雪国グルメ編 (タコしゃぶ カニ 塩ラーメン) 2
数週間後。
マイコはSNSを見ていて気づいた。
ちらっとノゾミのSNSページを見ると、男性との写真がUPされていたのだ。
(一応、ノゾミは仮名で登録しているし、顔全体は写さないようにしている)
だが、私はノゾミのSNSを探し当てたのだ。
で、問題の写真だが・・・
友達と表記しているが、明らかに親しそうな写真だった。
この瞬間、女の勘が働いた。
―――この二人、できている
そして同時に悪寒がしたのだ。
ノゾミの悪い癖が直っていないように思えたのだ。
普通なら不倫の証拠写真なんてUPしないだろう。
だが、ノゾミならするかもしれないと思ったのだ。
ノゾミはナイス中毒なのだろう。
他者からの評価を求め、ナイスボタンが一杯おされた写真がずらりと並ぶ。
そのためには、ちょっときわどい写真も載せている。
だからUPしたらまずいモノも、ギリギリの状態でUPしてしまっているのだと推測した。
マイコはすぐさまノゾミの相手を調べた。
偶々お金が一杯あったので探偵は雇いたい放題。
で、分かった。
相手は妻子がいる単身赴任者だった。
左遷された先の所長と、ノゾミは不倫関係を結んでいたのだ。
(またか・・・)
(またノゾミはやってしまったのか・・・・)
(三つ子の魂、百までのなのかもしれない・・・・)
ノゾミはがっかりすると同時に、相手の妻子が不憫に思った。
多分、相手の奥さんは何も知らずに生活しているのだろう。
それなら、前回のわたしと同じように、突然絶望の淵に陥る危険性があるのだ。
なら、これ以上犠牲者を出すわけにはいかない。
黙って見過ごすわけにはいかない。
これまで何年もノゾミの悪行を見逃してきたけど、ようやく勤めを果たそうと思ったのだ。
マイコは、北海道に乗り込むのであった。
―――マイコは動き出したのだった
◆
ノゾミと雪男はできていた。
つまり不倫関係になっていた。
偶々雪かきをした日に、ちょっと部屋の中でお茶を飲み。
その後なんとなくの流れで関係を結べば、その後は一直線だった。
寒い雪国。
広大な自然。
肌身に寒さがしみる。
そのため人肌が恋しくなる。
又、関東に比べると娯楽は少ない。
刺激が少なく、とくにやることがない。
そのため、ノゾミは男遊びで刺激を満たしたかったのだ。
何度も不倫をしている以上、これにまさる遊びはなかった。
また、癖になっており、これなしでは寂しさを埋められなかった。
雪男の家に飾ってある妻子の写真を見ると、心が痛むと同時に満足感があった。
やはり、人のモノ、誰かに選ばれた人と付き合う方が安心感、抱擁力を感じるのだ。
だからこそ、ノゾミは独身者、恋人がいない異性を信用しておらず、魅力を感じなかった。
人気の有る人、保障が有る人が欲しいのだ。
これは男女関係だけでなく、ネットや本でも同じだ。
皆が面白いと思うモノを欲するのだ。
ネット小説投稿サイトの中なら、ランキング上位やポイントが高いものだ。
わざわざ自分で1から作品を探すのは面倒だし、読みたくもない。
0ptの作品よりも、1万ptの作品を読みたいのだ。
多くの者が面白いと思ったもの中から、読むものを選ぶ。
つまり、そもそも他人に人気がない物は、存在していないと同じだった。
ノゾミは、この事を男女間関係でも重視していた。
つまり、人気のある男、保障が有る男、最低一人の女性が信じた男を選びたかったのだ。
だからこそ、既婚者や婚約者を狙うのだ。
それならハズレがないと思っているから。
もし外れたとして、失敗したのは自分だけではない。
もう一人の女性を巻き込むことが出来るからだ。
これは、ノゾミ自身、自分の判断力に対する自信のなさのあらわれでもあった。
自分自身で、誰も選んでいない男を選ぶ自信がなかったのだ。
休日。
ノゾミは今日も雪男が雪かきしている姿を眺めていた。
その姿をみると和む。
ちょっと遊び心が出来、雪玉をつくって雪男になげてみた。
バシャッと雪球が砕ける。
雪男がビックリした顔でこちらをみる。
「なにするんだ?」と聞いてくるが。
「別にー」と返すノゾミだった。
「そうか」と軽く笑う雪男。
こんなどうでもいいことでも、今のノゾミには、仄かな暖かさを感じられるようになっていたのだ。
それからの日々。
仕事帰り、休日には2人で食べ歩きをした。
北海道稚内名物である、カニ。
ケガニを丸ごと一匹湯でて食べるのだ。
最初はその姿にビックリしたが、柔らかくも甘みのあるカニは絶品だった。
頬がとろけそうになる程美味しかったのだ。
雪男は何年も稚内におり、単身赴任しているせいか、美味しい店をたくさん知っていた。
その中でも、ノゾミがはまったのが『たこしゃぶ』だった。
冷凍したミズダコを薄くスライスして、しゃぶしゃぶでゆでて食べる。
他の地域ではあまり見ない料理なせいか、味わったことがない美味しさだった。
口の中でタコがとろけるのだ。
刺身醤油で食べるタコとは明らかに違った。
しゃぶしゃぶしながら、ポン酢とゴマダレで食べるタコは、上質なお肉の様に甘かったのだ。
それに、多くのラーメン店にも通った。
雪が降る中、雪男と二人ラーメン店に入る。
息が白くなるなか、あっさりとした塩ラーメンを食べ、寒い体を温める。
2人で白い息を吐き出しながら、ラーメンを味わった。
「ふぅーふぅー」と息をかけあった。
ここ稚内は多くの店が並ぶラーメン激戦区の事もあり、味のレベルは高かった。
穏やかな日々が続いていた。
だが、そんな日々は長くは続かなかった。
―――幸福は長続きしないのだ