大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 14
キツネになったタイラーに乗って森の中を進んでいく。
凄いスピード。
景色がとんでもないスピードで流れていく。
「タイラー、どこに向かってるの?」
「秋山の峰だ。この姿だったら、地理に鼻が利く。それにこのスピードだ。すぐに到着できる」
(よかった。むちゃくちゃに走ってるんじゃなかったみたい)
少し不安だった。
「ねぇ、でもなんでキツネに変身できるの?」
「色々あるんだが、ざっくりいうと精霊の加護だ」
「何それ?皆できるの?オカリナもイーグルも」
「皆はできない。一部の者だけに限られている。精霊様に認められたものだけだ」
「そうなんだ・・・・私も出来るのかな?」
「それは・・・・どうだろう。外の人間が出来るとは聞いたことがないが」
「そっか、残念」
「ほら、しっかりつかまっていろよ」
「うん」
私は「ぎゅっ」っと毛皮を掴んだ。
モコモコの毛皮だった。
タイラーは走り続けるのだった。
暫く走り続けると・・・
「よし、ついたな。ノゾミ、おりてくれ」
「わかった」
私がタイラーから降りると・・・
ポワンッっとタイラーが人の姿に戻る。
「あと少し歩けば、秋山の峰だ」
「皆来てるかな?」
「どうだろうな?でも、俺達は精霊術できたからな、早いほうだろ」
「だね」
集合場所の秋山の峰につくと・・・・
「あっ、タイラー、ノゾミ!」
私たちを見て手を振る小さな女の子。
オカリナだった。
彼女が先に来ていたようだ。
私は知っている人と会えてほっとした。
「オカリナ、無事だったか」
「うん、タイラー達も」
私とタイラーは周りを見るが、オカリナしかいない。
「他の奴らは来てないのか?」
「うん、私が一番だったみたい」
自信なさそうに呟くオカリナ。
「そうか・・・・まぁ、少し待てば皆来るだろう。先に野営の準備でもするか」
「そう思って、果物や木の実はとってきたよ」
オカリナが食料の山を指差す。
「じゃあ、俺は川魚でもとってくるよ」
「タイラー得意だもんね」
「あぁ、ほら、ノゾミも行くぞ」
「うん」
それからタイラーと魚を取りにいった。
彼は魚を取るのが上手く、熊の様にバシャッと川の魚を陸地に吹き飛ばした。
そして峰に持って帰った。
結局夜になっても、他の皆はこなかったので3人で食事をした。
焼き魚を食べたのだ。
それから、タイラーが外で番をすることになり、オカリナと私は眠ることになった。
安全のために二人とも近くで眠る。
私とオカリナは寝転びながら、夜空を見ながら世間話をする。
ここは何も光がないので、夜空に綺麗な星がたくさん見えた。
「ノゾミとタイラー、途中大丈夫だった?クマに襲われたりしなかった?」
「大丈夫だったよ。一回襲われたけど、倒したから」
「へぇー、そうなんだ。タイラーは強いからね」
「うん。タイラー、銃を捨てて、素手でクマと殴り合ってた。掟だっていって」
「・・・・はははっ、そんな掟はないと思うけど」
「やっぱりそうなんだ」
(私も怪しいと思ってた)
「でも、戦ったにしては早かったね。私は何ともあわずにまっすぐにきたのに」
「途中、タイラーがきつねに変身したの」
へぇーという顔をするオカリナ。
ちょっと驚いたみたいだ。
「そうなんだ。精霊術使ったんだね。でも、あれ・・・タイラー1人じゃ難しいような」
「うん、だから私の手を握ってた」
オカリナはさらに感心し、私とタイラーを交合に見て、「うんうん」と頷く。
訳知り顔だ。
「感じてたけど・・・・ノゾミ、タイラーとほんと仲がいいんだね」
意味深な言葉のオカリナ。
私は気になったので聞いてみる。
「どういうこと?」
「精霊術のエネルギー供給、あれは想いが通じ合っていないと出来ないんだ」
「?」
(想いが通じ合う?・・・・集中力とかだろうか?)
「つまり、外の人でいうと、恋人みたいなものかな。心のつながり、愛情が必要なの。それがないと出来ないの」
(!?)
「え?私とタイラーが・・・でも、私達は全然・・・・そんな関係じゃないよ」
「無意識的なものだから。絆の力が精霊術の源だといわれているの。多分二人の相性はいいんだよ」
かわいく微笑むオカリナ。
「そうかな・・・」
「そうだよ。私たちには大抵『つがい』がいるからよく分かるの」
「つがい・・恋人って事?」
「そう。ウイナとエクトは分かりやすいでしょ。アランにもいる。イーグルは肩にのってる鳥」
「鳥でもいい?」
私は驚く。
「うん。動物でも問題ないんだ。大事なのは絆だから」
「それで、オカリナ・・・あなたも?」
「私にもいるよ」
えへへと恥ずかしそうに笑うオカリナ。
「ほらっ、リッ君、でておいで」
子リスがオカリナのサイドポーチから出てくる。
すぐさま彼女の頭の上に乗る。
「リッ君、ご飯だよ」
オカリナが木の実をあげると、小さな手をあわせて木の実を受けり食べる。
リッ君はえさを食べながら私をじっと見る
「なんだこいつは?」みたいな顔してるかも。
「わぁーかわいいね」
「でしょ、ノゾミも触ってみる?」
「いいの?」
「大丈夫、リッ君は人懐っこいから。ほら、リッ君。ノゾミだよ。ご挨拶しないとね」
オカリナの声に反応して、ピョンっと私の頭の上に乗るリッ君。
ひょこひょこ足踏みを踏む。
ほのかな感触がなんともいえない程気持ちいい。
癖になりそうだ。
「ほんと、かわいいね」
「うん。だから仲良くなっちゃったの。
前までは好きな人いたんだけど・・・私、男の人とはなかなかなか上手い関係になれなくて。
いつの間にかリッ君との方が仲良しになっちゃった。えへへっ」
苦笑いするオカリナ。
「誰を好きだったんだろう?」と私は疑問に思ったけど、その先は考えないようにした。
何故か、それを考えて答えを見つけてしまうのは、あまりよくないことに思えたのだ。
ぴょん
リッ君はすぐにオカリナの頭の上に戻る。
やはりオカリノの元が一番なんだろう。
(オカリナは小さくてかわいいから、当然かも)
オカリナはリッ君にもうひとつ木の実をあげながら話す。
「でも、偶につがいがいなくても能力を発揮できる凄い人もいるんだ。
そういう人は大抵精霊との絆が強いの。だから別格の力をもってるの」
「そうなんだ・・・・」
(私は精霊術事情に感心する)
「でもよかったね、ノゾミ。タイラーってセイスなんだよ」
「セイス?」
「あ、ごめん、外の言葉では6番って意味。私たちは数字を数える時、こう呼ぶの」
オカリナは説明した。
それによると以下になる。
1ウノ 2ドス 3トゥレス
4クァトゥロ 5スィンコ 6セイス
7スィエテ 8オチョ
9ヌエペ 10ディエス
11オンセ 12ドセ
13トゥレセ 14カトルセ 15キンセ
私は思い当たることがあった。
「もしかして6(セイス)・・・あの胸元の数字のこと?」
私はタイラーの胸元にある数字をチラ見していた。
そこには『6』という数字が描かれていたのだ。
何か意味があるかもしれないと思っていたが、あえて質問はしなかった。
「うん。あれは精霊様が選んだ戦士の序列。タイラーは6番目に強いの。だから人気があるんだ。見た目もかっこいいし」
「そんな意味が・・・・」
私の視界に入るオカリナの数字。
彼女の数字は『13』だった。
私の視線に気づいたのか・・・
「あはははっ。そう、私は13(トゥレセ)なんだ。2桁だから、タイラーとはかなり差があって、あんまり強くないの」
苦笑いするオカリナ。
「でもすごいよ。ここまで一人できたんだし。私だったら多分、これないし、クマに食べられてるから」
(本当、私が生きているのは奇跡に近い。クマに殺されても仕方なかった)
「まぁ、私の精霊術は特殊だから。それのおかげ」
「皆持ってるんだね。精霊術」
「数字持ちは大抵もってるよ・・・・それとノゾミ、話は変わるんだけど・・・」
「何?」
オカリナはちょっと声を落とす。
そして慎重に言葉を選ぶようにして話す。
「精霊術のためにも、この戦いのためにも、タイラーと仲良くした方が良いけど・・・
あんまり仲良くしちゃダメだよ。タイラーには奥さんと子供がいるんだから。他の部族だけど」
「う、うん。知ってる。彼から聞いたから」
(そう、それは聞いていた。彼には妻子がいるのだ。
だからか、彼には魅力を感じていたのは事実だったけど、ここではそういう関係にならないようにしようと思っていた)
(命を救ってくれた恩人には、誠実に向きあおうと思っていたのだ)
「よかった。それじゃ、もうそろそろ寝ないとね」
安心した笑みを浮かべるオカリナ。
「うん」
こうして私たちは寝たのだった。
新連載始めました。 (こちらは数話で完結予定です)
宜しければどうぞ。
↓
『3日後、婚約破棄されます。』
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