大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 19
クマを待ち伏せし、逆にクマに襲われて逃げたノゾミ達。
「秋山の峰」にたどり着き、オカリナと合流した翌朝。
ノゾミが目を覚ますと、隣にオカリナはいなかった。
周りを見回すと、オカリナが鍋でお吸い物を作っていた。
良い匂いがノゾミの寝ている場所まで流れてきたのだ。
私はオカリナの傍に近づくと、彼女が私に気づく。
「あっ、ノゾミ、起きたんだ?」
「うん。良い匂いにつられちゃった。でも、鍋どうしたの?」
彼女は鉄鍋で料理していたのだ。
そんなもの、持っていなかったと思ったけど。
昨夜は焼き魚のため、食器は使わなかったのだ。
「この峰に用意してあるんだ。元々ここは狩りの時の休憩所になっていたから。こういう器具や食材も隠してあるの」
「へぇー、凄い。火も自分で起こしたの?」
「うん。この火打石で」
オカリナが石を叩くと火花が散る。
(すごい・・・)
私は感心したのだった。
まさにサバイバルだ。
鍋の中を見ると、野菜やお肉が入っている。
で、気づく?
(お肉?なんの肉だろう?)
私の目線の先を察したのか、オカリナが説明する。
「お肉は、朝、タイラーが鹿を狩ってきたの」
オカリナが指差すと、たしかに鹿の死骸が遠くにあった。
既に裁いた後なので残骸だが。
(タイラーはほんとよく働くな。寝ずの番をしていたのに)
私はますます感心するのであった。
「ノゾミ、味見してみる。私たち用に味付けしてるから・・・ちょっと変かもしれないけど」
「いいの?ありがとう」
私はおたまですくって一口のんだ。
「うん。おいしい」
(本当に美味しかった。塩ベースながら、こってりとしたお肉の味と、まろやかな野菜の味がまざっている)
臭みなどはまったくない。
「ほんと?」
オカリナが嬉しそうに私を見る。
「うん。外でもめったにないぐらいだよ」
「よかった。タイラーは『ノゾミなら俺たちの味付けで大丈夫』っていってたけど、ちょっと自信なくて」
(うん?タイラーがそんなことを・・・・多分、昨日食べた石狩鍋のことから察したんだろうな)
「美味しいよ。私も何か手伝うね」
「いいの?」
「うん。何かしたいから」
(何もしないのは逆に辛い)
「それじゃ、残りの野菜を切ってもらっていいかな。私は火の調子をみてるから」
「そうするね」
私は包丁を使い、ジャガイモとネギを細かく切っていった。
一人暮らしが長かったためか、料理は手馴れているのだ。
「ノゾミ、上手いね」
オカリナが私の腕を見て感嘆する。
「適当だよ。これでいいの?」
「うん。すっごく上手。じゃあ鍋に入れちゃうね」
オカリナが鍋に野菜を入れて、ぐつぐつと煮込む。
そして料理は完成した。
タイラーは遠くで何やらやっていたが、料理が完成すると自動的に戻ってきた。
鼻が良いのかもしれない。
で。
皆でごはん。
私たちはわきあいあいと朝食を共にしたのだった。
「「「いただきます」」」
タイラーはじゃが芋を掴んで睨んでいる。
「このじゃが芋。ノゾミがきったのか?」
(わぁ、気づかれた。変な形だったのだろうか?)
私はちょっと不安だったけど答える。
「そうだよ」
「そうか・・・・」
黙るタイラー。
言葉が続かない。
(え、なに・・・・まずかったのかな?)
オカリナが空気を呼んで声を上げる。
「タイラー、変なところで黙らないで。
ノゾミ、多分タイラーがいいたかったことは、切り口を見て気づいたんだよ。
私たちは狩りをする関係上、切り口についてはつい注目がいっちゃうんだ。
切り口を見ただけで誰が斬ったか分かるから」
「・・・そうだ」
ポツリと呟くタイラー。
「私には違いが分からないけど・・・・」
私は自分で切ったじゃが芋と、オカリナがきった人参を見比べるが、違いが分からない。
「心配しないで、ノゾミもなれればその内分かってくるよ」
「そうだな。ノゾミはセンスありそうだし」
と、オカリナとタイラー。
(そうなんだろうか・・・・)
私は切り口をみてうなった。
食事は続いていく。
で、話題は他の皆の事に。
「でも、結局他の奴らはこなかったな?」
「そうだね。私は誰か一人はくると思ったんだけど・・・イーグルとか」
「俺もだ」
タイラーとオカリナは頷く。
私も心配だ。
他の皆はどうなったんだろうかと。
「探しに行ったりはしないの?」
私は思いきって聞いてみた。
だが、タイラーが首をふる。
「いいや。気持ちは分かるが、それはしない方が良い。
二日間はここでまっていることになっているし、戦力の分散はしたくない。仲間を信じる。
だろ、オカリナ」
「うん。タイラーのいう通りかな。
ちらっと逃げる時見たけど、ウイナとエクトは一緒にいたから多分大丈夫。
イーグルもインコのイン太と一緒だから心配ないと思う。精霊術が使える状況なら、切り抜けられる可能性が高いから。
だから心配なのは・・・・」
「アランか」
タイラーが頷く。
オカリナも「うん」と返す。
(アラン・・・あの赤髪で刺青がある人だ)
「アラン、強そうに見えたけど・・・危ないの?」
私はアノ人が一番心配ないと思ったけど。
「危ない・・・・かもしれない」
タイラーは呟く。
「うん、今回のクマはちょっと変だったから、もしかしたらかも。
精霊術が使えるなら問題ないんだけど、彼のパートナーはここにはいないから」
オカリナも神妙な顔をする。
「でも大丈夫だろう。アランならなんとかする。俺はそう思う。伊達に一桁の戦士なわけじゃないんだ。
奴も精霊様の加護を受けている」
「うん。一番危ないのはアランだけど、危険度はそれほど高くないと思う」
私は2人の言葉を聞いて仄かに安心する。
2人が信じているなら、私も信じるべきだろう。
だが、朝食を食べたためか、なんだか眠くなってきた。
ぐっすり眠ったはずだけど・・・・なんだかとても眠たい。
すごく意識がまどろんでくる。
タイラーが私の顔を見る。
「ノゾミ、君は昨日俺が精霊術を使うために交信した。だから疲労がたまっているはずだ。
ゆっくりと寝て休んでいるといいよ」
「でも、私も何か・・・・」
だが瞼が思い。
「ノゾミ、大丈夫だから。今は休む時だよ」
オカリナの優しい声が聞こえる。
眠気が強くなる。
かなり強い眠気が襲ってくる。
(たえきれない)
「う、うん。なら、少し横になるね」
私は寝床にうつり、ゆっくりと横になった。
すると、瞬く間に睡魔にのみこまれていったのだった。
2章の結末を変更したIFバージョンの連載を開始しました。
こちらとは違い、1,2章と同じような雰囲気が続く作品となります。
ノゾミが全国を転々としながらも、現地で恋をして、
観光地を巡り、美味しいご当地ご飯を食べる話です。
そして時々マイコが訪れます。
宜しければご覧下さい。
↓
『 妊娠した私を婚約破棄するって、気は確かですか? 【恋をして、旅をして、美味しいご飯を食べる編 】』
そのため、混同をさけるために本作品の名称も変更します。
『妊娠した私を婚約破棄するって、気は確かですか? 【クマ格闘編】』
※こちらの更新も続ける予定です。