大自然、ヒグマ格闘編(石狩鍋) 13 +side集落
◆人物紹介 (追加)
・集落
ノゾミ 不倫騒動で、部族に流れ着いた女。20代前半のOL。
マイコ ノゾミの親友。ノゾミを探して知床半島に乗り込む。
タイラー 部族の屈強な男。ノゾミを最初に拾ったため、部族の掟で彼女を守る。妻子持ち。
アイネ タイラーの幼馴染。部族の服を作っている。
族長 イップス族、族長。精霊術『リンクビジョン』を複数使える。
ハレルヤ 族長の孫。腰には『2』の刻印。この里で2番目に強い。
・狩りチームの仲間
アラン 赤髪短髪で顔に刺青がある。気性が荒い。
イーグル 狙撃が得意で大きな銃を持っている。寡黙で肩にインコを乗せている。
ウイナ きつい顔の女。エクトが大好きで、格闘技術に優れる。
エクト 子供っぽい。正義感が強い。
オカリナ 小さな女の子。戦闘技術は未熟だが、頭が良い。
・マイコ隊
ヒロシ 冒険担当。 41歳。おじさん。元戦隊ヒーローの役者。今は探検家で顔が濃い。
マサツグ 武器担当。 22歳。元自衛官の武器マニア。武器の密輸&改造で退職。今は民間武器商人。
メイコ 現地案内人 17歳。女子高生。酪農農家の娘で釣りが趣味。数学が得意。
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集落の入り口。
族長の孫、ハレルヤがイップス族を代表し、エイナ族を迎えていた。
「よくぞおこしになりました。イップス族を代表して歓迎します」
エイナ族とは、少しはなれたところにある部族の名だ。
イップス族とはこれまで何度も交流をもってきた。
お互いに婚姻関係を結んでいる者もいる。
エイナ族の代表は女性。
『エイナ続の姫』と呼ばれる人物だ。
彼女は集落の変化を察していた。
「あら、慌しいですね。それに戦士の気が張っています。何かあったのですか」
「はい。少しクマを狩りにでかけておりまして」
姫は首をかしげる。
「クマ・・・・ですが、ここ最近は多いですからね」
「しかしご安心ください。我らの戦士が出ております故、直に片付くかと思います。エイナ族の皆様にはご迷惑をおかけしません」
姫は微笑む。
「それもそうですね。イップス族の戦士のお方は、お強いと評判ですからね。あなたもお強いのでしょ、ハレルヤさん」
「ははっ。お褒め下さりありがとうございます。では、立ち話もなんですので、中へ」
「はい。宜しくお願いします」
エイナ族の一団が建物中に入る。
その一段の中から一人が飛び出し、アイネに話しかける。
タイラーの幼馴染のアイネも、エイナ族を出迎えるメンバーの一人だったのだ。
「アイネさん。お久しぶりです」
「こちらこそ、キイネさん」
キイネとは、タイラーの妻である。
綺麗な黒髪をした女性。
手には小さな子供を抱いていた。
「タイラーはいないのですか?」
周りを見ながら夫を探すキイネ。
彼女は夫が出迎えにくるとばかり思っていたのだ。
そのため、彼の姿が見えず若干がっかりしていた。
「タイラーは・・・狩りに出かけてるからねー」
アイネが明るく答える。
「そうなの、顔を見たかったんだけど、それはしょうがないわね。戦士の務めをはたさなければいけません」
「だね」
「でも、この子も大きくなったでしょ。早く見せたかったの」
「今、2歳だっけ?元気に育ってるね」
「でしょ?この子もお父さんの顔を見たいはず。ここらへんタイラーに似てるでしょ」
鼻を指差すキイネ。
「うん。ちょっとタイラーににているかもしれない」
微笑むアイネ。
こうして和むのだった。
◆
森の中。
ノゾミとタイラー。
クマを倒したまではよかったが、完全に迷子になっていた。
現在は高い場所に移動し、現在地を確認しようとしているのだが・・・
日も落ちてきた。
このままでは、高い場所に行くまでに野宿することになるかもしれない。
「タイラー、ここさっきも通ったよ」
私は木についた傷を指差す。
この場所は3度も通ったのだ。
「そうだな。同じところをグルグル回っていたようだ」
タイラーが「はぁー」と息をつきながら答える。
そう。
タイラーは方向音痴だったのだ。
まったく地理に不慣れなのだ。
「だね」
対する私も不慣れだ。
森の中を歩くことなんて滅多にないから。
全然どこがどこか分からない。
私とタイラーは思った。
(このままだと、まずいかもしれない)
2人とも危機感を覚えていた。
「ちょっと休憩するか」
「うん」
私たちは気分転換に、川でくんだ水を飲む。
喉が生き返る。
タイラーは空を見て、何か考えているようだ。
そして私を見る。
「ノゾミ、このままじゃ埒が明かない。あることを試してみようと思うんだ」
「あることって?」
タイラーは真剣な表情で私を見る。
「今からやることは、外の人には絶対に言わないで欲しい」
「うん・・・分かった」
(絶対にいわない)
「それじゃ、手を貸して。俺の手を握って欲しい」
両手を差し出すタイラー。
私は彼の両手を握る。
「ノゾミ、心を沈めて、リラックスしてくれ。リラックスだ」
「何する気?」
「質問は無しだ。このまま、リラーックス」
「うん」
私は心を静める。
息を落ち着ける。
「いいかい。今から言うことをよく聞いてくれ。
僕たちの部族は精霊とかかわりがある。そのため、精霊術を使うことが出来る」
「精霊術?超能力のようなもの?」
「そんなところだ。だが俺は精霊力が足りない。だからこうして誰かにふれて霊力を分けてもらう必要がある」
「でも、私、普通の女の子だよ」
「君は特別だよ。それに、相性は良いみたいだ。これなら上手くいく」
「え?」
「少し体の中に違和感を感じるかもしれないけど、気をしっかりもってね」
「何?」
そう思った次の瞬間。
ドクンッ
私の胸は高鳴ったのだった。
胸が高く弾み、体の心から何かが抜けた気がした。
自分の体の仲から、何から抜け出たような気がしたのだ。
だが同時に、何かが入ってきたような感覚もある。
目の前を見ると・・・・タイラーの体が僅かに光りだしている。
「よし、やっぱり上手くいった・・・ノゾミ、離れていろ」
とっさに離れる私。
タイラーは手を組み合わせてポーズを決め、叫ぶ。
―――「精霊術、解! シルバーフォックスっ!」
白い光に包まれて・・・
目の前には現れたのは、大きな銀色のキツネ、シルバーフォックスだった。
私は驚いて声が出ない。
「き、きちゅね・・・タイラーがキツネ」
思わず噛んでしまう。
目の前のキツネさんが私を見る。
「ノゾミ、驚かしてすまない。俺の背中に乗れ」
(うわぁ、キツネがしゃべった。タイラーの声でしゃべった)
「タイラーなの?」
「あぁ、俺だ」
「でもなんで?きつねになってるよ?」
「詳しいことは後で話す。この姿を長い間維持できない」
「うん・・・・分かった」
私はタイラーことシルバーフォックスの背中に乗る。
モコモコした感触だ。
「よくつかまっていろよ」
「うん、毛を掴んだから大丈夫」
「よし、振り落とされるなよ」
「しっかりにぎったから大丈夫」
「俺の毛を抜くなよ」
「注意するね」
「よし、いくぞ」
「うん」
シルバーフォックスになったタイラーが、私を乗せて走り出した。