で喜びを表現するヒョウカと手を上げて喜ぶ京也達に、ソウが水を差す。
「一日くらいならそれで問題ありませんが、おそらく持って数日です」
「どういうことですの?」
「意識を飛ばすだけではヒョウカさんが力を使えませんから水が、腐敗してしまいますから」
つまり水が綺麗な状態を保つことができず、池の水質を大きく違いが出る為、いくら水筒の中の環境を池と似せても、池とは似ても似つかないものになってしまうらしい。
ヒョウカ本人が移動できれば、自身の力で水の浄化が出来るが、意識を飛ばすだけではそれもかなわない。だから持って数日らしいのだ。
「そ、そんな・・・」
せっかく成功したかに思えた方法の有効期限が数日と知り、水面に両手を付いてヒョウカは落胆をあらわにする。
「ヒョウカ・・・」
そんな様子を京也も悲痛の表情で見つめる。数日だけでもかなりの進歩だとは思えるが、せっかくならいろいろなところを京也は見せてやりたかった。
「あのー」
ドンよりとしたお葬式ムード漂う中、一人風子が首をかしげながら手を上げる。
「どうしたんだ? 今お前のボケに付き合っている気分じゃないぞ」
「相変わらず酷いです! なんで分体にしないのか不思議に思っただけです!!」
「分体? なんだ、それは」
「えーっと、つまりですね・・・」
風子の話では、風子は分体と言われる存在を作ることが出来るらしい。
風子は風の精霊である。その管理地域は普通の風が吹く場所なら土地、海上問わず広大な範囲に渡る。いくら何処まででも見渡すことができるとはいえ、その地域すべての出来事を風子一人で管理するには限界がある。その為、風子は分体と言われる自分の分身を作って広大な管理地域を管理しているらしい。
「分体はただの意識だけでは意味がありませんので、簡単なトラブルなら解決できるように多少の力を使うことができます。ですからその水筒を分体としてしまえば、意識の共有が出来き、長期間移動ができるのではないか、と思ったんです!」
「なるほど・・・、それなら確かに可能そうだ。二人は何でその方法を試さなかったんだ?」
「「何でって・・・、分体なんてはじめて知りました(わ)」」
二人の土地に関する精霊は顔を見合わせてから京也にそう言った。
土地の管理をする精霊は長い年月が経過していることが多く、知識豊かで、同じ地方の多くの精霊とコミュニケーションを取って協力いる為、そんなものが必要なかった。だから分体という言葉自体しらなかったのだ。
「因みに風子、お前以外に分体ってのを使っている精霊って居るのか?」
「居ると思いますよ? 海の精霊とか大地の精霊とかあとは・・・」
「いや、もういい」
すべてスケールのでかい精霊しか出てこなかった。
つまり管理する区域が膨大になると、自然と分体ってのを使わざるおえなくなるということだ。
精霊同士は会話しないわけでは無いが、興味があまり無い為積極的な情報交換などはしないと言っていた。そんな弊害がこんなところにまで及んでいるとは思いもしなかった。
「はぁ、それで、それはどんな精霊でも可能なのか?」
「出来るんじゃないですか?」
「テキトウだな・・・」
「そんな事言われても分体知らない無いなんて、初めて知りましたから!」
「それもそうか・・・、んじゃ、その分体とやらのやり方をヒョウカに教えてやってくれるか?」
「了解です!」
呆れながら頼む京也に元気な返事をした風子が、ヒョウカの側まで飛んで行き説明を始める。
なにやら「ビューンとやって・・・」とか「ギュワーんと飛ばして・・・」などと、効果音ばかりの風子の説明に、「そんなの解りませんわ!!」とか言うヒョウカの声が聞こえた気がするが、聞こえなかったことにして、京也はソウに向き直る。
「そういえば、同じ方法を使えばソウも一緒に来れるんじゃないか?」
「それは難しいでしょう」
「どうしてだ?」
「この地方を、池のように縮尺できると思いますか?」
「それは・・・」
不可能だろう。この地方を再現するには、土地、森、山、もちろん池などすべてを集約しなければならない。そんなものを持ち運べるサイズまで縮小するのはさすがに無理だ。
「そうだ、地図を分体にするってのはどうだ?」
「地図・・・ですか? ・・・なるほど、土地を文字や記号、図形などで表すことにより擬似的に紙面上に一地方を構成するんですか。確かに、これならかなり細かく書けば可能かもしれませんね。しかし・・・」
「今は地図を書ける紙がないか・・・」
地面の形や地形は元の次元とほぼ同じようなので、スマホの地図から抜き出せば写すことが出来る。細かい違いは風子に修正してもらえばいい。しかし紙が無い。
今、京也が持っているのは両面刷りのパンフレットだけだ。これでは地図を詳細に書くことなど出来ない。
「せっかくソウとも旅が出来ると思ったのにな」
「あら、京也さんは寂しいんですか?」
「その問答はここに来る前にやったからもう答えん」
「それは残念です」
必死で真顔のまま答える京也を、ソウが楽しそうにクスクス笑う。
「もし紙が手に入って気が向いたら試しに来る」
「ふふふっ、期待しないで待っておくことにします」
ご機嫌なソウと二人で、水面でワイワイ騒ぎ続ける風子とヒョウカを眺めながら、紙を手に入れてから再びここに戻って来る事を京也は密かに目的に追加するのだった。
というわけでヒョウカが仲間になりました。
さあ長かった第一章も次がラストです。