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漁だ!水浴びだ!夢だ?

池にやって来た京也は、貴重なチョコを消費して漁を結構することに。果たしてその成果は···

 水浴びついでに脱いだ服を洗って干した後、下着一枚になり水中へ入った京也は驚きを隠せないでいた。



 水の中に入ってすぐは肌寒さを感じたものの、震えるほどの寒さではなく、心地よい冷たさだった。



 ヒョウカによれば、水面の温められた水だけを京也の周りに集めているそうだが、京也にはどうやっているのか検討もつかない。



 あの後、三人にチョコレートをお供えした京也は、風子とソウに頼んで漁の準備に取り掛かった。



 チョコレートの甘さに顔をまで蕩けさせたヒョウカを三人で笑いものにして、ヒョウカがキレるといったこともあったが、それはまた別の話だ。



 風子にはあたりに人影がないかどうか見張ってもらい、ソウには近くの林に蔦、蔓類が生えている場所を教えてもらった。



 ちょうど良い太さの蔦を見つけ、近くに落ちていた平たい石を使って二メートルくらいに切って、粗く網の目に編む。



 四角に編んだ蔦の四方に、長めの指の太さくらいの蔦を結んで網を完成。四方四箇所の蔦の先には太めの蔦を結びつけてる。



 完成した網を水中に敷いて浮かないように四方に石を置く。あとは近くの木の枝に網から伸ばした蔦を通して地面に垂らし、大きめの石を結びつけた後、木に登って石を引っ張り上げてから太めの枝の上に乗せて網までの長さを調整して、完成だ。



 そして一連の作業を終えた京也は水浴びをかねて水に潜っていた。



 池の中は真ん中が窪んでいるようで、徐々に深くなっており円の中心と思われる部分がかなりの深さがあった。



 周りを見回すと思ったより魚が泳いでいるのが見える。



 さっそく周り魚を網を仕掛けたほうへ誘導しようと追いかける。しかし追われた魚は網を仕掛けた浅瀬へと行かず散り散りに逃げてしまう。



『がんばってください!』



『ぜんぜんダメですわね』



『魚も命がかかってますからね』



 精霊達の言葉を無視して 一度水面に上がって息を吸いなおしてから、今度は深めにもぐって魚を追い立てる。



 やはり中心はかなりの深さがあり、底までは行けなかったが、底には様々な物が沈んでいるようだった。



 その中に明らかに人工物の木製の木の箱が複数個沈んでいるのが目に入り、中身が何かと気にはなったが、目の前を横切った魚を見て本来の目的を思い出し、魚との鬼ごっこを再開する。



 そんなことを繰り返しながら魚を追い立てていると、数匹の群れが網のある浅瀬へ向かった。



 このチャンスを逃すまいと慎重に追い込み、魚が網に近づいた所を見計らい、



『風子! いまだ!』



『了解です!』



 風子には合図があったら枝の上の石を落とすように言ってある。



 弱い力の風でも落ちるように石の位置も調節済みだ。



 京也の前で先ほど敷いた網が素早く持ち上がる。



「獲れたか!?」



 水面に顔を出した京也が引き上げられた網を見るとそこには・・・



「ぷっ」



 笑い転げる精霊達と、何も入っていないちぎれた網があった。



 それから、意地になった京也が網を修理して同じ仕掛けで二度ほど漁を試みたが、魚が取れることは一度も無かった。あとでソウに聞いた話では、この池は大きな川の支流が流れ込んでおり、魚が多く入り込むため、釣りや漁が定期的行われるらしく、魚の警戒心も強いとのこだった。



「それを早く言え・・・」



 泳ぎ疲れた京也は池の辺で大の字で横になりながら、恨めしそうにソウを睨む。



「それを言ったらチョコレートが食べられませんから」



「聞かなかった貴方が悪いんですわ」



 苦笑いする風子を除いて、辛辣な言葉をかけながら覗き込んでくる精霊達を見て京也はため息をつく。



「まあ当初の目的として水浴びは出来たからよしとするか」



「あら、意外とあっさりしてますわね」



「ん? まあ魚は取れたらサヤ達の食料の足しになればラッキーくらいのつもりだったし」



「さすが京也さん! お優しい! 『漁だ(キリッ)』とかカッコよく言ってたから、落ち込んでいるかと思い・・・へ? あぁぁぁぁぁぁぁー」



 恥ずかしいセリフを思い返してニヤニヤしていた風子を、京也は掴んで彼方へと投げ飛ばす。



 目の前で起きた光景にヒョウカが目を丸くしていたが、ソウが特に何も言わないのでそういう物と納得することにしたようで、何も言わなかった。



「しかしこれだけ魚が取れるなら作物や獣がとれなくてもなんとか生活できるんじゃないか?」



 もっともな疑問を言う京也に、ソウはため息をつきながら首を横に振る。



「出来ないこと無いでしょうが、この池は彼らにとって精霊の住む清らかな場所として信仰の対象となっていますから、定期的と言いましたが、年数回の祭事以外は漁をすることはありません」



「食料難でも信仰は守るってわけか・・・」



「別に私が言ったわけではありませわ」



 人間の信仰とは精霊の意志と関係なく行われる。



 その決まりが出来た当初は乱獲を防ぐなどの意図が含まれていたのかもしれないが、長い年月をかけて教えが決まりとなり、意図と関係なく守られて行く。



 それは京也のいた次元でも同じようなことが多々あった。



「いつの時代でも人間は変わらないな」



「そうですね」



「まったくですわ」



 しみじみ三人で語っているとふと京也は思いつく。



「そういえば、祭事しか漁をしないってことなら、俺が魚を取って帰ったら不味かったんじゃないか?」



「それもそうですね」



「・・・」



「聞かれませんでしたから」



 再度無言で睨む京也に笑顔で答えたソウ。それを見て京也は大きなため息をついて力を抜いた。



 適度な疲労感と、心地よい風に身を任せて目を閉じると、京也の意識は眠りに誘われて行った。



※※※ ※※※



 暗闇の中に居た。



 体を自由に動かすことも出来ない狭い中でひざを抱えて丸くなっている。



 おそらくこれは夢だ。自分のものにしては体がやけに小さい。



 ひざと一緒に握り締めた牙のお守りが手に力が入りすぎて皮膚に食い込むが、痛みを感じることは無い。



 それは夢だからなのかそれとも・・・



 小さな体に溢れる感情は恐怖。



 だが恐怖しているということ自体がもっとも怖かった。



 狭い中に凍るように冷たい何かが流れ込み満たしていく。



 直にこの小さな体を飲み込んでしまうだろう。



 しかし恐怖しているという恐怖の前では些細なことだ。



 次第に薄れている意識の中で小さな体の持ち主は恐怖に恐怖しながら願っていた。



 村の為、



 お守りを作ってくれた大切な・・・の為、



 繰り返し繰り返し願い続ける。



 暗く狭い冷たい中、



 一人・・・



 小さな体はそんな事を願い続けながら、意識までも暗闇へと沈めて行った。



※※※ ※※※



「っ!?」



 目を覚ました京也は飛び起きて辺りを見回す。



 辺りは薄いオレンジに染まっており、京也の横には長い木の影さしていた。



「やっとお目覚めですか?」



「あ、あぁ、悪い」



 どうやら泳いだ疲れでそのまま寝てしまったらしい。



 京也は自分の手を見て二、三回握り返すが特に変わったところは無かった。



 下着姿で寝てしまった為、肌寒くはあったが、凍えるほどの寒さではない。



「風子さんに感謝して下さい。こんな格好で寝てる京也さんに辺りの暖かい風を集めて送ってましたから」



「そうか、ありがとうな、風子」



「いえ、お安い御用です! というか、どうかしたんですか?」



 言われるがまま風子に礼を言った京也だったが、その後も服を着るでもなく水面を見ながらボーっとしていのを不思議に思った風子が顔を覗き込む。



「いや、夢・・・みたいなものを見てな」



「夢ですか?」



「やけにリアルというか感覚に残る夢でな」



「どんな夢だったんですか?」



「それを思い出そうとするんだが、感覚ははっきり覚えているんだが、どんな、と言われてもまたく思い出せないんだ」



 暗く狭く冷たい孤独な感覚は残っているが内容はさっぱり思い出せない。



「私は夢というのを見たことがありませんからなんとも言えませんが、夢とはそういう物なのではないですか?」



「まあそれもそうか」



 ソウに言われて納得していると、徐々に夢の余韻も薄くなっていく。



「気が済んだのでしたらその恥ずかしい格好をなんとかしたらどうですの?」



「おっと、それもそうだな」



 ヒョウカに言われて立ち上がった京也は干しておいた服と荷物を身に付けると、再度体を動かして感覚を確かめる。



「よし、暗くなる前に戻るか」



「やっと静かになりますわ」



「悪い悪い、てか寝てたからそんなに五月蝿くなかっただろ」



「五月蝿かったはこのアホの精霊ですわ」



「だから私は風の精霊です!!」



「ああ、なるほど」



 嫌そうな顔をして風子を見るヒョウカに、納得して同情する。こんな感じでずっと言い合いしてたのだろう。



「んじゃな、またいつか来たら泳がしてくれ」



「その時はもっとちゃんとしたお供えも持ってくるんですわよ」



 数個の水袋を抱えながら「はいはい」と答えて京也は池を後にした。



 後に残った瓢箪池の精霊は夕日の中一人佇み、京也達が見えなくなるまでずっとその姿を見守るのだった。

魚を取るのはそんなに甘くありません。

いったい釣りに行って何割坊主か···

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