〇〇と協力?救出大作戦!!
サクの頼みでサヤの元に向かった京也、果たして間に合うのか!?
池への最短ルートを走る京也は、風子の吹かせる追い風の力に驚いていた。
通常追い風であっても、一定の速度以上を出してしまえば追い風ではなくなる。
しかし、風子の吹かせる追い風はどれだけ早く走っても追い風のままなのだ。
『いったいどういう原理なんだ?』
『原理っていうのは良くわかりませんが、京也さんに《・》追い風を吹かせてるだけです!』
『俺に?』
走り続ける京也は息が上がっていて、しゃべる余裕はないが、風子に届くよう考えながら話すと風子はそんな風に答えた。
『京也に』という意味を考えながら周りを見てみると、風子の色である薄緑色の波が京也の周りを包みこんでいることに気が付く。
つまり京也の周りに《・》追い風を吹かせるとは、京也にはずっと追い風が吹き続けるということらしい。
『これで自転車だったらもっと早く着けたのにな』
『そうですね! それがあれば最速で辿り着けそうです!』
自転車という物を京也の意識から読み取った風子が笑いながら答える。
京也達の目的地である池は村から約三十分、村から森まで約1時間。通常であれば一時間半の距離だが、大回りせずに直線に進めばおそらく1時間といったところだろう。その上常に追い風の状況と、さらに、
『これも風子がやっているのか?』
京也の言う『これ』とは、進む先から左右に分かれて道のようになって行く草原の草だ。前を飛ぶ風子のちょうど下辺りから分かれ始めている。
『これは私じゃないです! たぶんソウですね!』
風子の能力と同じく、いったいどんな原理なのかはわからないが、草の道はソウが作っているらしい。
『あいつも十分素直じゃないと思うんだがな』
『まったくです!』
ここ居にない地方の精霊の好意に苦笑しながら京也達はひょうたん池へ全速力で足を進めた。
※※※ ※※※
走り始めてから三十分を過ぎ、京也の体力もかなりキツクなって速度が落ちて来た頃、昨日通った道が見えて来る。どうやら村からの道と合流したらしい。
さらに走りやすくなった道を最後の力で進んでいると、前方から数十人単位の団体が見えてくる。
『あれは!?』
『おそらく村人達ではないかと!』
『やっぱりか!? ってことはサヤは!?』
『もう人身御供になってしまったようです!!』
『くそ!!予想よりも早い!!』
京也の予想では池にたどりついてから、儀式などが行われて時間を食うと考えていたのだが、予想が外れたらしい。
『どうしますか!? このままだとあの集団に突っ込みます!!』
それほど広くない道をかなりの人数が通っており、とても京也が通り抜ける隙間はない。
『仕方ない、周り込んで回避だ! 捕まっても面倒だ!』
『了解です!』
風子が道から脇に外れると、それに応じて草が分かれていく。
すれ違いざまにちらりと見ると、村人達は一様に頭を力なく落として歩いており、中央には神輿のようなものに乗ったシソウクが見えた。
他の村人は草むらを走る京也に気が付いていなかったが、一瞬だけだが京也はシソウクと目が合ったような気がする。
しかし、それを気にしている余裕はなかったので、京也は気にすることなく池へと急いだ。
※※※ ※※※
辿り着いた池は昨日となんら変わりないように見えた。
一部変わっていたのは、池の辺に人が五人は乗れそうな船が泊めてあったことだ。
「ヒョ、ヒョウカ!!」
「なんですの、やっと静かになった所ですのに」
荒い息のまま京也が水面に向かって呼びかけると、ヒョウカは昨日と同じように水面に姿を表す。
「さっき、ここに、村人達が、頼み事に、来いただろ!」
「来ましたわ」
「その、頼みごと、お前は、聞くのか?」
「それは無理ですわ、私にこの池の水をあの村まで流すことは出来ませんもの」
やはり村人達は村へ水を引き込むことをお願いしたようだ。
しかし、ヒョウカには水を外に出す能力が無い為それは出来ないだろう。
「ってことは断ったのか?」
「もちろんですわ」
「じゃあ人身御供は・・・」
「その代わり、この池の生き物を多数取るということを提示されましたので、了承しましたわ」
「くそ! そういうことか!!」
村人達もおそらくヒョウカに池の水を村まで引き込む事が出来ないのはわかっていたのだろう。だから代案を用意していたのだ、森で動物が取れなくなった代わりに、池の魚で飢えを凌ぐという。
「人身御供にされた女は何処だ!?」
「人間達が用意した対価でしたらこの先ですわ」
ヒョウカが指し示したのは、池の中央付近。水面には何も無いように見える。ということは、
「沈んでるのか!?」
「そうですわ」
京也達が来る途中にはすでに村人が帰り始めていたことから、どんな状態で沈んでいるかは分からないが、すでに数分は経っていると思われる。
「その対価と話がしたい!!」
「ご自由に、ですわ」
「何処に沈んでいるか詳細な場所を教えてくれ!」
「何故ですの?」
「はぁ?」
「何故私がそんな事をしなければなりませんの?」
つまり助けるのは勝手だが、手助けするつもりもないらしい。
しかしこの広い池の何処に沈んでいるか分からない以上、闇雲に潜ってもすぐに見つかるとは思えない。
昨日潜った感じでは、深い所はかなり深さがあった。
通常浮くはずの人間の体が沈んでいることを考えると、おそらく錘か何かが付いているはずだ。
「チョコレートをお供えするから場所を教えてくれ!」
「それはかまいませが、場所を知った所でどうしますの? あの箱は早々開くものでも、引き上げられるものでも無いと思いますわ」
「箱に入ってるのか!?」
箱という言葉を聞いて、京也の頭には昨日潜った際に中心の深くに沈んでいた複数の木箱が思い浮かぶ。
「あら、教えてしまいましたわ。まあ良いですわ。で、どうするつもりですの?」
京也は沈んでいると聞いて袋か何かに石でも詰められていると想像していたが、まさか箱に詰められているとは予想外だ。
袋であれば破れば何とかなったかもしれないが、昨日遠くから見た木箱はすぐにどうこう出来るサイズではなかった。
力を借りようにも、風の吹かない場所である水中では風子の助けは借りられない。
ソウは呼べば来てくれる可能性があるが、サク一人にしておくのも心配だ。
残る手段はやはりヒョウカの力を借りるしかない。
その為にはヒョウカにメリットがる交換材料が必要だ。
京也はこれまでにあったことや、昨日ヒョウカと話した内容などを思い出して、なにか無いかと必死に考える。
精霊の力を貸す条件。ヒョウカの状態。ヒョウカが欲したこと。
さまざまなことを思い出していると、ふと昨日のヒョウカと風子の会話が思い出される。
『お気楽な精霊のように自由に生きていられるのかうらやましいですわ』
つまりヒョウカは自由に生きてみたということ。
それをにするには・・・
「!!」
ある案を思いついた京也はリュックから水筒を取り出して、残っていた水をすべて飲み干す。
「いきなり何をやっていますの?」
「京也さん大丈夫ですか?」
二人の精霊に奇異な眼差しを受けながらもすべての中身を飲み干した京也は、空になった水筒をヒョウカの方に突きつける。
「対価はヒョウカお前の自由だ!!」
「・・・何を言っていますの?」
高らかに宣言した京也をヒョウカは眉をひそめて怪訝そうな顔で見る。
「これは真空断熱のステンレス水筒だ。説明するより意識を読んだ方が早いだろうから読んでみろ」
「真空断熱のステンレス水筒・・・用は金属の水袋ではありませんの」
京也の意識を読んだヒョウカは水筒を水袋と同じものと解釈したようで、たいして関心を示さない。
しかし、これはただの水袋ではない。
「ちなみにヒョウカは水袋に入って移動は出来るのか?」
「出来ないことは無いですが、もって数秒ですわ」
「それは何故だ?」
「何故って・・・腐敗して池の水ではなくなるからだと思いますわ」
やはり京也の予想は正しかった。この時代の水袋は基本動物の皮などから出来ており、長期の保存には向かない。
密閉できない上、どうしても不純物が混じるからだ。
「なら、これならどうだ?」
京也は水辺までいくと土が入らないようにそっと水筒に水を汲む。
真空断熱のステンレスボトルは不純物が溶け出すことが無く、ほぼ密閉が可能だ。それでも多少の腐敗は避けられないが、以前ソウが池に来たときに『この池の水が綺麗なのは池の精霊が居るから』だと言っていたのを思い出し、ヒョウカなら浄化が可能なのではと思ったのだ。
水袋では無理でも、この水筒であればヒョウカをつれて長時間移動することが出来る可能性がある。
つまりヒョウカを池から連れ出せるということだ。
「これなら・・・可能かもしれませんわ・・・」
「どうだ? これが俺の出す対価だ!」
「・・・」
水筒を掲げたまま京也はヒョウカの反応を待つ。正直これ以上ヒョウカの望むものは思いつかない。
「・・ですわ」
「ん?」
「いいですわと言ったんですの!」
顔を赤く染めたヒョウカはそっぽ向きながらも、京也の条件を飲んだ。
「よし! なら早く昨日みたいに水に潜れるようにして、正確な場所を教えてくれ!」
交渉にかなりの時間をかけてしまった為、京也は言いながら上着を脱ぎ捨て、靴を脱ごうとする。しかし、
「それよりこれの方が早いですわ」
「どうい・・・」
どういうことか聞こうとした京也の目の前に驚きの光景が目に飛び込む。
池が左右に割れたのだ。池の水面を水色のキラキラ光る線が走ったかと思うと、そこに亀裂が入り少しずつ広がって、人が通れるくらいになる。それが池の中央付近まで続く道となった。
どこかの神話で移民の為に海を割って神が移住させてたなどという話があったが、まさにそんな感だ。
「・・・」
「なにをボーっとしてますの、そんなに長くは持ちませんわよ」
口を開けたまま呆けている京也にヒョウカが呆れ顔で早く行くよう促す。
「は!? ふ、風子! これなら追い風に出来るか!?」
「任せて下さい!!」
ヒョウカの呼びかけで我を取り戻した京也は脱ごうとしていた靴を履きなおしてから、様子を見守っていた風子と共に池の亀裂へ飛び込む。
地面はぬかるんでおり、全力で走ることは出来なかったが、泳ぐよりは到底早い。
下り坂になった走りにくい水底を何とか急いで進むと、正面に木製の箱が複数個積みかさなっているが見える。
箱はどれも一メートルくらいの正方形、同じ位の大きさで作りは一緒のようだが、それぞれ朽ち加減にばらつきがあった。
京也は迷わず一番新しそうに見える箱に近づき、箱をよく観察する。
基本は木の板の貼り付けのように見えるが、よく見ると接合部分に釘などは使われておらず、組み木のように溝を彫って組んで作られているようだった。
ただし横面だげは加工が違い、おそらく最後に止める為なのか、十字に組んだ木を上にかぶせて木杭を打っただけのように見える。
「よし! これを外せば!」
「そろそろ限界ですわ」
「なにぃ!?」
十字に組まれた僅かな隙間に手をかけて渾身の力で引っ張ろうとしたところで、ヒョウカから声をかけられ後ろを振り向くと、先ほど通って来た道がなくなっており、水面が目の前にまで迫っていた。
「まずっ!?」
まずいと思ったときにはすでに遅く、京也はいっきに水に飲み込まれる。
木の隙間を力いっぱい握り締めて流れに逆らおうとするが、勢いが強く、絶えることが出来ずに流れに巻き込まれる。
『仕方無いですわね』
頭に直接響くヒョウカの声と共に、水色の光が京也の周りを包み込み、水の流れを穏やかにし、水温も上がった。
おかげでどうにか上下を把握できた京也は酸素を求めて急いで水面を目指す。
「ぶはぁ!!!」
水面から顔を出した京也は酸素を求めて荒い呼吸をする。「大丈夫ですか!」という風子の声に答える事も出来ずに深呼吸を繰り替えす。
風子はどうやらちゃっかり巻き込まれる前に水上へ脱出したらしい。
「さっきのはもう一回できないのか!?」
「さすがにすぐには無理ですわ」
「くそ!! だと思った!!」
そんな都合のいい話がないのは予想道理だった為、京也は大きく息を吸うと、再び水中へと舞い戻る。
『水中の光を集めておきましたわ、そこを目指せば良いですの』
『助かる!』
薄暗い水面の中で水色の光はとても目立った。対して離れていなかったことも幸いし、京也は全力で水底を目指す。
なんとか一番新しい木箱までたどりついた京也は木の間に手を入れようとするが、爪が引っかかるのが限界で力が上手く入らない。
一度水面に上がり、空気を吸ってから何か使えそうな物はないか辺りを見回すと、先ほどの水が戻る衝撃で朽ちた木箱の一つが崩れかけており、中から動物の牙のような物が転がり出ていた。
何となく見覚えがあるような気がする牙を掴み、十字の隙間にねじ込んで、水底にあった石で思いっきり打ち付ける。
何度か繰り返すと、牙の太さと同じの隙間が出来たので、指を入れて渾身の力で引っ張るが、組んでいる木自体が水を吸って膨張している為かびくともしない。
『ダメだ! ヒョウカ! なんとかこれを水上に上げられないか!?』
『いくらなんでも無理ですわ、せいぜい多少水を集めて持ち上げるのが精一杯といったところですの』
ヒョウカの力か、木箱が少し地面から浮いた為、そのまま引きずって浅瀬に上げようとするが、両手で掴んだままではうまく運ぶことが出来ず、水底の出っ張りに引っかかってうまくいかない。
『くそ! なにか無いのか!?』
辺りを見回す京也の目に、ゆらゆら漂う紐のようなものが目に入る。
『あれは!?』
それは昨日京也が魚を取ろうとして作った網の残骸だった。何も取れずに諦めてしまったのでそのままにして忘れていたのだ。
網の部分の結びはほとんどほどけているが、引き上げる為の蔦を編んだ紐はしっかり作った為、そのまま残っている。
『これだ!!』
漂っていた残骸を掴んで引き寄せて、丈夫に残った部分を十字の木の隙間に通して結ぶ。解けないように結んだ上から残骸の蔦をさらに結びつける。
結び目を確認してから蔦を伝って水面を目指す。
もともと浅瀬近くで使っていたが、木に引っ掛けることを考えて長めに作っていたた為、何とか浅瀬まで届いた。
「ヒョウカ! さっきみたいに少しでも木箱を浮かせてくれ!」
「まったく、注文が多いですわ!」
「風子! 向かい風!」
「了解です!」
二人に指示を飛ばしてから、京也は浅瀬に踏ん張って蔦を引っ張る。それと同時に綱引きのように少しずつ後ろに下がる。
すると、たまに引っかかることもあったが順調に木箱が浅瀬に近づく。
木箱の頭が見えてきたところで、勢いをつけて引っ張ると、水面から木箱が半分くらい顔を出した。
顔を出した木箱に走りより、手前に来ていた十字の隙間に再度手を突っ込み、両手で掴んで全体重をかけて引っ張る。
「開けー!!!」
初めはビクともしなかった木だが、反動をつけて何度も引っ張り続けると、ミシミシっという音と共につなぎ目に隙間が出来る。
一度隙間が出来てしまえば、後は意外とあっさりと木杭が抜け、十字の詮が外れる。
「おわっ!?」
はめられていた蓋を取り外すと、中から前と同じような白無垢姿でサヤが水と共に転がり出てくる。
「おい、生きてるか!?」
転がり出たまま動かないサヤを抱き起こし、言葉が通じないのも忘れて京也が問いかけるがまったく反応が無い。それどころか、
「息してないじゃないか!!」
海水浴場の監視員をしていたときの講習道理に呼吸、心拍の確認を行うが、微弱に心拍はあるものの、呼吸が無い。
それを確認した京也はサヤを抱きかかえて水辺に上がり、寝かせてから顎を上げて気道確保して、人口呼吸を行う。
三度ほど息を送り込むとサヤが勢いよく水を吐き出した為、横を向かせて背中を叩く。
何度か水を吐き出したサヤは薄く目を開けて少し周りを見ると、そのまま意識を失った。
心配になり、呼吸と心拍を確認するがどちらも多少弱いものの問題なく、京也はそれを確認するとその場に座り込んだ。
「よかった、なんとか、間に合った・・・」
「お疲れ様です!」
「おう、風子と、ヒョウカも、ありがとうな」
「わ、私は条件道理手伝っただけですわ」
荒い息のまま、うれしそうに飛び回る風子と水面でそっぽ向くヒョウカに笑いかけながら、京也は疲れ果ててサクの横に仰向けに横になるのだった。
どうにかひと段落付きました・・・が第一章はもう少し続きます。
ここでお知らせですね。第一章が終了後から更新ペースがさらに遅くなります。
プロットはありますが本文が出来ていない為です。可能な限り早く上げたいとは思っていますが、仕事の関係で週2日程しか執筆時間が取れない為です。事実第一章書くのに実質2ヶ月かかっています・・・
もし読んでいただいている方が居ましたら、申し訳ありませんが、生暖かい目で見守って下さい。