大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 16 side 集落 イーグル
族長室。
族長は精霊術を通して、遠隔地にいる【ある者】と連絡をとっていた。
彼の能力の一つだ。
『族長、何匹かしとめやしたがー、驚くことに、皆さん血の味が違うじゃありませんか』
『まずかったのか?』
『味はどうでしょうねー。あっし、味覚は人と違うもので。幸い、あっしにとっては美味かったですがね。
きっと、あっしの日頃の行いが良いからでしょう』
『冗談はよすのじゃ。お主がよければ、ワシは大善人だ。それで、何か違和感はあったのかのう?』
『もう少し調べてみる必要がありやすね』
『そうかのう。引き続き頼む』
『いいんですかい?あっしが助けに回らなくても。クマに困っているでしょ?』
『大丈夫じゃ。他の戦士が駆除に乗り出しておる』
『そうでっかー。それなら安心です。それともう一つ。見慣れない外の人間を見かけましたよ』
『一人はうちで保護している。それとは別か?』
『多分別ですよ。飛行機が落ちたので、その生き残りでしょう。因みに、『うちの一人』には、誰を見張りにつけてはるんですか?』
『タイラーだ』
『族長も面白いことしはりますなー』
『彼が一番に見つけたのじゃ。それしかあるまい。掟だ』
『ご冗談を。それぐらいどうとでもなるでしょう。そういえば、エイナ族の皆さんはきてはるんですか?』
『今さっきな』
『それじゃ、気をつけてくださいよー。あちらさんの姫は、えらいべっぴんさんですけど、どえらい怪しいんですから』
『分かっておる。こっちにはハレルヤもいる』
『ハレルヤ・・・彼で大丈夫でっか?』
『頭は知らんが、能力については問題はない。姫も、早々おかしなことはできんはずじゃ』
『族長がいうのであれば。では、あっしは引き続き調べます。また連絡してくださいな』
『気をつけるのじゃ。お主には必要ない言葉かもしれんがのう』
『そうでんね。他の戦士方の心配をした方が良いですよ。きっと何人かは帰ってこれないでしょうから』
『分かっておる。はなからそのつもりじゃ』
『さすが族長。死になれてはりますな』
『生と死は常にそばにあり、精霊様が見守っておる。死すれば精霊界にいくのみ』
『それで、彼ら、戦士達には本当のことを伝えていはるんですか?』
『・・・・族長として必要な情報は伝えた』
『必要な情報・・・でっか』
『後は、戦士が各々判断するだろう』
『一人でも多く帰ってくるといいですな』
『・・・・勿論じゃ』
族長は連絡を終えたのだった。
◆
【イーグル】
時間は戻る。
タイラー達が待ち伏せをし、谷間でクマを襲った時まで。
皆で待ち伏せポイントにクマを帯び寄せて、一斉に上から射撃する作戦。
これは途中まで上手くいった。
しかし、何故かクマの集団に後ろから襲われたのだ
一番初めにクマの存在に気づいたのは、鼻が良いオカリナ。
次に視界が広いイーグルだった。
イーグルは皆のちょうど中央にいた。 (下図参考)
【上から見た配置図】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
◆ ◆◆◆◆ 私&タイラー オカリナ
◆◆◆ ↓ ↓
イーグルが ◆ |――――――――――
←逃げた方向 ◆ イーグル →| ◆ ◆ ◆◆
◆ アラン→ | 谷底 ◆◆
ウイナ→ | ◆ ◆ ◆ ◆◆ ◆←クマ
―――――――――――
◆◆◆ ◆◆◆ ↑
◆◆◆ エクト
皆がちりぢりに逃げていく中、イーグルはなるべく多くのクマを撃ち殺した。
走りながらでも的確にヘッドショットした。
「ヘッドショット、見事、見事、イーグル、見事」
肩に乗っているインコ、イン太 (メス)が叫ぶ。
イーグルが弾を撃ち尽くすと。
「イーグル、リロードするよ、イーグル、リロードするよ」
イン太が叫び、足と羽を使って器用に弾を補充するイン太。
そのため、リロードの時間は最小。
イーグルは再び銃撃を開始する。
だが、敵の数が多い。
散り散りになって逃げたが、イーグルに対する追っ手は多かった。
もしかしたら一番かもしれない。
「イーグル、大人気、イーグル、大人気」
イーグルは思う。
(自分が一番多くクマを殺したからだろうか・・・。脅威度が高いと思われたのかもしれない)
しかし同時に思う。
(余りにも相手の統制がとれすぎてはいないか・・・・野生のクマのはずなのに)
実際に、クマは数秒誰を追うべきか迷ったようだが、すぐさま集団で動き出したのだ。
その判断は早かった。
仲間内で右往左往することはなかった。
「イーグル、右、イーグル、右、右30度」
バンッ
イン太の指示を受け、銃でクマを撃ち殺す。
考え事をしていたせいか、かなりクマに接近されていた。
(危なかった)
「イーグル、油断大敵、イーグル、油断大敵」
(そうだな)
イーグルは気を引き締めるのだった。
追ってくるクマを撃ち殺し、その死体が障害物になり、後ろのクマが転ぶ。
いくらか殺していると、だんだんと追ってくる数はへってくる。
後はこのまま殺しながら走り続けるだけだ。
イーグルはとある木を視界にいれる。
大きな木だが、根元は腐りかけたていた。
(よし、あれは利用できる!)
イーグルは容赦なく銃弾を打ち込み、木を破壊する。
根元が吹き飛び、転がり始める巨木。
巨木が転がると、それに引きずられて複数の木が倒れていく。
「GUOOOOOOOOO!」
「GUOOOOOOOOOOO!」
「GUOOOOOOOOOOOO!」
多くのクマが木々に巻き込まれていった。
木の下敷きになったのだ。
(ふぅー、ひとまずまいたか)
多くのクマの姿が消えて、ほっと一息ついた時。
バシュン
(!?)
(飛来物!?)
こちらに飛んできた何かをよけるイーグル。
反射的によけた。
彼の身体能力は部族でも高いほうなのだ。
走って正確に銃を撃てるように、体も鍛え上げられている。
だが、今回力を発揮したのは視界の広さだ。
飛んでくる物体をいち早く察知し、回避した。
「イーグル、何かいる、イーグル、何かいる」
肩で騒ぐインタ。
イーグルは飛来物が飛んできた位置を逆算して突き止めていた。
「あそこだっ!」
イーグルの視点の先には、一匹のクマがいた。
そのクマが石を拾って投げてきたのだ。
どうやら、先程の木々には巻き込まれなかったクマがいたらしい。
敵の姿を確認し、すぐさまイーグルは銃撃するが。
バンッ
「イーグル、ハズレ、イーグル、ハズレ」
(よけられた・・・)
イーグルは驚愕に震える。
というよりもクマが銃口を向けられた瞬間、木の陰に入ったのだ。
クマの動きを追ったが、銃弾は木に当たった。
クマが銃口を向けられただけでよける事もマレだが・・・それに何より、クマの動きが俊敏だった。
他のクマの2倍ほどの速さ。
「イーグル、あのクマ変、イーグル、あのクマ変」
「だろうな」
クマは木々を盾にしながらこちらに近寄ってくる。
ジグザグに動きながら、木々の間を走ってくるのだ。
まるで人間の様な動きだった。
イーグルは照準を合わせようとするが・・・すぐに障害物に隠れるクマ。
(ち、間に合わない・・・・ヘッドショットは難しいな)
クマは最低限の体しか見せないのだ。
障害物が多いこともあり、あてるのが難しい。
(他のクマの様にまっすぐつっこんできてくれれば・・・直ぐに殺せるのだが・・・)
「イーグル、どうする、イーグル、どうする、イン太、動く?」
(そうだな・・・ここはイン太の力もかりるか。早くここをぬけたい)
’時間をかければ他のクマが追いついてくるかもしれない)
「頼む。今すぐ奴を狩る」
「イーグル、了解、イーグル、了解」
イン太は俺の肩から離れていった。
そして上空に浮かぶ。
イーグルは心で念じる。
インタと心を通じ合わせ、精神を集中させて能力を開放する。
―――『精霊術、解、リンクビジョン!』
イーグルの目が輝きだす。
イン太と視界を共有したのだ。
自分の視点+インタの上からの視点だ。
彼の左目には自分の視点、右目にはインタの視点が映る。
そしてその映像は頭の中で合わさり、立体的にこの空間を捉えることが出来た。
複数の視点からの映像が脳で処理され、イーグルにはこの地域の3dマッピングが見えていたのだ。
それはまるで、模型を空から見ているかのような映像だった。
するとどうなるか。
答えは簡単だ。
木の後ろにいるクマの姿は丸みえだ。
イーグルからは身を隠しているかもしれないが、今のイーグルには見えていたのだ。
つまり、クマがいつ動き出すかが丸見えだった。
後はクマが動く先に銃口を向けるだけ。
クマの行動予測と、自分の弾丸の射線を合わせる。
よーく狙いをふりしぼって、相手が動き出した瞬間に・・・撃つ。
「おまえの動きは見えている」
バンッ
バタンッ
イーグルはクマを撃ち殺したのだった。
眉間をうちぬかれ、糸が切れた人形の用に倒れるクマ。
「イーグル、ヘッドショット、イーグル、ヘッドショット」
イン太が叫びながら肩に戻ってくる。
この場所がイン太のホームなのだ。
「よし、この場を離れよう」
「イーグル、戦果、イーグル、戦果を拾う」
(そうだな・・・時間はないが、今倒した不思議なクマだけはとっておくか)
イーグルは倒したクマに近寄る。
そして牙を引き抜いたが・・・牙を見て驚いた。
(この牙・・・・他のクマと違う?)
牙は変色して赤くなっていたのだ。
今までみたことがないものだった。
(なんだこれは・・・?)
「イーグル、珍品、イーグル、珍品」
イン太も驚いている。
好奇心がわいたのか、クチバシでつっついている。
(確かに、珍しい品だな)
イーグルはそう思いながらも、すぐに現状を理解する。
「インタ、先を急ごう。集合場所の「秋山の峰」とは反対方向に逃げてしまった。すぐにでも出発しないと、かなりの時間がかかる」
「イーグル、了解、イーグル、了解」
イーグルは歩き出したのだった。
皆と集合すべく、「秋山の峰」に向かって。