大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 17 side ウイナ&エクト
【ウイナとエクト】
同時刻。
谷間でのクマの襲撃は途中まで上手くいっていた。
だが、逆にクマに包囲されたことにより、イップス族の戦士達は散り散りに逃げざる終えなくなっていた。
そんな中、ウイナはエクトを連れて逃げていた。
ウイナだけが安全に逃げるなら、エクトの方向に行くべきではなかった。
クマ包囲網の甘い場所 (A地点)にむかって逃げればよかったのだ。
傍にはイーグルもアランもいたので、協力すれば突破は容易だった。
【上から見た配置図】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
◆ ◆◆◆◆ 私&タイラー オカリナ
◆◆◆ ↓ ↓
◆ |――――――――――
◆ イーグル →| ◆ ◆ ◆◆
◆ アラン→ | 谷底 ◆◆
ウイナ→ | ◆ ◆ ◆ ◆◆ ◆←クマ
A ―――――――――――
◆◆◆ ◆◆◆ ↑
◆◆◆ エクト
↓
2人が逃げた方向
だが、ウイナはそうしなかった。
エクトを助けるために、クマの集団につっこんだったのだ。
ウイナにとって、エクトの命は何より大事だったからだ。
自分が多少の危険を負うことなど、一瞬も頭によぎらなかった。
ウイナの後ろでは叫び声も聞こえた。
「ば、ばか、ウイナ。そっちにいくなっ!」
アランが叫んだのだ。
アランにはウイナの特攻が危険性が高いものに見えたのだ。
だが、ウイナの心にアランの声はひびかなかった。
ウイナは銃を背中に背負い、すぐさま腰の剣を抜いてクマに斬りかかっていった。
ウイナの得意な武器は銃ではなく剣だから。
それに、密集した場所の取り回しでは、銃より剣の方が効率が良い。
何より、弾切れの心配がないからだ。
エクトに近づくために剣を振り回してクマを切り刻むウイナ。
彼女に飛んでくるクマパンチ。
数多くの攻撃をすり抜けて、ウイナはエクトの元にたどり着いた。
「エクト、逃げるよ」
エクトの手を取るウイナ。
だが、エクトは反対する。
「はぁ?!せっかくここにクマがいるんだ。ここで奴らを倒す」
クマをみて、闘争本能をむき出しにするエクト。
「だめ、今は逃げるの。相手の数が多いので危険。怪我をするかも」
「怪我が何だって言うんだ。そんなもの気にしない。俺なら倒せる」
暴れるエクトをウイナは強引にひっぱる。
彼をつれて、強引にクマから離れようとする。
「う、ウイナ、手を離せ。俺はあいつらを倒す」
「だめ、エクトは私より弱い。だから私の言うことを聞くの。エクトに怪我してもらいたくない」
ウイナはエクトを引っ張っていく。
どんどんクマから離れていく。
「そんなこと・・・ない。俺だって戦える」
「私は4番 (クァトゥロ)、エクトはそれより下。それが事実。精霊様が決めたこと。私が厳しいと思ったから、エクトは無理」
「だ、だけど俺だってクマを倒したい。あいつらは村の仲間を襲ったんだぞっ!」
悔しそうに叫ぶエクト。
「やる気だけじゃだめ。エクトはカッとなって周りが見えなくなることが多い。直したほうが良い癖」
「うるさい、俺は戦う!」
「ダメ、このまま逃げる」
「お、おい、そんなに強く引っ張るな!」
暴れるエクトをさらに強引にひっぱり、運んでいくウイナ。
エクトは妙な姿勢ではこばれたため、若干パニックになっていた。
「う、ウイナ、いいから離してくれよ」
「・・・・私のいうこときく?」
走りながらも、ウイナはエクトの顔を見る。
「分かった。分かった。ウイナの言うことを聞くから手を離してくれ。これじゃ、上手く走れない」
ウイナは暫くエクトをじっと見てから。
「・・・・うん」
ウイナはエクトを掴んでいた手を緩める。
ほっとひといきつくエクト。
そして、2人は全速力でクマから逃げた。
クマをまいてから、一息つく2人。
息を整える。
「ウイナ、他の皆は大丈夫か?凄い数のクマだったろ。俺たちにはそれ程追ってこなかったけど・・・
あの外の子とか、銃だってまともに撃てないだろし」
心配そうに呟くエクト。
「アノ子は大丈夫。タイラーと一緒に逃げていた。彼がソバにいるなら安全。タイラーはこのチームで私の次に強い」
「そうか。まぁ、タイラーだしな」
エクトは納得する。
タイラーの戦士序列は『6』、セイスなのだ。
その彼がいるのなら、たとえアノ子がどんなに弱かろうと安全は保障されている。
タイラーは責任感が強く、約束事を守るだろうと思ったのだ。
「そうなると、他の奴は・・・」
エクトが考えると、ウイナが口を挟む。
「イーグルも一人で逃げていたけど大丈夫。イーグルにはイン太がいる」
「だな。イーグル自身も強いし、精霊術を使えるなら大丈夫か」
「そう。オカリナも多分一人だった。でも頭が良いし、使いやすい能力があるから大丈夫」
「うんうん」とエクトは納得する。
だが、それらの結果はある一つの不安を想起させる。
「ウイナ、じゃあもしかして・・・一番ヤバイのは・・・・」
エクトの頭に浮かんだのと、ウイナの頭に浮かんだのと同じ人物だった。
「そう。一番危ないのはアラン。実力も中途半端で1人。それにクマも一番多く彼を追っていた。
弱点だとばれたのかも。動物の勘?」
お茶目に言い放つウイナ。
それを聞いて動揺するエクト。
「動物の勘・・・じゃねえよっ!。だ、大丈夫なのかよ、アランはっ!クマから逃げられるのか?」
「・・・・・・・」
黙るウイナ。
「ウイナ、なにかいえよっ!」
「多分・・・大丈夫」
ウイナは冷静に言う。
「本当かよ。やっぱり助けにいった方が良いんじゃないか?まだ引き返せばアランの場所にいけるかもしれないだろ」
エクトは自分達が逃げてきた方向を見る。
「エクト、ダメ。アランがどこにいるか分からないから無理。まずは合流場所、『秋山の峰』にいくのが一番」
「そ、そうだけど・・・・それしかないのか?」
アランはやりきれないように迷うが・・・
ウイナがアランの頭を撫でる。
「エクトは大丈夫。私がいるから」
「お、俺は一人でもやれる。今、心配してるのはアランだっ!」
エクトは叫ぶ。
「アランも大丈夫。そこまで弱くはないはず。多分、なんとかするはず」
「ほ、本当かよ・・・・」
不安げなエクト。
そんなエクトの手を引くウイナ。
「ほら、エクト、いこっ。念のためもう少しここから離れたほうが良い。一回川に入って匂いを落とす。追われないように」
「お、おう。そうだな。まずは身の安全だ」
ウイナとエクトは、ひとまず川を目指すのだった。
そしてその後、秋山の峰を目指して歩き始めるのだった。