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ひと騒動明けてもうひと仕事

なんとかサヤを救出した京也に、さあサヤに話を・・・

 サヤを救出して疲れて横になっていた京也は、呼吸が落ち着くのを待ってから起き上がった。


「さて、これからどうするか・・・」


 最近口癖になりつつある言葉を吐きながら、京也は今後のことについて考える。


 もともと京也はサクの頼みでサヤが本当はどうしたいか聞くためにここまで来たのだが、なし崩し的に命を救ってしまった。これで「精霊の元へ行きたかった!」とでも言われたら目も当てられない。


 考えこみながサヤを見ようとして、目のやり場に困った京也はとりあえず投げ捨てていたジャケットを拾って来てかけてやる。


 ついでに風子に言ってあたたかな風をサヤに吹かせてもらう。まだ日も高く、天気も良い為、低体温になることは無いだろうが念のためだ。


『京也さん、うまくいったようですね』


 そんな事をしていると、頭にソウの声が響く。


「なんだ見てたのか」


『はい、そこも私の管理地域ですから』


 地方の精霊であるソウは風子のように何処でもとはいかないが、ソウ地方であれば様子を見ることが出来る。その力で池へ向かう京也のサポートをしていたとのことだ。


「そうだったのか、助かった。ちなみに、サクの様子はどうだ?」


『特に変わったことはありません。気にはなっているようですが、信じて待つことにしているようです』


「信じて待つね・・・」


 会って数日しか経っていない見知らぬ男をそこまで信用して良いのだろうか、と疑問に思う京也だったが、状況が状況だけに仕方無いかと諦める。


「とりあえず、すぐには動けそうに無いからサクを案内してこっちに向かってくれないか?」


『わかりました』


「できれば村人には見つからないように頼む」


 問題ないかもしれないが、村人にとってこの姉妹はどちらも人身御供として精霊の元に捧げたはずの人間だ。おそらく生きていること自体にあまり良い感情をもっていないのでは無いか、と京也は思っている。


 今にして思えば、村に着いたときに感じた視線は村人達からのものではなかったのかと思う。


『ヒョウカさんではありませんが本当に注文が注文が多い人ですね』


「あははっ・・・悪いが頼む」


『はぁ、わかりました』


「話は終わりましたの?」


 ソウとの話の区切りが付いたところで、ヒョウカが水面からぎりぎりまで岸に近づいて声をかけてくる。


「ああ、ここにソウ達が到着するまでは取り合えず待機だな」


「そ、それでしたら本当に私が移動できるか、試して欲しいのですわ」


 水辺に放り投げられた水筒差しながらヒョウカがそんな事を言ってくる。


 ヒョウカとの交渉を終えた後、水筒は水に入る準備の際に放り投げてそのままになっていた。


「忘れてた、でもお前が可能っていうなら大丈夫じゃないのか?」


「そ、それはおそらく可能というだけですわ! もし無理だったらどうしてくれますの!!」


 水系の精霊にもかかわらず顔を真っ赤にして手をバタつかせるヒョウカに、「解った解った」と言って重い足を引きずって水筒を拾いに行く。


 水筒を拾い上げて確認すると、放り投げたせいで多少の傷が付いているものの、使用には問題がなさそうだった。ちなみに蓋を閉めることなく放り投げた為、先ほど汲んだ池の水はこぼれてしまっている。


「さ、早くもう一度汲むのですわ!」


 興奮気味のヒョウカに若干引きながら、京也は先ほどと同じように池の水をゴミが入らないように静かに汲む。そして今度はしっかり蓋をしてそのまま水辺から離れる。


「どうだ?」


「・・・、無理ですわ」


「どういうことだ?」


「そちらに意識を飛ばすことは出来ますの・・・でもやっぱりすぐに意識が途切れてしまいますわ・・・」


 ヒョウカは以前同じような事を思いついて、水汲みに来た人間の持っている水袋で試したそうだが、『池の水』とし認識される時間はごくわずかで、すぐに『水袋の水』として認識されてしまい、ヒョウカの管理から外れてしまったらしい。


 それを水の腐敗のせいだと考えたヒョウカは水筒なら、と思ったようなのだが、結果は見ての通りであった。


「いいんですわ、貴方の口車に乗せられた私がばかでしたの」


 先ほどまでと打って変わって元気を無くし、暗い表情をしたヒョウカがフフフッと笑いながら死んだ魚のような目でつぶやく。


「何か方法はないのか?」


「解りませんわ、そもそも可能かどうかも解りませんの」

 

 京也はされたことはそのまま返すようにしている。ヒョウカは京也の頼みを聞き、最大限にサヤを救う協力をしてくれた。


 それなのにヒョウカに自由を与えられないままでは、京也が騙したことになる。それは京也としても容認できるものではない。


 それからも何度か同じ事を試したが、結果はすべて同じ。


 一瞬のうちにヒョウカの管理を離れてしまう。


「やっぱり他の方法を探すしかないか」


「ですから、もういいと行っていますわ」


「そうだ、精霊のことは精霊に聞けばいいか」


「いったい何を・・・」


「おーい、ソウー聞こえるかー」


「なっ!」


 同じ精霊であれば何か方法を知っているのではないかと、京也は空に向かって呼びかける。


 何故空に向かってなのかは解らないが、なんとなく全域を見渡すという関係上空からなのではないかと思ってだ。


『今度はどうしたんですか?』


 先程話を終えたばかりのソウの声が頭の中に響く。どうやら本当に聞こえたようだ。


「な、なんでもありませんわ!」


「なんでもないってことないだろ、実は・・・」


 髪を振り乱して首を横に振るヒョウカを無視して、京也はサヤを助けるのに協力することになった過程を説明した。


 いくら管理地域といっても四六時中見ているわけでは無いようで、ソウはヒョウカが手を貸す代わりに京也が提示した条件までは知らなかった。


『なるほど、池の精霊相手に随分大胆な提案をしてくれましたね』


「問題だったか?」


『問題のあるなしで言えば、もちろん問題です。彼女はその瓢箪池の精霊です。そこを管理することが存在意義です』


 ソウの言う事はもっともだ、ヒョウカを連れて行けたとして、もし居なくなった後池がどうなるかなど京也は全く考えていなかった。もしかしたら池自体が消えるなどということもあるのかもしれない。


「ヒョウカが居なくなると池はどうなるんだ?」


『京也さんが思っているようにすぐに消えてなくなることはないでしょうが、管理されない以上、水は腐敗し、生き物も激減するでしょう』


「そうなると、村の人間の生活が危ういな・・・」


 村の人間達は人身御供を捧げるほどせっぱ詰まっていた。そんな状態でこの池の水が腐敗し、生物が激減すればどうなるかは目に見えている。


 それ以前に生物が激減するのでは、せっかくサヤが人身御供として捧げられた意味がなくなってしまう。


 まあ、意味という点に関しては初めからほとんど無いに等しいのだが・・・


 村に迷惑がかからないようにするにはどうしたらいいか、京也は無い知識をフルに動因して考える。


「意識を飛ばすだけでも出来ないのか?」


『それはできない訳でもありあせんが・・・』


「ならそれを教えてくれ!」


『・・・はぁ、わかりました。では言う通りにして下さい』


 少しの間をおいた後、疲れた声でため息をつきながらソウはある方法を提案した。


 その方法はは、京也の意表を突くものだった。


 まず水際の土を汲んで濁りが出なくなるまでお米を研ぐ時のように水を変え続ける。


 そうすると、かなり小さな石と粒子の大きな砂だけが沈殿する。その沈殿物が入ったままの状態で、出来るだけ綺麗な水を汲み、最後に池に沈んでいる物をなんでも良いので一つ入れるというものだった。


 何を入れるかで悩んだ京也は、ふと先ほど木箱に隙間を開ける際に使った動物の牙を思い出し、木箱の側に戻って刺さったままの牙を引き抜く。


 引き抜いた牙は多少傷がついてしまってはいたが、ヒビが入っていたりはしなかった。


「こんなんでホントに旨く行くのか?」


『問題無いはずです。それではそのまま浅瀬に半分ほど埋めてそのまま待っていてください』


 京也はソウに言われた通りの状態にして、やっと一息つく。


「どうしてそこまでしてくれますの?」


 額の汗を拭って座った京也の前に、様子を見守っていたヒョウカがゆっくりと近づいてくる。


「約束を守らないのも気持ち悪いじゃないか、それに・・・」


「それに?」


「ここも悪くないし、それが当たり前なんだろうが、ここだけしか知らないってのもなんか寂しい気がしてな」


 ヒョウカが京也や風子をうらやんだ時、ソウが精霊とはどういうものか説明した時、二人ともとても寂しそうな表情をしていた。


 精霊とはそういうものだとソウは言っていたが、元の次元に帰れない事以外は特に制約を持っていない京也にはとてそれはとても残念に思えた。


「そんなもの、ほとんどの精霊は同じですわ」


「そうかもしれないけどな、何かの縁でこんな約束したんだがら、例外があってもいいんじゃないか?」


 京也の意識を読んで反論するヒョウカに、京也は頬をかきながら苦笑いで答えた。


 ヒョウカの言う通り、その土地や地方の精霊すべてに同じ対応するのは不可能だ。京也が知らないだけで精霊は星の数ほど居るそうだから。


 しかし、こうやってヒョウカと約束したのも何かの廻り合わせだろう。


 絶対に不可能と言うなら諦めもつくというものだが、可能性があるというなら試してみても損は無い。


「先に知り合って友人になったのに、同じようにソウにしないのも気が引けるがな」


「それは早いもの勝ちですわ」


 腕を組んで勝ち誇ったようにニヤリと笑うヒョウカに乾いた笑いを返しながら、京也は今こちらに向かっているであろうソウに胸の中で謝りつつ、本人の到着を待つのだった。

果たして京也の目論見はどうなる?

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