雪国グルメ編 (タコしゃぶ カニ 塩ラーメン) 3
ノゾミと雪男は日本最北端の地、宗谷岬に来ていた。
アイヌ語で、「裸岩の地」と呼ばれる場所だ。
むき出しになった岩と、遠景にはロシアが見える。
広大な大地と海が広がっている。
偶に、海の中を大きな氷が流れているのも見えるのだ。
2人で一緒に海岸デートする。
空を飛んでいく海鳥を眺める。
偶に取りにエサをあげる。
そんなことをしていると・・・・
途中にある観光名所、平和の鐘につく。
「ノゾミ、一緒に鳴らそうよ」
「いいの。これ、噂で聞いたけど、恋人同士が結婚を誓い合って鳴らすんでしょ」
「いいだろう。もう、同じようなものだ」
「うん。そうだね」
2人は一緒に鐘を鳴らす。
まるで結婚式のウェディングベルのように、鳴り響く鐘の音。
北の大地に高い鐘音が響くのであった。
二人は自分達の将来を想像して笑顔になったのだった。
この時。
雪男の想いは完全にノゾミに向いていた。
遠く離れて会えない妻子よりも、身近にいて温もりを感じるノゾミの方が大事になっていたのだ。
いつからそうなっていたか分からないが、雪男は強い愛情をノゾミに抱いていた。
電話で妻子の声を聞いても、この頃は彼の心に以前ほどひびかなくなっていた。
ノゾミとの関係が続けば、ゆくゆくは結婚も視野に入れていたのだ。
2人が鐘を鳴らし終えて歩いていると・・・・ノゾミは見覚えの有る姿を見つけたのだった。
それは過去の亡霊。
お腹を大きくしたマイコだった。
マイコはノゾミを見て一言。
―――「見つけた!」
ノゾミはその声に、ゾクっと震えたのだった。
過去からの亡霊が、現実を揺らしたのだった。
◆
「ノゾミ、知り合いか?」
マイコを見て、雪男が聞く。
「う、うん、昔の友達」
「そうか、なら、話してくるといいよ。俺はここで海鳥にエサをあげてるから」
雪男はほがらかな笑顔で促す。
「そ、そうだね。ありがと」
ノゾミは雪男から離れ、マイコに近寄る。
暫く黙って見つめてから・・・
「マイコ、久しぶり」
「ノゾミ、2ヶ月ぶりね。北海道は寒い」
ファミレス以来あっていなかったノゾミとマイコだが、打ち解けた挨拶を交わす。
婚約破棄のどたごたで、二人して話す機会がなかったのだ。
だからか、二人とも距離を測りかね、結局一番なれた友達同士の挨拶をしてしまう。
ノゾミはマイコのお腹を見る。
「マイコのお腹は大きくなってるみたいね」
「おかげさまで順調に育ってるわ」
嫌味にならないように話すマイコ。
お腹をさする。
暫く世間話をした後、ノゾミが切り出す。
「それでマイコ、どうしたの?旅行にでもきたの?」
ノゾミがマイコに用件を聞く。
彼女は気になってしょうがなかったのか。
マイコを見た時から、ずっと悪い予感がしていた。
すぐに用件を聞こうと思ったが、ふんぎりがつかず、時間をかけてしまった。
マイコはすぐには答えずに、ノゾミの後ろの人影を見る。
「アノ人、雪男さんよね?」
「ええ・・そうだけど。何で知ってるの?」
その質問にはマイコは答えず。
「ノゾミ、間違ってたらごめんなさい。あの人、既婚者よね?」
「・・・・・」
黙るノゾミ。
マイコはそれを是認と受け取った。
「あなた、まだこりてないの。不倫して左遷までされたのに」
「それは・・・・ただの仕事上司、友達だよ」
ニコニコして答えるノゾミ。友達だといいはる。
マイコは目を細める。
「ノゾミ、嘘を言わないで。数ヶ月前、私に同じ嘘をついたわよね」
「本当に、ただの上司だから」
ノゾミは粘る。
だが、マイコは・・・
「私、証拠持ってるの。あなた達が関係してるって。探偵雇って調べたんだから」
「・・・・・」
マイコは一枚の写真を見せる。
それは探偵がさぐった、ノゾミと雪男の不倫現場の写真だった。
その写真を見て驚愕に震えるノゾミ。
「マ、マイコ・・・なんでこんなことするの?」
動揺しながらマイコを見る。
「被害者を減らすためよ。ノゾミ、あなたも真っ当に生きなさい。他人のモノを欲しがらずに」
だが、ノゾミはマイコの言葉など聞かず。
プルプル震えて・・・バシっとマイコの手から写真を奪う。
「ノゾミ、無駄よ。写真は何枚もあるから。それもコピーだから」
「・・・・」
厳しい表情をするノゾミ。
「今すぐ関係を切りなさい。そうすれば、相手方の奥さんに公表する気もないわ」
「・・・・・・・イヤ・・・絶対イヤ。私は悪くない」
拒絶するノゾミ。
「悪くないって・・・気は確か?」
「自分に男を引き付けられない、魅力のない女が悪いの。本当に魅力があるんなら、他に心が動くわけないでしょ」
かたくななノゾミ。
自分がまちがっていないと信じている。
「ノゾミ、何を・・・・」
「私は良いことをしてるの。私といた方が相手だって幸せよ。ひのきの棒の様な女を付き合うよりかは」
マイコは察する。
ため息をつく。
「そう。何をいっても無駄みたいね。ならしょうがないわ」
マイコはノゾミのソバを通り過ぎ、雪男の元に向かった。
雪男はほがらなか笑みを浮かべる。
マイコは切り出す。
「雪男さんですね?私はマイコです。ノゾミの友達の」
「はい。これはどうも」
雪男は丁寧に挨拶する。
「実は、あなたにお知らせがあるんです」
「なんですか?」
雪男は軽く聞く。
世間話でもするように。
「ノゾミのことです。彼女が何故ここ、稚内に来たかしっていますか?」
「詳しいことは知りませんが・・・・」
何かあるんだろうな、という顔をする。
「彼女は不倫をして、その相手が会社の金を横領したから、ここに飛ばされたのです」
「・・・そうでしたか」
雪男は察していた。
何かよくないことをノゾミがしたんだと。
でも、それを受け入れていた。
「雪男さん、あなた、ノゾミと不倫関係ですよね?」
「・・・・」
黙る雪男。
すぐには答えない。
「証拠はあります。それに、公にする気はありません」
『公にする気はない』という、マイコの言葉を受けてか。
「・・・・・はい」
認める雪男。
これ以上否定しても意味がないと思ったのだ。
「しかし、知っていましたか。ノゾミはあなた以外とも不倫関係なんですよ」
「!?」
驚く雪男。
明らかに動揺している。
「これは知らなかったようですね。こちらです」
マイコは調べた結果を報告した。
ノゾミが一人だけと不倫するんなんてありないだろうと思い、調べたらすぐ出てきたのだ。
雪男の他にも、もう一人と不倫していたのだ。
「・・・ま、まさか」
驚愕に震える雪男。
目の前の写真が信じられないのかもしれない。
目を見開いている。
「ショックですね。お察しします。それなら今すぐ別れてください」
「・・・・・・・・」
だが、雪男はマイコの言葉を聞かずに、横を通り過ぎる。
(あれ・・・・・・・)
雪男はノゾミのソバに。
「ノゾミ。どいうことだ?これは?俺以外にも男がいたのか?」
「・・・・・」
黙るノゾミ。
雪男はこらえ切れなかったのか、ノゾミの胸元を掴む。
「どうなんだ?他にも男がいたのか?俺をだましていたのか?」
「・・・・いた。でも、あなただって妻子がいるでしょ。同じじゃない」
雪男は激怒する。
自分が裏切られて事に対して激怒しているのだ。
信じていた女に裏切られた。
自分が心を許した女に裏切られた。
そこに自分に妻子がいる、相手がどうこうは関係ない。
想いを押さえ切れなかったのか、雪男はノゾミを突き飛ばす。
バシャンと雪に埋もれるノゾミ。
だが、裏切られた雪男は怒りが収まらないようだ。
「俺に・・・嘘をつきやがって」
「何、被害者ぶってるのよ、あなたも同じじゃない」
ノゾミは叫び、雪の中、走り出して逃げた。
「ま、まてっー!」
それを追う雪男。
二人はマイコから遠ざかっていく。
(これは・・・危ないわね)
マイコは大きなお腹を気遣いながらも、後を追ったのだった。