こんなところで行方不明
はじめまして!開いて頂き、ありがとうございます。
さて、京也が埴輪に出会うところから始まる精霊との探索記の始まりです。
素人の書いたつたない文章ですが、読んでいただけると幸いです。
誤字やご意見がりましたら、ぜひよろしくお願いします。
「はぁ・・・、ノーと言える人間になりたい」
橘京也は生まれて22年間、何度繰り替えしたかわらない口癖とともに、ため息をついた。
そんな京也の気を知ることのない目の前を歩く男女達は、たわいもない世間話でわいわいキャッキャと楽しそうに笑っている。
その光景に、京也は再度ため息をついた。
彼らは、同じ考古学大学で卒業研究に所属した学友だった。とはいっても、前から付き合いがあったわけではなく、4年間でかかわり合いがあったのは卒業研究の間だけ。
バイトに明け暮れるあまり、卒業研究への取り掛かりが遅れた京也は、教授により強制的にチームを組まされ彼らと研究を共にすることとなった。
しかし卒業研究提出期間ぎりぎりまで研究を終えていないような人間達が、強制的に集められて作ったチームでまとまりある行動などできるわけもなく、一向に研究が進まない中、京也はチーム員に頼まれてほぼ一人で研究を行い、つい先日やっと研究という名の地獄から開放されたのだった。
「なんだ元気ないじゃないか」
うつむきながら歩いていた京也に、前を歩いていた一人が声をかけてきた。
もちろん名前など覚えてない。
茶髪ピアスの彼を、京也は脳内で茶髪とそのまま呼んでいた。
「いや、ちょっと疲れが出てね」
「そりゃそうか、昨日までほぼ徹夜だろ? いやーマジ助かったわー」
苦笑いしながら答える京也に、茶髪は肩をバンバン叩きながら笑みを浮かべる。
バイトなどで取り掛かりが遅れたわけではない京也を除く6人は、普段からあまり素行の良い方ではなく、研究中も京也の手伝いはおろか学校にすら姿を現すのは稀だった。
研究が終わった絶妙なタイミングで現れ、提出を共同でおこない、受理されると京也を卒業旅行に誘ってきた。
初めはバイトを口実に断った京也であったが、礼だと言われて断る事ができず、しぶしぶ同行することとなった。
自腹で。
礼と言うからおごりかと思いきや、プラン作成から旅券の手配までなぜか京也が行い、結局彼らは自分達の参加費を支払うだけで旅を楽しんでいる。
要は礼というのは口実で京也にまた面倒事をおしつけたのだ。
「金を払っただけまだマシか・・・」
「ん? なんか言ったか?」
「いやなんでもない、それよりこっからはツアープランも自由行動だらから各自好きに見て廻ろう」
茶髪が京也に声をかけたことにより立ち止まった彼らに京也は自由行動を促す。
京也達が参加した、旅行会社の『歴史と遊園と温泉ツアー』は、団体で施設見学をするものと、一定の自由時間中に好きに町を見学する自由行動の時間が交互にあり、名所をおさえつつ、好きな場所に立ち寄れる自由度の高いプランとなっていた。
京也としては、ずっと彼らと行動を共にするのが面倒だっただけなのだが、彼らには思いのほか好評だった。
「そうだな、んじゃそうするかー。何時までに戻ればいいんだっけ?」
「2時間後までにバスに戻れば大丈夫だな」
「りょーかーい、んじゃあとでなー」
去り際に京也の肩を再度叩き、茶髪は班の中の一人の女性と去っていった。
その他も数人でグループを作り、思い思いの方向へ消えていく。
どうやら京也が研究に明け暮れる間に、チームの中で男女の仲を深めていたらしい。
そういったことには手が早いというのは、まったく関心すると京也は思う。
「やっと開放された・・・。さてこれからどうするかなー」
一人残った京也はこれからどうするかを考えながら、彼らが去った方とは逆に歩きだした。
※※※ ※※※
自由行動となった京也は旅行パンフに古墳が載っていた為、そこへ行く事にした。
別にそれほど行きたいわけではないが、彼らと絶対鉢合わせしないだろうという理由から古墳に向かった。
集合場所から15分程度歩いた町外れにある、ということも京也にとって都合がよかった。
パンフレットに従い町から離れて行き、案内板道理に古墳へ向かう。
向かっていたはずだった。
「それがどうしてこんなことに・・・」
最初は舗装された道路を進んでいたが、途中で砂利道へ変わり道の脇に木々が茂る林道に入った。
そこまではまだ案内板もあり表示に従い進んでいったが、行けども行けども古墳へはたどり着かない。
確かにパンフレットでは林の中心に古墳が描かれていたが、いくらなんでもそろそろ到着していてもおかしくないはずだ。
戻る時間も考えると、これ以上先へ進むのは時間的に難しい。そう考えた京也は、元の道を引き返すことにした。
しかし元の舗装された道路は一向に見えてこなかった。
「まさかこんなところで道に迷うなんてことはないだろ」
ポケットから梨のマークの入ったスマホを取り出し、地図アプリを起動してGPSで位置情報を確認すると、自分の位置を示すアイコンは古墳の周りの林を指していた。
「とりあえず戻るしかないか」
スマホをしまい元の道を戻るが、やはり町並みは見えてこない。
それどころか道らしい道すら無くなってくる。
しばらく歩いてみるが、永遠と変わり栄えしない林道が続くだけで、道路にたどり着く気配はなかった。
「戻ってるよな? これ」
林道に入ってからは一本道であった為、迷う要素がない。
一応再度スマホを確認するが、アイコンは先ほどと同じ場所をさしている。
さらに、先ほどまで立っていた電波受信を示す表示は圏外になっていた。
「いやいや、さすがにおかしいだろ・・・」
通った道は基本一本道。
真昼間に道を歩いていた迷うなど、どうかしている。
旅行先の土地勘もない林道に入ったのは迂闊だとは思うが、さすがにこれは予想外だ。
「もうどのくらい歩いたっけ?」
バイト漬けだった京也は体力がない方ではなかったが、スニーカーで慣れない山道を歩いている為か額には汗がにじむ。
迷っているうちに、集合時間はとうに過ぎてしまった。
連絡しようにもスマホは圏外。仮に圏外でなかったとしても、京也は彼らの番号など知りはしないが、旅行会社の電話番号くらいは控えている。
圏外でなければ、恥を忍んで警察に連絡することもできたが、それも叶わない。
「さすがにこんな所で遭難して救助なんて恥ずかしすぎるんだが」
それ以前に冬ほどではないが3月の日没もわりと早い。
木々に囲まれていることから暗くなるのはさらに早いだろう。
日が落ちれば気温も下がる。
日中は暖かくなったとはいえ、今のTシャツにジャケット、ジーンズの格好で乗り切れるとはとても思えず、手持ちのショルダーバックにも寒さを凌げる物は入っていいない。
「とりあえず進むしかないか・・・」
山で遭難した際には、むやみに動かない方が良いとは聞いたことがあるが、ここは山の中ではない。
立っていてもしょうがないので歩いて来た方(と思われる)へ京也は再び歩き出す。
特に変わり映えしない林道の間を歩いていると、ふと違和感を覚える。
「霧?」
まだ薄っすらとではあるが、あたりに白い霧がかかり始めていた。
特に天気が悪くなるといったような予報ではなかったはずだ。高い山では天気が良い時でも霧に包まれることがあるらしいが、ここはおそらくそんな山の中ではない。
不審に思いつつ慎重に足を進めるが霧が晴れる様子はなく、むしろ濃くなっていく。
しかも、その速度は思ったより早くいつの間にかあたりは真っ白、数メートル先も見えなくなり歩くのが困難になっていった。
「どうなってんだ!?」
あまりに突然な視界不良に混乱しつつ歩みを止めてあたりを見渡すが、もちろん真っ白で何も見えない。
脇に生えていた木々すら見えなくなっている。
『ふふふふっ』
本格的に遭難待ったなしの状況に陥り、途方にくれていると、小さく笑い声のようなものが聞こえた。
あたりを見回すが白以外は何も見えな。
「誰かいるのか?」
『誰かいるのかーだってー、居ないと声なんて聞こえるわけないのにねー、馬鹿なのかなー』
響く声は、中性的な声変わりしていない子供のような声で、京也をバカにしている感じの間延びした癇に障るものだ。
『まー馬鹿だからこんなとこに入ってくるんだからー、やっぱり馬鹿なんだろうねー、くすくすっー』
響くというのもおかしな話だが、前や横と言った感じではなく個室の中で、全方向からスピーカーによって発せられているように聞こえた。
しかも、人が何も言わないのを良いことに言いたい放題だ。
『まあー、もともと人間自体低能だししょうがないかー、なんていうんだっけ?ノータリンだっけー』
「好き勝手いいやがって、こそこそしてないで出てこい!」
『いいよー』
「はぁ?」
あまりの言い草にイライラしながら声をかけると、意外とあっさり声が帰ってきて、つい京也は間の抜けた声を出してしまった。
それと同時に突然景色が白から黒へ変わる。
先ほどまで白かった空間は、いくら瞬きして目を凝らしても欠片も存在しない。
その驚きも冷めぬうちに目の前に突然一つの物体が現れた。
『これで見えるかなー』
現れたのは片手を上げた状態で目口を開けた様な顔をした一体の埴輪だった。
更新ペースは仕事の関係で不定期になるとは思いますが、週に四つは上げたいと思っています。
今後もよろしくお願いします。